空色少女は働きたい   作:とはるみな

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日常のようなもの 2

 緑髪が就職してから一ヶ月。

 あれから毎日毎日就活を行なっているが一向に成果は出なかった。

 ここまで連続で落とされると、面接官の頭おかしいんじゃねーの。と本気で思いつつ、今日も今日とてぼろアパートに帰宅する。

 

「はぁ………二時間も散々質問しといて、落とすとかありえないだろ….。なんなの…あのババア。馬鹿なの…? 本当に面接官の目を括り抜いてあげたい」

「帰って来て早々怖いこと言いださないでくれる?」

「冗談、冗談だよ」

 

 五割くらいは本気だけど。

 ボソッと呟いた声は、しっかり聞こえていたのか銀髪小人が呆れたように息を吐いた。

 

 靴を脱ぎ、狭い居間に上がった俺はチラリと壁に立てかけてある時計を見る。

 

 時計は、仕事をする上で時間確認は大切だから、と前に黒髪剣士が買ってきたもので、オンボロなこの空間には似合わない極めて高い精度を誇っていた。新品でお値段は3万円と、中古で揃えたこの家の家具の何よりも価値が高い。

 もはや俺たちにとって家宝のようなものだ。

 

 そんな時計が示すのは午後六時十七分の数字。日が落ちるのが遅くなりつつある七月とはいえ、そろそろいい時間帯だった。

 

「銀髪、今日の分の内職はまだ残ってる?」

「もう終わってるよ。今日はフリーさ」

「じゃあ…少し早いけど夕飯一緒に作らないか?」

 

 

 本職に加え、副業を幾つも抱えている黒髪剣士は勿論、一ヶ月が終わり残業時間がリセットされたということで緑髪もまだ帰ってきていない。

 いつもの傾向で考えると、二人とも帰ってくるのは最低でも午後九時過ぎくらいだろう。

 故に、ご飯を作るのは大抵家に居る銀髪小人か俺のどちらかだった。

 

 暇を持て余していたのか。

 今日は俺の当番の日だったが、誘いをかけると銀髪小人はすぐに転がっていた体を起こした。

 

「いいよ。手伝ってあげよう。で、何作るんだい? カレーか、それともカレーか!?」

「どんだけカレー推すんだよ…。しかも銀髪って別にカレー好きでもないだろ」

「うん、好きじゃないよ。何となく言ってみただけさ。そもそもカレーの具材なんて買ってきてないし」

「なんだそれ…」

 

 銀髪小人の言う通り、食品棚にカレールーはなかった。

 他に何かないか、探してみるもあまりピンとくるものが見つからない。

 

「そう言えば前回の買い出しっていつ行ったっけ?」

「金曜。次は明後日くらいに行く予定だよ。あ、そうだ。その日荷物運び手伝ってくれない? 料理を手伝ってあげる報酬ってことでさ」

「まぁいいけど」

 

 あ、トマト缶があった。

 …よし。

 

「今日はパスタで行こう」

「オッケー。じゃあ僕はペンネ茹でとくね」

「スパじゃなくて?」

「僕はペンネの方が好きなんだ。スパゲッティはその、歯応えがね。まぁ、スパゲッティがいいって言うならそっちにするけど」

「はいはい、ペンネでいいよ」

 

 正直スパゲッティでもペンネでもどっちでもよかった俺は、投げやりにそう答える。

 銀髪小人も、絶対にペンネ! と思っていたわけでもなかったのだろう。

 棒読みで「わーい」とだけ呟いて、すぐ違う話題を振ってきた。

 

「そう言えばさ。リーフちゃんが前言ってた話覚えてる?」

「んー、赤髪吸血鬼がみんなで集まろう云々の話だっけ」

 

 吸血鬼ってニンニク嫌いなんだっけ。赤髪吸血鬼にこれ投げつけたらどうなるんだろうか。

 そんなことを思いながらニンニクを薄くスライスする。

 

「そうそれ。その話なんだけどさ。どうもあれから日付が決まったらしくて。今日シルさんが伝えにきたんだけど」

「ふーん。いつなんだ?」

「来週の日曜」

「随分急だな……黒髪と緑髪休み取れるか分からないぞ」

「いや、二人とも来週の日曜は休みって予めカガリちゃんに言ってたらしいよ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ問題ないな…っと」

 

 フライパンにカットしたニンニクとオリーブオイルを少々加え弱火にかける。

 あとは香りが立ったらトマト缶を入れてコンソメと一緒に煮込めばソースは完成、かな。

 

 作業に一区切りついたところで、顔を上げると、銀髪小人は、ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見ていた。

 

「なんだよ…?」

「いや、ソラちゃん。僕たち以外に元男だってこと教えてないでしょ。だから、また異世界の時みたいな口調になると思うとさ…ニヤニヤ笑いが止まらなくて」

「あ、あの時は……なんていうか、現実感がなかったっていうか………死にたくなってきた。行くのやめようかな」

 

 あんなの黒歴史でしかない。

 もし過去にやり直せるなら、俺は間違いなくあの時の自分を殺してでも止める。

 今なら、そう即答できるくらいの、痴態だった。

 

 俺たち転生者は全員が全員と仲が良かったわけじゃない。

 

 中には黒歴史時代しか関わりのなかった者も少なくないからず存在する。それは、つまり俺イコール黒歴史時の俺と認識している者もいるという、大変絶望的なことだった。

 

 そんな奴らと会うのか……そっか。

 

「うん、行くのやめよう。俺は欠席って言っといてくれ」

「そんな面白そうな機会逃すわけないでしょ。絶対連れて行くからね」

「本気で嫌なんだけど…って、あー!!? 銀髪の所為でソースが焦げたじゃんか!」

「あはは、動揺しすぎだよソラちゃん……あ、ぺ、ペンネが茹ですぎてフニャフニャにー!?」

 

 話に集中しすぎた結果、料理が散々なことになったのは最早語るまでもなく。

 

 

 その後。

 

「ただいまですー! あっ、今日はパスタなんですか! って、うう…なんかソース焦げてませんか……ペンネもフニャフニャしてますし……」

「料理上手なソラちゃんらしくないな。何か悩みでもあるのか? ……そうか、仕事のことで悩んでるんだな。いい、気にするな。ソラちゃんは頑張ってる。頑張ってるから」

「そうだったんですか……。道理で…。いいんですよ、ソラさん。明日明後日とゆっくりしてください。しっかり休むことも仕事ですから」

 

 まるで小さい子の失敗を慰めるかのような二人の優しい視線が心に染みた。

 同時に二度と銀髪小人と一緒にご飯を作らないと強く誓った。

 

 

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