緑髪は馬鹿である。
「私は今日からこれで一生を過ごします! なんかできる気がするんです!」と言ってある日突然逆立ちを始めたり。
「百キロの重りを毎日付けて生活してれば超強化できるはずです! 魔王なんてすぐコテンパンにしてあげますよ!」と言って重りに潰されかけたり。
「誰かの役に立つなら何でもします! 私が力になります!」と自ら進んで奴隷商に付いて行こうとしたり。
例を挙げればキリがない。
後々を考えるより先にとにかくやってみる。そんな性格故に、緑髪が原因で面倒事が起こることは二年間で何百回とあった。
そして現代に帰った今でもトラブルメーカーっぶりは健在だったようでーー
「はい、こちらなんて似合うと思いますよ! 私の目に狂いはありません」
「…いやでもこれスカート。俺にはちょっと荷が重いかな…って。ほら、メンズコーデとか似合うんじゃないかな…?」
「ダメですよ! メンズコーデなんて。ソラちゃんにはこれです! 大丈夫です。スカートに違和感を感じるのは初めだけで、すぐ慣れますから。じゃあ取り敢えず試着してみてください!」
自分のスカートをヒラヒラさせ、ニコニコと笑顔を浮かべる緑髪から服を受け取り試着室へと入る。
どうしてこうなった、と頭を悩ませながら。
◇
事の発端は一時間程前。
緑髪に俺と銀髪小人が状況の説明をし終えた後、すぐだった。
「なるほど…ソラさんがソラちゃんになってた理由はそういう事だったんですね! 理解しました! それじゃあ今すぐ服を買いに出掛けましょう!」
「え、なんで?」
「だってソラちゃんになるんですよね? だったら服買っておかないと不味くないですか? まさかジャージで集会行くわけじゃないですよね? お洒落くらいはしていかないと疑われるかも知れませんよ? あっ、お金のことなら心配しなくても平気です。私が全額出しますから! さぁ、行きましょう!」
「ちょっ…引っ張るなって! ぎ、銀髪、助けてくれ」
「あ、レーテさんも来ますか? 可愛い服買ってあげますよ」
「いや残念だけど僕はご飯を作らなきゃならないからね。ホントに残念だけど二人で行って来なよ! うん、それがいい」
「銀髪ぅううううう!!?」
そして緑髪に言われるがまま勢いがままに連れてこられたのは誰しもが一度は耳にしたことがある有名な服屋チェーン店だったというわけだ。
以上回想終わり。
店内に入った瞬間の、俺と緑髪の髪色を見て、とんでもない客が来やがったと口元が引きつらせる研修中の店員の姿は今後忘れることはないだろう。
取り敢えず俺のことを見捨てた銀髪はいつか殴る。絶対に。
気持ちは分からんでもないし、俺が逆の立場だったとしても見捨てたと思うが、それでも殴る。
そんな決意固めながら、改めて備え付けされている鏡を見て、ため息を吐く。
「…やっぱこのスカート短くないか……? 露出が多すぎる気がする……確かにこの身体には似合ってるけどさ」
読めない英語の書かれた黒のTシャツに、明るめの色をしたミニスカート。
鏡に映る自分の格好は、空色の特徴的な髪色をも自然に感じさせるほど、よく似合っていた。
見る側としては申し分がないと思う。
だが、着る側としては色々複雑な感情があり、正直いくら似合っているといっても積極的に着用したい格好とは思わなかった。
十中八九、集会は今回の一度だけではない。今後も何度か続けて行われることだろう。
その度にこの服を着る、と思うと今から気が滅入ってくる。
ーーうん、早く働いて、自分でメンズコーデ出来るような服を買おう!
改めて働く意欲を高めた俺は、シャッとカーテンを開け、緑髪に格好を見せる。
「うーん、やっぱり私の見る目は素晴らしいですね! すごく似合ってますよ、ソラちゃん!」
「んー、そうだねー。じゃ、もう着替えるね」
成し遂げだと言わんばかりにウンウン頷く緑髪に適当な言葉を返して、勢いよくカーテンを閉めた。
カーテンの外から「えー…そんな。早くないですか、着て帰りましょうよ」なんて声が聞こえてくるが、無視。
ただでさえ空色の頭髪の所為で目立ってるのに、こんな露出が多い格好で出歩けるか。
「あー、どうして着替えちゃったんですか……。もう少し見たかったんですけど…」
「また今度な。それより早くレジ行こうぜ。あまり遅くなると銀髪が心配するだろ?」
ものの三十秒と、試着した時よりも十倍くらい早いスピードで着替え終えると、丁寧に畳んだ服を緑髪に押し付けレジへ促す。
もう今日は疲れた。就職活動を休んでいたはずなのに、いつもの倍以上疲れた。
早く帰って寝たい。
緑髪は「絶対ですからねー」と口を尖らせたまま呟くと、そのままレジへと向かって行った。
尚、服以外にもストッキングとかキャスケットとかスニーカーとかを買ったみたいで価格は数万円した模様。
緑髪曰くメンズコーデも同等の価格がするとか。
ホント世知辛い世の中だ。
この世界は転生者には優しくない。