遡って、二度目の青春。   作:猟奇的少年A

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やっぱり休日は朝からゴロゴロ出来て幸せですよね〜。


松月にて、宿題と考え事を。

「千歌。お前、目の下がやばい事になってんぞ? 珍しく夜更かしでもしたのか?」

 

「うんっ! なんだか眠れなくって!」

 

「…東京からの帰り、曜と一緒に爆睡してたもんな。そりゃ夜に眠れなくだろうよ」

 

「うっ…!? このたびはお迷惑お掛けしました…」

 

 

 渡辺家での朝食を終え、俺と曜は千歌と合流して松月に来ていた。

 机の上には束になったプリントとノートが数冊。何かと言えば、学生の苦難ランキング上位を常に維持しているであろう、夏休みの宿題だ。

 

 

「ったく…あっ、おばちゃん。みかんどら焼き、もう2つお願い」

 

「はいよ、ちょっと待っててね〜」

 

 

 田舎の、それも老舗の喫茶店と言う事もあって人はあまり来ないが、俺はここの落ち着いた雰囲気が好きだ。

 店主のおばちゃんがサービスで持って来てくれる抹茶と、名物であるみかんどら焼き。こんな最強なコンビは他にあるのだろうか? …うん、無いな。

 

 

「…おい千歌、そこの数式間違えてる」

 

「えっ!? ウソ!?」

 

「どれどれ…あっ、ほんとだ。ここはこっちの式だよ、千歌ちゃん」

 

「なら最初からやり直しじゃんかよぉ〜…!」

 

「頭抱えてる暇があるならとっとと書いたの消せ。手伝ってやるからさ」

 

 

 まさかまた夏休みの宿題をやる日が来るとは…。これでも俺、アラサーなんだぜ? まぁ、若返ってるから中身だけだけどさ。

 

 涙目でノートに写した式を消す千歌。

 ちなみに俺と曜はもう宿題を終わらせている。宿題は早めに渡されていたので、曜と早めに終わらせておこうと手を付けていて、気付けば夏休みが始る前に終わらせていた。

 

 

「…とは言え、不思議だよな……」

 

 

 曜と宿題をしていた事は()()()()()()だ。

 数日前の事を思い出すのは普通な事だと思う。…だが、俺の場合は少しおかしな事になる。

 俺は自殺し、時間を逆行している。その前の記憶もしっかりとしている。ここまで聞いておかしいと思った人は少なく無いと思う。

 

 俺には、『大人だった頃の記憶』と『逆行先での記憶』の両方があるのだ。

 

 意味がわからないと思うかも知れないが、言葉にすればわかりやすい。

 4日前…要するに俺が自殺する前日、俺は夜飯にまるちゃんが作ってくれたおにぎりを食べた。

 だが、4日前に俺は自分で作ったサンドイッチを夜に食べたと言う記憶もある。

 

 はい、おかしいだろう?

 

 まるちゃん特製おにぎりを食べたのが大人だった頃。サンドイッチを食べたのは逆行先、今の俺の記憶という訳だ。

 2つの時間軸での記憶が混同している。こんな事が普通あり得るのだろうか?

 

 

「…まぁ、そもそも時を遡ってる時点であり得ない事が起きてる訳だし…考えても無駄なのかも知れないな……」

 

「なんだか難しい顔をしているねぇ。どうかしたのかい?」

 

「あっ、おばちゃん…」

 

 

 隣に目を向けると、お盆を持ったおばちゃんの姿が。どうやら心配させてしまった様だ。

 

 

「ちょっと考え事を、な…」

 

「そうかい。それで、考えていた事はわかったの?」

 

「いーや? 解んねぇし、一旦忘れよっかなーって」

 

「解んないなら考えても無駄だもんねぇ。はいっ、みかんどら焼き、お待ちどうさん」

 

 

 机の上に置かれたみかんどら焼きは、半分ほど多かった。おばちゃんがサービスしてくれたのだろうか?

 

 

「みかんどら焼き!? 食べたい食べたい!」

 

「いや、俺と曜の分しか頼んでねぇから。お前は宿題やれ」

 

「せーくんのおにぃ! ぅわぁーん!」

 

 

 毎日少しづつやると言っていた宿題に一切手を付けて居なかった奴には罰が必要だろう。

 シャーペンを放り捨てて机に突っ伏してしまった千歌の隣で、目の前に置かれたみかんどら焼きを不思議そうに見詰める曜。

 

 

「えっ、千兎くん? 私、頼んで無いよ…?」

 

「俺の奢り。今朝の謝罪みたいなもんだと思って有り難く食えよ」

 

「謝罪なのに?」

 

「謝罪だけどな」

 

「ふふっ、何それ? もう朝のことは気にしてないよ? …でも……」

 

 

 そう言っているくせに、右頬を膨らませているのは何でだろうな? サービスして貰った半分のどら焼きを頬張っていると、曜が照れ臭そうにこっちを見て笑った。

 

 

「…ありがと。」

 

「…ん。」

 

 

 俺は小さく返事をして、窓の方に顔を向けた。

 少し頬が赤い曜を見ていると、なんだかこっちまで恥ずかしくなって来て…ついそっぽを向いてしまった。

 

 

「…ねぇ、2人とも。チカの事忘れてない?」

 

「「あっ…」」

 

 

 曜は隣を、俺は前を見ると、ジト目で不貞腐れた様子の千歌がこちらを見ていた。

 

 

「ふぇっ!? えっ、わっ、忘れて無いよ!? あはは〜…///」

 

「悪りぃ、忘れてた」

 

「酷くない!? チカはこんなに苦労してるのにさぁ!? こうなったら…!」

 

 

 俺の前に置かれた皿に千歌は素早く手を伸ばして…

 

 

「あっ、おい千歌! 俺のみかんどら焼き取んなよ!」

 

「チカの事をのけ者にするのが悪いんだよ〜だ! あーむっ……えへへ〜、やっぱり美味しいなぁ〜♪」

 

「ったく…」

 

「そろそろ休憩させてあげた方が良いんじゃない? 適度な休憩も続ける秘訣だし、ね?」

 

「まぁ千歌にしては進んだ方か…」

 

 

 後で何かしらの方法で仕返ししてやろう。おばちゃんに頼んで抹茶をうんと渋くして貰おうか? 苦さで涙ぐむ千歌の姿が目に浮かぶぜ…。

 

 あと、さっき曜と良い雰囲気になっていたが、あくまでも俺は千歌一筋だからな?

 その割には意地悪してるって? 好きな奴には悪戯したくなるだろ? あれだ。

 

 

 

「…でも、今度は泣かせたくねぇなぁー……」

 

 

 きっと俺は、また曜の事を泣かせてしまうのだろう。

 

 未だに()()()の事を思い出すと胸が痛くなるのに……

 

 

『きゃんっ!』

 

「…なぁ、わたあめ。俺ってほんと、どうしようもねぇな」

 

『くぅーん?』

 

「ただの独り言だ。ほら、おいで?」

 

 

 目の前で楽しそうにしている2人を眺めながら、膝に乗ったわたあめの頭を撫でる。

 

 

 …10年近く経った今でも、俺は言葉にする事を怖がってる……

 

 

 




なんか千兎くん、意味深な発言してる事あるっすよねー。まぁ、意味が解るのは当分先になると思いますけど…。
それと、遅れましたが評価して下さった方々、ありがとう御座います!

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