「柱か…よく鍛えられている…良い肉体だ…」
私は今、目の前の鬼に戦慄している。6つの目、瞳に刻まれる上弦の壱の文字。こいつが正真正銘の十二鬼月最強の鬼。下弦など比べ物にならない程の重厚な気配がする。怖気が止まらない。手が震える。
「茜くん、いけるか?」
「はい、なんとか」
槇寿郎さんはすごい。こんなにも恐ろしい鬼と対峙して尚、平静を保っている。私も落ち着け、冷静になれ。
「ふむ…先程までと気配が変わった…動揺を鎮めたか…精神力は…悪くないようだ…」
「行くぞ!」
「はい!」
『炎の呼吸 壱ノ型 不知火』
『水の呼吸 肆ノ型 打ち潮』
「炎と水か…なかなか悪くない…連携だ…」
気づくと目の前には何もおらず、後ろから声が聞こえた。
「だが…まだ…足りない…」
急いで振り返り刀を構えるが、
『月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮』
まずい!間に合わない!
『炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天』
「ぼさっとするな!!死ぬぞ!!」
槇寿郎さんが咄嗟に迎撃してくれた。
「すいません…助かりました…」
やっぱり私じゃ力不足だ…せめてあと1人、煌之介か桜が来てくれたら…
「ふむ…咄嗟の判断…良い剣技だ…そちらの女は…戦闘中に考え事か?…」
「茜くん、君は退いたほうがいい。ここは俺が何とかする。君はこの戦いから身を引け」
「でもそれじゃ槇寿郎さんが!」
「気にするな!まだ若い芽を摘む訳にはいかない!」
悔しい…私じゃ足でまといになるんだ…心じゃ分かってても受け入れることが出来ない…涙を流しながら走る。
「良い判断だ…あの女を庇いながらの方が…死ぬ確率は高かった…だが…真なる目的はお前達では無い…虹の柱だ…お前達は奴を呼び出す…釣り餌に過ぎない…」
微かに鬼の声が聞こえた。
煌之介side
近くの山だからかなり早く駆けつける事が出来そうだ。茜も槇寿郎さんも絶対に殺させない!それに、上弦の壱を倒せば上弦の弐の情報も聞き出せるかもしれない!急げ!
山の中腹辺りにそれはいた。
瞳に上弦の壱と刻まれていて6つの目を持つ鬼…鴉に聞いた特徴と合致する。今まで殺した鬼が赤子に思える程におぞましい気配。これが上弦の鬼。その頂点に座する者…
「来たか…虹の柱…」
「はっ、俺を待ってたって言うのかよ」
「あぁ…お前が遅いから…2人の柱が重症だ…死んではいない…欠損はあるがな…」
急いで辺りを見渡すと血溜まりの中でうつ伏せに倒れる2人の姿があった。槇寿郎さんも酷いが茜の方が特に酷い…左腕が胴から離れている…
「なぜ殺さなかった?慈悲でもかけたか?」
「違う…殺すと…お前は冷静で無くなる…そんなお前と…戦っても…意味がない…」
「どういう事だ…お前は戦いを楽しんでるってのかよ?」
「違うな…私は…歴代の虹の柱を…全て葬ってきた…私の友…天宮虹之介の…血を継ぐ者を…探すために…」
「っ!?じゃあ俺の父さんも!?」
「そうだ…最後に殺したのは…七年前…その時…兄妹は…逃がした…その兄がお前だ…」
俺の年は15、七年前は8、つまり俺の両親が殺され、琥珀と共に逃げたあの日、襲ってきた鬼はこいつで間違いない。
「そうか、ようやく父さんと母さんの仇を討てる。感謝するよ、神様」
『虹の呼吸 弐ノ型 一騎橙閃・絶』
「素晴らしい…これは…虹之介を…越える程の才能だ…お前…名は…なんという…」
「天宮煌之介だ。軽く躱しておいて随分な賞賛ありがとうよ」
「なんと…同名か?…いや…字は違う…だが…間違いなく…奴の血を…濃く受け継いでいる…お前を殺せば…私は…縁壱を…越えられる…」
「はっ、どんな事情か知らねぇけどお前には殺されない!俺にはお前以外にもまだ仇討ちが残ってるからな!」
『虹の呼吸 伍ノ型 青天霹靂』
「ふむ…伍ノ型か…だが格段に違う…虹之介は姿のみで…五感は騙せなかった…」
『虹の呼吸 参ノ型 黄粱一炊の夢』
「ふむ…同時に5箇所…やはり虹之介よりも…強いな…お前は…間違いなく…歴代最強の…虹柱だ…」
軽く避けてそう言う…ほんとに化け物かよ…
「此方も抜かねば…無作法というもの…」
『月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮』
「ぐっ!」
咄嗟に後ろに飛び避けたが斬撃の中にある不規則な三日月型の斬撃が胸を切り裂く。だが奴は手を緩めることなく続けて斬撃を繰り出す。
『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』
『虹の呼吸 陸ノ型 大伽藍 三連』
「ふむ…良い判断だ…避けていれば…そのまま刻んでいた…」
「お褒めに預かり光栄だ!」
『虹の呼吸 捌ノ型 虹霓』
不可視の六連撃が奴の頸に迫る。
「捌ノ型か…虹之介以外が使ったのは初めてだ…やはり素晴らしい…だが剣筋が見えた…見切るのは難しくない…」
そう言って躱す。だが、これでいい。
「ならばこれならどうだろうか」
『炎の呼吸 玖ノ型 煉獄』
後ろから槇寿郎さんの刀が鬼の体を抉る。
「まだ死ぬわけにはいかないのよおぉぉ!」
『水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱』
死角から急接近した茜が更に攻撃を加える。
「小賢しい…大人しく地を這っていれば…よかったものを…む?…奴はどこへ消えた…伍ノ型か…厄介な技だ…」
少し奴の苛立ちを感じる。その気配がおぞましい。恐ろしい。逃げてしまいたい。だが許されない。奴の頸は斬らないと!
「微かな気配…そこか…」
『月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月』
そこにいた全員の目に切り刻まれた煌之介の姿が映る。
「「煌之介!!」」
「虹柱は…死んだ…」
この技は上弦の鬼にも効果があるようだ。同僚にも伝えていない技だから知らないのは当然だろうが…
「残念だったな!そっちは幻影だ!」
『虹の呼吸 漆ノ型 山紫水明』
「…っ!?」
上弦の壱は驚愕しているように見える。なんとか一矢報いる事が出来たようだ。そして刃が頸に触れた瞬間───
──ベベン
琵琶の音が辺りに響き、それと共に俺の刃は空を切った。
黒死牟side
まずい…失敗した…無惨様に叱責されてしまう…
「黒死牟、どういう事だ?貴様は痣が出ていないような剣士にも劣るのか?これまでの修行とやらはどうした?貴様は何年の時を費やした?あの鬼狩りよりも少ないのか?」
「申し訳ありません…奴は…戦国時代の柱の血を濃く継ぐもの故…」
「だからなんだ?貴様は仮にも上弦の壱なのだ。そのような体たらくでどうする。今回は今までの功績を加味して許すが、次は無いぞ」
「はい…申し訳ありません…」
このように怒りで血が滾るのは何百年ぶりだろうか…
天宮煌之介…貴様は必ず…私が殺す…!
煌之介side
あの鬼は何処へ消えた!?血気術か!?気配がまるごと消えたから恐らくこの場には居ない。クソっ!とどめを刺し損ねた!
「煌之介、さっきのは何だ?」
槇寿郎さんが尋ねてきた。
「伍ノ型の応用ですよ。まだまだ試作段階だったんですが上手くいって良かったです。そんなことより2人は怪我の具合、大丈夫なんですか?」
「俺はなんとか大丈夫だ。それより茜くんの方が心配だ。片腕を失っているのだから」
あれだけ失血してて普通に動けるなんて…この人も大概だな…
「そう、ですね……動けるか、茜」
「ちょっと厳しいかも…最後に振り絞って動いたせいで血がほとんどないわ。止血はしてるんだけど、さすがに怪我が多すぎる…」
「すぐに隠が来る。それまでに応急処置をしよう」
しのぶから預かっている持ち運び用救急箱と包帯を取り出し茜の治療を進める。
「だいぶひどい怪我だ…剣士を続けることも難しいだろう。これからどうするんだ?」
「まぁ、一線は退くよ…片腕失った訳だしね。育手にでもなろうかな…」
俺は茜のその言葉に返事が出来なかった。軽はずみに答えていい事じゃない気がしたから。
「槇寿郎さんも、立っているだけで辛いでしょう?軽い治療だけでも施せばかなり楽になるはずです。こっちに来てください」
「あぁ、感謝する。だが煌之介も無理をするな。その胸の傷、かなり深いだろう」
「見抜かれてましたか。えぇ、俺もかなり辛いです。でも、俺より深い傷を負ってる人の前で挫けるわけにはいきませんから」
「そうか。強いな、煌之介は」
「ありがとうございます」
そこからお互いに無言で治療を進める。
「虹柱様!炎柱様!水柱様!隠、ただいま到着致しました!」
「後藤、助かるよ。いつもありがとな」
「いえ!柱の皆様の功績に比べたら私など到底及びません!」
「そんな事ないさ。後藤たち隠がいるから安心して俺達が戦えるんだ。誇っていい」
「虹柱様……ありがとうございます!!」
涙を流しながらお礼を言う後藤。周りにいる隠も何だかうるうるしているように見える。
「じゃああとは頼んだ。俺は、もう限界だ」
そして俺の意識は途切れた。
設定集の方にオリキャラ7人、槇寿郎さん、悲鳴嶼さんの設定を追加しました!