煌之介side
屋敷に着いた。けれど誰もいない。
玄関に琥珀の髪飾りが落ちていた。
彼女と最後にどんな会話をしただろうか。
もう琥珀と二度と会話が出来ないのだろうか。
そう思うと鬼に対して、そして俺に対して怒りが湧いてくる。
「あぁぁぁあああああああぁぁぁっ!!鬼はまた、俺から家族を奪うのか!神様はまた、俺の家族を見殺しにしたのか!残されたたった1人の家族をも、俺から奪うのか!その上姿を拝ませてもくれねぇ!俺が何をしたって言うんだよ!何かしたのなら懺悔するよ!だからもう、俺に構わないでくれよ!ほんの些細な幸せをも俺から奪って楽しいのか!?俺は幸せになっちゃ駄目だって言うのか!ふざけるなぁァァァァ!!」
「煌之介くん…」
「天宮さん…」
カナエとしのぶが帰ってきた。
「…すまない、2人とも、今は頭を冷やしたいから1人にして欲しい。金は渡しとくから腹が減ったら適当に外で食ってくれ。」
涙と怒りを極力抑えて冷たい声で2人に言う。
2人は察したようで何か言いたそうにしながら部屋に戻って行った。
2人には申し訳ないと思う。
俺なんかが2人を引き取ってしまったから。
その証拠に、うちに連れてきてすぐにこれだ。
俺には2人を引き取る資格なんてなかったんだ。
2人の事はお館様に預けようか。
お館様は信用出来る。きっと2人の事も良くしてくれる。
それか悲鳴嶼さんもいいかもしれない。
彼は孤児を集めて暮らしていたらしいから。
他にも信用できる人はたくさんいる。
俺はどうすればいいのだろうか。
「琥珀…」
そう呟いて目の前が真っ暗になった。
カナエside
「そんな、琥珀ちゃんが…」
ものすごい速さで走って行った煌之介くんを追いかけて家に帰った時、煌之介くんの悲鳴のような叫び声が聞こえた。
鬼に琥珀ちゃんを殺されたらしい。
正直、どうすればいいのか分からない。
私は彼女と会話をしていないのだ。
ただ、彼の状況を見るに下手に喋りかけたりしない方がいいと思う。
なので私たちは彼が調子を戻すまで様子を見守ることにした。
煌之介くん、あなたは私たちに陽だまりをくれたの。
あなたは強い。だから乗り越えて、笑顔を取り戻して欲しい。
けれど私たちには見守る事しか出来ない。
どうかお願い、復讐に身を滅ぼされることにだけはならないで。
昨日までのあなたを待ってるから。
煌之介side
「ここはどこだ?」
しばらく自暴自棄に陥りぼーっとしているといつの間にか見たことない景色が広がっていた。
辺り一面彼岸花が咲き誇る花畑のようだ。
「綺麗だ。琥珀にも見せてやりたい。」
「兄さん!!」
「っ!琥珀か!?」
「兄さん!何してるんですか!早く現実に戻ってください!」
「…でも、あっちに俺の事待ってるやつなんてもういないだろ」
パシンっ!
「寝ぼけたことを言わないで!!兄さんの行動に救われた人はたくさんいる!」
「でも俺は大切な人を不幸にする。一緒にいるといつか不幸な目に合わせてしまう。俺にはもう家族もいない。俺が1人でいる方がきっと幸せになれるんだ。俺も、他人も」
「家族ならまだいる!!一緒に暮らしている人がまだいるでしょ!あの2人は兄さんが戻ることを信じて待ってる。だから、2人のところに行ってあげて」
「家族、なのかな。俺はまだ全然2人のことを知らない。それに、取り乱して2人に冷たくしてしまった。一瞬だけ彼女たちを引き取ったことを後悔した。誰かに託そうとまで考えてしまった。こんな俺に家族になる資格なんてあるのか?」
「まだ間に合うよ。2人とも兄さんのこと信じてる。早く戻ってあげて。取り返しがつかなくなる前に。そして新しい家族になってあげて。2人はきっとそれを望んでる」
「2人が…」
「兄さん、前を向いて。歩みを進めて。2人の居場所を作ってあげて。次に私と会うのは兄さんが死んだ時です。兄さんのこと、しっかり見守ってますから!」
「琥珀、こんな不甲斐ない俺の妹として生まれてきてくれてありがとう。俺は琥珀の分まで生き抜いてみせる。そして琥珀を食った鬼を必ずこの手で葬り去る。それだけは絶対に成し遂げてみせるから。しっかりと見ててくれ!」
「…あの鬼は頭から血を被ったような風貌で虹色の瞳に上弦の弐と刻んまれていました。兄さんが非常識的にすごく強いことは分かってます。ですがどうか無理はしないで、生きることを優先してください。カナエさんとしのぶさんの為に。」
「分かってる。カナエとしのぶは俺の家族だ。だから絶対に悲しませたりなんてしない。約束だ!」
「はい、約束です。破ったら地獄行きですよ?ではまた、ここで会いましょう。」
「ああ、またな!琥珀!何十年後か分からないけど俺は必ず会いに来るから!」
「えぇ、待ってます」
そう言うと琥珀は少しずつ透け、笑顔を残して消えた。
そして、意識の覚醒が近づいてきたのかだんだんと暗くなってきた。
ありがとう、琥珀。お前がいたから強くなれた。俺が必ず仇を取る。だから、待っててくれよ。
しのぶside
屋敷は誰かが住んでいるなんて考えられないくらいに静まり返っていた。
天宮さんは疲れたのか眠りについている。
深夜なので姉さんも眠っている。
私は眠れなかった。
あの叫びを聞いてしまうととても眠ることなんでできなかった。
もし彼が少しでも私たちを助けに来るのが遅れていたら私もああなっていたのかもしれないと思ったから。
天宮さんは琥珀ちゃんのことを『残されたたった1人の家族』と言った。
なら私たちは彼にとってなんなんだ?
家族じゃないのだろうか、ただの雇ってる従業員としか思ってないのだろうか。
別に私はそれで構わないだろうと思っていた。
ではなぜ心が痛むんだろう。
本当はわかってる。私は彼と家族になることを望んでいるんだ。彼に兄になって欲しいと思っているんだ。
もっと姉さんみたいに素直になりたいな。
煌之介side
目が覚めた。
どうやら俺はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「あれ?」
手になにか感触がある…
「しのぶ?」
しのぶが俺の手を握ったまま眠っていた。
何か苦しそうな表情をしている。
空いた手でしのぶの頭を撫でてみる。
「っと、しのぶが目を覚ました時に何されるか分からんな」
しのぶの手を離し俺のベッドに寝かせる。
「しのぶは軽いな」
そう言い残して俺は台所に向かう。
頭に血が昇っていたとは言え2人にはほんとに申し訳ないことをした。
育ち盛りの子が飯を外で済ませるなんて良くないだろう。
うんと美味しい朝飯を作るとしよう。
献立は味噌汁、卵焼き、アジの干物、沢庵、ひじきの煮物、そしてホカホカのお米だ。
朝飯はこれに限ると思う。1日の元気の源となるのだからしっかりと栄養のバランスを取らないと。
割と早めに出来上がったので庭で素振りをすることにした。
最近は柱になったりで忙しくてあまりできていなかったので腕が鈍らないようにしないとな。
「…、997、998、999、1000!」
「お疲れ様。精が出るわね」
素振りを終えるとカナエがタオルと水を持ってきてくれていた。
「ありがとう。早起きだな。もしかして起こしてしまったか?」
「ううん。いつもこのくらいの時間に起きてるから。それに美味しそうな匂いもしてたし。」
「そうか」
気まずいなぁ。昨日はあんな態度取ってしまったから申し訳なさであんまり顔見て話せねぇや。
「そう言えばしのぶが見当たらなかったんだけどどこ行ったか知らない?」
「ああ、しのぶなら俺の部屋で寝かせてるよ。朝起きたらしのぶが手握っててくれたんだよ」
「あらまぁ、懐かれたのかしらね?」
「そうだったら嬉しいことこの上ないね。お兄ちゃんとしての面目が保てるよ」
「そう、私たちの家族になってくれる決心をしたのね?」
「ああ、カナエの弟として、しのぶの兄として生きていきたいと思った。琥珀が安心して成仏するために。そして何より2人の笑顔がある生活のために。…こんな俺でも家族として認めてくれるか?」
「もちろ「もちろんです!」…あらあら」
「しのぶ…」
「あなたには感謝しています。住むところを提供してくれていること、美味しい食事を作ってくれたこと、将来の夢の手助けをしてくれていること、そして何より命を助けてくれたこと。あの時は気が動転していてたくさん失礼なことを言ってしまいました。本当にごめんなさい。…兄さん。」
「ああ、俺たちは家族だ!カナエ、しのぶ!昨日はごめんな!俺も琥珀を失って気が動転していた。だから2人に冷たい態度を取ってしまった。本当にごめん!」
「…でも兄さんはなんでそんなすぐに立ち直れたんですか?」
「俺はもう孤独かと思った。けど夢の中で琥珀に叱られてまだ2人家族がいることに気付かされたんだ。本当に琥珀には頭が上がらない。」
「そうだったのね。琥珀ちゃんは私たちの仲を気づかせてくれた。本当にいい妹を持ったのね。煌之介くん。私のしのぶも負けてないけれどね!」
「カナエ、私たちのしのぶだろ?」
「うふふ、そうね」
「もう、2人とも!からかわないで!」
カナエとお互いに向き合って笑う。
しのぶは呆れながらもにっこりしている。
ああ、こんな幸せな日々が続けばいいのに。
いっそ鬼殺隊を辞め、鬼のことも忘れて2人とずっと一緒に楽しく暮らしたい。
だが現実に鬼は蔓延っている。
鬼を狩らなければ幸せなんて掴めない。
鬼舞辻無惨、お前が人を鬼にするせいでたくさんの人の幸せが失われている。俺は人から幸せを奪うお前を許さない。
お前の頸は俺が、俺たち鬼殺隊が必ず断ち切ってみせる!
震えながら待っていろよ、鬼舞辻無惨!!
だが今は幸せを噛み締める時間だ。少しくらい鬼殺隊のことを忘れてもバチは当たらないだろう。
「カナエ、しのぶ、一緒に朝ごはんを食べよう!」
「ええ」 「はい」
味噌汁を温め直してみんなで朝食を食べる。2人とも美味しそうに笑顔で食べてくれている。それが本当に嬉しい。
「2人には今日から本格的に医療の勉強をしてもらう。と言っても俺には知識がないから独学になってしまうが。医学と薬学の書は琥珀の部屋にあるから好きに使ってくれて構わない。それと他に必要なものがあれば随時報告してくれ。買ってくるから」
「分かったわ。私たちも鬼殺隊の役に立てるように頑張るわね!」
「兄さん、私たちがすぐに医者として働けるように頑張りますから。兄さんは安心して任務を頑張ってください。」
「任せた、だが流石に独学だと不安だし危ないからお館様に頼んで教師を雇ってもらうことにする。それでいいよな?」
「ええ、その方が心強いわ」
「是非お願いします」
お館様に手紙を書いて鴉に運んでもらう。
「じゃあ今日は任務で出なきゃいけないから留守を任せるよ。勉強を怠らないように。昼飯は作れるか?」
「ええ、私たちも家では手伝いをしていたからある程度は作れるわ」
「じゃあ保管している食料で適当に作って食べてくれ。どれだけ使ってくれても構わないから。晩はいつ帰るか分からないけど遅かったら自分たちで作ってくれ」
「分かったわ。くれぐれも気をつけてね」
「ああ、2人を残して死ぬわけにはいかないからな。意地でも帰ってくるさ」
「その言葉、信じていいんですよね?」
「もちろんだ!俺は柱だからな。他の隊士の前ではそんな簡単に死んでられねぇよ」
そう言って家を出る。
今日も鬼を狩るために。
人々の幸せと安寧を守るために
もしかして最終回!?こんなすぐ終わるの!?
残念ながらまだ終わりません。まだまだ妄想が続きますので。
俺の妄想力を舐めるなよォ!
そのイメージを言語化するのがムズいんですけどね!(白目)
一応これにて胡蝶姉妹編は終わりです。
次は多分派手派手な元忍のあの人が登場すると思いまする。
設定集を少し変更し、主人公の見た目などについてを追加しました。
お気に入り24件、通算UA1300越えありがとうございます!圧倒的感謝!