モフモフしたいドクター   作:影元冬華

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モフモフしたいドクター

 じぃーっと見つめる視線の先、そこで揺れるのは魅惑のもふもふ。ドクターはしょうもない理由でソワソワしていた。ドクターは目の前で揺れるモフモフをモフモフしたくてしょうがないのだ。

 

 そんなどうでもいい葛藤を知らない秘書、アーミヤは作戦報告書を真面目に製作していた。時折、癖か何かで頭を傾けるたびに同じように揺れる耳、頭部から上に大きく存在するウサギの耳は傾けられた頭と共に動き、頭の向きが戻ると同じように戻っていく。当然と言えば当然の動きではあるのだが、それを後ろから見ているドクターからすればとてつもない威力の動きである。

 

 ふわっ、ふわ。

 そわ、そわ。

 

 

「(…触りたい。思いっきりわしゃわしゃしたい。)」

「…?ドクター、何かお困りですか?」

「いや、なんでもない。」

 

 

 視線に気が付いたのか、それともなんとなくで分かったのか。アーミヤがこちらに振り返って声をかけてきた瞬間、マジでビビったドクター。そのままビクッっと体が跳ねなかったのは幸運だろう。ばれたら多分心配性のアーミヤにいろいろと聞かれて逃げられなかったと思う。多分、メイビー。

 

 ドクターの何でもない、という言葉を信用したのかアーミヤは自分の作業に戻っていく。それにほっとしたドクターは「流石に駄目だよな…」と思って自分の作業を再開する。記憶を一時的にとはいえ失っている以上、今こうして時間があるうちに少しでも取り戻さなければならないのだ。そう、あの魅惑のモフモフを撫でる余裕などないのだ。ない、のである。

 

 

 

「(………駄目だ、目の前のモフモフが誘惑して集中できない…っ!)」

 

 

 この男、モフモフの誘惑には勝てなかった。

 なぜそんなスキルを持っているのか、と聞きたくなるレベルで高い無音で高速の忍び足でアーミヤの背後に素早く立つ。しかしアーミヤの身長は140cm少々と小さいため、そのまま立つのではなく若干しゃがんでおくのもポイント。そしてドクターはそーっとアーミヤの耳、その付け根部分に手を添えた。

 

 

 

「っぴゃああああ!?ど、ドクター!!?!???!?!?」

「……もっふもふ。」

 

 

 

 ビックゥ!と思いっきり跳ね、特大の悲鳴を上げたアーミヤ。そしてその悲鳴を出させた本人であるドクターはアーミヤの耳を存分にモフモフしているのである。色々とした装備で包まれ素顔の見えないドクターではあるが、今ならわかる。この装備が無ければハチャメチャに顔が緩んでいただろう。と言うか現在進行形で絶対緩んでいる。

 そして撫でられている(揉まれている)アーミヤは…大人しくしている。突然触られた時は思いっきり悲鳴を上げ、跳ねていたが、今は大人しくされるがままになっている。なんというか、膝の上に抱かれて撫でられているウサギ(実物)状態だろうか。しかし下を向いてしまっているので表情は見えない。

 

 

「(Oh, this is a MOFUMOFU of the highest point(おお、これが至高のモフモフ)…)」

「…はみゃあ。」

 

「………『はみゃあ』?」

 

 

 ドクターは至高のモフモフを堪能していたが、ついうっかりアーミヤが零した鳴き声(?)に思わず我に返った。

 

 

「はみゃあ…?」

「…はっ!?ドクター、いきなりにゃにおぉ…ひゃあぁ…。」

「あぁー…柔らかい…モフモフ…。」

 

 

 

 しかし我に返ったのは一瞬。ドクターの理性は7時間睡眠が必要なレベルで溶けていた。もはや手遅れレベルで過労なのだ。

 

 もふもふもふもふ。ひたすら耳を触っていじるドクター。アーミヤもアーミヤで無抵抗(抵抗できないだけ)でされるがままに撫でられ、揉まれている。

 

 

 

 

 

 

 ドクターのモフモフタイムはそのままドーベルマン教官がやってくるまで続行されてしまったのである。

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 あのあと、やってきたドーベルマンとケルシーによって説教を食らったドクター。説教の直後にドーベルマンによる強制睡眠(物理)を食らわされ、きっちり7時間睡眠をとることとなった。アーミヤもアーミヤで敏感な耳を触られ、撫でられ続けたのでちょっと表に出せないくらいに蕩けていた、とドーベルマンから聞いたドクターは次の日にアーミヤの目の前で綺麗すぎる土下座を決めた。ドクターからすれば「ちょっとモフモフ」くらいの感覚だったのだが、アーミヤからすれば感覚は全く違うものである。ドクターは完全にセクハラしている扱いだ。

 

 

 

「アーミヤ、その…すまなかった。」

「いえ…ドクターが疲れていたのに気づけなかった私にも責任はありますので…。」

 

 

 

 その詫びに、とドクターは今現在アーミヤと共に高級スイーツ店で一緒にパフェと食べていたのであった。目の前にはつい先ほど運ばれてきたフルーツパフェが控えめに、しかししっかりと存在を主張してきている。

 アーミヤはスプーンで一口、よく熟していると一目でわかるイチゴとバニラアイス、そしてちょこんとのった生クリームをはむっ、と頬張る。

 

 

「~~~~~~!」

 

 

 予想していたものより甘くておいしかったのだろう。アーミヤはとてもうれしそうな顔で食べ始めた。それに呼応するようにピコピコと耳が動くので、見ているドクターもこの上なく満足していた。

 

 

 

「(…またいつか、モフモフしたいなあ。それにしても、かわいい。)」

 

 

 

 しかしドクターはどうしようもなくモフモフにほれ込んだ手遅れドクターであった。

 

 

 




突発。耳が弱そうな子いっぱいいそう。あと尻尾

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