モフモフしたいドクター   作:影元冬華

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理性を持って優雅たれ


モフモフしたくて家出したドクター(take4)

 目の前で揺れるは魅惑の数々。しかしそれに触れることは叶わず、嵌められた枷が無意識に伸びる腕を制限する。ガシャガシャという金属音が、否応なしに無くした理性の代わりとなっているのだ。

 

 

「──、──っっ!!」

「アーミヤ、龍門周辺に確認したレユニオンはどうする?」

「…もう少し待ってから一気に叩きましょう。殲滅戦用の部隊を編成しておきます。」

「了解。BSWの面々は後方で撃ち漏らしの対処をします。」

 

 

 揺れる耳、振られる尻尾、窓から射す日光を鈍く反射する角、それらすべてが目の前にあるというのに、触れることは叶わない。ドクターにとっては生殺し以上に過酷なものである。

 ガシャガシャガシャ、と両腕につながれた鉄鎖がうっとおしい。しかしその音と抵抗によって理性を保っているのも事実。あとは───

 

 

 

「…なあ、アーミヤ。鎖でつなぐのは分かるか…。」

「いえ、今のドクターにはあれくらいでいいんです。」

「いや、あのな?流石に私でもあれはよろしくないと思うぞ?」

「そうですか?」

「そうですか、って…あぁー…うん。」

「別に───口枷をはめて最低限しか動けないくらいに鎖でつなぐのはこのドクターに対しては普通だと思います。」

「絶対に『普通』ではないと思う。」

 

 

 

 

───ドクターが拷問にさらされているような恰好をしていなければ。

 

 

 

 

▽▽▽▽

 MOFUMOFUを禁止されたドクター。執務室に設置された檻と専用の椅子を見れば完全に独房ともいえる。いつの間に設置できたかは分からない、気が付いたらできていたし、開発されていた。

 理性無きドクターならこの程度の独房は余裕で脱獄できる。(理由は考えないものとする)

 しかし、投獄されるときに言われた言葉が、脱獄させる気力を奪い去っていったのだ。

 

 

 

「ドクター、もし投獄中に狙って触ったら…今後一切、触れることはおろか、見せることも無いと思ってください。」

 

 

 

 無慈悲にアーミヤから告げられた言葉…今こうして牢獄に入れるのはいわゆる『執行猶予』でしかないという事を思い知らされたのだ。

 その後、あまりの生殺しに拷問もかくやと言う声を出しまくったため、現在は口枷も追加されている。

 

 一応、机の上で腕を動かす程度には鎖の長さを調節されているので、仕事をする分には何の問題も無い。外部との連絡には固定されたタブレットを用いて行える。2時間に1回、10分の休憩もあるので、仕事管理をされた最適な状態ともいえるのだが…。

 

 

 

 目の前で揺れる魅惑の数々によって、精神は削られまくっている。

 

 

 

 フーッ、フーッ、と猛獣のような息遣いは完全に不審者を超えた【自主規制】のもの。牢獄にいなければ今頃飛びついて好き勝手に触って撫でて揉んで堪能しているだろう。ちょっと軽いホラー映画状態でもある。

 そんなことを気にもせず、アーミヤとリスカムは次々にやってくる書類と報告をまとめて整理している。

 

 

 

 

 そうしてMOFUMOFU禁止令が出されたドクターに問題が起きたのは、投獄から5日目の事だった。

 

 

 

「おはようございます、ドク…えっ…?」

「ドクターが、いない…?」

 

 

 

 牢の中にいるはずのドクターが、消えていたのだった。

 

 机に一通の手紙を置いて。

 

 

 

 

 

『ちょっと気晴らしに行ってきます。仕事は済ませたので確認しておいてくれ。』

 

 

▽▽▽▽

 

 

 龍門の外れ、半ばスラム街となりかけている一角にて、レユニオンの残党たちが密かに集まっていた。集まった数はおおよそ300名、落とすには足りないが、確実にダメージを負うぐらいの人数がそこに集まっていた。例え近衛局が対応したとしても只では済まず、混乱が起きるであろうという事は分かる。

 それほどの大人数を集めたリーダー格である術師が各部隊のまとめ役を呼んで、襲撃の算段を話している時の事である。

 

 

「───偵察をしている同志から連絡!ロドスの制服を着た何者かがこちらへと来ているとの事。数は1!」

「一人…?まあいい、ただ散歩に来たぐらいなら放置しておけ。下手に攻撃してバレるとまずいからな。」

「そ、それが…まるでこちらの潜伏先が分かっているくらいに足取りがはっきりしている、とのことです。」

「所詮は一人だ。幾らロドスであっても、一人の為に救援など出さんだろう。出したとしても、時間はそれなりにかかるはずだが。」

 

 

 リーダー格の術師は不審に思いながらも「もうちょっとこっちによって来たら殺そう」くらいにしか考えていなかった。その甘い判断が命取りになるとも知らずに

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 前線はレユニオンにとって阿鼻叫喚の地獄と化していた。

偶々一人で誰かがこっちに来るのが見えた。一応報告はしたが所詮は一人、どうとでもなるだろうと思って暇を持て余した下っ端に殺して来いと指示を出した。

 

 そこまでは良かったのだ。

 

 何人かがいたぶって遊ぼうとしてソイツに襲い掛かった。だが、襲ったと思った瞬間、その3人が何の前触れもなく倒れたのだ。直前までは己が武器を振りかざしていた。それが、弾かれることも、やってきた何者かに当たる事すらなく倒れたのだ。

 それどころか、襲撃してきた人物は反撃らしい動きを一切していない。せいぜい、手袋をはめなおす動作をしたくらいだろうか。

 

 

「…は?」

 

 

 思わず遠くから見ていたにもかかわらず、そんな間抜けな声しか出なかった。しかし襲撃者は悠々と歩いて向かってくる。一歩、二歩、決して早くは無いが確実にこちらへ向かってきている。やられた3人はピクリとも動かない。

 この時点で、何かがおかしいと理性が叫んでいた。襲撃者の方を見る。その顔は覆面で覆われており、素顔が見えないが…確実に、此方を見ている。

 

 ぞわり、と背筋にうすら寒い何かが走った。

 

 そして思い出したのだ、あの服装はロドスの物…そして、黒い覆面で顔を隠した人物が誰なのかを。

 あれは、ロドスのトップ、ドクターと呼ばれる憎き敵であると。

 

 

▽▽▽

 

▽▽

 

 

「────何なんだこいつは!!ロドスのドクターは後ろで見てるだけの腰抜けじゃなかったのかよ!!!」

「クソッ!!!!!他の地区で仕込みしてる奴らも援護で呼んで来い!ここで抜けられれば全部パァだ!!」

「術師だ!アーツを使える奴らは遠くから撃て!こっちに近寄らせるなぁー!」

 

 

「……ふむ、我ながらこれはいい考えであるな。こうも目の前にたくさんいれば『やりたい放題』ではないか!」

 

 

「殺りたい放題、だと…?」

「ロドスのオペレーターですらまだ甘いってのか…!」

「おい…前衛はどうした…?なぜ先ほどから反応がないんだ!?雇ったサルカズの剣士共はどうした?!」

「駄目だ…あいつを殺すために出た奴らは全員、あそこでくたばっている…触れることすら叶っていない…!」

 

 

 

 そして、その進行を止めることができず目の前にまで迫ってきているドクター。ここまで、倒された同志の数は既に50を超えている。ドクターはただ歩いているだけ、それなのにこちらは何か行動に移る前に倒れているのだ。だがしかし、攻撃を仕掛けていない同志は無事である以上、此方から仕掛けなければ大丈夫と言うことくらいしか理解できていない。

 触らぬ神に祟りなし、まさしく言葉通りの状況であろう。

 

 悠々と歩みを進め、ついにレユニオンが潜むスラム街へと足を踏み入れたドクター。その瞬間、あちこちに潜んでいる狙撃手と術師による攻撃が大量に押し寄せ、ドクターのいた場所は大量の瓦礫と土埃に包まれた。

 どのような手段で前衛たちを倒したかは分からないが、ここまでの猛攻を耐え切るのは重装オペレーターであっても難しいだろう。それほどまでに攻撃は激しいものであった。

 リーダーの術師は「これでもういいだろう」とほっと息をついたその瞬間、真後ろからドサリと言う物音が聞こえてきた。

 

 

 

「…は?」

「────サルカズの角と言うのは面白いものだな。角はどれも同じように見えて実際は手触りや温度、形状はもちろんの事…その者の性格にも影響が出ているとはな…。ふぅむ…。」

 

 

 

 ロドスのドクターが、真後ろに、いる。

 

 ありえない、ありえないのだ。先ほどまでこのドクターがいたのは今いるところから300mは離れている。それに、ここは放棄されたビルの上層部なのだ。昇ってくるにしてもそれなりに時間はかかる上に、もちろん見張りも置いている。それらすべてを一瞬で片付けたうえで、ほんのわずかな時間でここまで到達した?

 

 それこそ、直線ショートカットでもして飛んでこなければ無理な芸当である。

 

 不可能、そのはずなのに目の前にいるのはドクター本人だろう。その足元に力なく倒れている重装オペレーターは起きる気配を全く見せない。

 

 

「少々時間がかかってしまったか…そろそろアーミヤたちが脱走に気が付いてしまうだろうな。」

「な、は…あん?」

「悪いが、私は忙しい身でな。」

「ッ!!!!」

「───おっと、危ない危ない。楽しむ前に一撃貰うのはよろしくない。」

 

 

 ドクターは至近距離から放ったアーツを難なく躱す、どころか一瞬で目の前から姿を消した。そう思った瞬間、リーダーの術師の真後ろへと回っていた。

 

 

 

「んなっ…!?」

「では一つ、君のも楽しませてもらおう…!」

 

 

 そうして、リーダーの術師が後ろを向いて抵抗しようとした瞬間、形容しがたい感触が体を駆け巡り、リーダーの術師は一瞬で意識を失ったのだった。

 

 

 

▽▽▽

 

「お、おおお…おおおおお…!!」

 

 

 ドクターは今しがた堪能し始めた術師のフードの下に眠っていた見事な「猫耳」を前に感動していた。

 レユニオンの中でも術師クラスの人物は重宝されると聞いてはいたが、まさしくそれを証明するかのように、この耳は見ただけでも相当丁寧な手入れがされているとわかった。

 艶のある灰色の毛並み、ふわっふわな感触をもつ柔らかな毛。フードによって隠されていた「お宝」を前に、ドクターのテンションは爆上がりしていた。

 

 

「Oh, c’est exactement ce que je cherchais…!Je suis venu jusqu’ici et je l’ai enfin trouvé!!!!!!」(おお、これがまさしく追い求めていた物…!ここまで来て、ようやく見つけたぞ!!!)

 

 

 確かにロドスのオペレーターたちの耳や尻尾、角も素晴らしいことこの上ない。しかしこうして普段見ることの無い耳や尻尾を「好きなだけ、怒られることもなく」堪能できるのは今だけ。レユニオンの面々には大変悪いが犠牲になってもらう。

 

 前衛や先鋒のレユニオン達がやられていた理由、それはドクターによる「あまりにも早すぎるMOFUMOFU」によって脳に伝達される情報量が過密過ぎたからである。一瞬で神経系が集中している耳や尻尾、角を撫でられ、握られ、揉まれれば理解をしようとした脳がオーバーフローを起こして意識が切れる。それが、ドクターに触ることなく倒れたメンバーの真相である。

 

 

 もふっ、もふっ、なで、なで。

 優しく、丁寧に、それでいて手のひら全体で感じるように念入りに耳を堪能していく。ふわふわとした毛の感触は飽きることの無いもの。それでいて温かいために撫でるたびにここ最近、強制的に封印されていたMOFUMOFU欲が溢れていく。

 

 

「Oh, je veux être enterré comme ça…。」(ああ、このまま埋もれていたい…。)

 

 

 MOFUMOFUの中に埋まって一日を過ごしたい、いっそのことそうしてしまおうかと考えたが、流石にやることなすことを放棄してまでMOFUるのは紳士として如何なものかと考える。

 そんなことを考えている間にも、その両手は耳を堪能し、同じようにふわっふわな尻尾にも伸びていく。

 もふ、もふ、と堪能していたドクターが不意に手を止めた。そしてその顔は外へとむけられている。ここは高いビルの中、下に見えたのは…

 

 

 

「…Ein Zeichen für ein neues Opfer!!!!」(新たなMOFUMOFUの気配!!!!)

 

 

 

 異常を察知したレユニオン(犠牲者)達の姿であった。

 

 

 

 

「【自主規制】---------!!!!!!!」

 

 

 

 ドクターは目を輝かせて飛び降りた。

 

▽▽▽▽

 

 

後日。

 

 

 

「おかしい…なぜ情報にあったレユニオンの残党たちの姿が跡形もなくなっている…!?」

「チェン隊長、あなた宛てに封書が届いております。」

「あ、ああ…下がっていてくれ。」

「はっ。」

 

 

 執務室でチェンは封書を開いた。そこに書かれていたのはレユニオンに忍ばせた自分の部下からの連絡であった。

 

 

『レユニオンの残党は撤退、現在は龍門から全速力で離れております。どうもしばらくは龍門に攻め入る、と言ったことはないでしょう。』

 

「レユニオンが撤退…?それも全速力で、だと?」

 

 

 内容を読んでいけばいくほど疑問しか上がってこない。なぜレユニオンは急いで撤退しているのか。その理由が全くを持って思いつかない。だが、龍門の危機が消えたのもまた事実。どこか腑に落ちないと思いつつもチェンは最後まで読み進めていく。

 

 

『最後に。───』

「…ん?」

 

 

 この書き始めは完全に報告の類ではなく、個人の所感だろうか。チェンは珍しいと思っていた。

 

 

『───ろどすの、どくたーは、きけん、すぎる』

「…なんだ?ロドスのドクターが危険、だと?おまけにこの部分だけやけに筆跡が震えているではないか。」

 『あいつは、やばい、チェン隊長は、あぶない、にげて』

「どういうことなんだ…!」

 

 

 

 執務室に一人、チェンの疑問と恐怖が混ざった声が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽

 

「ドクター?今までどこに?」

「回答によっては本物の牢獄へとお連れします。」

 

「───言えぬ。」

 

「「ドクター!!!!」」

 

 

 ロドスの執務室ではアーミヤとリスカムによるドクターへの尋問が行われていた。

 しかし、ドクターはその口を割ることはなかったという。同時に、とても満足して「やってやった」というどや顔になっていたという。

 もちろん、1週間の刑期延長が言い渡されたのであった。

 




何だこれ(今更)
レユニオンは南無三。ドクターの欲望には勝てなかったのだよ


オマケ

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→フランス語とドイツ語です
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