カミナガレ   作:桜鬼 歌夜

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あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!!


第十一話 春音と桜貴

「なぁなぁ…神印が無いってどゆこと?」

「さぁ…そんなことは一切聞いてませんでしたし…一体何があったのでしょうか…」

 

春音に「神印は無い」と言われてから何処かに案内されている。春音の後ろで、照彰と如月は言葉の意味を考えていた。流星から聞いた話では、神印は代表が必ず所持しており、「無い」なんてことはあり得ないはずであった。

 

「ところでこれ、何処に行ってるんだ?」

「このまま真っ直ぐ行けば聖桜の桜に辿り着きます。ということは、おそらくこの都の妖霊代表の所だと思いますよ」

「妖霊側の…」

 

妖霊代表に会う、と意識してみると、照彰は急に緊張しだした。たとえこの都で人間と妖霊が上手く共存していたとしても、やはり相手は人間ではない。そのことが、照彰に不安を与えてしまう。

 

「着いたぞい。桜貴や、話していたお客だ」

「桜貴…?」

 

聖桜の下で止まり、春音が高く上を見上げて誰かを呼んだ。

すると、穏やかな風が吹き、桜の雨が強くなった。揺れる枝の間から、薄桃色の布が現れる。それが着物だと分かり、照彰は目を細めてよく見ようとする。姿を現したのは、薄桃色の着物を黄色の帯で絞め、着物よりも少し濃い桃色の背中に流れる髪を持つ美女。細い瞳は若葉色で、緩やかに笑っている。

 

「うひゃあ~…正に桜の女神って感じ」

 

ふわりと重力を感じさせずに地に降り立った桜貴と呼ばれる妖霊の美しさに、照彰の口は開いたままだ。

 

「初めまして、桜貴様。如月と申します。こちらは…」

「桃瀬照彰です!今日は神印を貰いに来ました!」

「ふふ、元気な人間の子じゃ。流星とは違った感じの現人じゃのう」

 

袖で口元を隠してくすくす笑う。照彰の緊張は何処かに飛んでいったようだ。

 

「ここには外の者は来ぬ。私は都を守るのが使命。じゃから正直、他の地の人間達や妖霊と上手くやっていけるのかは不安じゃ。じゃが、このままではいかんということも充分理解しておる」

「じゃあ神印をくれますか…!」

「やろうやろう。今は無いがな」

「やっぱないんかい!」

 

真剣な表情で話していたと思えば、さらっとやはり春音のように「今は無い」と言われてしまい頭を抱えた。横では如月が現実逃避でもしているのか、ぼーっと空を眺めている。

 

「何で!?何で二人とも神印無いの!?」

「照彰殿!敬語をできれば使ってください!失礼です!」

「何故神印が無いのでございますか!」

 

「空眺めてたくせに!」と思いながらも言われた通りに、照彰なりの敬語で聞き直す。

春音と桜貴は互いに顔を見合わせ頷き合うと、春音が口を開いた。

 

「盗まれた」

「ふーん、マジかぁ…盗まれたのかぁ、それはそれは………え?ヤバくないの?」

「いや普通にまずいですよ」

「ヤバいよね!?なのに何で慌ててないの!?え!困るんだけど!!」

「そんなの分かっとる」

 

神流で大きな決め事に必要な神印が盗まれた。かなり大切な物を盗まれたにも関わらず、二人は全く困った様子はなく、むしろ楽しんでいるような雰囲気ですらあった。桜貴は微かに笑ってもいる。

 

「少し事情があってな。悪いが、神印を盗んだ犯人である二人から取り返してくれんかの?」

「え?俺らが?」

「うむ」

「今、犯人は二人と言いましたね?まだ都にいるんですか?」

 

如月が神印を盗んだという犯人について尋ねる。盗んだらそのまま都から去るのではないか、というのが如月の考えのようだ。

 

「まだおるよ。まだ、というかこれからもおるさ」

「…どゆこと?」

「なるほど…」

「何がなるほど?」

 

何が何だか全く分からない照彰は話についていけない。しかし、如月は何か気づいたのか、顎に手を当てて考え事をしている。

 

「私達が、その犯人から奪い返せば良いのですね?」

「そうじゃ。全力で頼むぞ」

 

ニッコリと微笑んだ桜貴の笑顔に照彰は何故か違和感を感じる。

何故自分達で取り返さないのか、何故そんなにも余裕そうなのか。

 

「…照彰殿、私達は犯人達から神印を取り返さなければならないようです」

「そうみたいだな…えー…俺ちょっと怖いんだけど」

「男でしょう。しっかりしてください」

「男でも怖いもんは怖い」

 

神印を盗んだというのだから犯人は悪い奴、というのが照彰の認識だ。その犯人が人間ならまだマシだが、もしかしたら妖霊かもしれない。人間と妖霊が共存することを良しとしない者が、実はこの都に存在するのではないか。そんな考えが浮かんでしまう。

 

「ちなみに何処にいるかは?」

「それは知らんな」

「そうですか…では地道に探すしかありませんね。犯人の特徴を教えていただけますか?」

「構わんぞ」

 

犯人は二人の男女。男の方は少々気弱そうで、薄紫の髪に黒の瞳。紺色の着物を着ているのだという。女の方は桜貴が幼くなった感じだそうだ。

ここまで聞いて照彰は「おいおいおい」と困惑した。男の方の特徴には特に違和感は無いが、女の方は怪しさが半端無い。

 

「もしかして犯人とは知り合いだったり…?」

「男は私の孫」

「女というのは私の娘じゃ」

「もーマジでどういうこと?何でその二人が?」

「それは…二人への“試練”ということでは?」

「試練?」

 

如月の「試練」という言葉に首を傾げる照彰。何故神印を盗むことが犯人である二人の試練になるのか。

 

「さぁーて!お二人には頑張ってもらわねばな!」

「そうじゃな。期待しておるぞ」

「えー…」

 

春音に「さっさと行け」とでも言うかのように手を振られ、桜貴には背中を押された。仕方なく歩く照彰と、ついてくる如月。

 

「なぁ…なんでさっき、二人の話を聞いて神印を盗むのが試練なんだよ?」

「ああ、それは…」

 

照彰が隣を歩く如月にそう尋ねる。

何故あの二人は自分の孫と娘にそのようなことをしているのか。孫と娘に、何らかの事情があるのだろうか、照彰には全く見当がつかない。

 

「照彰殿の世界では、“婚約”はどのようにして行われますか?」

「え、婚約?」

 

都を歩き回りながらそんなことを聞かれ、照彰は今の話に関係あるのかと気になったが、如月の質問に答えることにする。

 

「まずプロポーズして、そんで結婚式…かな?結婚とかしたことねーし、興味もねーから分かんねぇけど。あ、後は親に報告とか?」

 

照彰は首を傾げながらそう答えるが、結婚なんてまだまだ先のことだと思っており、そもそもそんな相手もいないということで考えたことも無かった。そのため照彰の中での結婚の手順を解説することしかできない。

 

「ぷろぽーずがよく分かりませんが、こちらではその土地の代表に認めてもらい、婚姻届に神印を押してもらえれば親が反対していても婚約することができるのです」

「へぇ~…」

「ただ、代表が結婚しろと言えば本人達の気持ちに関係なく結婚することもありますがね」

「あー、そういうこともあるのか」

 

どうやらこの世界で神印を手にする代表という存在は、逆らうことが難しい相手なのだと窺える。

 

「おそらく神印を盗んだ犯人である二人は、結婚しようとしているのではないでしょうか」

「え?それって、もしかして…」

「ええ、人間と妖霊の結婚になりますね」

 

つまり、聖桜の都の人間側の代表である春音の孫と、妖霊側の代表の桜貴の娘の二人が結婚しようとしているのだ。

 

「いくら人間と妖霊が共存する唯一の土地だとしても、結婚となると難しいのでしょうね。それも代表同士の結婚となると、神印を継ぐ時に後継者問題も起こるでしょうし。神印を受け継ぐのはほとんどが血縁者ですからね」

「そうなのか…なんか、めんどくさいな」

「まぁ…それがこの世界ですし」

「えー、好きな相手と結婚できないのに、幸せになるなんて難しいんじゃねーの?」

 

照彰はふと目に入った団子屋に並ぶ団子を見つめながら、思ったことを口にする。

如月はそれについていきながら、照彰の言葉に耳を傾けている。

 

「俺さ、自分が幸せになるために人生はあるんだって思っててさ。人生最後の時に、幸せだったって心から思えなきゃ、生きてきた意味がないって思うんだ」

「…幸せとは、そんなに大事なのでしょうか?」

「……」

 

団子を見つめながら語る照彰に、如月は僅かに顔を伏せて問いかけた。

照彰は不思議そうな表情で団子から如月の方へと視線を移した。

如月は悲しそうな、怒っているような、そんな表情をしている。

 

「大事だと思う。うまく言えないけど、幸せな人生じゃなかったら、生きてたって楽しくなんかないだろ?」

「…幸せでなくても、生きなければならない人がこの広い世界には大勢います。そんな人達の人生に、意味はないと?」

「如月の話だと、その人達にはこれからも幸せになることはないっていう風に聞こえるけど?」

 

如月がピクリと肩を震わせ、照彰に視線を向けた。その眼差しは驚いているようだ。

 

「今は幸せじゃなくても、生きてれば絶対に良いことはある。誰にでも幸せになる権利はあるし、人によっても生き方によっても幸せは違う。幸せは来るものじゃなくて、自分でつくるものなんだ。それを忘れたら幸せになんかいつまでたってもなれない」

 

照彰は優しく微笑み、それからまた団子を眺め始めた。

机に並べられている数種類の団子の中で、桃色の蜜のようなものがかかっている団子が気になるようで、そればかりを照彰は見つめている。

 

「結婚相手って、“一緒に幸せになる人”だと思うんだ。だから、なりたいって望んでる人じゃないと俺は嫌だなって…そりゃ、皆がそうなら良いけど、そうなれない人もいるし、やっぱ人生って難しいし、幸せになるって思ってるほど難しい。…って今思った」

 

照彰は「ははは!」と笑い声をあげた。周りの人々が首を傾げたり、困惑したりといった表情を見せているが、照彰はそれに気づいていない。

 

「なんでこんなこと言ったんだ?喋ってて俺もよく分かんなくなってきたわ。んで、何の話してたっけ?」

「神印を盗んだ二人の話です」

「そーだった。で、どうする?どうやって探す?」

「……」

 

さっきの話のことは忘れたのか、照彰はいつもの調子に戻っている。

如月は一歩前に進み、団子屋の中に入り、照彰のように団子を見つめる。

照彰が見ていた団子の値段を見て顔をしかめたが、二本購入することをこの店の店主であろう年老いた男性に伝えた。

 

「まずは二人の特徴から聞き込みをしましょう。まぁこの都で二人を知らない人はいないと思うのですぐ見つかるとは思いますけど」

「あ、じゃあせっかくお団子買ったんだし、ここから聞き込みしようぜ!」

「そうですね」

 

お金を渡し、団子をそれぞれ一本ずつ受け取る。受け取ってすぐに照彰は団子に食いつき、串に三つ刺さっているうちの一つを食べた。もちもちの食感と、桃色の甘い蜜は食べたことのない味で、ほんのりと桜の香りがする。

 

「何これうまっ!!てかこの蜜がめっちゃ甘い!!」

「……聞き込みしないんですか」

「するけどっ!でもうまいんだもん!」

 

キラキラとした瞳でもう一つを口に含み、更に最後の一つをパクリと食べる。あっという間に団子は無くなり、照彰は売られている同じ団子をまた見つめだした。

その照彰の様子にため息を吐き、如月は自分の手にある団子を見て、静かに食べ始める。

 

「……甘い」

「なー!俺、甘い物って大っっ好きなんだよな!!」

「……だから何です?」

「もう一本買って?」

「ダメです」

 

手を合わせて真顔で頼む照彰に、如月はきっぱりと断った。照彰はこちらのお金のことを知らないため分からないだろうが、実はこの団子は一本だけでもかなりの値段で、そうポンポンとお金を出す余裕はない。

 

「この団子って、なんか食べると元気になるっていうか、ここまで歩いてきた疲れが吹っ飛んだんだよ!だからこれ食べて頑張るからもう一本!お願いします如月様!」

「もう一本買うと宿代や食事代が消えますよ」

「え?」

「野宿になるし川で釣った魚で過ごすことになります。それでも良いんですか?私は嫌です」

 

ニッコリという笑顔でそう言われれば諦めるしかない照彰は、がっくりと肩を落とし、ならせめて如月のを寄越せと視線を送るが無視されて三つとも如月によって食べられてしまった。

 

「……しかし、噂には聞いてましたが、本当に凄いですね。本当に疲れが消えたましたし、霊力が少し上がりました」

「え?そうなの?」

「ええ。まぁ、照彰殿もいずれ相手の霊力を感じ取れるようになりますよ」

「はぁ……?この団子にかかってるやつって何なの?」

 

照彰はずっと気になっていたことを尋ねた。すると、目の前にすっ、と手のひらにのる程の大きさの木箱が横から現れた。

照彰が「ん?」と覗き込むと、中には先程の団子にかかっていた桃色の蜜が入っている。

 

「これは聖桜の蜜といって、桜貴様が宿る聖桜から採れる蜜でな。この都の特産品じゃ」

 

そう説明してくれたのは、この店の主人の男性だった。

 

「へぇ~あの木から…だから桜の香りがするのか」

「そうじゃ。更に疲労回復、霊力の強化に怪我や病気なども癒すことができる。まぁ程度によって量を増やさなければいかんがな」

「しかもあまり多く採れるわけではないので、とても価値が高いんですよ。流星様からお金をいただいていなかったら買えませんでした」

「マジか。こりゃ感謝しとかんとな」

 

照彰はここにいない流星に向かって手を合わせた。如月はそんな照彰を見て再びため息を吐いた。

 

「オメーら、流星様の所から来たのか」

「はい。人間と妖霊が今後争わないで済むようにと、全ての土地の代表から神印を集めることになりました」

「ほー、そうかそうか。全部集まれば、気軽に外に行けるというわけじゃなぁ」

「え?じいさん、もしかしてあんまり都の外に出たことないの?」

 

 

空に向かって手を合わせていた照彰が、びっくりしたような表情を男性に向け、男性はそれに笑ってこう答えた。

 

「あんまりではなく、全くじゃな。都の外では儂らは異常らしいからな。同じ人間なのにな」

 

そう言って男性は愉快そうに笑った。なぜ笑ってられるのか、照彰には全く理解ができず眉間に皺が寄る。

彼らにとってそのような反応は当たり前なのだろうかと、なんだか照彰は悲しくなった。

 

 

 

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