カミナガレ   作:桜鬼 歌夜

9 / 14
第九話 やりたいこと

熊神との問題を解決したその日、照彰はへとへとになりながらも保月神社へと戻ってきた。既に夕日が沈み、空を飛ぶ烏達の鳴き声が響いている。

 

「戻りましたね。では早速、これからのことを話しましょう」

「そうだな」

 

流星は嬉しそうにそう言い、巫女達に食事の準備をするように指示をする。

流星と如月は一度汗を流してくると言って、風呂場へと向かった。

それを見送り、照彰はずっと静かにぼけーっとしている環に話しかける。

 

「で、どうだった?夜楽のことぶん殴ったのか?」

「ああ?ああ…あの後すぐに逃げられた」

「チッ、あの野郎、殴られれば良かったんだ」

「お前は何をそんなにキレてんだよ」

「頭悪いって言われたんだぞ!そりゃあ学校のテストはちょーっとあれだけど、それだけだっ!」

 

照彰は夜楽に言われたことをまだ怒っているようだ。環は「てすと?」と、知らない単語に首を傾けているだけで、特に慰めるつもりはないらしい。

そうこうしている間に一人の巫女が照彰と環を食事を準備した部屋へと案内し、照彰は我慢ができずに一人で食べ始める。

環はゆっくりと座布団に座り、「いただきます」と小さく言ってから黙々と食べる。

 

「それで、お前はここに残ることにしたんだろ」

「ん?ああ、まーな」

 

口にいっぱい食べ物を詰めたまま話す照彰に、環は呆れた表情を向ける。向かい合って食べているので表情はよく見えるのに、照彰は気にせずバクバクとご飯をかきこむ。

 

「残ってどうするんだ。何か目的ができたから残るんだろ?」

 

そう尋ねられ、照彰は一瞬食べる手を休め、口にたまっていた物を飲み込む。

 

「意外だな。お前はすぐに「帰れよ!このボケかす!」くらい言うと思ってた」

「さすがにそこまでは言わないぞ…」

「あはは」

 

照彰に自分は何と思われているのか、少し心配になる環だが、確かに残られるよりは帰ってもらいたかった。何故なら、本当の意味で環はまだ照彰を信用していない。だが、照彰がここに残ると選択したことでこちら側が有利になるならば迎えても良いとは思っている。

 

「俺さ、春太ときのこがこれからも遊べるんだなって分かって、すげぇ嬉しかった。あいつらの喜ぶ顔を見た時、なんかこう…胸があったかくなったんだ」

 

春太ときのこの顔を思いだし、微笑みながら自分の胸を押さえる照彰を、環は静かに見つめる。

 

「それでさ、人間と妖霊が仲良くなることは不可能じゃないって分かって…なら、争って傷つくより和解して平和的に暮らすのが良いんじゃないかって」

「…そんなこと、無理に決まってる」

 

落ち着いた声音で話す照彰に、環は無理だと諦めの台詞を吐いた。

 

「何でそう簡単に決め付けるんだよっ」

「決め付けじゃねぇっ!事実だっ!」

「はあぁ!?」

 

静かに食事をしていたのに、気づけば騒がしく喧嘩が始まってしまった。

そんな騒ぎを聞き付け、風呂場で汗を流してさっぱりした流星と如月が部屋に入ってくる。

 

「何を騒いでいるんです?」

「俺が、人間と妖霊が仲良く平和的に暮らすのが良いって言ったら、こいつが無理だって決め付けるんだよ!」

「当たり前だろっ!人間と妖霊が仲良くなんてできるわけねぇっ!」

「あーもー、分かりました。いったん静かにしてください」

 

まるでこどものように言い争う二人に如月は頭を抱える。

如月に静かにするよう言われ、二人はにらみ合いをしながらも黙る。

 

「……」

 

そんな中、何故か流星は一人でどこか遠くを見つめるかのように、ぼんやりとしていた。

 

「…?」

 

それに気づいた照彰は首を傾げた。そして、何故そのような表情をしているのか、照彰なりに考えてみる。

流星の表情は、少し驚いているように見える。照彰の考えが、流星には予想していなかったものなのだろうか。

 

「ここで喧嘩をしても意味はありません。照彰殿、貴方のお話を伺いますので、構いませんか?」

「…え、あ、ああ」

 

如月はそう言うと、話を聞くためにぼーっとしている流星に座るよう促し、自らも座る。流星は如月に言われてハッと意識を戻し、慌てて座布団に座った。

 

「それで、照彰殿はここに残ると決めたわけですが…はっきり聞きます。我々と夜楽、どちらにつくのですか?」

「……」

 

流星は先程とはうってかわった様子で照彰に質問する。それを問われた照彰は、流星の顔をじっくりと見つめた。流星の瞳は、照彰がどちらにつくか探っているかのようだった。

本当にはっきりだな、と照彰は思い、一つ深呼吸すると自分の答えを音にのせて発する。

 

「どっちとかじゃなくて、俺は人間と妖霊が仲良くなれる方法を見つける」

 

力強く、はっきりと聞こえる声で照彰はそう述べた。

照彰の答えを聞いたこの場の全員が「本気か」と驚いた表情をしている。全員のその顔を見て、照彰は人間と妖霊が平和に暮らすのがいかに難しいのかがなんとなく分かる。だがもう決めたことだ。照彰は春太と葉支那を見て、二人と同じように互いに仲良くしたいと思っている者達がいるに違いないと考えた。それに、互いに支え合い協力していけば、誰も傷つくことはないとも思っている。

 

「きっと互いにうまくいける方法がある!俺はそれを見つけて、人間と妖霊が共存できるようにする!こっちじゃあ時間の流れが違うから、長くなったって良い。余計なお世話かもしれないけど、俺の決めたことだ。俺は、互いに仲良くして欲しいから、なんとかする!これが俺のやりたいことだっ!!」

「…そんなの、できるわけねぇだろっ!あいつらは人間の敵だっ!共存なんかできるわけねぇっ!」

「じゃあお前はいつまでも敵だ敵だっつって、安心できない世の中が続いても良いのか!?無理だって決め付けたらちっとも前に進まねえんだよ!!!」

 

怒鳴り声を上げる照彰と環に、如月はどうしたら良いのか分からず狼狽えている。

 

「……それができれば、どんなに良いか…」

 

どちらも譲らない言葉の攻防戦を止めたのは、流星の小さな声だった。

照彰と環は一瞬にして静かになり、如月は流星を心配するかのような表情で彼女に視線を向けた。流星は悲しそうな表情で、膝の上に置いた手を見つめていた。

 

「流星さん…?どうしたんだよ」

「いえ……そうですね…貴方の考えは素晴らしい…」

「え…?」

「良いでしょう。私は貴方の力になります」

「ええっ!?」

「流星!?何言ってやがるっ!!」

 

まさか流星が照彰の考えに賛成し、更にそれの為に力になるとまで言うとは思っていなかった。

 

「え、ほんとに?俺、もしかしたら怒られるかもって思ってたんだけど…」

「…かつて、貴方と同じような願いを持つ方がいました。その方の願いでもあるのだから、私は…」

 

いつもの優しい笑顔を浮かべていた流星が、泣きそうな笑顔で小さくそう言う。流星の言う、照彰と同じ願いを持った人物とは誰なのか。気になる照彰だったが、流星が話を続けた。

 

「熊神とあの村を仲直りさせた貴方の力…それを信じてみたいのです。照彰殿、私は人間と妖霊が平和的に暮らすことができる方法に心当たりがあります。ただ、簡単ではありません。それも、長い戦いになるでしょう。それでもやりますか?」

「っ!もちろんっ!やるに決まってる!!何をすれば良い?」

 

流星が方法まで知っていることに驚きながらも、照彰は素直に喜んだ。早く方法を教えてほしくてたまらないのか、身を乗りだして聞き出そうとするが、如月が後ろへ服を掴んで引っ張る。

 

「俺は認めねぇっ!流星が命令しても、俺はこれには一切関わらねぇ。保月神社を出て、一人ででも妖霊を退治していく」

「環っ!」

 

環は立ち上がると、そう叫んでドタドタと床を鳴らしながら部屋を出ていった。如月が追いかけようとしたが、流星に止められて追いかけることはしなかった。

 

「彼の気持ちも、分からなくはないんです。彼は妖霊を憎んでいるので…」

「なんとなく分かってる。今は無理でも、きっと分かってくれるって思ってる。つか、分からせる」

「ふふ、強いですね」

 

環が去った方向を見つめながら、流星が気を悪くしないで欲しいと言う。照彰は言い争いをしている間は怒っていたが、今は落ち着いて環を責めることは言わなかった。

そして、やっといつもの笑顔を浮かべた流星に安心したように小さく息を吐いた照彰は、話の続きを頼んだ。

 

「分かりました。実は、この神流には人間と妖霊の代表が存在するんです」

「代表?」

「はい。私達が今いるここは神流の真ん中に位置する場所で、人間側の代表は私、そして妖霊側の代表が…」

「夜楽か」

「ええ」

 

流星は如月に地図を頼み、それを見ながら話を続けた。長い間使っていたのか、ところどころ破けており、折った跡がはっきりと残っている。

地図には保月神社が立つ土地を、大きく四つに分かれた土地が囲んでいた。

一つは右上に「聖桜(せいおう)の都」。その下に「神青海(しんせいかい)」があり、その左横に「常夜(とこよ)の地」、そして最後にその上に「日向の雪城(ひなたのゆきしろ)」と名がついている土地。

 

「この土地には、それぞれ人間と妖霊の代表と呼ばれる存在が一人ずついます。そして、その代表達は【神印(しんいん)】と呼ばれる判子を持っているんです。これがその神印です」

「うわぁ…ピッカピカ…」

 

流星が着物の袖から取り出したのは「流」という字が刻まれた手の平に乗るほどの深紅の色をした判子だった。

 

「これは代表しか持つことを許されない物で、大昔に神から授かった物だと言われています。代表達が守り、子孫に伝えてきた宝…私も、これを師から受け継ぎました。神流で決まり事を定める際に必要とされ、これで判を押すと神に誓ったとして破棄はできず、それを守ることが絶対とされます」

「じゃあ、人間と妖霊が仲良く過ごすようにって決まりにそれを押して貰えれば…!」

「はい、代表が認めれば、それに従う者達も認め、共存は可能でしょう」

 

それを聞いた照彰は、顔を輝かせてやる気が出てきたのか、「くぅぅ~~!」と唸る。

 

「分かった!それを集めれば良いんだな!任せとけ!」

「しかし、先程も言いましたが、簡単なことではありませんよ」

「分かってる!ま、なんとかするさっ!」

 

神印を集めることを決意した照彰は、拳を握り締めて高く掲げた。流星はそれを微笑ましく眺め、如月は苦笑いを浮かべながらもどこか楽しそうであった。

 

「流星様がそう仰るのであれば、私は弟子としてお手伝いします」

「如月…環のように、私に従わずとも良いのですよ?」

「流星様!私は貴女の弟子になると決めた時から、いついかなる時でも貴女の側で修行すると決めているのです!それに……私も、誰も傷つかないのであれば、その提案に賛成です。平和が一番ですもの」

 

如月も手伝ってくれることになり、照彰はより一層やる気が増した。やはり一人より二人、二人より三人と、多ければ多い方が良い。

 

「では、私は神印を押すための書類を用意します。言っておきますが、全員の神印が集まらなければいけませんよ。私と夜楽以外の神印が集まったら、最終で私と夜楽が押すことになります」

「あいつ押してくれるかな~…ま、押されなかったらそん時はそん時で考えるか」

「まずは比較的に簡単な所から行きましょう。まずは【聖桜の都】が良いでしょう」

 

聖桜の都、と聞いて照彰は地図でその場所を確認する。ここから一つ山を越えれば、その先にあるらしい。

 

「聖桜の都は、神流で唯一人間と妖霊が既に共存している土地なのです」

「ええっ!?そうなのか!?じゃあ神印を押すまでもないんじゃ…」

「神印は押すことに意味があるんです。それに、聖桜の都は独自でそうしているだけで、神流全体となると話が違ってくるんですよ」

「へぇ~…」

 

如月が教えてくれた限りでは、聖桜の都は人間と妖霊が共存し、互いに協力して生きているらしい。聖桜の都には、【守桜(もりざくら)】と呼ばれる桜の木があり、それに宿っている妖霊が代表で、人間側は都の長らしい。

ただ、人間と妖霊が共に生きていることを周りにはあまり良く思われてはいないようで、そこに住む人々は都から出ることは滅多にないし、他の地の者が入ることもない。外との交流は一切しない土地なのだ。

 

「なるほどなぁ…んじゃあ、早速そこに行って、神印を貰いに行きますか!」

「今日はもう遅いので明日からの方が良いですよ。食事もまだ終わっていませんしね」

「あ、そだな」

 

話をしていたおかげですっかり冷めた料理を、照彰は最後まで平らげる。冷めても美味しい料理に感心しながら、明日から自分がやる仕事に心が踊る。だが、不安や心配がないと言えば嘘になる。

うまくいくのか、どうやったら良いのか。色々なことを考えながら、照彰は食事を終わらせると気分転換の散歩に出掛けた。

 

「ふぅ…すっかり夜だな」

 

夕日は完全に沈み、既に空は真っ暗だ。星が浮かぶ空に三日月が辺りを照らしている。

 

「君、本気なのかい?」

「お前さぁ、もう少し普通に出てくればいいのに…」

「これが普通さ」

 

神社を出たところで、暗闇から夜楽が姿を現した。内心いきなり現れた夜楽に驚きながら、それを悟られないように振る舞った。

そして、夜楽が流星との会話を聞いていたことを察し、照彰は夜楽の様子を伺う。

 

「…別に君の邪魔はしない。できるって思ってないしね」

「お前もそう言うのかよ」

「まーね。ていうか、そんなの嫌だね。できるできないじゃなくて、したくないんだよ」

「我が儘だな」

「それで構わないよ。大嫌いな存在と仲良くするなんてゴメンだね」

 

鼻で笑いながらそう語る夜楽。彼が「嫌だ」と言ったことで、照彰の不安が大きくなった。たとえ神印が集まっても、最終で夜楽が押してくれなければ照彰の願いは叶わない。

 

「…君って、本当に似てるな」

「あ?なんか言ったか?」

「いいや。頭だけでなく耳まで悪くなったかい?」

「うっっっざ」

「あはは……ま、頑張れば?うまくいくかは知らないけど、応援はしてるよ。それじゃあね」

「え、おい!」

 

急に現れて急に帰った夜楽に、照彰はため息を吐いた。しかしすぐ、彼が言い残した言葉が気になった。

 

「……応援はしてくれるんだ」

 

ぽつりと呟いた言葉は、照彰の後ろの人物に聞こえていた。

照彰の後ろの木の枝に腰掛けているのは、たくさんの菊とその花の間を数匹の金魚が優雅に泳いでいる着物を纏った、虹色のおかっぱの童子だった。人形のような表情の童子は、照彰が神社に戻っていくのを見ると、木から飛び降り、そのまま消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。