「蜜璃ちゃん! だいじょうぶだった?」
「え? う、うん。だいじょうぶだよ。二日くらい寝てたみたいだけど」
「……あれ?」
刀鍛冶の里にて柱二名と隊士二名が上弦の鬼二体に遭遇したという報せを受けためまいは、その一人が友人である甘露寺蜜璃だと聞き大いに慌てた。
しかもその二体を撃退してしまったというのだから驚きはさらなるものだった。
そして、蜜璃が意識不明で眠っているという情報に家を飛び出してお見舞いに駆けつけたのだった。
だが、大慌てで来てみたものの、実際に見てみれば蜜璃は未だ全快とは言わないまでも平然とした様子でめまいを不思議そうに眺めていた。
「え? だいじょうぶなの? 意識不明って聞いてたけど……」
「そうなの? 疲れたからいっぱい寝ちゃった」
「寝ちゃったって……。いやまぁ無事ならそれに越したことはないからいいんだけど」
状況を理解して一息ついて心を落ち着かせると、静かに告げる。
「うん……ほんとうに無事で良かった」
「ありがとう」
「あ、ちょっと気になったんだけど、もしかして炭治郎くんも戦いにいたりした?」
蜜璃のことを聞いて初めは気が動転していためまいだが、こちらに向かう途中にそれにふと気が付いた。
蝶屋敷を訪れたときにしのぶから炭治郎が刀を受け取るために刀鍛冶の里に向かったということに。
時機を考えてみても間違いないだろうとは考えていたが、それを差し引いても炭治郎ならば巻き込まれているはずだという確信に似た予感のような何かがめまいにはあった。
「あれ? 知ってたの? 妹の禰豆子ちゃんと、あと不死川さんの弟さんも一緒に戦ったよ」
「やっぱりそうだったのか……。禰豆子ちゃんも……無事、だよね?」
「そうそう、それがね! 禰豆子ちゃんがね―――」
「―――少し失礼しますね」
興奮した様子でそのときの出来事を話し出そうとした蜜璃の言葉が突如遮られる。
人が居る気配はなかったため油断もありめまいはそれに一瞬だけびくりとするも、すぐにその正体に気付いて息を吐く。
そして気付いた後再びぎょっとする。
「こんにちはめまいさん、どうかしましたか? 今さら吾輩のような喋る鴉が珍しいということもないでしょう?」
「いやいやいや、こんな流暢に喋る子居たの!? え? どうやって?」
「吾輩は訓練を受けていますので」
「な、なるほど。訓練か……」
一時はそれで納得しかけたものの、訓練でそんなことができるものだろうかと首を捻る。
「あ、それで何の用でしょう」
「ええ、この度開かれます緊急の柱合会議に是非あなたも参加して頂きたいのです。少しばかり柱の皆様への説明の手助けをお願いしたいので」
第十一話 痣者
「柱の皆様には心より感謝申し上げます。―――」
部屋内で挨拶をしているのは産屋敷あまね。体調を崩し起き上がることすら覚束なくなってしまった産屋敷耀哉の代理として柱合会議に顔を見せたのだ。
それに対して柱一同もまた礼をもって応える。
「―――では、めまい様お願いします」
あまねの呼びかけに部屋の外で待機していためまいは障子を開き入室する。
一礼をするとあまねもまた礼で返し、柱の一部は何事だろうかと興味深そうに、一部は驚いた表情でめまいの様子を窺っている。
めまいはあまねたちと柱一同の中間あたりまで進むと、障子を背に座る。
当然のことではあるが、柱ともなれば部屋の外にあった気配を見逃すことなどありえないのでその存在には気付いていた。
問題はなぜここにめまいが招き入れられたのかというところだ。
その疑問に答えるべくあまねが口を開く。
「本日この方―――めまい様に来て頂いたのは痣についてお話頂くためです」
「痣、ですか……」
「はい、上弦の肆、伍との戦いで甘露寺様時透様の御二人に独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっております」
「その、痣とはなんなのでしょうか?」
その痣という言葉に驚いている蜜璃と無一郎にちらりと一瞥すると、代表して不死川実弥が尋ねる。
あまねはその言葉を受けるとめまいの方に向き直る。
それを話を委ねられたものと受け取り、あまねに頷き返す。
「え、と……一部の方にはこれが初対面となると思いますのでまずは自己紹介させて頂きます。わたしの名は天泣めまい、数百年前始まりの呼吸の剣士たちと共に戦っていた者の子孫となります」
その発現に場が一瞬ざわりとする。
めまいは話に聞くなどして柱のことを知ってはいたが一部、この中では悲鳴嶼行冥、伊黒小芭内、時透無一郎とは顔を付き合わせるのは初めてである。
行冥と小芭内はある程度めまいの存在について把握していたのか、どこか得心したように軽く頷く。
無一郎は完全に知らない話だったようで、どういうことだろうかと探るような視線を向けている。
さらにはめまいのことを知っている柱たちでもそのめまいの家について詳しく知っているわけではないので、その家の始まりについて興味深そうな表情を見せる。
「まぁそのご先祖様はそれほど才能がなかったようで、以降一族としてこうして産屋敷様と付き合いながら助言をさせて頂いたり、新人隊士へ剣の指導をしたり、時には鬼を倒す手伝いをしてきたりしました」
そういうことか、と行冥は手もとの数珠をじゃらじゃらとさせると深く頷く。
「ふむ、なるほど……。確認ですがあまね様やお館様もご存知の話なのでしょうか?」
「はい。産屋敷としても私たちとしても以前から天泣様の家にはお世話になっています。現状でもめまい様に時折依頼をしてそれなりの数の鬼を狩って頂いていますし、剣の指導もして頂いています」
「補足になりますが私の継子、栗花落カナヲも以前めまいさんに剣の面倒を見てもらいました」
「……俺はそいつの父に剣を教わっていたことがある」
胡蝶しのぶが手を上げて補足と述べて説明をすると、実弥もまた少しだけ嫌そうな表情を浮かべながら追加する。
しのぶはそれに一瞬目を見開くも、なるほどそういうことだったのかと納得し、軽く微笑む。
ちらりと視線を動かしてみたところそれについてめまいには何の反応もないことから、おそらくはあの件の後にめまいは父からそのことについて聞いたのだろうとも推測できる。
「それで痣についてですが、わたしのご先祖様は実力不足で途中で脱落したらしいのですが、いわゆる始まりの呼吸の剣士たちと呼ばれる方々は全員が鬼の紋様と似た痣が発現していたとのことです」
「それについては私たち産屋敷の方でも始まりの呼吸の剣士の一人の手記でその記録を確認させて頂いています。この痣の話は伝え聞くなどしてご存知の方はご存知です」
「そして痣とはなんなのか、と簡単に言うならその痣が発現すれば戦闘能力などが上がるというものです」
実弥はそのめまいの言葉に一瞬だけ怪訝そうな表情を浮かべると、すぐに表情を戻しあまねに問いかける。
「俺は初耳です。何故伏せられていたのです?」
「痣が発言しない為、思い詰めてしまう方が随分いらっしゃいました。そして、それ故に痣については曖昧な部分が多いです」
「わたし共の家ではそれなりに痣は重要視されていたのですが、何しろ数百年掛けて一人も発現しませんでしたから、そのあたりの情報共有もいまいちうまくいってなかったみたいなんですよね」
めまいが苦笑を浮かべながら、あまねの言葉に続く。
実際にめまいは家の記録からも父の話からも痣のことは伝え聞いていた。
ただ、それと同時に誰も発現したことがないとも聞いていたうえ、実際には見たこともないし、情報を持っている人もいなかったためそれなりに知っていることはあれど、現状ではどうしようもないものと考えていた。
「ただ一つはっきりと記し残されていた言葉があります。『痣の者が一人現れると共鳴するように周りの者たちにも痣が現れる』と」
「それにも条件があると思います。おそらくですがある程度の実力がある者でなければ発現は難しいかと」
「そのある程度とは?」
その行冥の問いに即座に答えようとして、めまいは少しだけ口ごもる。
「……具体的にどの程度、どの隊士まで出るかと問われれば難しいです。……が、少なくともあなた方柱相当の実力を持っていれば十分かと思います」
「……今この世代で最初に痣が現れた方、柱の階級ではありませんでしたが。竈門炭治郎様、彼が最初の痣の者」
「―――え?」
思いがけない名前が出てきたことにめまいだけが声を上げる。
慌ててあたりを見て誰も反応していないところを見ると、元々知っていたのかあるいはそれが誰であるのかは重要視していないのか。
めまいとしては正直ここにいる柱の中の誰かだろうと勝手に思い込んでいたこともあり驚きは大きかった。
「どうかされましたか?」
「ああ、いえ、すみません。それについては知りませんでしたので少し驚いただけです。……なるほど炭治郎くんが……」
「先ほどめまい様がおっしゃられたようにその実力についてはいまだ柱相当とまではいきませんが、成長著しく上弦と戦い生き残り、さらには首を獲るなどその頭角を現しています」
「……すみません、一つ訂正させて頂いてもよろしいでしょうか?」
めまいが驚いたゆえか、あまねが炭治郎についての情報を補足説明する。
だが、それが炭治郎であるならば少しだけ話が変わってくるため、めまいは手を上げ先ほどの自身の発言を正す。
それを確認するとあまねはゆっくりと一つ頷く。
「構いません、なんでしょうか?」
「いえ、先ほど言ったことに誤りがあるというわけではないのですが、それが炭治郎くんであるならば彼は例外でありそれに当て嵌まらないかと考えます」
「例外、ですか……?」
「ええ、彼は水の呼吸だけではなく……正確に言うと違うのでしょうけど、日の呼吸を使います。彼、というよりもこの日の呼吸が例外ですね」
「日の呼吸というのは始まりの呼吸と言われている呼吸のことですよね?」
「はい。ええっと、ここからはまぁ少し言い辛いのですが、基本の五つの呼吸を含めて日の呼吸以外は全て劣化した紛い物なんですよね。あくまでこれはわたしの家に伝わる考え方ですが……」
その発言に空気が変わる。
殺意にも似たひりひりとした緊張感が場を支配する。
めまいとしては今の自分の発言がそういう空気を生むことは当然だろうと予測していたのでそれについて特に動揺はない。
「ただ……」
そこでめまいは口ごもる。
実弥はそんなめまいをぎろりと睨むと一つ舌打ちをする。
「先ほどの言とは正反対に聞こえるかもしれませんが、すごいのは日の呼吸ではないかもしれません」
「意味がわからねぇ。説明しろォ」
「……ええと、記録に残っている限りにおいては日の呼吸の使い手というのは一人しか確認されていません。少なくともわたしの知る限りにおいては」
―――継国縁壱。
鬼殺隊の長い歴史の中でも最強と謳われる日の呼吸を使う剣士。
始まりの剣士たちと呼ばれる高い実力を持った剣士たちの誰一人として縁壱以外には日の呼吸を使うことは出来なかった。
「そこが問題なのです。日の呼吸を使える剣士が彼しかいなかった、のではなくあまりにも強すぎた彼が使っていた呼吸が日の呼吸だったにすぎない、という考え方もあります」
「……ふむ、いまいち理解しかねる考え方にも聞こえるが。……いやそこまで想像を絶するほどに強かったと考えれば……」
疑問を抱く行冥であるが、めまいの言葉を熟思するとそれもありうることかと一先ず受け入れる。
めまいとしてはその可能性は高いと考えている。
実際に煉獄の家に残されていた先祖の炎柱の書には、鬼舞辻無惨と対峙した縁壱との戦いの詳細を聞いた炎柱が自信を喪失してしまったと記されている。
それに、そもそもにしてめまいの、天泣の家の代々伝えられている縁壱という存在がもはや神格化の域にまで達しているのだから。
そして、だからこそめまいたちはこの使命に向かって進んでいるのだ。
「なんにせよ、日の呼吸というものが他の呼吸とは隔絶したものであるというのは間違いないいかと思います。ちなみに同じではないとは思いますが、前炎柱の煉獄槇寿郎様も似たような考えを持っています」
「それでは……つまり炭治郎くんは日の呼吸を使えるから痣が出たということでしょうか?」
しのぶが尋ねるとめまいは頷く。
簡単に言えばそれで間違いないだろうが、補足のために言葉を繋げる。
「それに近いですね。わたしの考えでは強くなる、呼吸を極めるということは日の呼吸に近づくことだと思っています。それは全ての呼吸の始まりは日の呼吸であり、結局は極めれば同じ場所に辿り着くということです」
「なるほど、つまりはそもそもが日の呼吸であることが条件でありそこに近づけばいいとい、そして近づくにはどうすればいいかと言えば強くなればいいと言うのが貴女の考えというわけですか」
「そうです。ですので炭治郎くんは強いという意味ではなく、呼吸が日の呼吸に極めて近いのでその条件をすでに満たしていると考えられます」
「日の呼吸ってのが極めて難しいってのはまぁなんとなくわかるがよォ、新人隊員たちにその日の呼吸もどきってのを仕込んでおくことはできねぇのかァ?」
「……それは難しいでしょうね。私が聞いたところによると炭治郎くんは物心ついたころから父のその神楽を見て育ってきたということですし、それでも未だによくわからない部分も多く使いこなせないようですし」
実弥がその日の呼吸を使えばいいのではないかという疑問を呈したものの、しのぶはそれを即座に否定する。
そしてめまいもそのしのぶの言葉に同意する。
「適正があるかどうかもわからない状態で、すでに別の呼吸を習得している者たちに無理矢理覚えさせるというのも現実的ではありませんね……」
「それに……何よりこれが一番の問題なのですが、彼は物を教えるのが致命的に下手です」
いつもと同じ笑顔でしのぶがはっきりと告げる。
その言葉に珍しくあまねが表情を曇らせたことに一同が気付く。
「その件なのですが……痣の発現方法について炭治郎様に尋ねたところ、御本人にもはっきりとわからない様子でしたので……」
あまねがあくまで婉曲的に炭治郎から発現方法についての情報が得られなかったことを伝える。
「なるほど、痣については以前から調べていたのですね」
「はい。ですがその……結局詳しい話は聞くことができませんでしたので、この度それに続いて柱の御二人が覚醒されたということで、その方法について御教示頂けたらと思いまして」
そう言うと、あまねたちは蜜璃と無一郎に頭を下げる。
ずっと静かに話を聞いていた蜜璃は突然に水を向けられたことにあわあわとすると、即座に答える。
「はっはい! あの時はですね。確かにすごく体が軽かったです。えーっとえーっと……ぐあああーってきました! グッてしてぐぁーって。心臓とかがばくんばくんして耳もキーンてしてメキメキメキィって!」
あまねを含めその場にいた一同がその蜜璃の言葉にぽかんとして場が凍りつく。
小芭内も思わず頭を押さえ項垂れる。
一拍置いて、その自分の発言に気付いた蜜璃は恥ずかしさから汗をだらだらと流しながら顔を手で覆い伏せる。
「申し訳ありません。穴があったら入りたいです」
その恥ずかしすぎて汗が止まらなくなった蜜璃にハンカチを渡すしのぶは、めまいも先ほどの発言に呆気に取られているのをみて秘かに貴女も似たようなものだろうと軽く目で責める。
その視線を向けられてめまいは思わず目を逸らす。
「痣というものに自覚はありませんでしたが、あの時の戦闘を思い返してみた時に思い当たることいつもと違うことがいくつかありました―――」
場の空気に気付いていないのか気付いていてどうでもいいと思っているのか、無一郎は蜜璃に代わって何事もないかのように痣についての説明を始める。
「―――その時の心拍数は二百を超えていたと思います。さらに体は燃えるように熱く、体温の数字は三十九度以上になっていたはずです」
「そんな状態で動けますか? 命にも関わりますよ」
「そうですね。だからそこが篩に掛けられる所だと思う。そこで死ぬか死なないかが恐らく痣が出る者と出ない者の分かれ道です」
その状況に眉を顰めたしのぶが疑問を挟むも無一郎はむしろその通りだと肯定する。
つまりそれが確かであるなら条件は三つ。
一つは心拍数を上げること、もう一つは体温上げること、そして最後にそれに耐えうるだけの体があること。
当たり前のことではあるが、人はそう簡単にそこまで心拍数も体温も自由に上げることはできないし、そんな状態では碌に動くことも出来ない。
しのぶの言ったように無理をして動けば当然命にも関わる。
であるならばどうすればそんなことが出来るのか。
「チッ、そんな簡単なことでいいのかよォ」
「これを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい」
「何だと?」
「何も」
いつものように始まる冨岡義勇と実弥の軽い小競り合いを無視して、行冥はじゃらじゃらと数珠を鳴らす。
「ふむ、なるほど……それが先ほどの呼吸の話に繋がるのか」
「自身の体の状態をある程度自在に操作できるくらいには呼吸を極めている必要があるということでしょうね。とりあえず痣の発現が柱の急務となりますね」
しのぶの言葉を受けて行冥は柱の総意としてあまねに返答する。
「御意。何とか致します故お館様にはご安心召されるようお伝えくださいませ」
「ありがとうございます。ただ―――」
「少し待ってください」
あまねの言葉を遮るめまいに対して一同から鋭い視線が向けられる。
めまいはそれを涼しい顔で受け止めると何も気にせずに話を続ける。
「痣の訓練の前にお伝えしておかなければならないことがあります。もう発現している方は選ぶことが出来ませんが……その、記録に残っている限りのことではありますが……痣が発言した方はどなたも例外なく二十五までに命を落とすと伝えられています」
あまねの発言を無理矢理遮ってまでめまいがそう述べた意味を悟り、あまねはほんの僅かにだけめまいに頭を下げる。
殺気立っていた柱の一同もそのあまねの動きからそれを悟り、張り詰めていた空気が薄れていく。
「―――私どもがお伝えできるのはここまでです」
そう締めくくり一礼をするとあまねたちは部屋を後にする。
一応、その後に何かしらの質問があるかもしれないということで、めまいはその場で柱たちの動きを見ながらしばし待機する。
もちろん退出を促されたならばすぐに出るつもりではあったが。
「なるほど……しかしそうなると私は一体どうなるのか……南無三……」
動き出すきっかけを作り出すように、行冥は数珠をじゃらじゃらと鳴らしながら呟く。
先ほどめまいが述べた二十五までに命を落とすという言葉、だが行冥はすでに二十七を迎えている。
「あまね殿も退室されたので失礼する」
その空気をまた変えたのは義勇だった。
話は終わったとばかりに立ち上がり部屋を出ようとする。
「おい待てェ。失礼すんじゃねぇ。それぞれの今後の立ち回りも決めねぇとならねぇだろうが」
「六人で話し合うといい。俺には関係ない」
「関係ないとはどういうことだ。貴様には柱としての自覚が足りぬ。それとも何か? 自分だけ早々に鍛錬を始めるつもりなのか、会議にも参加せず」
実弥、小芭内の苦言にもどこ吹く風というように何も気にするそぶりも見せず義勇は歩みを進める。
さすがにそれはいけないと、蜜璃は何か声を掛けようとする。
しかし、それをまたずに実弥は声を上げ、しのぶもさすがにこれには擁護できない。
「テメェ、待ちやがれェ!」
「冨岡さん理由を説明してください。さすがに言葉が足りませんよ」
「…………。俺はお前たちとは違う」
「気に喰わねぇぜ……前にも同じこと言ったなァ冨岡。俺たちを見下してんのかァ?」
「けっ喧嘩は駄目だよっ、冷静に……」
「待ちやがれェ!!」
「キャーだめだめ」
行冥がパンと大きく手を打ち鳴らすと空気がびりびりと震え、全員が動きを止める。
「座れ……話を進める。一つ提案がある」
「その前に一つよろしいでしょうか?」
しのぶが手を上げて一つ話を挟む。
そしてめまいの方に向き直るとにっこりと微笑む。
「貴女、冨岡さんのことで何か知ってますね?」
「……どうしてそう思うの?」
「その答えが物語っていますね。この人に聞いても埒が明かないので貴女が代わりに説明していただけませんか?」
そのしのぶの言葉に心外だとでも言うようにわずかに義勇はむっとした顔をする。
もちろんしのぶはそれを無視してめまいに目で問いかける。
さらに実弥もめまいに一歩詰め寄る。
「何か知ってんなら話やがれェ」
「……わたし、あなたに怒っているんですけど?」
「それがどうしたァ。さっさと話せ」
「…………」
めまいが呆れと怒りの表情を浮かべながら沈黙を通すも、実弥はそんなことは関係ないとばかりに説明を強いる。
また面倒ごとを増やすなとしのぶは頭に手をあて項垂れると、すぐに場を納めるために声を掛ける。
「不死川さん」
「……チッ」
「さて、それではめまいさんお願いします」
「え、ええと……」
もう一度しのぶに笑顔で圧力を掛けられてどうしたものかとちらりと義勇の方を伺うと、むしろ我関せずとでも言うかのようにどこ吹く風である。
さすがにこれにはめまいも唖然とする。
自分が説明しなければいけないようなことではないが、黙っているよう言われたわけでもなく、わざわざ隠し立てするようなことでもないので義勇から聞いたことを素直に話す。
「……はぁ。詳しくは知りませんよ。ですが、先ほど言った『俺はお前たちとは違う』というのは、まぁ簡単に言うと、自分は立派な人間ではなくあなた方と肩を並べられるような柱ではないという意味です」
「……なぜそんなことを?」
「いえそこまでは知りませんよ? わたしが知っているのは冨岡さんが自分を柱だと認めていないということだけです。ですので詳しくは本人に聞いてください」
「……冨岡さん?」
「……言ったとおりだ」
「はぁ……」
その端的な発言にしのぶは大きなため息を漏らす。
「……めんどくせぇ奴だなァ」
実弥の呟いた言葉にしのぶとめまいが大きく頷く。
義勇は何が面倒なのだろうかと首を捻る。
「今さら何をごちゃごちゃ言ってやがる。テメェがどう思ってるだなんざどうでもいいんだよォ。お館様に柱を任されてここにいるんだからそれに従えやァ」
「そのとおりだ。今さらそんなことを言うなど意味がわからない道理が通らない。この場に居る以上柱としての使命を果たせ」
実弥と小芭内が義勇を責め立てる。
しのぶもまた呆れたような視線を向ける。
蜜璃はその状況でどうしていいかわからずあわあわと何かを言いかけては言葉が出ず口を噤む。
「―――もうそのくらいで良いだろう。これからのことについて話を進める」
その行冥の言葉に一同も落ち着きを取り戻し、『視線』を向けられた義勇も自分の居た位置に戻り腰を降ろす。
めまいはここで退出すべきかどうか少し迷ったが、敢えて場を動かす理由もなかったので、そのままで成り行きを見守っていた。
その後、行冥の話の途中に意見を求められることはなかったが、時折めまいの気配を探り、反応を見ているような動きはあったため、同席したことについては正解だったのだろうと判断した。
そうして会議を終えた後、屋敷を後にしようとしためまいは、その際あまねに呼び止められ、とある任に就くこととなった。
大正コソコソ補足話
めまいが言っている日の呼吸、それから継国縁壱についてあくまでめまいがそう思っているというだけなので、実際にそうだということではありません。
それにはめまいが思っているように一族の歴史の中で縁壱が神格化の域にまで達しているという理由もあります。ですので日の呼吸への解釈もまた多少過剰なものとなっています。めまいとしてはそう思っていても他の隊士や柱からみればさすがにそこまでではないだろうとなります。
そもそもめまいの家にも縁壱についてそれほど正確な情報が残されているわけでもなく、想像に依る部分が大きいのでめまいも本当にそこまでなのだろうかという疑問は持っています。ですが、今回の柱合会議で述べたのはそれを多少差し引いた上で少しおとなしめに語っているとめまいは認識しています。