水は昇り日と共に   作:Ryan2020

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最終話

「―――っ! つぅ……」

 

 めまいは目を覚まし、起き上がろうとしたところで息が止まるほどの激痛に見舞われる。

 少し遅れて、薬が切れたのだと気づく。

 そこですぐ隣に寝かされているしのぶを見つけ思わず声を上げそうになるが、治療が施されてあり、胸がわずかに上下しているところを見て安堵の息を漏らす。

 自分の調子を確かめようとすると、しのぶと同じく手当されており、包帯が巻かれていた。

 顔だけを起こして辺りを見回すと、少し離れた場所でカナヲが伊之助の手当をしているところが目に入った。

 先程までの鬼との戦い。

 その最後についてはめまいはっきりと覚えてはいなかったが、その腕にはなんとなくその鬼の首を斬った感触が残っているような気がした。

 いや、斬った。

 それで倒せたのかどうかは覚えていないが、斬ったはずだ。

 その後どうなったのかはわからないが、こうして二人が平然としているところを見るに、仮に何かあったとしても二人が対応したのだろう。

 

「めまいさんっ!」

 

 こちらの様子に気がついたのか、カナヲが声を上げる。

 駆け寄ってくるカナヲのその泣きそうな目を見てめまいはまず驚きを覚える。

 それにしてもあのカナヲがここまで感情を顕にするものかと。

 

「心配、かけちゃったみたい、だね……」

 

 カナヲがそんな目をする理由はめまいにもなんとなくわかる。

 なぜなら瀕死とも言えるほどに負傷しているめまいではあるが、外傷はほとんど無いからだ。

 気休め程度にされている手当、おそらくはカナヲがしてくれたものであろうが、そのときにたいした傷ではないことも当然理解しているはずだ。

 それはつまり、カナヲには手の施しようがないということ。

 

「あの鬼、は、どうなった……?」

 

 そうめまいが尋ねると、どういうことだろうかとカナヲは少し首を捻る。

 

「首を、斬った、はずなんだけど。その後は覚えてなくて……」

「……その後は、めまいさんが止めを刺しました」

「……え? そう。そうなんだ……。ごめんね?」

「え? ……えっと、何がでしょうか?」

「きっと、カナヲちゃんがあの鬼を倒したかったと思うから……」

 

 その言葉にカナヲは首を振る。。

 もちろん、それは間違ってはいない。

 カナヲにとってもこの鬼―――カナヲの姉、胡蝶カナエの仇である鬼は自分の手で殺したい程度には憎い相手だった。

 さらにはもうひとりの姉、胡蝶しのぶをも殺そうとした相手だ。

 だから、めまいの言った言葉は理解はできる。

 それでも―――。

 

「確かにそうです。でもそれは、めまいさんも、師範も同じはずです」

「まぁ、そうかな。それは否定できないし、したくはない、かな」

 

 それはめまいにとってもそうだった。

 胡蝶カナエはめまいにとっても大切な友人だった。

 だからこの鬼と相対したとき、それに気がついたときには激しい怒りに襲われた。

 

「ふふっ、うん、そうだね。じゃあとりあえずあいつを殺せたってことで納得してくれると助かるかな……」

 

 めまいがそう言って笑いかけるとカナヲもそれに頷く。

 その後ろからゆっくりと歩いて近づいてくる伊之助が目に入る。

 

「伊之助くん……」

「おう……」

「……ん? どうかしましたか?」

 

 その伊之助の微妙な覇気のなさにどういうことだろうかとめまいはわずかに首を捻る。

 先程の戦いを見ている限り、伊之助にもなんとなくあの鬼と因縁がありそうだということはわかっていたので、おそらくはその辺りのことだろうと当たりをつける。

 だがそれは正しくはなかった。

 確かに、伊之助もまたあの鬼に自分の手で止めを刺したくはあったが、それがこの場に関わっているということはなかった。

 伊之助の懸念は―――。

 

「お前、死ぬのか?」

 

 カナヲからはそう聞いていた。

 カナヲはここに来たときから、めまいがすでに重傷であることは気づいていたし、実際に鬼にもそう言われていた。

 その時点で鬼にももうすぐ死ぬだろうと。

 さらに、ほとんど戦闘には参加しなかったものの、最後には相当の無理をして体を動かしていたのは明らかだ。

 カナヲは倒れているめまいに治療を施そうとしたが、外傷はほとんどなく、軽く包帯を巻く程度に留まった。

 それはつまり、カナヲにはもう何も手の施しようがなかったということだ。

 そしてそれを伊之助にも伝えた。

 その言葉の通りにめまいは重傷であり、こうして意識が戻っても倒れたまま碌に動くこともできない。

 

「……ふふっ、死にませんよ。今死んでないということはたぶんだいじょうぶでしょう」

 

 めまいは笑う。

 それも半分は事実。

 言うまでもなく、この時点で死んでいてもおかしくないとめまいは思っている。

 生きている理由はわからない、それはつまり今後死ぬことにになる理由もわからないということだ。

 であるならば、現状で生きているのならばなんとかなるかもしれないと楽観的に思える部分もある。

 もちろん、だからといってこれから体が悪化しない保証はどこにもない。

 それでもめまいは笑う。

 だいじょうぶだと。

 

「だから安心してください、わたしは死にませんから」

「……そうか」

 

 その声には多少の安堵が含まれているように聞こえた。

 

「伊之助くん、それからカナヲも、お願いがあるの」

「なんだ?」

「……?」

「炭治郎くんを助けてあげて」

 

 そのめまいの言葉にどういうことだろうかと二人は首を捻る。

 それが多少唐突だということはめまいにもわかっていたが。

 

「炭治郎くんは鬼舞辻無惨に目をつけられていると思う。だからきっと直接戦うことになる」

 

 それにはめまいにも責任はある。

 先の鬼との戦いで鬼舞辻無惨を煽るようなことを言った。

 実際には、竈戸炭治郎はそれ以前に鬼舞辻無惨と遭遇したことなどもあり、元々目をつけられ狙われていると言ってもいい。

 だからあくまでも責任の一部ではあるが。

 

「鬼舞辻無惨は炭治郎くんが倒すから、その手助けをしてあげて」

「……あん?」

「……え?」

 

 それには二人も驚愕で言葉に詰まる。

 まるで当然のことのようにめまいは炭治郎が鬼舞辻無惨を倒すと言った。

 もちろん、それが容易なことだとはめまいも思ってはいない。

 一人でそれが出来るはずもない。

 それでも、鬼舞辻無惨を倒すのは炭治郎だと信じている。

 だからこそ、それを二人に援護してほしいと思っているのだ。

 

「お願い」

「わかりました」

「俺様に任せておけ!」

「……ありがとう。後は任せる。ごめんね」

 

 微かに笑うと、そう言って目を閉じる。

 言うべきことは言ったと。

 

「行ってくるぜ! めまい」

「後は任せてください、めまいさん」

 

 二人が駆けて行く音を聞いて、静かにめまいは意識を落とした。

 

 

 

 

 

  最終話 旭

 

 

 

 

 

 体を引き摺られるような感覚にめまいは意識を取り戻す。

 どうやら意識のないまま肩を貸すような態勢でずるずると引き摺られながら運ばれていたようだ。

 背負うように運ばれていないのは、背が足りないということや、片腕がないことが原因だろう。

 

「しのぶ、ちゃん……?」

「目が覚めましたか? 動けるなら自分の足で立ってもらえると助かりますが……」

「……ごめん、無理……」

 

 しのぶの息も多少上がっているのはめまいにもわかっているのだが、なにしろ体が動かない。

 申し訳ないとは思うもののこのまま運んでもらうしかない。

 

「ここ、どこ……?」

「わかりません、あの建物が崩れる瞬間にそこから咄嗟に貴女だけは運び出せたのですが……。あの後、どうなりました?」

 

 しのぶはどうやらあの戦いがどう終わったのか見届けるまでは意識がもたなかったようで、その後鬼がどうなったのか、カナヲたちがどうなったのか、そこまでは把握していなかった。

 ただ、自身の体には治療が施されており、それがカナヲの手によるものだということはわかっていたため、カナヲはだいじょうぶであろうとは思っていた。

 めまいはしのぶに何が起こったか、カナヲたちはどうなったのかを伝えたが、正直言ってめまいとしても意識が朦朧としていた部分が大きいので、そのあたりはそのはずだということに留まった。

 

「そう、ですか……。貴女が」

「まぁ、しのぶちゃんがやりたかったのはわかるけど、それは許して」

「それは構いません。どうせ私には無理でしたし」

 

 少しだけ沈んだ声。

 わかっていても、わかっていたからこそ自分の力の無さに対して口惜しい思いをずっと抱いてきた。

 

「―――くっ」

 

 しのぶが膝を付いて、そのまま前に倒れる。

 抱えられていためまいもしのぶとともに地に伏す。

 

「どうやら、ここまでですね」

「まぁ、しょうがないね。……誰か見つけてくれるかも」

「どうでしょうか、あまり期待はできなさそうですが」

 

 倒れたまま二人して辺りを見回すが、どうにも人の気配が感じられない。

 別に周囲が瓦礫と化しているわけでもないことから、人払いかあるいは避難でもしているのだろうか。

 二人とも、もう自分たちに出来ることは何もないとわかっていた。

 だから、自分たちの救助よりも戦闘を優先してほしいと思っていたし、だからこそ救けをあまり期待していなかった。

 

「ごめんね……」

「それ、何の謝罪ですか?」

「うん、なんだろう。……いろいろかな」

「それにしても、貴女、私のこと救けるんじゃなかったんですか? 約束したとか言ってませんでした?」

「言ったよ。だから……だから、こうしてしのぶちゃん生きてるじゃない」

「いや、それは私が貴女を救け出したからでしょう?」

「ううん、わたしが居たから救けようとしてなんとか生き残ろうとしたんでしょ? しのぶちゃん一人だったら諦めてたんじゃない?」

「……」

 

 ね、とめまいはしのぶに笑いかける。

 その沈黙はそのめまいの言い分への肯定だった。

 しのぶはすでにやるべきことは全てやり終えたと思っていた。

 そのうえ、瀕死のこの体の負傷では二度と戦えないことはわかっていたし、隻腕となってしまったのならばなおさらだ。

 自分に出来ることはもう何もない、だからこれで終わりでいいと。

 救けなければならないめまいがいなければそこで満足して、瓦礫の下で果てていたであろう自覚はあった。

 

「全く、貴女という人は……まるで姉さんが言いそうなことね」

「あー、確かに。それはちょっと……」

 

 そう言って二人は笑い合うと目を細める。

 その先に見えた景色、空が明るくなってきたのだ。

 太陽が、昇る。

 

「……これで終わった」

「何が終わったの?」

 

 呟くように、それでいてはっきりと断言しためまいの言葉の意味をしのぶが尋ねる。

 太陽が昇ったということは、確かに今日の戦いは終わりだろう。

 鬼は太陽の下には出られないのだから。

 だけど、しのぶには今の言葉がそういう意味には聞こえなかった。

 

「―――鬼舞辻無惨は死んだ」

「……は?」

「だからもう戦いは、鬼との戦いは終わり」

「え? え? ちょっと貴女だいじょうぶ? 正気を失っちゃだめよ!」

「……失礼な、わたしは正気よ」

「いや、でも……」

「なんとなくわかるんだ、炭治郎くんたちがやってくれたって」

 

 そんな都合のいいことがあり得るとはとても思えない。

 それに、仮にそうだとして、今のめまいに何がわかるというのだろう。

 だけど、そのあまりにも突拍子もない言葉に、しのぶはむしろ本当にそうなんじゃないかとすら思えた。

 

「ねぇ、しのぶちゃん」

「……何?」

「鬼舞辻無惨が死んだ今、戦いが終わった今、何がしたい?」

「それは……そんなこと考えたこともなかったわ」

 

 仮に、としてめまいの言葉を受け入れるとして、それでも今しのぶがしたいことなど何もなかった。

 そんな未来を思い描いたことすらなかったのだと気づいた。

 この先を生きることなど諦めていたのだから。

 だけどそれはしのぶだけではなかったはずだ。

 目の前で笑っているめまいもまた、自分と同じように、この戦いの中で自分が死ぬと思っていたはずだ。

 

「……貴女は?」

「ん?」

「貴女はそんなこと考えたこと、あったの?」

「なかったね。だから今、わたしもやりたいことなんて何もない」

 

 ―――だから。

 

「だから、これから一緒に探していこう?」

「一緒に?」

「うん、これからもきっとわたしたちは生きていく。だからみんなで一緒に探していこう

 

 ―――この空に昇る太陽とともに。

 

 

 

 




以上で終わりとなります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

この話は主人公が鬼滅の世界を歩くだけのどこにでもある普通の話です。
読み終えて面白かったと感じて頂けたならば幸いです。







以下、制作上のどうでもいい話。
この話を書く上での愚痴や言い訳、ちょっとした説明などのどうでもいい話ですので、興味がなければ読む必要は一切ありません。
最終話がやや短かったと感じたので思いついたことを書き並べてみただけです。


この話を書こうと思ったのは、アニメが終了し、もう少し鬼滅の世界に浸っていたいと思ったからです。
いまだ原作が完結していない関係上、原作キャラを主人公にして話を書くのが難しかったのでオリ主でいこうと思いました。
まず見切り発車として書き始めた結果、主人公の力不足を感じたため、これはオリジナルの要素なりなんなりが必要になるなと感じ、最終的にオリジナル呼吸に行き着きました。
この呼吸ですが、最初は雲の呼吸として書いていました。雲、というのはイメージとして青空の下にあるものであり、太陽の下に出られない鬼が見ることの出来ないものだからです。そうして呼吸を決めた後、型をどうしようかと考えて、雲について種類など色々調べているうちに、雲と一緒に雨の方にも目がいくようになりました。そして雨も調べていくうちにやっぱり虹がいいんじゃないかと考えました。
もともと、水の呼吸を元にして派生の型としていくつもりだったので太陽と水で虹が出来るというのは悪い発想ではないなと思いこれにしました。そうして話の展開上、それを逆手にして水と虹から太陽を目指すという流れにしました。
実はその後が一番苦労しました。虹の呼吸で行こうとは決めましたが、名前をつけることがとても難しかったです。七つの色を基準にして名前に統一性を持たせようとして神様の名前で揃えようとしたり、自然現象の名前で揃えようとしたり、といろいろ試みましたが、むしろ揃えてしまうと大仰なものになってしまい、しっくりこなくて適度にばらけさせることにしました。これは一人の人間が全てを生み出したわけではないという設定があったのでむしろそういうものとしていいんじゃないかと思いました。
この技の名前ですが、敢えて不親切にしました。最初はよみがなを振っていくつもりだったのですが、読めなければ読めないでいいという扱いにしています。これは本作での設定上、実はこの七つの技はどうでもいいものだからです。虹の呼吸はあくまでも日の呼吸に辿り着くためのものにすぎないので、それらの技は副産物にすぎず、たまたま戦闘に使えるもの、という程度にすぎません。なのでそもそも白以外はどうでもいいものです。
本作の題名に敢えて虹を入れなかったのにはそういう意味もあります。
十二話の鬼との戦い、当初はこれを最終戦として日神神楽でこの話は終わる予定でした。実質的にはこれが最終話です。ですが、自分でも少し勘違いをしていて、この主人公は鬼殺隊ではないから無限城に行くことはないと思い込んでいました。当たり前のことですが、鬼の側から見れば主人公は鬼殺隊となんら違いはなく、無限城に喚ばれることになると気づきました。そのため、急遽それ以降の話を付け加えました。炭治郎と合流させて共に上弦の参と戦うことも考えました。これは杏寿郎の仇でもあるのでその流れでもいいかと。ですが、そこまでの話の展開で蝶屋敷との絡みが多くなったため、上弦の弐との戦いを最後とすることにしました。偶然でしたが上弦の弐の瞳に虹があるっていうのも重なってこれもいいかなと。
十二話の戦いで日の呼吸について炭治郎に託し終えているので、本編は終わっているものとして後はわりとその場の流れで適当に書いているところがあります。特にしのぶを生かすことや、終ノ白なんかは思いつきに近いです。カナエと出会った頃については一度書いていらないかと思って消した部分を急遽書き直しました。その際蝶屋敷周りの話は単行本十九巻で新たな設定が出てきてしまったのでわりと焦りながらなんとか修正しました。
それ以外にも、ジャンプ最新号でどんどん縁壱関連や日の呼吸、ヒノカミ神楽あたりに情報が出てきてしまったのでそれへの対応も微妙に大変でした。それなりに辻褄は合わせられたと自分では思っていますが、その修正のつけがどこかに来てはしないかと不安ではあります。その辺り違和感なく読んでもらえていたなら幸いです。

長文になりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。


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