水は昇り日と共に   作:Ryan2020

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第三話

 炭治郎、善逸、伊之助の三人との剣の稽古を終えるとめまいはその夜をその藤の花の家紋の家に一泊することとなった。

 その際、さすがにその気配に訝しむめまいに隠しきれないことを悟ったのか炭治郎からことの顛末も告白された。

 そうしてその時に助けてもらったのがあの水柱の冨岡義勇であることや炭治郎の師が鱗滝であることも聞いた。

 その辺りの人間関係についてある程度の情報交換をした後、眠りに就き、そして夜が明けた後、再び少しだけ剣を指導すると、そこで次の任務までの待機をするという四人と別れてその藤の花の家紋の家を後にする。

 その帰り道、めまいは父の住む別宅を訪れていた。

 使用人であるはるとともにめまいが過ごしている本宅から比べれば慎ましやかな家ではあったが、父が一人で過ごすには十分な家ではあった。

 体を弱らせている父としては寝て過ごす時間も長く、それほど家の中で動き回るわけでもないためむしろこれ以上大きくても困るくらいであろう。

 そう考えると普段めまいが過ごしている家は大きすぎるとも言える。

 

「それで、父さん。突然呼び出すなんて何かあったの?」

「まぁ用があるのは確かだが、その前に聞いておきたいことがあってな」

「なに、かな?」

 

 その物言いから自分にとって都合の悪い話であるとめまいは気付いたが、だからといって聞かずに帰るというわけにはいかない。

 

「以前から言っているが、夫を探すというのはどうなっている?」

「っ……それは、まぁ、まだ早いかなぁって……」

「何も今すぐ婚姻を結べというつもりはないし、すぐに婚約しろとも言わん、が候補ぐらいは見つけてもらわないと話にもならない」

「そんなこと言われても……わたしまだ十八だし……」

「もう、十八だ」

「…………」

 

 実際、そう言われてしまっては何も返すことができない。

 めまいも話として自分が生まれたのが父が十八歳の頃だとは知っているし、はるが結婚したのも十八歳だったと聞いている。

 だとするならば自身がまだ十八などとは言い訳にもなりはしない。

 

「一般の人間から見つけると言っておきながら全く何もしてないそうだな。それどころか出会いがないとまで愚痴っていたそうじゃないか」

「誰からそんなこ……まさか」

「ああ、先日薬を頂くために蝶屋敷を訪ねてな」

「…………」

「いい加減に隊士からでも探してはどうだ? 柱の方々とも歳が近いし付き合いもあるのだろう? 彼、なんといったかな……ああ、冨岡だ。水柱様―――冨岡義勇殿などどうだ?」

「どうだじゃないよ! さすがに彼は勘弁して……」

「ではどうする? 煉獄はやめておけよ。家の問題がある。他の柱はどうだ?」

 

 どうだと言われても困る。

 水柱である冨岡義勇とは多少の付き合いはある、とはいってもそれは以前に元水柱である鱗滝に教えを請いに行ったときに、時間があれば冨岡義勇の様子を見てやっておいてくれと言われたからにすぎない。

 そもそも彼とはまともに会話が成り立っている気がしない。

 他の柱はどうかと言われても蛇柱は蜜璃とのことがあるから無理であるし、風柱は話したことはないが遠目から見る限り頭のおかしい人だった。

 岩柱は貫禄がありすぎてお兄さんというよりおじさんという雰囲気だし、逆に霞柱はさすがに若い、というよりもまだ幼いといえるくらいだ。

 いや、でも産屋敷様は十三で十七のあまね様と結婚したと言うしそれはありなのだろうか、などとも思うがさすがにどうだろう。

 そこから比較的まともであると思える炎柱である煉獄を除くとなると残っているのは三人の妻をもつ音柱の宇髄天元くらいしかいない。

 そこに四人目として加えてくれなどと言えるはずもない。

 

「無理です……」

「……まぁいい。いや良くはないからきちんと考えておくように。……時間はそう残されていないぞ」

「わかってる」

「なら本題だが、単刀直入に言ってお館様から試験を受けるようにとのことだ」

「試験? っていうともしかして鬼殺隊の入隊試験、最終選抜のこと?」

「そうだ」

「え? それって自由意志に任せるって話じゃなかった?」

 

 鬼殺隊の入隊試験、それは鬼殺隊が捕えてきた比較的弱い鬼達が閉じ込められている藤襲山で七日間生き延びるという最終選別の試験のことだ。

 めまいの一族の中でも父を含めてその最終選別を受けている者はそれなりにいた。

 ただ、産屋敷との話で合格したからといって鬼殺隊に入隊しなければならないわけではないということで了承をとっている。

 だがそれに合格していればその分協力体制もとり易く、便宜を図り易いことなどもあり、受けたければ受けてくれていいという程度の話であった。

 めまいと父との話でも経験上合格しておいたほうが何かと便利ではあるから気が向いたら受けておくように、と特に強制はしないということで話は纏まっていた。

 

「状況が変わったそうだ。どうやらお館様は今このときこそ時が動き出すと考えられているようだ」

「それは……何かあったの?」

「鬼舞辻無惨。やつと接触できた隊士が出たそうだ」

「無惨と!? どうやって?」

「それは偶然とのことだが、そういうこともあって何かが動き出していると感じられているらしい。お館様の勘というものは凄まじいものがあるし、おざなりにはできん」

「だから何かあったときにわたしも動けるようにってこと?」

 

 おそらく仮に試験を受けなかったとしても産屋敷耀哉であれば強引に特例としてめまいをねじ込ませることくらいは容易なはずだ。

 だがわざわざそんなことをして軋轢を生む可能性をとるくらいなら試験を受けさせておいた方がいいと踏んだのであろう。

 その考えはめまいにも理解できるし、幾度も鬼を狩ってきているめまいからすれば藤襲山の弱い鬼程度に遅れを取る可能性は低いためそれほど嫌ということもない。

 

「……わかった。じゃあとりあえず産屋敷様のところへ伺うよ」

 

 

 

 

 

  第三話 兄妹

 

 

 

 

 

 産屋敷邸に着くとめまいは当主である産屋敷耀哉と対面することとなった。

 そこで話した内容としては事前に父から伝えられたものとそれほど大差なかった。

 だがどちらかと言うとそこで伝えられた言葉は念のためというよりもその必要があるだろうという色を含んでいた。

 めまいとしてもここに来るまでの道程で最終選抜を受けること自体は了承していたので試験を受けることについて否やを言う事はなく、産屋敷の言葉に従いそのまま藤襲山に向かった。

 そして―――。

 

「ほんともう、死ぬかと思ったよ……」

「えぇ? でもあそこにいる鬼くらいだったらめまいちゃんなら敵じゃないと思うんだけど」

「確かに、そう強いのはいなかったんだけどね……」

 

 藤襲山にいる鬼はそれほど強くない。

 鬼は鬼であることに違いないので危険が全くないと言い切れるようなものではないが、基本的に試験用に捕えられた弱い鬼であるので、特別な不測の事態でも起こらない限りは今のめまいの実力をもってすれば遅れをとるようなことはまずないと言える。

 そしてある意味でその不測の事態を引き起こしたのが産屋敷耀哉であった。

 いつもならばそれなりの数の人間が集まり一斉に最終選別が行われるのであるが、今回は特例中の特例であり時間的な都合もあったため、なんとめまいは一人で山中で過ごすはめになった。

 もちろん山はそれなりに広いため、一人だからと言って鬼が一斉に襲い掛かってくるようなことはないし、全ての鬼を一人で倒すようなことにはならないが、それでも負担は大きかった。

 

「わたし、ただでさえこんな風に長い時間戦うのは苦手なのに……」

「うーん、でもお館様はめまいちゃんならそのくらいなんとかなると思ったからだしだいじょうぶだよ。現にだいじょうぶだったんだし」

「言いたいことはわかるけど蜜璃ちゃんは産屋敷様の言う事信じすぎだよ……」

 

 結果から言えば正しい。

 最終選抜は実際に合格できたし、めまいが口で言ったほどに死ぬようなぎりぎりの事態にあったわけでもない。

 それでも甘露寺蜜璃が産屋敷の言う事になんでも首肯しがちというめまいの指摘もまた間違いではない。

 

「それにしても何かあったの? 山から帰ってきたらなんとなくどこかざわついたような空気になってた気がしたけど」

「それは、うーんこれ言ってもいいのかな? えっとね、隊士の子に鬼を連れてるって子がいてね、柱合会議の前にちょっと裁判があってね」

「ああ……そういうこと。もしかして炭治郎くんのことだったりする?」

「あれ? めまいちゃん知ってたの? お館様から聞いてたの?」

「ううん、たまたま炭治郎くんと会うことあってね。そのときに本人から……あれ?」

「どうしたの?」

 

 そのときの一連の流れを思い出してめまいは首を捻る。

 

「いや、そもそもそれって産屋敷様に依頼されたからだからもしかしたらたまたまじゃないかも」

「そうなんだ。……めまいちゃんはそのとき何もしなかったの?」

「うん……。わたしはみんなほど鬼を憎んでるわけでもないしね……。それに、なんにしても産屋敷様はご存知のはずだろうと思って」

「だよね! お館様がそう言ってるんだからそれでいいよね」

「だからね蜜璃ちゃんそういうのは……」

「―――ふむ、二人ともここに居たか!」

 

 蜜璃のその考え方に苦言を呈そうとしたとき座っていた二人の少し上から声が掛けられる。

 ひらりと揺れる炎の模様が目に入り、その声に見上げるとそこには二人のよく知る者の姿があった。

 

「あれ? 杏寿郎くん?」

「うむ、最終選別を受けたそうだな。その後帰ってきた君が甘露寺と連れ立ってこちらの方に向かったと聞いてな! よもやこんな近くで団子を食べているとは思わなかったぞ!」

「ああ、うん。ごめん。ひょっとして探してたのかな? 何か用事?」

「確かに探しはしたが特に用事はないぞ! しばらくの間顔を見ていなかったからな、この機に会っておこうと思ってな!」

「そう、わたしも久しぶりに杏寿郎くんの顔が見れてまぁ嬉しいよ」

「そうか! それは上々だな!」

 

 めまいと煉獄杏寿郎の付き合いは長い。

 古くからの炎の呼吸の使い手の一族である杏寿郎と水の呼吸の使い手の一族であるめまい、両者は家同士でも付き合いがあり幼馴染みとも言える関係であった。

 どちらも長く続いてきた家柄であり、めまいの父が煉獄家と婚姻を結ぶべきではないと言った理由もそこにある。

 それは炎の呼吸と水の呼吸、二つが合わさることでどちらかの家の歴史が途絶えてしまうことを危惧したということだ。

 そんなことになり長年受け継がれてきた使命が果たせなくなってはご先祖様にも申し訳が立たないからだ。

 それでも、そういったことを抜きにしても二人は互いをよく知るそれなりに仲の良い間柄であった。

 

「それで……聞きたいこと、あるんでしょ?」

「相変わらず勘がいいな! 話が早くて助かるぞ! うむ、察しの通り、会えたならば少しばかり聞いておきたいことがあった」

「今聞きたいこととなると……あの子のことかな?」

「うむ! 溝口少年とその連れていた鬼のことについてだ! お館様から君が少しばかり少年に稽古をつけたと聞いてな!」

「……溝口少年?」

 

 どういうことだろう、とめまいが横に視線を向けると恥ずかしそうに蜜璃が顔を伏せているのが目に入る。

 なるほど、と頷く。

 どういう思考を辿ったのかはわからないが、その溝口少年というのはおそらく炭治郎のことなのだろうとあたりを付ける。

 まぁ柱連中は特に変わった思考をする人間が多いのでそういうこともあるだろうと適当に納得する。

 

「そう言われても難しいね……。少し変わった子だったけどいい子だよとしか」

「ふむ……では鬼の方はどうだ? 話をしたか?」

「話は……出来なかったね。少し顔を合わせただけだけど」

 

 炭治郎の妹である鬼の禰豆子は常に竹を咥えていたこともあるが、炭治郎から聞いたところどうやら言葉を理解は出来ているらしいが話すことは出来ないとのことだ。

 めまいとしても可能であれば会話をしたいところであったがそれは叶わなかった。

 

「どう感じた? 人を喰うか?」

「どうだろう……。断言はできないけど食べない、かな」

「なるほど! 君がそう言うならば参考にさせてもらおう!」

「うん、まぁ参考程度に留めておいてね」

「うむ! ところで話は変わるが、君の方はどうだ? 順調か?」

「どう、かな……少し行き詰まってるかな」

 

 実際にそれはここのところのめまいの悩みの種でもあった。

 自分のやるべきことは出来る限りやっているつもりではあるが、出来る事をやっているだけではそこから先へは進めない。

 かといってとにかく無理をすればいいのかと言えばそういうわけでもないだろう。

 

「なるほど、だが君のことだ! そのうちなんとかなるだろう! そのまま精進したまえ」

「だといいけど……。使命を果たせないかもと考えると少し怖いかな」

「それは怖いな。俺もそれを考えると少し怖い。うむ! 共に使命を成し遂げられるよう努力しよう! そうだ! 俺と君ならきっと出来る!」

「そうだね。頑張ってみるよ」

 

 その返答に満足したのか、大仰に頷くと甘露寺にも別れを告げ、二人に背を向けて元来たであろう方向へ向かって歩き出した。

 めまいはその様子に元継子であるはずの甘露寺への対応がおざなりだなぁとは感じたが、すぐにそういえば二人は柱であるから柱合会議で会ったばかりであったなと思い出した。

 

「……心配させちゃったかな?」

「そうなの?」

「うん、たぶんだけど元気付けてくれたみたい」

「そうなんだ! よくわからないけど。それにしても相変わらず二人は本当に仲いいね」

「まぁ、そうだね。付き合いも長いし。ずっと昔からこんな感じだね。ただ……」

「ただ……?」

「ううん、なんでもない……」

 

 なんでもないはずではあるが、めまいはその杏寿郎の後ろ姿から目を離せなかった。

 その胸に渦巻く複雑な想いは、なによりも得体の知れない不安感に覆いつくされていた。

 

 

 

 




大正コソコソ補足話

めまいと蜜璃が出会ったのは煉獄の家に継子として訪れたときです。めまいと杏寿郎は幼馴染みのようなもので、めまいは親戚の家に遊びにいくような気分で昔から煉獄の家に時々遊びに来ていたりしました。
幼い頃は煉獄の家も仲がよく、杏寿郎の母にも可愛がってもらっていました。蜜璃は初め、鬼殺隊でもない子が出入りしていることにびっくりしましたが、剣を使えることを知ってからはそれを受け入れて仲良くなりました。
このときめまいはすでに産屋敷からの依頼を受け時おり新人隊士の面倒を見るなどのことをしていましたが、杏寿郎は蜜璃の独特の剣を型に嵌めすぎることは良くないと感じていたため、めまいは蜜璃に対しては最低限度の助言をするに留め、ほとんど剣を教えたりなどはしていません。教えたりはしていませんが、多少は剣を交えるなどしてその剣がどういうものかということや、めまいの実力がどの程度のものなのかは蜜璃も把握しています。


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