よう実 Aクラス昇格RTA Dクラスルート 番外編   作:青虹

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これは第一話なので初投稿です。



コンビニでの一幕

 生きるために欠かせないもの、それは水と食料だ。水がなければ3日、食料がなければ7日で人は死に絶えてしまうという。

 八遠愛は、これから始まる3年間の0円生活に備えて、最初の0円コーナー漁りをしていた。

 最優先は水と食料の2つ。水は自販機に0円で売っているので、確保すべきは食料のみだ。

 愛も立派な女子高生。化粧もしてみたいお年頃ではあるが、生きるためにはその欲は抑えなければならない。

 一度手に取った化粧品を再びカゴに戻した。

 

「これでいいか」

 

 各店舗月々3つまで。その制約がなければどれだけ楽なことか。そう思った愛だが、そもそもこの制約がなければ、クラス間争いに興味を失くす生徒が現れるかもしれないのだ。

 愛は小さくため息を吐きながら店を出て、すぐに次の店へ向かう。

 いらっしゃいませ、という決まり文句を耳に、愛はコンビニに入った。

 そして、見覚えの顔触れに出会った。

 

「あれ? 君たちは……」

 

 愛と同じDクラスの綾小路清隆と堀北鈴音だ。

 愛は当然その名を知っているが、実際に出会って言葉を交わすのは初めて。自己紹介も途中退席したため、どちらの名前も知らない。ここで口にしてしまっては、頭の切れる二人には一瞬で看破されるだろう。

 

「オレたちと同じクラスか?」

「うんうん。私は1-Dの八遠愛。自己紹介の時はどうしてもトイレに行きたくて抜け出しちゃったから、自己紹介が出来なくって」

 

 綾小路を見上げ、笑顔を見せた。まだ浮かれ気味な綾小路には、その愛の姿はどう映っただろうか。

 一方の堀北は、嫌悪感を隠し切れていない様子。しかし、そんな堀北にも愛は笑顔を貫く。

 

「貴方達は一体なんのつもり? 仲良くしたいなら貴方達二人で勝手にやってもらえない?」

「うーん。それは出来ないかなぁ。私は君と仲良くしたいんだから」

 

 堀北には友達という存在が理解できなかった。

 堀北は常にこの学校の生徒会長である兄の背中を追ってきた。

 優秀だった彼は努力家であることを知っている。武道を嗜んでいることを知っている。常に先頭を歩き、一人で歩んで来たことを知っている。

 

 ──そして、それが間違っていることを知らない。

 

 幼い時から兄の背中だけを見てきた堀北の目標はそこ止まり。それがDクラスという結果になって現れているのだが、今の堀北はそれを知らない。

 

「君はもっと色々なことを知った方がいいんじゃないかな?」

「……どういうこと?」

「そういうところだよ」

 

 本来ならば、堀北はDクラスにいてはならない生徒だ。

 堀北にはもっと成長して、引っ張っていって貰わなければならない。そして少しでも多くクラスに貢献する必要がある。

 

「何ならオレが教えても──」

「堀北鈴音」

「堀北ちゃんだね、よろしく!」

「ちゃん付けはやめなさい」

 

 綾小路の言葉を遮るようにして口早に言うと、堀北は深々とため息を吐いて嫌悪感を露わにした。しかし、愛はそれを気にすることもなく店内を見渡し、例の如く0円コーナーを見つけてそちらへ歩いていく。

 堀北と綾小路も、その存在に興味を抱いて愛の後ろをついていく。

 

「0円コーナー……?」

「うん。たまたま行った店にあるのを見つけてね。もしかしたら色んな店にあるんじゃないかなって思って」

「でも、全員に10万ポイントが支給されたはずだぞ?」

 

 愛の目的を知らない二人は、揃って首を傾げた。

 

「使えるものは使っておかないと。お金の貯金って大事でしょ?」

「10万もあるのにか?」

「うん。念には念をってね」

 

 いくつかの商品を手に取りながら愛は言う。

 綾小路が言うように、10万ポイントとは10万円と同等の価値がある。つまり諭吉10人分。高校生が持つには大金でないわけがない。

 しかし、この後控える船上試験の報酬や、次の一年生──宝泉や七瀬を始めとした学年──の一部には、綾小路を退学させるだけで2000万ポイントを与えるというものもある。要するに、ポイントはこれからインフレしていく。7桁単位でのポイントの移動は少なからず起こる。

 それに、一年生のこの時期に愛の目標ポイント分を与える機会を作るなど、現在の平穏さからはとても想像がつかない。

 初日であるにも関わらず、愛は思う。来年の今頃は何をしているのだろうかと。既にAクラス昇格を決めているのか。それともまだ志半ばなのか。

 

「本当に0円コーナーからしか買わないのね」

「物資がなくなったら買わざるを得ないかなって思ってるけどね。でも、残せるだけ残しておきたいっていうのが私の考えだから」

「でも、毎月10万ポイント振り込まれるんじゃないのか?」

「うーん。私は毎月ポイントが振り込まれるとしか聞こえなかったけどね。でも、散財して金銭感覚を狂わせるよりかはマシじゃないかな」

「八遠の言う通りだな」

 

 そう言ってレジに並ぼうとした時だった。

 

「ちょっと待てと言ってんだろゴラァ!」

 

 ドスの効いた大声が、狭い店内に響いた。愛は思わず耳を塞ぐ。

 そして綾小路の耳に囁いた。

 

「綾小路くん、なんとかしてよ」

「なんとか、って……」

「どうせ学生証を忘れたんでしょ。なんか怖そうでとっつきにくいから綾小路くんが行ってよ」

「はぁ、分かった」

 

 綾小路が須藤の方へ歩いて行き、立て替えているところを眺めながら自身の会計を済ませる。

 相変わらず、会計は0ポイントである。

 

「あの顔、何処かで見覚えがあるわね」

「それはきっと同じクラスの生徒だからだよ」

「アレと同じクラス? 冗談じゃないわ」

 

 しかし、彼──須藤のおかげで堀北は自己紹介を避けられたと言っても過言ではない。

 

「でも、同じクラスだって言われるとちょっと気が引けるかなぁ」

 

 愛は苦笑いを浮かべた。

 愛の会計が終わると、堀北も会計を進める。その間に須藤の件も落ち着いたようで、もう一方のレジには平静が取り戻されていた。

 

「ありがとう、綾小路くん」

「ああ」

 

 堀北の会計も終わり、3人で店を出ると須藤が店前にどっかりと腰を下ろし、カップラーメンにありつこうとしているところだった。

 そんな須藤の様子に綾小路が興味を示したようで、声をかけた。

 

「まさかここで食べるのか?」

「当たり前だろ。ここで食うのが世間一般の常識だ」

「その常識初めて聞いた」

 

 カップラーメンとは、家に持ち帰るか店内のイーティングスペースで食べるのが本来の常識……のはずだ。

 ここで食べる人など、不良やヤンキー以外で見たことがない。

 愛も堀北も呆れ、綾小路は困惑していた。

 

「私は帰るわ。こんなところで品位を落としたくないし」

「何が品位だよ。高校生だったら普通だろうが。それとも良いとこのお嬢様ってか?」

「そんな普通私しらない」

 

 須藤の反論に対しても、堀北は一貫して須藤を見ることはなかった。

 どうやら、その態度が癪に障ったらしい。須藤は地面にカップラーメンを置いて立ち上がると、堀北の方へ歩いて行った。

 歩き方は完全に不良のそれだった。

 

「あぁ? 人の話を聞けよオイ!」

「彼どうしたの? 急に怒り出して」

 

 わざとか何なのか、堀北は綾小路へ向けて質問した。堀北、そういうところだぞと愛は心の中で呟いた。

 

「こっち向けよ! ぶっ飛ばすぞ!」

「堀北の態度が悪かったのは認めるよ。でも、お前もちょっと怒りすぎだ」

 

 普通だったら須藤の放つ威圧感を前に怖気付いてしまうだろう。しかし、流石は綾小路。流石ホワイトルーム生。全く動じない。

 

「ああ? んだと? こいつの態度が生意気なのが悪いんだろうが、女のくせによ!」

「女のくせに。時代錯誤もいいところね。彼とは友達になら──」

「はい堀北ちゃんそこまでねこれ以上口を開かないようにごめんね迷惑かけちゃって」

 

 流石に周りの注目を集めすぎた。須藤の声がよく響くのもあるだろうが、堀北も大概だ。少し離れた場所まで連れて行き、ほっと息を漏らした。

 

「なぜ止めたのかしら」

「何でってそりゃあれ以上は危険だったし」

「危険? 私は彼に負けることは想定していないわ」

 

 いや堀北さん、そういう問題じゃないんですわ。心の中で盛大につっこんだ

 愛のせいなのか、堀北が喋っている間につかみかかりそうだったために慌てて隔離したのだ。コンビニの壁にはしっかりカメラが設置されている。問題を起こしたら5月に大きな影響が及ぶ上に、堀北が悲しい気持ちに包まれてしまう。

 

「とにかく、堀北ちゃんは我慢を覚えること! たとえ正論でも、穏便に解決できるような言葉選びをしなさい!」

「なぜ私が説教されているのか分からないわ」

「あっちょっ」

 

 慌てて手を掴んで止めようとしたが、あと僅かのところで手は空を切った。

 これ以上は今の堀北には無駄だろう。これからは、自らの過ちを身を持って知っていかなければならない。最初の目標は原作通りの和解だ。

 

 綾小路の方へ戻ると、既に須藤が退散した後だった。雑に放られたカップラーメンは、好き放題に中身を散らばせていた。

 

「綾小路くん、手伝おっか」

「ああ、ありがとう」

 

 店の人にティッシュやら布巾やらを借りて、匂いは残るものの粗方片付いた。

 

「うちのクラス、変わり者が多いよね」

「だな。クラス替えは無いって言ってたし、この先が不安でしかない」

 

 本当に不安だ、と愛は内心思う。けれども、それ以上に期待感が大きいのが事実だ。

 

「綾小路くんは友達出来そう?」

「いや……どうだろうな」

 

 綾小路は自己紹介が失敗に終わっている。第一印象は根暗な男になっていることは間違いない。

 

「じゃあ、私の連絡先教えてあげる。これが初めてかな?」

「いいのか?」

「もちろん! 一人でも多い方がいいでしょ?」

「そうだな。じゃあ、ありがたく交換させてもらおう」

 

 愛と綾小路は少してこずりながら、無事に交換を終えた。余談だが、お互い他人の連絡先を登録したのはこれが初めてである。

 

「私は他のところにも行くけど、綾小路くんはどうするの?」

「オレは一旦帰る。寮でゆっくりしたいし」

「……そ、そう」

「ん? どうした?」

「別に何でもないよ。じゃあね!」

「あ、ああ」

 

 綾小路、そういうところが鈍感だって言われる理由だからな。その言葉は心の中だけに留めておき、口に出すことはしない。

 その役割は愛ではない。愛は教科書でも何でもない、ただの空白の本に過ぎないのだから。

 愛は次なる目的地へ向けて歩き出した。




天沢の方法、盲点でしたね。
でも、ポイントを使えない愛ちゃんが対価を払う方法はあるのだろうか?

いやうん、あるにはあるけどここでは言えないしそもそも愛ちゃん貧s

愛「誰が貧相だって?」

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