藤堂は、防衛省行政局の自身の執務室を出て、すぐ近くにある科学技術省を訪ねていた。
科学技術省の建物に入ると、入り口のゲートを監視する警備員に敬礼をされた。地球を救った国連宇宙局でヤマト計画を立案、推進した本部長だった藤堂は、どこへ行っても有名人だった。受付でも同様に、訪問理由を伝えると、あっさりとIDカードを渡された。
IDカードで、ゲートを通過すると、エレベーターで目的の階に真っ直ぐに向かった。
オフィスに入ると、大きな部屋に、百名以上のパーティションで区切られたデスクが並んでいた。入り口に佇んでいた藤堂は、目的の人物が見当たらずに、途方に暮れていた。
そこへ、背後にあった会議室から出てきた男女が、各自思い思いの端末やノートを抱えて、仕事の話をしながら歩いてきていた。
藤堂は振り返って、目当ての人物がどこにいるのか尋ねようとした。すると、ばったりとその人が目の前に立っていた。
「お父さん?」
怪訝な表情で彼の娘の早紀は立ち止まった。彼女の同僚たちは、突然の藤堂の訪問に驚いている者もいた。彼女は、同僚に先に行ってて、と声をかけて手を振った。
早紀は、父親の袖を掴んで、今出てきたばかりの会議室に引き込んでドアを閉めた。
「お父さん、目立つから来ないでって、いつも言ってるじゃない」
藤堂は、そんな言い方をしなくても、と不満な顔をした。早紀は、迷惑そうな顔をして、父に尋ねた。
「どうしたの?」
藤堂は咳払いをしてから言った。
「お前、今日発つんだろ。最後に顔を見に来たんだよ」
早紀は、少し呆れていた。
「今朝、家を出るときに出発の挨拶はしたじゃない」
「しかしだなぁ」
早紀は、藤堂に顔を近づけて、父に怒っていることがわかるように、低い声で話しかけた。
「いいかげん、子供扱いはやめて。私、もう三十歳なのよ。それに、二度と会えないような、遠くへ行くわけでもないし」
藤堂は、少ししょんぼりとした様子になった。それを見た早紀は、小さくため息をついた。
「ごめん。言い方がきつかったのは謝る。でも、わかるでしょ? これから、重要な仕事をするっていうのに、父親が心配してくっついてたんじゃ、私の立場がないわ」
藤堂は、言われたことを、もっともだと考えた。娘に迷惑をかけたくないと思い、別の要件を伝えることにした。
「実は、真田くんにも用事があるんだ」
早紀は、その話を少し思案した。
「そう。大体、何の話かはわかってるけど。私が心配でやってきたと思われるよりはいいわ。じゃぁ、来て」
早紀に連れられて、オフィスの中に入ると、皆が二人に注目していた。早紀は、その視線を無視して、真田の席に案内した。
「真田さん」
早紀が話しかけると、真田は何やら端末に向かって難しい顔をしていた。早紀が声をかけたのにも気が付いていないようだった。仕方なく、少し大きめの声でもう一度言った。
「真田さん、防衛省行政局の藤堂長官がお見えです」
それが耳に入った真田は、やっと振り返ってくれた。二人の姿を認めた真田は、席から立ち上がって、敬礼をした。
「藤堂長官。ご無沙汰しています」
藤堂も敬礼を返すと言った。
「どうだね? 調子は」
真田は、頷いていつもの調子で話し出した。
「はい。準備は全て整っております。午後には藤堂くん……いえ。早紀さんと新見くんと一緒に出発します。今は、そちらの情報部の星名くんの最新の情報が届いていたので、それを確認していました」
藤堂は少し笑みを浮かべて頷いた。そして、ちらっと早紀を見てから真田に向き直った。
「早紀のこと、よろしく頼むよ」
「もちろんです。特に気にされるようなことはないと思いますよ」
藤堂は、自身の不安を隠して、少し間をあけてから別の要件を伝えた。
「ところで、前にも伝えた件だが、今回の任務が終わったら、前向きに考えてくれないかね?」
真田は、何のことを言っているか、すぐに思い出していた。
「防衛軍への復帰の件ですね?」
「そうだ」
真田は、その件については、何度か頭の中で検討をしていた。そのことを、ストレートに彼に伝えた。
「正直、私はこちらの仕事の方が性に合っているようです。防衛軍の深刻な人手不足の問題は、古代からも聞いています。何でも、ヤマトの士官が他の艦の教育で借り出されているとか。しかし、最後の任務でガミラスに行った時に決めました。私よりも古代や若い世代の者に道を譲った方がいいと。私は、軍人には向いておりません。あの時、古代が艦長を立派に務めているのを見て、決意したんです」
これは、真田が防衛軍を抜けるときにも既に聞いた話で、決意が揺るいでいないことを意味していた。それでも、藤堂は食い下がってみた。
「今、太陽系外への宇宙探査の計画を立案中だ。それにも全く興味がないかね?」
それには、真田も反応を示した。
「その件は噂には聞いていましたが、本格的に計画の立案の段階なんですね?」
藤堂は、きっかけを掴んだと思い、更に続けた。
「宇宙探査の目的はいくつか検討している。これまで解明されていない宇宙規模の事象の探査や、未知の文明とのコンタクト、そして二大星間国家の状況の確認などだ。君のような優秀な科学者が必要になるのは間違いがない」
真田は、それを聞いてイメージを膨らませたようだった。
「興味深い」
真田は、完全にその話に興味を持ってしまったようだ。早紀は、慌ててその話に割り込んだ。
「藤堂長官。申し訳ありませんが、これから大事な仕事があります。真田さんには、そこで重要な役割を負って頂く必要があります。水を差すような話はご遠慮頂きたいんですが」
藤堂は、その早紀にも追い討ちをかけた。
「君にも一緒に来てもらってもいいんだがね。別に科学技術省の立場のままでも何も問題がない」
今度は、早紀の方が面食らった。そして、小さな声で彼に言った。
「お父さん、本当にもうやめて」
早紀は、小さく咳払いをしてから普通の声の大きさで言った。
「その件は、仕事が終わってから話しましょう。今は、こちらの仕事に集中させて下さい」
その後、彼がすぐに帰らなかったので、早紀は仕方なく真田と新見と共に四人で昼食をとった。そこで、古代と雪の結婚式の話題になった。真田と新見は、その古代に特に思い入れが強いようで、本当によかったとしきりに話をしていた。面識の無い早紀は、信頼する真田と新見がここまで親身に思う古代という人物に、少しだけ興味を持った。
昼食も終わると、早紀は、父に帰るように促した。彼は、名残惜しそうにしながら、何度も早紀を頼むと言いながら、去っていった。
「藤堂長官、娘思いのただのいい父親だったわね。あんな姿が見れて、何だかほっとしたわ」
新見は、暖かい目で早紀を見つめた。
「やめて下さい。私、迷惑してるんですよ」
真田も、同様の感想を持っていた為、思っていたことをそのまま伝えた。
「藤堂くん。両親を大切にすることだ。今の世の中、家族を失った悲しみに暮れる人も多い。幸せなことなんだよ。そうやって文句を言えるってことは」
早紀は、正論ばかり言う真田が、少し面倒に思うことがあった。
「わかっていますよ。私だって」
午後になって、三人は荷物をまとめて車に乗り、新東京市の外れの宇宙港に向かった。復興後も、この新東京市を少し出ると、まだ未開発の一面の荒野が広がっている。宇宙港には、科学技術省でチャーターしたコスモシーガルを民間用に転用した同型機が待っていた。それは、地球圏を移動する一般的なシャトルとして使われていた。
シャトルに乗り込むと、真田と新見がそれぞれ操縦士と副操縦士を務めて発進準備をすすめていた。後部座席に座った早紀は、長く待ち望んだこの時が来たことに、気分が高揚していた。
この仕事は、早紀がリーダーを務めており、真田と新見は、ミッションスペシャリストとして参加している。
「発進準備完了。目標座標も設定済みです。いつでも行けます」
新見は、真田と早紀に確認をした。早紀は、興奮を抑えつつ指示を伝えた。
「はい。それでは行きましょうか」
「了解。それでは、発進する」
シャトルは、真田の操縦で、エンジンを吹かして滑走路を走り出した。そして、地面を離れると、一気に空に向かって飛び立った。
シャトルは、地球の大気圏を抜け、月に向かって飛行を続けた。後、一時間もあれば、月軌道の目的の座標に着くだろう。
暫くして、新見は、目標を捉えたことを報告した。
「レーダーで捉えました。予定の座標に既に待機中のようです」
「先方に、私たちの到着を伝えて下さい」
早紀は、新見に返事をした。新見は、通信機のチャンネルをオープンにして、連絡を入れた。
「こちら、科学技術省の調査チームです。予定時刻にそちらに到着します。受け入れの準備をお願いします」
少し雑音が聞こえた後、すぐに返信があった。
「こちら実験艦ムサシ。お待ちしていました。すぐに準備します」
暫く飛行を続けると、次第にその姿が肉眼で見えてきた。
「先生、あれは、本当にヤマトにしか見えません」
見えてきたその艦のシルエットは、確かにヤマトそのものだった。
真田は、その艦の開発の指揮もとっていた為、特に驚きもせず、解説をした。
「当然だ。イスカンダルに行った時のヤマトの艦体の外装や内装は、全面改装で大部分を交換した。取り外したパーツであれは作られたのだから、本当にイスカンダルに旅をしたヤマトそのものなんだよ。科学技術省の予算で巨大な宇宙艦を作るには、良いアイデアだったと思う。戦闘艦ではないから、ガミラス戦争で装甲がぼろぼろだったヤマトの外装でも何の問題もないからね」
彼らの目の前に、それはぐんぐんと近づいてきた。実験艦ムサシは、砲塔などの兵装が一切無いが、ヤマトと全くの同型艦だった。艦体には、イスカンダルへ旅した時に出来た傷が至る所にある。
「先生、なんだか不思議な気分です」
「内部は、違っているところも多いが、艦を動かす艦橋の構造も全く同じだよ」
そして、シャトルは、ヤマトならば、第三主砲がある位置に静かに駐機した。そこには、エレベーターがついており、そのまま内部へと格納された。
彼らがシャトルを降りると、懐かしい人物が迎えに来ていた。
「良くきたな。待ってたぞ」
真田は、すぐに手を伸ばして笑顔で彼と握手した。
「お久しぶりです。徳川さん」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。