宇宙戦艦ヤマト2199 妄執の亡霊   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「妄執の亡霊」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」の続編になります。


妄執の亡霊3 アラビア・シティ

 微睡みから彼女は目覚めた。眩しい光に照らされて、何も見えず、目を凝らした。運転席から、太陽光が彼女の顔に当たっており、その眩しさに目を覚ましたのだ。

 ベッドから抜け出してあくびをして、ふらふらとしながら立ち上がった。ふと、寝ていたベッドを見ると、まだユリーシャが寝ていた。彼女は、いらっとして、枕にしていたクッションを掴むと、思い切りユリーシャのお腹の辺りに投げつけた。

「わふっ」

 彼女がどうやら起きたようなので、そのまま踵を返して、車の前部の運転席に移動した。フロントガラスの外を見ると、空は赤く晴れ渡っていた。風も、ほとんど無いようである。

「ドライブ日和だな」

 山本は、笑みを浮かべてシートベルトを締めた。

 

 山本は、GPSの電波を受信した地上車のナビゲーションシステムを起動して、おおよその目標地点に車を走らせた。後ろからユリーシャも前部にやって来て、助手席に座ろうとしていた。

「玲、ずっと運転して、疲れてないの?」

 昨日、人に運転させて、あれほどぐっすり寝ていた癖によく言う、と山本は心の中で悪態をついた。

「シートベルトを締めて」

 ユリーシャは、揺れる車内で苦労して助手席に座り、シートベルトを着けた。彼女が席に座って落ち着くのを確認した山本は、昨夜の疑問をそのまま聞いてみることにした。

「教えて欲しいんだけど」

 山本は、車の前方から目を離さずにユリーシャに話しかけた。

「何?」

 山本は、横目でちらっとユリーシャの方を見て、すぐに視線を前に戻した。

「昨日から今朝まで、あなたは二十時間は寝てたと思うけど。それって、いつもなの?」

 ユリーシャは、不思議そうに山本の顔を覗き込んだ。

「変かな?」

「もしかして、イスカンダル人は、皆そうなの?」

 ユリーシャは、うーんと、少し考えていた。

「ずっと寝てたわけじゃないよ。時々起きてたけど、玲が気がつかなかっただけだよ。だってすることも無いし、忙しそうだったから、もう一度寝てただけ」

 山本は、随分と下らない理由だったので、少しがっかりしていた。

「それにしても、寝過ぎじゃないの?」

 ユリーシャは、少し照れながら言った。

「この間、アルコールを摂取し過ぎたせいかも」

 山本は、少し笑って言った。

「……まさか。半月も前のことでしょ」

 ユリーシャも笑いながら言った。

「そうだよ。昨日まで、ずっと酔ってるみたいだったから。でも、いっぱい寝たから、やっとすっきりしたかな」

 山本は、内心とても驚いていた。そして、ようやくイスカンダル人の不思議な生態を垣間見た気がしていた。アルコールの分解に、長い時間がかかっていたということなのか、さすがに医者の領分まではわからなかった。

 

 そうして地上車を暫く進ませていると、昨日のような激しい揺れがなくなっているのに気がついた。その意味するところに、山本は、突然ブレーキペダルを思い切り踏んで車を急停車させた。助手席のユリーシャの体は、思い切り前につんのめって、シートベルトに跳ね返って座席にぶつかった。

「どうしたの!?」

 山本は、ナビゲーションシステムが示す地点にはまだ到着していないが、かなり近くにいることを確認した。 

 そして、シートベルトを外すと、後部の居住区画に急いで行った。そして、そこにあった装備箱を開くと、宇宙服を取り出した。それを急いで着ると、宇宙帽を最後に被った。

 その頃には、ユリーシャも立ち上がって山本の目の前に立っていた。

「待っていて」

 宇宙帽の中からくぐもった声が聞こえた。そして、彼女は振り返って後部のハッチを開くと、その中に入ってハッチを閉じた。

一人取り残されたユリーシャは、装備箱の中に、もう一着の宇宙服があるのを見つけた。

 

 山本は、地上車の後部のハッチを開けると、車外に降り立った。

 彼女は、ゆっくりと車の前を歩いて行った。どこまでも続くアラビア大陸を眺めながら、その場にしゃがみ込んだ。

 宇宙服のグローブを着けた手のひらで、足元の砂を払った。暫く砂を払い続けると、それが露出した。

「遂に、見つけた」

 山本は、優しく露出した道路を撫でた。

 それはかつて、火星の各地にあった都市を結ぶ大動脈、マーシャン・ロードに違いなかった。

 山本は、立ち上がって、辺りを見回した。すると、東の方角に何か人工物らしきものが見えた。山本は、ゆっくりとそちらに向かって歩き出した。

「待って」

 すると、宇宙帽の通信機のスピーカーから、雑音混じりにユリーシャの声が響いてきた。山本は、立ち止まって地上車の方を振り返ると、ユリーシャも宇宙服を着て、近づいて来るところだった。ユリーシャが追い付いて来るのを待って、二人で東の方角に再び歩き出した。

 暫く歩き続けると、人工物の残骸が幾つも見えてきたので、山本は指を差した。

「ここは昔、アラビア市と呼ばれていた。火星では、比較的大きな都市だったんだ」

 そこには、砂に埋もれた大小の人工物が、辺り一帯に広がっていた。中でも、幾つかは、空にそびえる大きなものもあり、かつて大きな建築物が建っていたであろうことを推測させた。

 山本は、その一つに近づいて、手のグローブで触れた。

「どうしたの?」

 ユリーシャが、聞いてきたので、山本は地上車から持ってきた携帯端末を持ち上げて、画面に画像を表示した。そして、少し操作して、ある画像で指を止めた。

「ここだったんだ」

 ユリーシャが端末を覗き込むと、そこには家族写真と思われる画像が写っていた。

「ここには、祖父母の居住区があったの。この写真の後ろに写っている塔が、この残骸で間違いないと思う。こっちが兄さん。その隣で囲んでしゃがんでいるのが、私の祖父母。そしてこれが、私」

 幼い彼女は、まだ赤子で祖母に抱かれていた。写真の後ろに写っている塔は、記念碑のようだった。塔の前に碑文が書かれたプレートが見えていた。

 山本は、端末をユリーシャに渡して、その塔の残骸の足元にしゃがんだ。そして、砂を払うと、写真に写っている碑文が書かれたプレートが、砂の中から現れた。

 それには、『第一次火星移民団記念碑』と大きく彫られていた。文字の一部が欠けていて、傷だらけではあったが、確かにそのように書かれていた。

 山本は、大切そうにその碑文を指でなぞった。そして、手を触れたまま、頭を垂れた。

 ユリーシャは、山本の傍に佇んだまま、端末の写真を見つめていた。

 

 地上車に戻った二人は、無言で宇宙服を脱いで、前部の運転席と助手席に座っていた。

 山本がエンジンをかけたので、ゆっくりと地上車は走り出した。

 暫く無言の時間が続いていたが、山本は運転をしながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

「この火星には、今から百五十年ぐらい前に、初めて地球人が降り立ってから、少しずつ開発が行われたの」

 この火星の地では、二千年代の後半、科学者たちが、テラフォーミングの実験を行った。温暖化を促す物質の散布や、極冠の氷の一部を爆破して溶かすなど、幾つかの実験が行われた。何度かの失敗の後、それは成功して火星は二千年代の終わりごろには、徐々にその効果が現れ始めた。温暖化が進んだことによって、極冠の氷が溶け、更には各地の地下に眠っていた氷が溶けて、水が各地を覆っていった。そして、一時は洪水のような激しい水の流れが全土を覆い尽くした。水が引いて大陸が露出すると、赤茶けたこの星は、まるで地球のような水の惑星に生まれ変わった。これらの環境の激変によって、赤い空に変わって青空が広がり、温度の上昇によって、地球人が暮らすのに適した気温の状態に近づいていた。

 これらの実験を火星のオリンポス山に留まって続けた科学者たちの一団は、やがて、後に第一次火星移民団と呼ばれる団体を火星に呼び寄せた。彼らは、火星の地に最初の居住区を設けると、各地で地球から運び込んだ種子を植えて、植物の育成を行った。急速に二酸化炭素と酸素量が変化し、十数年で地球人が普通に呼吸が出来るまでになっていた。

 この時の居住区が、このアラビア市と呼ばれるようになり、初めて移民団が居を構えた地として記念碑が建てられたのだ。

「私の祖父母は、この第一次火星移民団で火星にやってきた。その彼らの親は、火星のテラフォーミングに没頭した科学者チームの一員だった。自分たちの偉業を、家族と共有したかったのか、どんな思いでここに連れて来たのかまでは、私は知らないけど」

 ユリーシャは、無言で彼女の話に耳を傾けていた。

「私は、移民団の子孫の最後の世代。私たちを最後に、この火星に住もうという動きは途絶えてしまった。それからすぐにガミラスとの戦争もあって、あの頃に起こったことを、振り返る動きも最近まで行われていなかった」

 ユリーシャは、一つの疑問を口にした。

「ここは、ガミラスとの戦争で、こんな風になってしまったの?」

 山本は、その話をどう説明したものか、頭を整理するため、少し無言になっていた。

「一部は、ガミラスのせいでもあるけど。そもそもは、内戦があったせい。地球人と火星の人は、初めての宇宙戦争をおこなった。私たち火星人が戦争に敗北した後、地球人によって、ここに築かれた都市はすべて破壊された」

 ユリーシャは、地球人がそのような時代があったことに、少し驚きつつも、彼女がそれまで見聞きしたマゼラン銀河の星ぼしでも、よく聞く話でもあった。

「そうだったんだね。辛い思い出がここにはあるんだね」

 山本は、少しだけ微笑して言った。

「私自身はそうでもない。私は、本当に小さい時にしかここには居なかった。私は、幼い時にすぐに地球に移り住んだから。でも、亡くなった両親は、時々辛そうに思い出を語っていることがあった。今回、ここに来たのは、私っていったい何者なんだろう、というのを再確認するため」

 二人は、再び無言になって、車窓を眺めていた。地上車があげる土煙は、どこまでも続くこの砂の惑星に跡を残していった。

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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