早紀と真田と新見の三人は、徳川に、ムサシの艦内を案内されていた。
「藤堂です。徳川さん、今回はよろしくお願いしますね」
徳川は、にこやかに大きく頷いた。
「藤堂長官の娘さんだってな。さぞや立派な娘さんなんじゃろうなぁ」
早紀は、父と比較されるようなことを言われるのを、快くは思っていなかった。しかし、徳川にはこのムサシの運用の最も重要な役割を負ってもらうので、それ以上は何も言わなかった。
「参加してくれて本当に助かりました。艦の機関部の運用をお任せできる人がいなくて困っていました」
徳川は、歩きながら三人の方を向いて頷いた。
「わしのような退役軍人が役に立てるなら、本望じゃよ」
「でも、本当に大丈夫だったんですか?」
新見は、少し心配そうに徳川の顔を覗き込んだ。
徳川は、頭を右手で押さえながら、少し寂しそうな表情をしてぼやいた。
「なに、退役してから孫のアイ子と遊ぶのが日課だったんじゃがな。少し大きくなった今じゃ、学校の友達と遊ぶ方が楽しいらしくてな。相手にされなくなって、暇を持て余していたんじゃよ」
最初に彼に案内されたのは、機関室だった。そこには、ヤマトと同じイスカンダル製の波動エンジンが設置されていた。
「真田くん。よくこいつを調達してくれた。わしも、久しぶりにこいつの面倒をみれるのが楽しくてな」
真田は、腕組みをして、エンジンを見上げた。
「そうですね。今回の予算のほとんどが、波動エンジンの調達に使われました。これがなければ、今回の実験は成立しませんから」
早紀も、その話題についてその苦労を語った。
「今回は、真田さんの防衛省のつてをフルに活用させて頂きました。ムサシの建造は、ヤマトのパーツの調達と、月面の艦船ドックを借りることから始まりました。そして、一番の難関は、波動エンジンの調達でした。防衛省と交渉して、ここまで漕ぎ着けるのは、かなり大変でした」
早紀は、言いたくなかったことをここで自ら口にした。
「最終的には、私自身のコネも使って」
三人は、次に艦体中央部の居住区画にある医療室を訪れた。
「あれが何なのか、わしも聞いておらんのだが。逆に教えてもらえるかね?」
そこには、十を越えるベッドがあり、病人が何人も寝かされていた。
早紀は、その光景を見て内心の動揺を悟られないように、務めて冷静に話しをした。
「あれは……。ごめんなさい。後で説明します。先に他のところを見に行きましょう」
次に、四人は、ヤマトなら波動砲制御室のある艦体の前方部分にやって来た。そこには、イスカンダル製のコスモリバースシステムが設置されていた。
それを見上げた徳川はぼやいた。
「わしは、大抵のヤマトの艦体の設備のことなら大体わかっているんじゃが、波動砲と、コスモリバースだけは、さっぱりじゃ」
真田は、冷静に徳川に言った。
「ご心配無用です。これについては、私と新見くんとで管理を行います。イスカンダルに旅した元のヤマトの艦体部品が必要だったのも、波動エンジンが必要だったのも、今回の主な目的であるコスモリバースシステムの実験を行う為です」
徳川の疑問は続いた。
「ヤマトはコスモリバースの依り代になっていた、というからなぁ。イスカンダルに旅したあの艦体が必要だったんじゃな? それで、いったいどんな実験をするのんじゃ?」
早紀は、その疑問に少しだけ回答した。
「コスモリバースシステムのもたらす惑星再生の仕組みと、その副次的な効果についての解明をする為の実験です。もちろん、今回の実験で、何もかもが解明できるとは思っていませんが、人類の未来の科学技術の発展の為に、このシステムの研究の継続が必要だと判断しました」
四人は、その後艦橋を訪れた。そこには、科学技術省の早紀の部下たちが、既に数名勤務していた。彼女たち、神崎、市瀬、日下部の三人は、早紀の姿を見て立ち上がって挨拶をした。
「藤堂さん、真田さん、新見さん。ようこそ実験艦ムサシへ。皆、待ってました」
「三日前から、皆で艦の扱いを勉強したので、準備は出来てますよ」
「今から、実験が楽しみです!」
早紀は、にこやかに皆に挨拶を返した。
「皆、先に来させてごめんね。この後、皆でミーティングして、実験の進め方を改めて確認しましょう」
新見は、その中でも見慣れた姿を見つけた。彼女は、懐かしいその姿に思わず声をかけた。
「アナライザーじゃない!」
アナライザーは、いつもの副操縦席に待機して頭の部分を回転させて後ろを見た。新見は、アナライザーの傍に来て、その頭を叩いた。
「ワタシハ、アナライザートイウ名前デハナク、AUO5トイイマス」
新見は、はっとして、その手を引っ込めた。真田は、それを見て説明をした。
「新見くん、すまない。操縦者が必要だったので、防衛軍でお払い箱になっていた旧型をただで入手してきた。私がメンテナンスしておいたので、アナライザーと同等の操縦者としての役割を果たせると思うよ」
新見は、少しだけAUO5と名乗るそのロボットをじっと見た。ロボットには目のように光る部分があり、それと見つめあった。
「わかった。あなたの名前は、今から、アナライザー。いいわね?」
「コノ任務のリーダーニモ確認シマス。藤堂サンモ、ソレデヨロシイデスカ?」
早紀は、ロボットに名前を呼ばれて、少しだけ不思議な気持ちになっていた。
「気を使ってくれたのかしら? 別にいいわよ、アナライザー」
アナライザーは、納得したのか、体のあちこちを光らせてから、頭を回転させて前を向いた。
真田は、徳川の方を向いて言った。
「それでは、徳川さん。軍艦ではないので階級やらは省略させて頂きます。アナライザーと二人で波動エンジンを起動して、目的地に発進させて下さい。我々は、下の第二艦橋で仕事につきます。今回の仕事の再確認が終わったら、次の指示するのでお願いします」
徳川は、にこやかに頷いた。
「了解じゃ。アナライザー、わしは機関室で直接波動エンジンの起動をおこなうので、ここはお前一人になるが、大丈夫か?」
「問題アリマセン」
早紀は、手を叩いて、皆に指示をした。
「じゃあ、始めましょうか!」
その後、早紀たちは第二艦橋に集まっていた。ヤマトではCICが設置されていたが、ムサシでは、艦内のコスモリバースシステムのモニタリングと、艦外で発生した事象を捉える各種のセンサーが確認出来るようになっていた。そして、あの医療室の様子も、事細かくモニター出来るようになっている。
中央にある三次元モニターが設置されたテーブルの周りに、早紀を中心に集まって最後の確認を行った。
「皆さん。今日のこの日を迎えることが出来たのは、防衛省からこちらに移籍された真田さんと新見さんのお二人のお陰です。私も、このプロジェクトを任されることになってからは、今日のこの日が来るのをずっと待ち望んでいました。皆さん、実験の成功の為、しっかりと各種の確認をお願いします」
早紀は、そこまで喋ると、隣の真田に頷いた。
「それでは、私から。段取りを確認しておこう」
真田は、中央の三次元モニターに、ムサシの航路図を表示した。
「我々の目的地は、お隣の火星だ。発進したら、火星軌道上に移動して待機する。これについては、徳川さんとアナライザーに担当して貰う」
真田は、次の図を表示した。
「これは、コスモリバースシステムのモニタリングデータだ。見ての通りこのシステムは、コアが無ければ起動することすら出来ない。現在も、全く動きが無い。この状況に変化が無いか、常にモニターしておく必要がある。これは、新見くんを中心に皆で交代で担当してくれ」
新見は、早紀の部下たちに言った。
「皆、よろしくね」
「はいっ、よろしくお願いします」
真田は、次の図を表示した。
「これは、医療室のモニタリングデータだ。これも皆で監視する。宇宙の謎の一つの解明という大きな進歩が期待される。我々は、一緒に信念に基づいてこの実験を完遂しよう」
全員が同時に返事をした。
「はいっ」
暫くして、実験艦ムサシは、波動エンジンを咆哮させて、ゆっくりと動き始めた。
真田と新見は、一区切りつくと、二人で休憩をしに食堂へ向かった。真田は、いつものようにオムシスの吐き出す固形食料を口にして、文庫本を手にしていた。新見は、コーヒーを飲みながら、真田に話しかけた。
「先生」
真田は、文庫本から目を離さずに、返事をした。
「何だね」
「古代くんと森さん、本当によかったですね」
彼女は、ここのところ、同じ話題を何度も話しかけてきていた。
真田は、微笑して新見を見つめた。自分はといえば、古代への家族のような思いを感じていたが、彼女は今まで、それほど二人のことを気にかけていたようには思えなかった。その理由について、最近考えていたことをストレートに確認してみることにした。
「君は、古代守のことを、今でも大切に思っているんだね?」
新見は、はっとして、真田から視線を反らした。
「これでも、大分忘れてきたんですよ。彼の弟の幸せを、私が願うのは変ですか?」
「そんなことはないさ。私も、同じ気持ちだからね」
新見は、目線を反らせたまま、コーヒーのカップを両手で持ち上げて、少しだけ口にした。
「コスモリバースの件ですが。私たちがイスカンダルから戻る途中、守の霊を目撃したって、前に話しましたよね?」
真田は、無言で頷いた。
「疑ってなどいないよ。残念ながら、私の前には現れてくれなかったがね」
新見は、目を閉じて言った。
「もう一度、会えないかな、なんて思ったりするんです」
真田は、文庫本を置いて両手をテーブルの上で組んだ。そして、優しい目をして、新見を見つめた。
「コスモリバースは、人の想いや、願いを叶える不思議な仕組みがあるのかも知れない。もしかしたら、本当に会えるかもしれないよ」
意外な真田の発言に、新見は、目線を真田に戻した。
「あら。先生らしくないですよ。そんなロマンチックなことを言う人じゃないと思ってましたけど」
真田は、不思議そうに言った。
「これまでの状況証拠からの、論理的な結論だ。もちろん、検証は出来ていないがね。今回、それが少しでも出来ればいいんだが」
新見はこの反応は、もしかしたら照れ隠しなのかも知れないと考えた。そして、試しに手を伸ばして真田の手に触れて見た。
「時々、優しいですよね。私、そういうところ、嫌いじゃないですよ」
真田は、触れられた手をそのままに、目を閉じて微笑んだ。
「私も歳を経て、いろいろな経験をしたということだ。科学一辺倒だった、自分を変えるきっかけをくれたのも、古代守だった。その弟にも、いろいろと教えられているみたいだしね。人の想い、感情と言うものは、理論だけでは語れない部分が多いと思うようになった。君もそうやって、私の感情を弄ぶのは、あまり誉められた行為じゃ無いと思うよ」
「あら、弄んでなんていませんよ」
真田は、手を静かに引っ込めて言った。
「新見くん。とりあえず、今は仕事だ」
「ええ。わかっています」
新見は、うっすらと笑みを浮かべて真田の目を真っ直ぐに見つめた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。