実験艦ムサシは、火星軌道に到着して、既に二日が過ぎていた。
ムサシの科学技術省の科学者と、そのスタッフは、慌ただしく観測を行っていた。
「医療室の一名の生命反応消失を確認!」
新見は、即座に指示を出した。
「医療室とコスモリバースのセンサーに注目!」
「はい!」
日下部と市瀬は、それぞれのデータを食い入るように見ていた。真田も、冷静に神崎に指示をした。
「波動エンジン内の変化を見逃すな」
「わかっています!」
神崎は、波動エンジン内の状況のデータが表示されている端末のグラフを睨むように見ていた。
早紀は、全員の動きを見つつ、全体の状況を固唾を飲んで見守っていた。
その時、神崎は何かを発見して叫んだ。
「波動エンジン内で生成されたマイクロブラックホールに変化があります! ホーキング輻射の反応が三パーセント程小さくなっています!」
日下部も報告した。
「医療室付近から機関室と波動砲制御室付近に渡って、微弱な静電気の反応がかすかにあります!」
市瀬も続けて報告した。
「見てください! コスモリバースシステムにコアが生成されつつあります!」
早紀も、皆の様子を見て、その興奮が頂点に達していた。真田が、コスモリバースシステムのモニターをチェックして言った。
「コスモリバースシステム、始動確認」
市瀬がそれを補足した。
「コスモリバースシステムの起動パルスを観測しました」
早紀は、真田に確認した。
「どうですか?」
真田は、早紀に向かって頷いた。
「シミュレーションの結果とほぼ同じと言っていいだろう。我々の理論は概ね間違っていなかったと思われる。一旦は成功と言って問題無いだろう」
「先生、遂に、やりましたね!」
新見が右手を伸ばしてきた。真田は、その手をゆっくりと握った。
「皆の協力のおかげだよ。この後、記録したデータの分析に入る。皆、気を抜くなよ」
「はい!」
彼らは、一頻り分析を行った後、コスモリバースシステムの稼働が安定したのを確認して、医療室を訪れた。
そして、全員で黙祷を捧げた。
医療室には、真田のつてで参加をお願いした加藤の父が、お経を唱えていた。
早紀は、このことにずっと心を痛めていた。この実験の為とは言え、余命僅かな人を集める行為は、彼女の仕事の中でも最も辛いものだった。
「新見さん。私……」
新見は、早紀の肩に触れて言った。
「倫理的な問題は、皆、認識してるし同じ気持ちよ。でも、決して違法なことをしている訳ではない。本人たちも、この実験に賛同してくれた人だけに参加をお願いしたじゃない。そんな風にしていたら、あの方たちにかえって失礼なんじゃない? しっかりして」
早紀は、静かに頷いた。
加藤の父は、お経を唱え終わると、他の病人に挨拶をしつつ、ゆっくりと早紀たちの元へやって来た。
「真田さん。私なんかでよかったんだろうか。亡くなった仏さんは、日本人じゃなかったよ」
加藤の父はぼやいた。真田は、彼に頭を下げて謝罪した。
「申し訳ありません。他に、お願い出来る方がいなくて。ただ、事前に皆さんには、宗教的にそれぞれに合った儀式を行うのが難しいことは伝えていましたので。ご納得は事前に頂いていました」
加藤の父は、落ち着いた様子で真田の肩を叩いた。
「頭を上げてくれ。あんたも私も出来ることをやった。想いはあの仏さんの神様にも届いたと信じよう」
彼らは、医療室から戻り、第二艦橋の中央テーブルに集まった。そして、今回の検証結果について議論していた。そして、概ね事前にまとめていた理論通りの結果となったことを確認した。
「今回の検証ではっきりしたのは、コスモリバースシステムよりも先に、波動エンジンが反応を起こしたことだ。そして、その後にコアの生成があり、システムが始動する流れだったことに注目している」
早紀は、真田に聞いた。
「コアの生成自体に波動エンジンが必要だったということでしょうか?」
真田は、前にイスカンダルを訪れた時のことを思い出していた。
「新見くんと私は、イスカンダルでスターシャが用意した小さな装置によって、意図的にコアの生成が出来ることを目撃した。この事実は、逆にあの装置が無くても、波動エンジンがあれば、それが実現出来ることを示している。しかも、亡くなった方を検知して自動的に反応を起こしたと推測される」
新見は、三次元モニターに、波動エンジン内を観測したグラフを表示した。
「これが、アイドリング中の通常の波動エンジンのエネルギー放射のチャートです。こっちが、先程のもの。エネルギー放射が僅かに少なくなっています。これは、余剰次元の取り込みや生成されたマイクロブラックホールが消滅する動きが弱まったことを示しています。お亡くなりになった方が、余剰次元に対して何らかのアクセスを行い、この事象が起こったと考えられます」
日下部は、その点について、意見を言った。
「あの。医療室と波動エンジンとコスモリバースを結ぶように、かすかな静電気の反応が一瞬だけ観測されました。もしかして、これが、そのアクセスした瞬間ということでしょうか?」
新見は、頷いて言った。
「前に調査したことがある。私は、以前ヤマトで、知人の霊を目撃してしまったことがあります。その時の艦内のセンサー記録にも、静電気のようなかすかな反応があったことがわかっています」
真田は、その情報を更に補足した。
「前に、もう一度ガミラスに向かった時に、テレサという存在に出会った。強い電気的な反応が宇宙空間に発生し、テレサの像が現れた。あれも、規模が大分大きいが、同種の反応だと推測している」
「私たちって、もしかして……心霊現象を科学的に解明してしまったんでしょうか?」
市瀬は、不安そうに言った。
真田は、頷いた。
「解明は少し言い過ぎだが、一部はそう考えて差し支え無いだろう」
市瀬は、続けて発言した。
「コスモリバースシステムが始動してから、ムサシの艦体にニューラルネットワークのようなものが構築され始めています」
「それも、以前ヤマトで観測した状態と一致している。実験の第一段階は成功と言っていいと思う」
早紀は、一人でコスモリバースシステムの設置してある波動砲制御室を訪れた。コスモリバースシステムが稼働する静かな音が、部屋に響いていた。
「凄いことを私たちやっているみたい」
コスモリバースシステムの装置の端に触れて、彼女は感無量だった。
「ヤマト計画を実現したお父さんに、少しは近づけたかな?」
真田と新見は、再び食堂に来て休憩をしていた。
「先生」
「何かね」
新見は、真田がいつものように、文庫本から目を離さずいるのを眺めながら、話をふってみた。
「あの時……。コアになっていた古代くんは、コスモリバースシステムを一度動かした。でも、その後コアは消失して、システムは完全に沈黙してしまった。その後、システムを始動したのって、やっぱり沖田艦長がコアになったからですよね」
「恐らくね。今回の実験と全く同じことが、あの時起きたんだと思う」
新見は、古代守とイスカンダルの旅に想いを馳せた。沖田艦長がコアになり、その前にコアだった守の存在はどこへ行ったのだろう。高次元の、認識不可能な世界の存在になってしまったのか、それとも永遠に存在が消滅してしまったのか。そこまで観測するのは、今の科学では難しいだろうと彼女もわかってはいた。そして、これから行うことになる最後の実験について考えていた。
「最後の実験ですけど。先生は、何が起こると思いますか?」
真田は、視線を新見にやっと向けてから言った。
「正直わからないことが多い。次の実験、コスモリバースシステムの起動は、前回地球で使った時にも十分なデータが取れていない。ただ、様々な奇跡と呼べる出来事が、世界各地で広範囲に同時に発生したのは間違いない。残念ながら、今回どこまでデータが取れるか、予測するのは難しい」
新見は、それについて、少し思うところを言った。
「情報部の星名くんによる、コスモリバースシステム起動時の調査レポートですよね。地球の各地で生命の甦り現象があったという。これが事実なのか科学的に解明出来るといいんですが」
真田は、重々しく頷いた。
「その甦り現象について、私も惑星再生の仕組みの解明の次に、最大の感心を持っている」
新見は、その件について、ずっと考えていたことを話した。
「あの時、きっと森さんの命を、弟の為に古代くんが救ってくれたんですよね。なんと言うか、人の想いって、奇跡を起こせるってことじゃないですか。これが、解明出来たら、世界の常識がひっくり返ると思います」
真田は、口元を緩めて少しだけ笑った。
「私たちの手で、ひっくり返してやろうじゃないか」
新見は、真田の表情を見て、難しい顔をして言った。
「なんだか、マッド・サイエンティストみたいですよ?」
そう言われて、真田は苦笑した。
「そうかね? しかし、それなら君だってそうじゃないか」
新見は、ちょっと違うイメージをしていた。
「私は……。差し詰め、魔女ってところでどうですか?」
真田は、思わず新見が魔女の扮装をしているところを、想像してしまった。
「なるほど。とても似合うと思うよ」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。