宇宙戦艦ヤマト2199 妄執の亡霊   作:とも2199

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宇宙戦艦ヤマト2202とは別の世界線を歩んだ宇宙戦艦ヤマト2199の続編二次創作小説「妄執の亡霊」です。「白色彗星帝国編」、「大使の憂鬱」、「孤独な戦争」の続編になります。


妄執の亡霊7 旅人の墓標

 火星の旅は、そろそろ、エリシウム平原を抜け、最後の目的地であるアルカディアに近付いていた。左手に、エリシウム山と、オリンポス山が彼方に見えていた。それぞれ、一万六千メートルと二万メートルを超える巨大な山で、かなりの距離があるはずだったが、巨大であるがゆえに、緩やかにそこも山の麓になっていた。

 

 昨日は、ユリーシャに恥ずかしいところを見られたと山本は思っていた。二人の距離は、逆に遠ざかり、昨日から無言で過ごす時間が多くなっていた。ユリーシャはというと、彼女もあまり喋らなくなっていた。

 再び、人工物が、散乱している場所に出たため、時おり地上車を停め、山本とユリーシャは、車内から物体を観測した。物体は、明らかに宇宙船と思われ、次第に大き目な破片が見られるようになっていた。

 山本は、過去の戦争のこともあるため、そういう落下物がある場所もあるだろうと、車を止めて車外に出てまで調べる必要は無いと判断していた。

 ユリーシャは、昨日までのだらけたような素振りは無くなり、逆に起きている時間が長くなっていた。昨夜は、真夜中にユリーシャが車を運転しようとして、山本は飛び起きるはめになっていた。どうしたのか聞いてみても、要領を得ない為、山本は半ば諦めていた。

 

 そうして、暫く地上車を走らせていると、地平線に、大きな物体が見えてきた。

 ユリーシャは、突然大きな声をあげた。

「あそこの近くで停めて! お願い」

 山本は、驚いて思わずユリーシャの方を見た。そのユリーシャの表情は、真剣そのものだった。山本は、少ししてから返事をした。

「……わかった」

 近づくに連れ、その物体が宇宙船の残骸であることがはっきりとわかった。山本は、見たことの無い、その風変わりな船体が、地球でもガミラスのものでも無いのに気が付いた。

 そして、そこまできて、ようやくユリーシャは、この旅に着いてきた本当の理由を話し始めた。

「あれは、私の姉の船。この火星で亡くなったって聞いてるの。……やっと、見つけた」

 山本は、はっとした。そして、記憶を辿ってそのことを思い出そうとしてみた。ユリーシャの後に、波動コアを持ってやって来た、もう一人のイスカンダル人がいたという話を聞いたことがあった。

 成功するかわからなかったヤマト計画。推進する藤堂をはじめとした関係者の間でも、ユリーシャがテロにあって生死をさ迷っていたこと。そして、その後波動コアを持ってきたイスカンダルの使者が亡くなってしまったこと。これらの情報は極秘扱いになっていた。士官としてヤマトに乗艦した山本でも、その情報は曖昧にしか伝わっていなかった。

「私も、あなたのお姉さんが亡くなったというのは知っていたけど、それがここだとは知らなかった」

 ユリーシャは、無言で頷いた。

 地上車は、そこにあった、恒星間連絡航宙船シェヘラザードの残骸の目の前に停車した。

 

 二人は、宇宙服を着て車外に出て、宇宙船の残骸を調べていた。

 ユリーシャは、しゃがんでコックピットやその後部の辺りを調べていたが、そこにあるべきものが無いのを確認した。立ち上がって、周囲を見回して、途方に暮れているようだった。

「どうしたの?」

 宇宙服の通信機で、山本はユリーシャに呼び掛けた。

「脱出カプセルが無い。多分、墜落する前に脱出したんだと思う。前に、古代から聞いた話と一致している」

 山本は、少し驚いて聞いた。

「古代さん?」

 ユリーシャは、自分の携帯端末を取り出すと、火星の地図を表示していた。

「古代と島が、アルカディア宇宙港というところの跡地で、お姉さまを迎える為に待っていたそうなの。でも、船体に故障でもあったのか、墜落して脱出カプセルが飛び出したと。カプセルが何処か近くに落ちたはず。探しに行ってもいい?」

ユリーシャは、地図を見ていた視線をあげ、山本の方に振り返った。その山本は、優しい表情になって微笑んだ。

「もちろん。でも、捜索範囲が広そうだから、車に戻ろうか」

 ユリーシャは、嬉しそうに頷いた。

 

 地上車に戻ると、シェヘラザードの残骸を中心に周囲を回りながら、徐々に外側へと捜索範囲を広げていった。この方法なら、時間はかかるが必ず見つかるだろう。

「どう?」

 山本は、ナビゲーションシステムの表示を見ながら、ハンドルを切り続けて地上車を走らせた。

ユリーシャは、車窓を見逃すまいと、周囲に目を光らせていた。

「あ、あれ!」

 ユリーシャが指差す先に、確かに何か大きめの物体があった。山本は、ハンドルを逆に切って、その方向へ車を向かわせた。

 見えてきたのは、凍りついた地面からその一部を突き出した、カプセル状の物体だった。山本は、ブレーキペダルを静かに踏み込んで、その近くに地上車を停車させた。

 二人は、再び宇宙服を着て、車外へと降り立った。

 ユリーシャは、地面から斜めに突き出したカプセルの先端が露出しているのを確認した。凍りついたそれは、固そうに凍る地面と一体化しているようにも見えた。

「古代と島は、ここでお姉さまのカプセルを地面に埋めて、お墓を作ったそうなの」

 しかし、辺りを見ても、その墓らしきものは既に無く、恐らく砂嵐か何かの気候の変動によって、失われてしまったのだろう。火星の気温は、年々刻々と下がってきており、カプセルがここに落下してから、既に五年近くの年月が流れていた。その間にこの場所は極寒の地へと変わってしまったのだろう。かつて、地面に埋めることが出来るほどの砂があったはずが、今では凍りついて、地面に埋めたものが中から押し出されてしまっていた。

 ユリーシャは、カプセルの中を覗こうとしていたが、凍りついた地面の中に埋まっているため、このままではそれは不可能だった。

「玲、お姉さまの姿を確認したいんだけど。何とかならないかな?」

 山本は、遺体が悲惨な状態かも知れないのに、それを覗こうとする感覚がよくわからなかった。しかし、出来れば、彼女が思うようにしてやりたいとも考えた。

「少し待ってて」

 山本は、地上車の屋根に載せてあった装備品を降ろして、中から極寒地用の融氷剤の入った缶を取り出した。そして、地上車の後部の蓋を開けると、先端にシャワーヘッドのようなものがついたホースを取り出した。先程の缶を、ホースの先端にあるアタッチメントを接続する箇所に取り付けた。

「車体が凍った時に、氷を溶かす為の道具だけど、これを試してみる」

 ユリーシャがカプセルから離れて後ろに下がったのを確認して、山本はヘッド部分のレバーを引いた。ポンプで周囲の気体を圧縮したものが、ホースを通じてスプレー缶の中身を押し出した。そして、シャワーのように融氷剤が吹き出し、カプセルの周囲に振り掛けられていった。

 ユリーシャは、山本が作業を進める間、そこに座り込んで黙って様子を眺めていた。

 山本は、手を止めて彼女に話しかけた。

「こんなものかな。後は、手で砂をどけようか」

 ユリーシャは、立ち上がってカプセルの傍にやって来た。カプセルを凍らせていたものが、明らかに融けており、確かに手で砂を掻き出せそうだった。

「ありがとう」

 彼女は一言いうと、その場にしゃがみ込んで、一心不乱にその作業を始めた。山本も、彼女の近くに座って、同じように砂を掻き出す作業を行った。

 一時間も二人でそうして砂を掻き分け続けると、カプセル全体が移動できる程に地面から露出した。

 ユリーシャは、疲れをものとせずにカプセルの表面の砂を掻き分けていると、ようやく内部が見えてきた。

 そこには、まるで生きているかのような、女性の遺体があった。遺体の損傷も特にみられず、カプセルの中で、生きたまま眠っているかのようだった。彼女は、今にも起き上がりそうな雰囲気だった。

「お姉さま。やっと会えたね」

 ユリーシャは、カプセルを抱き締めるように、そこに覆い被さっていた。

 山本は、携帯端末を取り出して、装備品のセンサーを取り付けた。そして、その女性の生命反応を確認するが、当然何の反応も無かった。山本は、端末を片付けて、腰の装備品をぶら下げるストラップに繋げた。彼女は、その女性を近くに寄ってよく眺めて見た。

「あなたによく似てる」

 ユリーシャは、ゆっくりと立ち上がった。

「お祈りを捧げる。玲も一緒に祈ってくれる?」

「もちろん。彼女はあなたと同じ地球の恩人だから。名前は、確かサーシャさんだったよね?」

 ユリーシャは、小さく頷いた。

 二人は、ただそこに立ち尽くし、永遠の祈りを捧げた。

 彼女は、星ぼしの救済に命をかけた、イスカンダルの聖人なのだから――。

 

 二人は、地上車に戻り、エンジンを始動した。山本は、そこを後にして、最後の目的地、アルカディア市の方角に車を走らせた。

 二人は、無言で先程の出来事を振り返っていた。最初に口を開いたのは、山本の方だった。

「私たち火星人が去ってから、テラフォーミングを維持していた設備が破棄されて、ここは昔の火星の状態に徐々に戻っていった。気温が大幅に低下したおかげで、サーシャさんの遺体も保存されたんだと思う。こういうのを不幸中の幸いって言うのかな」

 ユリーシャも黙って頷いていた。

「出来れば、故郷に連れて帰りたいんだけど。いいかな?」

「当然じゃない。ぜひやらせて。それよりも、アルカディア市に行ってからで本当にいいの?」

「だって、この旅は、玲の為のもの。私は、ここを訪れるチャンスに飛び付いて、おまけで着いてきた立場だから。それに、ここには、誰もいないから、お姉さまは大丈夫。少しだけ、我慢してもらうけど、きっと許してもらえると思うよ」

 山本は、ちらとユリーシャの方を向いて、また視線を前方に戻した。

「後で、宇宙船に戻ったら、ここに戻って来よう。この地上車を置いて、代わりにカプセルを宇宙船に積んで帰ろう」

 ユリーシャは、微笑して頷いた。

「ありがとう。玲」

 

続く…

 




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。
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