新見は、早紀の指示に従って、コスモリバースシステムを起動スイッチをオンにした。
コスモリバースシステムが、金色に輝き、それが輝く環のように広がり始めた。
ムサシの外部でも、艦を中心に同心円状に金色の環が広がっていき、それは徐々に火星全体を覆うようにどんどん大きくなっていった。
「何? 何なのこれ?」
山本は、突然、周囲全体が金色の光に包まれていくのを目撃した。そして、それは辺りが何も見えなくなるほどの強い光だった。
ユリーシャは、その光が意味するところにすぐに気が付いた。
「まさか……。あれを使ったの? ここで?」
暫くすると、宇宙からも見えるほど、火星全体が金色に輝きを放っていた。
山本は、眩しい光の中で目を凝らして辺りを見回した。すると、光の中から、何かが現れて来るのが見えた。
「あ……あれは!」
彼女の目の前に、かつてのアルカディア市の都市が現れた。それは、確かに現実にそこにあった。都市には、大勢の人々がいるのが見えた。
山本は、走ってアルカディア市に向かった。そこに足を踏み入れると、人々の喧騒が聞こえてきた。
そこには、多数の建築物が建ち並び、道路が張り巡らされていた。多くの車が行き交い、道路の端の歩道を大勢の人が歩いていた。
宇宙からは、宇宙船が降りてきて、市の傍にあったアルカディア宇宙港に入港していった。逆に飛び立っていく船もある。
山本は、恐る恐る宇宙帽を外して、空気を吸ってみた。普通に呼吸が出来るのを確認して、更に足を進めて街の中を歩いていった。そして、だんだんと足が早まり、最後は走り出していた。
息を切らして走って行くと、そこは、山本の住んでいた家の前だった。
白くて丸い屋根のドーム状の家で、家の傍には庭があった。暫く、彼女が呆然と眺めていると、家から男女が出てくるのが見えた。
「うそ……。母さん、父さん?」
山本は、目を見開いてそれを見つめた。そして、母と手を繋ぐ小さな男の子がいた。まだ五歳ぐらいだろうか。グレーの髪で赤い瞳をした紛れもない火星人の子供だった。
「兄さん!」
山本は、思わず庭に出てきた両親と兄の元に駆け寄った。
不思議そうに、彼らは彼女を見ていた。
「どうしたの、玲? 今日は、お庭の野菜の収穫を一緒にやろうって約束してたでしょ。どうするの?」
山本の母は、普通に彼女に声をかけてきた。
その手に引かれていた小さな兄、明生が、自分を見て笑顔を向けてきた。
「玲、一緒にやろう?」
明生は、小さな手を彼女に向けてきた。山本は、一瞬躊躇したが、その手を握りしめた。彼女は、夢なのか現実なのか迷っていたが、その感触は、確かに現実のものだった。
そうやって、迷いの中でふと気がつくと、自分の体が小さくなっているのに気がついた。彼女は、思わず明生に抱き付いた。
「お兄ちゃん!」
明生も、山本の体を抱き締めながら、笑顔で言った。
「玲、どうしたの? 何かあったの?」
小さな明生が、自分を心配してくれている。ふと見上げると、母さんも父さんも心配そうにしていた。
「どうしたの? 何か怖いことでもあったの?」
母が、心配そうに聞いてきた。
「あったよ、いっぱい。だって、皆、私を置いて、死んじゃうんだよ」
「皆、玲の傍にいるじゃないか。何も心配いらないよ」
父がは、笑って言った。
「怖い夢でも見たのね」
母は、彼女を抱き締めた。
皆、ここにいる。
私は、恐ろしい夢を今まで見ていたんだ。
どうして、あんな酷い夢を見てたんだろう?
彼女は、この平穏を取り戻して安堵の涙を流した。
ユリーシャは、金色の光の中で、山本が宇宙帽を脱ぐのを見た。
「玲、駄目だよ!」
ユリーシャは山本の傍に行こうとするが、足が思うように動かなかった。
「玲!」
ふと気が付くと、今度は地球の自分の家だった。そうか、さっきのは夢か、と玲は思っていた。
ガミラスとの戦争が激しさを増し、防衛軍の仕事で出撃した兄が、任務からなかなか帰って来なかった。心配で夜も眠れず、彼女は、やつれていた。今日も帰ってくるかわからない兄の為に、彼女は夕食を用意し、食卓のテーブルに座って待っていた。自分の長い髪の先をくるくると弄りながら、今か今かと明生の帰りを待っていた。
すると、突然ドアが開き、その明生が帰って来た。
「ただいま!」
玲は、席を勢いよく立って玄関に向かった。明生は、元気な様子で、そこに立っていた。彼女は、安堵して笑顔で言った。
「お帰りなさい。夕食、出来てるからね」
その兄明生は、着替えて食卓に着くと、一週間ぶりぐらいで一緒に食事をとった。
「今回は大変だった。仲間が一人殺られちまったよ」
玲は、箸を止めてそれを確認した。
「兄さんは、本当に大丈夫だったの? 怪我とかしてない?」
「偵察は、生きて帰るのが任務だから。心配するな。この通り、ぴんぴんしてるよ」
「よかった」
玲は、笑顔で言った。明生が、そんな彼女の顔を、顔を近づけてまじまじと見た。彼女は、少し顔を赤くして言った。
「な、何かついてる?」
「なぁ、玲。お前、ちゃんと食べてるか? また痩せたんじゃないか?」
玲は、確かにここのところ兄の心配をし過ぎて食が細くなっていたのは確かだった。
「大丈夫。ちゃんと食べてるよ」
玲は、兄を心配させまいと嘘をついた。
食事が終わって玲は後片付けをしていた。
「玲、たまには俺がやってやるよ。座って休んでな」
明生は、玲から皿を奪うと、流しに持っていき、すぐに洗い始めた。
「兄さんこそ、疲れて帰って来たんだから、休んでて」
「いいから、いいから。お前が元気無さそうに見えるし、少し休んでな」
いつだって明生は、玲に優しかった。
手持ちぶさたで、玲は皿を洗う兄の傍に立って洗い終わった皿をふいて、片付けることにした。
「それじゃぁ意味無いだろ」
「いいの」
ふと、気になっていたことを、兄に聞いた。
「あのね。軍で、誰か女の人と仲良くなってたりしてないの?」
明生は、怪訝な表情で、すぐに返事をした。
「いないよ。そんな人。何で?」
玲は、顔が赤くなっていたのを、見られまいと、髪で顔を隠した。
「か、彼女ぐらい、出来たかなぁと思って」
「お前がいるしな。彼女なんて、いらないよ」
明生は、ごく普通に回答してきたが、それを聞いた玲は、耳まで真っ赤になっていた。明生は皿洗いに集中していたので、気づいていないようだった。
「そ、そうなんだ。妹としては、心配かな」
「そういうのは、平和になってからでいいよ。お前がいれば、後は何もいらない」
玲は、つい、明生の背に寄りかかってしまった。
「重いよ。どうかした?」
「ううん。何でもない」
「玲!」
ユリーシャは、諦めずに叫んだ。
山本は、そこではっと気が付いた。金色の光に包まれて、ユリーシャの姿を見つけることは出来なかった。
そうか、今のは夢だったのか。
山本は、途端に悲しくなってきた。
それにしても、とても現実的な夢だった。
「ユリーシャ! どこ!?」
彼女は、辺りを見回した。
「宇宙帽を取っちゃ駄目だよ!」
山本は、手で頭を押さえた。確かに何も被っていない。慌てて、宇宙帽を探すが、何処にも見当たらなかった。しかし、呼吸は普通に出来ている。いったいどうなっているのか、山本は何もわからず、困り果てた。
すると、光の中から、影が近付いて来た。
「ユリーシャ?」
近付いて来る影が、徐々に見えてきた。山本が目を凝らすと、それは、一人の男性だった。
「ま、まさか……!」
光の中から現れたのは、死んだ明生だった。
「……玲。久しぶりだね」
山本は、今度こそ、夢じゃないと思い、驚愕のあまり声がすぐに出なかった。
「に、兄さん?」
明生は頷いた。
「本物だよ。髪、切ったんだな」
山本は、頭を手でさわって確かめた。そう。髪を切った今の私だ。
明生は、いつもの優しい笑顔で言った。
「前のも好きだったけど、今の髪型も似合ってるよ。綺麗になったな」
そうだ。こんな風に、兄はいつも私を惑わせた。私が、兄のことを大好きだと知っていて、からかっていたのかも知れない。それでも、兄に会えたことが、彼女は、嬉しくて堪らなかった。
「どうして? ガミラスとの戦争で兄さんは……」
明生は、少し寂しそうにしていた。
「そう。俺は死んだ。何故かよくわからないけど、何かに呼ばれたんだ。そうしたら、ここに戻ってこれた」
山本は、間違いなく本物だと確信して、その兄に向かって走り出した。
「兄さん!」
そして、明生も手を広げて待っていたので、そのまま胸に飛び込んだ。明生も、優しく彼女の身体を抱き締めた。
「玲。会いたかったよ」
「私も、ずっと。ずっと、会いたかった」
二人は、そのまま暫く抱き合った。
明生は、ふと何かに気がついて、玲の身体を少し離した。
「ああ。もう帰らなきゃいけないみたいだ」
「ど、どうして?」
「もう、元の世界に戻らなきゃいけないらしい」
「い、行っちゃやだ! ずっと、一緒にいてよ、お願いだから……」
「無理を言うなよ。俺、死んでるんだぞ」
「だったら、私がそっちに行く!」
「バカなことを言うな。そんなことしたら、お前のこと嫌いになるぞ」
「そ、それは嫌だけど……」
「お前に頼みがあるんだ」
「何?」
「ここを、守って欲しい。また、火星で人が暮らせるように」
「そんなの無理だよ」
「大丈夫だよ。俺たちの故郷を守ってくれ。そうしたら、いつかまた会えるさ」
「いつかって、いつ?」
「お前が、一生を幸せに過ごしてからかな」
「兄さんがいなきゃ、幸せになんてなれないよ」
「俺は、お前が大好きだった。お前もそうだったよな。でも、兄妹でそんなのおかしいだろ。俺は、お前の幸せをずっと願ってる。今までも、そしてこれからも。必ず、いい男を見つけて、子供でも作れよ。俺は、こっちでお前を見守ってる。約束を守らなかったら、嫌いになるからな」
「酷いよ。そんなの脅しだよ」
「かもな。約束だぞ!」
光が強くなり、明生の姿が見えなくなった。
「兄さん、待って! 行かないで!」
輝いていた火星の光が徐々に収まり、やがて光は消えた。そして、火星は、海を抱えた青い星に生まれ変わっていた。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。