Dear Welsh Dragon   作:黒天気

1 / 7
彼は、俺にとって太陽だった。
俺を照らしてくれた、掛け替えのない暖かい存在だった。

彼は、俺にとって星だった。
俺の行方を示してくれた、何よりも大事な親友だった。

彼は――


Dear Welsh Dragon

 意識がかすんでいく。

 力が抜けていく。

 俺の内側にいる相棒も、すでに虫の息だ。

 人語を介することすらできない木端ドラゴンとは言え、ドラゴンだ。

 この毒は俺以上に辛いだろうに、相変わらず意地だけは張るやつだ。

 

 

「無事、か、イッセー」

 

 

 声を出すだけで、もう死力を尽くすという表現が合うんじゃないかと言うほどに、声を出すことさえつらかった。

 だが、まだ死ねない。

 まだ、死ねないんだ。

 俺は、まだ、やり遂げられていないんだ……!

 

 

「当、たり前……だろ、まだ、おっぱい、揉んで、ねえ……だから、な」

 

 

 隣で俺と同じように倒れ込んでいる赤い鎧。

 兵藤一誠。通称イッセー。

 俺の親友であり、俺を天才だと呼ぶ人物であり、俺を救ってくれた人物だ。

 その彼も、今は俺と同じくサマエルの毒を受けて瀕死の状態だ。

 イッセーは赤龍帝。ドラゴンであるなら、この呪いの毒は避けられない。

 オーフィスは何とかなりそうか。

 なら、俺はイッセーを助けよう。

 ――いや、こんな俺でも、きっと障壁一枚分くらいは熟してみせる。

 

 

「禁、手」

 

『おい、冬也。何をする気だ! 今、力を行使すれば死期を早めるだけだぞ!』

 

「心配、するな、ドライグ…………お前、の、っ、宿主、くらいは……ッ、何とかするッ」

 

 

 俺の神器は『龍の手』。最もポピュラーな神器で、所有者の力を二倍にする効果を持つ。

 そう、普通の『龍の手』だ。

 亜種だったら、主役を張れたかもしれないが、そんなことはなく、中に封じられていたのもギリギリトカゲではなくドラゴンと呼べるようなヤツだ。

 そして、俺も才能があったわけじゃない。

 どこまでも平凡で、チンケで、とてもグレモリー眷属に相応しくない眷属だった。

 

 そもそも俺の駒は、半分に欠けたポーン。

 残りの半分はイッセーの中にあるから、イッセーのおこぼれ、オマケもいいところだ。

 ろくにプロモーションすらできない駒なんていらないだろうに。 

 よくリアス部長は俺を捨てないでいてくれたものだ。

 むしろ駒を摘出して、イッセーに加えてやった方がよかっただろう。

 

 ずっと足を引っ張ってきた。

 駒王協定が結ばれた、あの時からずっと。

 レーティングゲームの時も、禍の団とやりあってた時も、ずっとみんなにおんぶに抱っこされて生き延びてきた。

 アーシアのような能力もないくせに戦闘力も決して高くない俺は、グレモリー眷属のウィークポイント。俺を倒す旨味すらないから、囮としての価値すらない。

 アザゼル先生からも才能はない。諦めろって言われるくらいだ。

 

 そんな俺でも、みんなは見捨てなかった。

 何よりイッセーは、そんな俺でも、ずっと信じてくれていた。

 だから、頑張ってこれた。

 だからこそ、俺はきっとこの禁手に至れたんだと思う。

 禁手『龍の加護』、選んだものを倍加させる。

 こんな俺の禁手は亜種であった。

 きっとこの時のためだったに違いない。

 よくやったぞ、俺。

 

 だから、最期くらい気合を入れてやり切れ!

 

 

「イッセーの治癒力・生命力・抵抗力を倍加」

 

『そんなものは自分に使え! 本当に死んでしまうぞ!』

 

「俺よりもイッセーだろうが!」

 

 

 そう、俺なんかよりもイッセーが生き延びないと。

 俺が生き残っても邪魔なだけだ。

 何の役にも立たない。

 でも、イッセーは違う。

 イッセーは赤龍帝、みんなの希望だ。

 それだけじゃない。

 みんなを引っ張っていく旗印だ。寄る辺だ。

 だから、こんなところで死んではいけない。

 俺の大事な人たちを守ってくれる、俺の何よりも大事な親友。

 そんな奴を絶対に死なせてなんてやるものか。

 

 

「ドライグ、俺を取り込め」

 

『な、何を言う』

 

「俺の身体は、もうだめだ。下半身と左半身の感覚がすでにない」

 

『っ』

 

「だから、頼むよ、ドライグ。俺に、もう少し頑張らせてくれ」

 

 

 俺の身体を捨てれば、中にある駒がおそらくイッセーに吸収される。

 そうなれば、少しは状態も和らぐかもしれないし、何より本来の駒八個分のポテンシャルを発揮できるようになる。

 さらに取り込まれれば、俺の意識はおそらく神器の中へと向かう。

 そこからならば、俺がかけた倍加の力を維持できるだろうし、何よりイッセーの魂を守れるかもしれない。

 

 ドライグは一瞬悩んだ様子であったが、すぐに俺に対して了承を返してくれた。

 

 

「ありがとう、ドライグ」

 

『すまんな、冬也。俺には大したことはできん』

 

「何、言って、んだよ、冬也、ドラ……イグ。冬也、お前……っ!」

 

「ははは、すまんな。イッセー。

 ドライグ、頼む」

 

『あぁ』

 

 

 怒ったような声色のイッセーを無視して、俺の意識が一瞬暗転する。

 しかし、その次に目が明けると、そこにあったのは、白い空間。

 神器の中の世界、イッセーの持つ『赤龍帝の籠手』の中。

 イッセーが先輩たちと呼ぶ歴代赤龍帝の残留思念たちが、イッセーを毒から守っていた。

 俺は、さらにその前に立って、毒を一身で受け止める。

 

 

「ぐぉお……ぐ」

 

 

 痛みを超えた何か。

 俺と言う存在が瞬く間に削り取られていく。

 だが、耐える。耐えろ。

 

 俺と初めて会った時を覚えているか、イッセー。

 俺は覚えている。

 イッセー、一人で遊んでいた俺を遊びに誘ってくれたよな。

 あれは、本当に嬉しかったんだ。

 それからはよく一緒に遊ぶようになって、気が付くと隣にいるのが普通になってた。

 きっと俺が女の子だったら、お前に俺の全部をささげていたくらいだ。

 ありがとう、イッセー。

 俺はお前より前にいようとずっと努力を重ねてきた。

 そんな俺をお前は天才だって笑ってくれたけど、違うんだ。

 俺は必死だったよ。

 こんな俺に失望されないように、必死で必死で、ずっと怖かった。

 そんな俺をずっと親友だって言ってくれてたお前は、俺からすれば本当に救いだったんだ。

 イッセーは、俺とは違ってできるやつだ。

 

 お前だからこそ、アーシアを救えたんだ。

 お前だからこそ、部長は望まない結婚をせずに己を貫けたんだ。

 お前だからこそ、祐斗は復讐の先を見れたんだ。

 お前だからこそ、朱乃さんは自分の生まれを受け入れられたんだ。

 お前だからこそ、子猫ちゃんは黒歌と仲直りできたんだ。

 お前だからこそ、オーフィスも変われたんだ。

 

 お前だからこそ、俺もここまで来れたんだ。

 

 生きろ、イッセー。ここは、お前が死ぬ場所じゃない。

 お前は腹上死でもしてろ。

 そして、言わせてくれ。

 

 

「これまでありがとう、イッセー。

 こんなどうしようもない俺を親友だって言ってくれて。

 本当にありがとう」

 

 

 そして、俺の意識はかき消されるように、深い闇へと消えていった。

 




ついカッとなって書いた。
あまり反省はしてない。

何のこっちゃわからないような駄文ですが、失礼しました。

時間軸的にはシャルバ戦後のサマエルの毒に侵されているシーン。

本来イッセーとオーフィスだけが行くところに無能なオリ主を突っ込んだもの。

この主人公の設定としては
・神器は『龍の手』
・戦闘能力は普通、ごくごく一般的な悪魔程度
・イッセーの幼少期からの親友
・イッセーに対して憧れ以上の友愛を抱いている
・秀才?
・悪魔への転生に使用された駒は色々あって半分に折れたポーン(残りはイッセーの中)
・ヒロインなし
・イッセー盛り立て要因
くらいしか考えてない。

何て言うか、基本的に誰かとイチャラブしているのが多いので、少しくらいこうやって救いのないやつが欲しいと思って生まれたのが、どうしようもない弱い主人公もの。
主人公補正のかかっていない一般人。

このBADENDで終わる話を書こうかと思ったけども、きっとモチベーションが保てなさそうなので、こうやって短編として投稿。
その内イッセー視点くらいでは書くかも。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。