Dear Welsh Dragon   作:黒天気

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アイツは、俺にとって憧れだった。
俺は対等な親友だって思ってたけど、アイツはどうだったのかな。
もしかしたら手のかかる弟って思われていたかな?
なら、嬉しいな。
俺は、兄貴みたいだって思ってたから。

アイツは、俺にとって夢だった。
一緒にいることが普通になっていた。
ありがとう、こんな俺を支えてくれて。
俺をここまで導いてくれて。

本当に、ありがとう――――


アイツは、俺にとって――――――――



Dear My Friend

「禁、手」

 

『おい、冬也。何をする気だ! 今、力を行使すれば死期を早めるだけだぞ!』

 

「心配、するな、ドライグ…………お前、の、っ、宿主、くらいは……ッ、何とかするッ」

 

 

 親友の掠れた声が僅かに耳に届く。

 俺の口からは、すでに何も出ない。

 意識がだんだんと朧げになっていくのがわかる。

 

 

「イッセーの治癒力・生命力・抵抗力を倍加」

 

『そんなものは自分に使え! 本当に死んでしまうぞ!』

 

「俺よりもイッセーだろうが!」

 

 

 聞いたことがないような、何かを決めた叫び。

 ダメだ。やめてくれ……!

 何で、何で、何でお前がそこまで俺のために頑張ってるんだよ……!

 

 

「ドライグ、俺を取り込め」

 

『な、何を言う』

 

「俺の身体は、もうだめだ。下半身と左半身の感覚がすでにない」

 

『っ』

 

「だから、頼むよ、ドライグ。俺に、もう少し頑張らせてくれ――」

 

 

 ここから俺に記憶はない。

 次に目が覚めた時には、全て終わってしまっていたのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツ――善導冬也(ぜんどうとうや)と出会ったのは、もう10年も前のことだ。

 少しばかり記憶は薄れてきてしまっているが、それでも俺は覚えている。

 

 

「なあ、お前! 一緒に遊ぼうぜ!」

 

「へ?」

 

 

 公園の端っこで暇そうにしていた冬也に声をかけたのが、全ての始まりだった。

 イリナの奴に連れまわされていた俺は、俺の味方になってくれそうな――俺と一緒に遊んでくれるような奴が他にも欲しくて、そしてそんな冬也に目を付けた。

 当時のアイツは、俺よりも小さくて、細かった。

 あとに聞いた話だが、アイツは両親から虐待を受けていたらしい。

 

 

「へ、って何だよ」

 

「いや、俺と、遊んでくれる、の?」

 

「だから、遊ぼうって言ってるじゃんか」

 

「名前も知らないのに?」

 

「おう、そっか! 俺は兵藤一誠! みんなイッセーって呼ぶからイッセーって呼んでくれ!」

 

 

 昔の俺は、こんな俺が言うのもアレだけど、馬鹿だったんだと思う。

 けど、冬也のヤツを見つけた時、俺はどうしてもアイツと遊びたくなった。

 今思うと、運命とか、そういうヤツだったのかもしれない。

 龍と竜、きっと、そういうヤツだって。

 できれば、運命の糸とかそういう運命は可愛い女の子と結ばれていて欲しいけど、それでもアイツとの出会いだけは、必然だったんだと思う。

 

 

「イッセーか。イッセー、うん。

 俺の名前は、善導冬也。好きに呼んでくれ」

 

「おう! 冬也! これで知りあいだし、俺とお前は友達だ!

 だから、俺と遊ぼうぜ!」

 

「友達……? 友達、か……そっか、そうだな! おう、倒れるほど遊ぼうぜ!」

 

「あぁ!」

 

 

 そんな出会い。

 それから俺とアイツはよく遊んだ。

 イリナも一緒の時もあったが、途中でアイツは海外に引っ越してしまい、他に友達もいたけど、一番遊んでいたのは冬也とだった。

 何て言うんだろうな……俺とアイツは妙に波長が合った、とでも言うんだろうか?

 アイツは俺よりも一つ上だったけど、それでも他の奴らよりも大人びていて、悪く言うと老けていた。

 

 一時期、酷くボロボロの時があって、暫くしてからアイツは施設に引き取られた。

 あのころはよくわかってなかったけど、父さんたちの台詞を思い出す限り、冬也の両親が捕まって、アイツが虐待から解放されたのは、その時だったんだと思う。

 

 そうやって、色々あったはずなのに、アイツはそんな影すら俺には格好ぐらいでしか見せず、気が付くと近所のガキたちの兄貴分的な存在になっていた。

 俺も、もちろんその中の一人で、その中でも一際冬也に近しい存在だったから、なぜか誇らしかったし、みんなが冬也に惹かれていくことも嬉しかった。

 俺からすれば、冬也は本当に兄貴分だった。

 あんな兄貴が欲しかった、と父さんたちに言ったくらいだ。

 

 そうやって過ごしていって、小学校、中学校と年齢は上がっていっても、俺と冬也の関係は変わらなかった。

 俺は……まあ、自分で言うのもアレだけど、周りから変態って言われるような言動をしていたけど、冬也は窘めさえするものの、俺に対する態度は変えなかった。

 後から知ったことではあったけど、むしろアイツは俺の兄貴分として俺の尻拭いをしてくれていた。

 本当に凄いヤツだと思う。

 当然モテてた。

 俺も羨ましいと思った。

 けど、冬也ならいいかなって、冬也ならそりゃモテるよなって、思えたから、それは嫉妬にはならなかった。

 純粋に、ずっと冬也に憧れて過ごしてきた。

 対等の親友ではあったけど、たった一年とは言え、人生の先輩で、それに見合ったような、俺じゃできないことを俺に見せてくれていた。

 かっこよかった。

 天才って言うのは、冬也のためにある言葉だって本気で信じてた。

 勉強も教えてもらっていた。

 おかげで駒王学園にも入れたといっても過言じゃない。

 事あるごとに冬也は、今俺があるのはイッセーのおかげだって言うけど、それは違う。

 そもそも、冬也がいなかったら、今の俺もいないんだ。

 駒王学園に入らなかったのなら、きっとオカ研のみんなには出会わなかっただろうし、何より悪魔にはならなかっただろうし、そしてリアスと、こんな関係にはなれなかった。

 

 冬也の奴は、家から近くて奨学金もいいから、っていう理由で駒王に入り、そして俺はそれを追って駒王学園に入った。

 もちろん女子率が高い、とか下心があったのも確かだけど、やっぱり冬也と違う学校っていうのも何かしっくりこなかったんだ。

 

 俺が入学し、一年が経り、そしてレイナーレとの一件があって、俺は悪魔としてリアスの眷属となった。

 夕麻ちゃんに――レイナーレに殺される時、たまたま通りかかり、俺を庇って俺と一緒に死んでリアスに転生させてもらった冬也。

 その時の冬也の駒はポーン。

 でも、なぜかポーンの半分だけだったそうだ。

 俺を先に転生させようとして、その時に勝手に一つのポーンが真っ二つに割れて、リアスが唖然としている間に半分は俺に、残り半分は冬也へと入っていったらしい。

 半分でもきっちりかっちり転生させる辺り、流石のアジュカ様だと思う。

 けど、その半分だけだった弊害か、冬也は『兵士』の駒で最も重要な能力である『プロモーション』が使えなくなってしまっていた。

 そんなわけもあってか、冬也は他の悪魔たちからは見下されていた。

 こればかりは仕方がない、って冬也は笑っていたけど、俺としてはどうしても許せないことだった。

 ライザーとのレーティングゲームの時だって、確かにリアスの政略結婚が許せなかったってのも大きいけど、それと同じくらい冬也のことを「才能のない赤龍帝のさらに才能のない残り滓」と貶したことを訂正させるためだって言うのも大きかった。

 

 そのライザーとのレーティングゲームでは、冬也は撃破数こそライザー側のシーリスとか言う騎士を倒しただけだったけど、戦術面ではリアスに助言を続けるなど面目躍如だった。

 それでも俺たちは力及ばずでライザーには勝てなかったけど、そこから冬也はグレモリー眷属の軍師っていう立場を築いていった。

 実際、グレモリー眷属内ではポーン半分だっていう理由で軽く扱われることもなく、逆に誰にも変えられない必要な存在として重宝されていた。

 その……何て言うか熱くなりやすいリアスを窘め、冷静に対戦の局面を見つめて指示を出すっていう他の奴らにはできないことをしていたし。

 戦略面で光るものがあるから、という理由でトレードの申込も一応あったらしい。それは、リアスが断ったらしいけど。

 しかし、それでも冬也は、戦いではそういった面でしか役に立たない、と自分を責めていることがあった。

 

 冬也は、たまたま俺に巻き込まれて転生したけど、神器持ちの存在だった。

 神器は『龍の手』。俺も自分の神器が『赤龍帝の籠手』と判明するまでは、最もポピュラーなものと言われてしょ気もしたけど、冬也と同じだっていうのは嬉しかった。

 神器の効果は、所有者の力を二倍にする、というもの。

 『赤龍帝の籠手』の下位互換だと侮辱されていることすらあった。

 俺と冬也は常に比べられていて、その時は冬也がずっと責められていた。

 これまで一緒にいる間では、逆にずっと俺が比較され続けていたのに。

 

 でも、冬也はそれに屈せず、ずっと自分を鍛えていた。

 だからこそ、神器もそれに応えて、禁手化に成功していた。それも亜種のだ。

 その能力は、馬鹿な俺じゃ説明しづらいものではあるけど、選んだものを二倍化させるというもの。

 それも有機物無機物問わず、強制的に二倍化させるもので、よく相手の発動前に何かやって力を暴走させたりしていた。

 頭のいい譲渡能力の使い方とはああいうものを指すのだな、と毎回それを見るたびにドライグすら感心していたほどだ。

 

 けど、そんなアイツの良さがわかるのは、アイツをちゃんと知っている奴だけだ。

 俺が強く――グレモリー眷属のみんなが強くなるたびに、アイツはアイツを良く知らない他の連中に貶されていった。

 それは敵――『禍の団』も一緒で、曹操たちは冬也のことを『グレモリー眷属のウィークポイント』とまで言いやがった。

 まあ、それに関しては、冬也の奴が曹操に一発吠え面かかせてやって訂正させていたけどな。

 ヴァーリの奴も初めは冬也のことを侮っていたけど、何回か行動を共にしている間に冬也のことを知ったからか、ちゃんと認めていたようだ。

 何でも、他の連中とは視点が違う、魔力の使い方や戦い方に新しい道を教えてくれた、などと俺のライバル様からは、認めて以来は高評価だったのだから。

 

 確かにおそらく冬也の奴がグレモリー眷属と一人ずつ戦って勝てるのはアーシアやギャスパーくらいかもしれない。

 いや、実際に戦ったのなら、きっとあの手この手と梃子摺らせてくれること間違いなしだけども。

 それでも、冬也は、俺たちの立派な仲間で、他のみんなができないことができるやつだった。

 冬也と付き合ってるんじゃないかと思うくらいに仲が良かったソーナ会長に至っては、ウィークポイントとは真逆で、アーシアと同じく生命線だと言ってくれていた。

 レーティングゲーム中だと現場指示を出してくれる冬也のいる状態といない状態とでは、戦いやすさの差が大きい。

 こう言うとアレだけど、やっぱり攻撃一辺倒なグレモリー眷属をうまく扱えるっていうのは、すごかったんだと思う。

 アザゼル先生も、才能はないって初めの頃は言ってたけど、途中からは一番相手にしたくないタイプ、あるいは真っ先に潰しておきたいタイプだと言ってたくらいだし。

 

 何があろうと、最後の最後まで足掻いて、自分を貫き通す。

 どれだけ相手が強くても、絶対に諦めない。

 そして、誰よりも他のみんなのことを考えて動いていた。

 そう、そんなヤツ。

 

 今回だって、俺と一緒になってオーフィスを守ろうと、ボロボロになりながらシャルバの前に立ってくれた。

 二人でシャルバの奴を倒したんだ。

 けど、けど、何で――――

 

 

「勝手に逝ってやがるんだよ……っ!」

 

 

 目が覚めた時、俺の身体だけじゃなく、俺の半身とも言える親友の姿もなかった。

 代わりにあったのは、冬也の黒ずんだ“完全に死んでしまっている”『龍の手』だけ。

 冬也だけでなく、この『龍の手』の中に封じられていた竜も一緒に死んでしまい、もう何の力も持たないものとなってしまっているらしい。

 それから、ドライグから語られていく俺が気絶している間のこと。

 冬也の奴が、俺の魂が汚染されないようにその命を懸けたこと。

 そして、冬也の最期の言葉。

 

 

『これまでありがとう、イッセー』

 

 

 ありがとうって言いたいのは、俺の方だ。

 何回感謝すればいいんだ、俺は。

 

 

『こんなどうしようもない俺を親友だって言ってくれて』

 

 

 これも逆だよ、親友。

 こんなどうしようもない、赤龍帝っていう肩書を無くしたら、何も残らないような俺を親友だって言ってくれて。

 

 

『本当にありがとう』

 

 

 だから、言うのは俺だよ。

 だけど……――――

 

 

「死んじまったら、もう、お前に、ありがとう、って……言えねえじゃねえか……っ!」

 

 

 鎧に魂を移されている俺は、涙が出ない。

 でも、それでも、ぽっかりと何かが欠けてしまった感覚がある。

 

 

「まだ、俺は、お前に……何も返せてないだろうが……!」

 

『相棒』

「イッセー」

 

 

 今、俺の身体はオーフィスとグレートレッドによって新しく作られているらしい。

 そこにこの鎧に宿っている状態の俺を移し直す、とのことだ。

 俺はまだ生きている。生きられる。

 冬也と先輩たちが繋いでくれた命だ。

 

 

「ドライグ」

 

『何だ、相棒』

 

「曹操たちを倒す」

 

『ああ、このまま二天龍が舐められているのは性に合わん』

 

「それだけじゃない」

 

『わかっている。託されたものはあまりにも大きい。

 何より俺もお前の中から、冬也を見て過ごしていたのだ。

 これまでなかったほどに俺も全力が出せそうだ』

 

「頼む、ドライグ」

 

 

 弔い合戦だなんて言うと、きっと冬也の奴は怒るだろう。

 そんな奴だ。

 けど、俺はお前を失って、一瞬また『覇龍』の呪文を口遊みそうになったよ。

 意味なんてなくても、つまりはそういうことなんだ。

 敵討ちって言い方がダメなら、俺の意地を通しに行くためなんだって思ってくれ。

 そして、世界に証明してやる。俺を知る全員に思い知らせてやる。

 俺の親友は凄い奴なんだって。凄い奴だったんだって。

 

 

「行くぞ、ドライグ」

 

『応。赤龍帝の友の重み、奴らに見せ付けるぞ』

 

「当然だ――!」

 

 

 この胸に空いた空虚な喪失感。

 きっと埋まることなんて二度とない。

 けど、俺は絶対にお前を忘れないよ、冬也。忘れてなんてやらない。

 リアスは泣くよ。お前が死んだのを聞いたら。

 アーシアも、子猫ちゃんも、木場も、朱乃さんも、ゼノヴィアも、ギャスパーも、イリナも、ロスヴァイセさんも、アザゼル先生も、レイヴェルも。

 ソーナ会長はもちろんだろうし、匙たちもそうだ。

 魔王様たちだって、きっと。

 みんな泣くよ。悲しむに決まってる。

 お前が死んだなんて、みんなにどう伝えたらいいんだよ。

 俺にみんなに伝えさせるだなんて、最期の最期にこれまで迷惑かけてきた仕返しみたいな、どでかいお仕置きを遺していきやがって。

 本当に、本当に。

 

 何で死んじまったんだよ、あの馬鹿野郎!

 

 

 お前がいたからこそ、俺はここまで来れた。

 だから、俺は生きて、最強の兵士になる。

 だから、俺を見ていてくれ――――

 

 

 

 誰よりも強かった、俺の大事な親友




またついカッとなって書いた。
ちょっと反省している。

何か蛇足感と駄作感が否めないけど、書きなぐってみた。
イッセー側も救われてたんだよ、っていうお話。

追加設定としては、
・両親から虐待
・イッセーたちより一歳上で、リアスたちと同学年
・イッセーからは兄貴分として慕われていた
・グレモリー眷属の軍師
・認めてくれていた人もいた
・実は我らがソーナたん――げふん、会長とフラグが立っていた

救いはないけど、意味はあったよ、としておきたいお話。
でも、ご都合主義で冬也くんがイッセーと一緒に復☆活したりはしない。
ガチ死亡エンド。

このあと、イッセーはオーフィス、グレートレッドと共に冥界に戻り、奮闘。
冬也くんの助言により、原作より若干(小手先程度)強い仲間たちと共に英雄派ギッタンバッタンと薙ぎ倒しましたとさ。
おそらくこの世界では、曹操たちは改心してもイッセーたちの仲間にはなれない……かもしれない。
だいたいそんな感じ。

実はちゃんと冬也くんの神器は持ち帰られていて、除染後に『赤龍帝の籠手』に取り込まれて、ピンチの時に効力を発揮して相手を倒す!
とまでは妄想したけど、これ以上は続かない。


んー、さて、これで書くことは書いた感じだけど、次は何を書くか……

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