Dear Welsh Dragon   作:黒天気

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side "K"night


彼は僕にとって、何だろう。
とても尊敬できる大事な先輩だ。

僕は彼にとって、何だったんだろう。
大事な仲間、あるいは後輩だって思えてもらえていたら、それは凄く光栄なことだ。

彼は、“僕ら”にとって、何だろう。
掛け替えのない、いなくてはならない人でしたよ、先輩。



Dear My Fellow

 

 

 彼と初めて会ったのは、駒王学園に入学した直後のことだ。

 当時から部長は、駒王学園旧校舎の一室をオカルト研究部としてグレモリー眷属の表向きの看板とすることを決めていた。

 なので、僕も入学と同時にオカルト研究部に入部したわけだけれども、駒王学園には剣道部があり、その剣道部の実力も全国大会に度々出場するなど、なかなかなものであるらしく、確かに僕の扱うものは剣道ではなく剣術であったけれど、対人の経験の足しにはなるかな、と顔を出すつもりでいた。

 もちろんこれは入学当初の剣道部部長と話した結果得れたものであるので、何かグレモリーの力を使ったというわけじゃない。

 まあ、その剣道部部長は、どうもウチの部長に少し気があったみたいではあるけれど、それはまた別の話である。

 そういうわけで、僕は入学当初にその剣道部に赴こうとしたわけではあったけれど、この駒王学園は結構な大きさを誇る。

 有り体に言えば、道に迷った。

 そんな僕の前にふらりと現れて、剣道部まで道案内してくれたのが、彼――善導冬也先輩であった。

 

 

「キミと同じ学年に性欲に正直なとんでもない馬鹿がいるけど、関わることがあったなら、できれば仲良くしてやってくれ」

 

 

 道案内の途中での会話で、そんなことを言われたことを覚えている。

 そのとんでもない馬鹿っていうのが誰かは一か月もしない内にわかった――まあ、イッセーくんであったわけだけれども。

 

 そこで縁でも生まれたのか、善導先輩とはときどき顔を合わせ、イッセーくんほどではないにしろ、彼がグレモリー眷属入りする前から他のみんなよりは仲が良かったと思う。

 先輩然とした行動を常日頃心掛けているようで、誰にでも親切に応対し、文武両道成績優秀。

 そのくせやることはやり遂げる熱血漢的要素も持ち合わせた存在。

 女子からも人気はあったんだと思うけど、僕ら男子生徒の中でも彼は羨望の対象として認められていた。

 まあ、実際僕も頼りになる人だ、と信頼していた。

 もちろんそれは眷属入りしてからも変わらず、むしろその信頼度は上がっていった。

 運動神経やらその辺りは一般以上に優れていたけれど、それは人としてであり、悪魔としては一般的な部類の戦闘力しか持っていなかった。

 でも、彼がいるグレモリー眷属は、非常に融和が取れた居心地のいいものであった。

 

 その人の持つ価値とは決してそんな単純な力だけじゃなくて、もっと大切な部分で決まる。

 この言葉は、聖魔剣に至った契機となったコカビエルやバルパーとの一件の際に、自身の力のなさに不甲斐なさを感じていた僕に向かって、彼が言った言葉だ。

 その言葉と共に彼は、いつでも待っている、とだけ告げて、僕を諭すわけでも説得するわけでもなく去っていった。

 てっきり部長たちと同じように説教からはいるものだと思っていた僕にとっては、逆に痛烈なものであった。

 その後、僕はオカルト研究部のみんなと手を合わせて、コカビエルへと立ち向かい、僕は『双覇の聖魔剣』へと覚醒した。

 その時の善導先輩は、すでに現場指揮をしてみんなの補助をしていた。

 途中で僕らの隙を突かれて、コカビエルに気絶させられてしまった彼であったけれど、その時の彼の指示のあるなしの差がここまでになるのかと実感させられた。

 

 彼は僕らをよく見ている。

 それは修行の時にも生かされていたし、戦い方を定める良い指標にもなった。

 さっきの言葉は、貴方にもきっちりと当て嵌まるんですよ、先輩。

 貴方は決して邪魔な存在などではありませんでした。

 僕らの大事な、とても大事な頼りになる仲間でした。

 

 けれど、善導先輩はちょうどその頃から、たまに表情に陰が差していることがあった。

 きっとその頃から何だと思う。

 善導先輩が自分の力に劣等感を感じていたのは。

 僕らからすれば、先輩の力は確固たるものであったし、それこそただの暴力でしかない力とは比較にならないほど重要で、とても頼りになるものであったけど、それ以上に周囲の――外野の囁きが彼の心に少しずつ溜まっていっていた。

 それでも、そんなことがあっただなんて、僕も彼が遺した手紙を見るまでは気付きさえしなかった。

 どうして察してあげられなかったのか、今でも悔みますよ、先輩。

 特にそれを見て、ショックを受けているみんなを見ているとより一層そう思います。

 

 その善導先輩は、イッセーくんと共にオーフィスを助けるためにシャルバの元に残り、そして死んだ。

 龍門を使って、彼らを呼び寄せようとしたけれど、そこに現れたのはポーンの駒八つ。

 そう、善導先輩が持っていたはずの半分のポーンが、イッセーくんの持っていた残りのものと一つにくっ付いていた。

 それがどれか、というのは一つだけ真ん中に繋ぎ目があるものがあったので、特定は簡単だった。

 みんなそれを見て、悲嘆に染まった。

 僕たちが期待していたのは、駒じゃなかったのだから。

 彼ら二人の姿を望んでいたのだから。

 

 そこから僕らは、色々な人に励まされ、一縷の望みを持ってアジュカ様のもとを訪ねる。

 この帰ってきた『悪魔の駒』から何か掴めないか調べてもらうためだ。

 しかし、みんながみんな、著しく精神的に消耗していた。

 彼らを失った、というのは、あまりにも大きな損失で、損害だ。

 こうも、心に何かぽっかりとしたものができてしまったように思えるのだから。

 だけど、僕ら以外にも悲しみに暮れていても動こうとしている人物たちもいる。

 ソーナ・シトリー会長や匙くんも、涙を流しながらも都市防衛線に一般人の保護のために出向いている。

 特にソーナ会長も暫くはリアス部長たちと同じような状況にあったのだから。

 それでも、そこから自力で這い上がり、さらに部長を気に掛けることすらしていった会長を知り、加えてサイラオーグさんの叱咤もあって、みんな動ける程度にはどうにか持ち直せた。

 

 アジュカ様のところでは、アジュカ様の勧誘に来ていた英雄派のジークフリートと遭遇する。

 他にいた旧魔王派の連中は、アジュカ様によって葬られ、僕はジークフリートと再び相対することになった。

 ジークフリートは、イッセーくんと善導先輩を無駄死にだと嘲り、さらに先輩のことをいてもいなくても変わらなっただろう。それこそイッセーくん以上の無駄、だと罵った。

 あぁ……やっぱりそうですよ、先輩。

 僕もイッセーくんと同じだったんです。

 貴方に憧れていました。

 貴方のようになりたいと思っていました。

 イッセーくんの言うように貴方はかっこよかった。

 魅せられていました。

 そんな貴方を罵られて、僕はどうしようもないほどの怒りを覚えた。

 それは、僕に新たな力を齎してくれた。

 

 別に禁手を超えた何かを会得したとか、そういうものじゃない。

 けれど、それは僕にとって何物にも代えがたいような力となってくれるもの。

 ライザー・フェニックスとのレーティングゲーム前の修行の際に善導先輩からとある質問を受けた。

 それは、僕が創れる魔剣はどんなものかと言うこと。

 それに対して僕は、できることを素直に答えたけれど、そこで先輩から僕には思いもよらなかった答えが返ってきた。

 僕は魔剣を創る際、例えば「光を消すことが出来る魔剣」をイメージする。

 そして生まれる魔剣の能力は光を消す、というものになるわけだけれども、その分本物の聖剣や魔剣と比べると脆い、という弱点がある。

 だから、僕はそれの硬さと切れ味を上げようとしていた。

 けれど、彼はその発想を逆にした。

 まず硬くて鋭い剣を目指し、そこに能力を持たせていけばいい。

 万全で、最も基礎に相応しい最強のニュートラルを作り上げてから、派生させていけばどうだろうか、と。

 目から鱗、とはまさにこのこと。

 それにこの思想から作り上げていけば、戦闘中に能力の切り替えすら可能になるかもしれない。

 

 ゆえに僕は、いつもの修行に加えて、先輩の言ったものを目指した。

 それが成功しようがしまいが、きっとこれは無駄にならないものだと確信が持てたから。

 折れない魔剣を創りだそう。

 曲がらない魔剣を創りだそう。

 刃毀れせず、他の聖剣や魔剣を切り裂けるだけの切れ味を持った魔剣を創りだそう。

 ニュートラルなものを創るにしても、なるほど。確かにこれだけの機能があれば、それは紛うことなき魔剣の類だ。

 

 そして、今、その魔剣が完成した。

 折れず、曲がらず、刃毀れせず、万物を斬断する、能力を持った魔剣。

 

 

「僕らを導け――――!」

 

 

 そして、僕はジークフリートの龍腕の内、二本を断ち切ることに成功する。

 だが、代わりに僕も左腕を切り落とされ、出血の余り戦うことすら困難な身となってしまう。

 だけど、それでどうして諦める理由となるのだろうか。

 まだ僕には動く身体がある。剣が振れる右腕がある。

 折れない剣を求めたのは、なぜだ。

 それは相手の攻撃を弾き、みんなを守る騎士(けん)となるためだ。

 

 だが、すでにうまく剣すら創りだせない。

 そんな僕の目の前に現れたのは、イッセーくんと先輩の駒が組み合わさったもので、その駒はイッセーくんの持っていたアスカロンと化す。

 握る。暖かい波動を感じる。

 これはイッセーくんや先輩から感じていたものだ。

 イッセーくんとの約束だけじゃない。

 先輩の声も聞こえる。

 

 

 ――――きっと真っ先に死ぬのは俺だ。

 ――――けど、それで何かを守れたなら、俺は本望だと思って死ぬに違いない。

 ――――俺の死は、無駄死にと呼ばれるものとなっているかもしれない。

 ――――だが、それで守られたものがあって、その守ったヤツが何かを為してくれれば、それはきっとすごいことだと言えるんじゃないか?

 ――――だから、俺は決して立ち止まらない。

 ――――イッセーと祐斗がとある約束をしているのは知っているけど、だからこそ俺はお前たちを守りたい。

 ――――無責任な言葉かもしれないけど、頑張れよ。

 ――――頼りない先輩からの、お願いだ。

 

 

「……無茶を言う人だ」

 

 

 奮い立て。

 あの魔剣使いを黙らせろ。

 騎士とは命だけを守る存在なのか?

 それは否だろう、木場祐斗。

 託された誇りと希望を守らず、何が騎士か。

 

 この『兵士(ポーン)』の駒を皮切りにグレモリー眷属のみんなは戦意と意思を取り戻し、最終的にはグラムが僕を新たな主としたことで戦況は一変、ジークフリートを打ち倒すことに成功した。

 だけど、このあとのアジュカ様による『悪魔の駒』の解析による結果は、一つの希望と一つの絶望を僕らに知らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 善導冬也、サマエルの血による影響と戦闘による傷により死亡。

 それが彼が持っていた半分の『兵士』の駒に残された最期の記録であった。




続きを考えてみようとして、こうなった。
何で真っ先に木場だったんだろうか。
それは永遠の謎である。
本当にノリと気分で、どうにか設定だけは破綻してないように、と祈りながら書いてる。
主に深夜テンションで。


時間軸的には微妙に進んで、ジークフリート戦。
ちょこっとだけ原作より強い木場のお話。

主人公はこんな感じで色んな人に助言してましたよ、と。
ヴァーリ云々で言ってたのもだいたいこんな感じ。
なので、この世界の『白銀の極覇龍』はさらにぶっ飛んだ性能になっている。

今回の追加設定はこちら。
・駒王学園のアニキ
・助言マン
・この騒動後に主人公宅(木場・ギャスパーと同居中)から遺書が発掘される

今更になってアザゼル製の人工神器くらい持たせておけばよかったかなぁ、と思いましたが、よくよく考えるとこの主人公才能なし補正なしなので、持っててもうまく取り扱えているかは別問題だった。


基本的にはこうやって、ちょっとずつ内容を保管していく形になっていくんだろうけど、需要はさてあるのか!
一応次回にも続くのじゃ。
次は、えーと……誰にしようか。

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