Dear Welsh Dragon   作:黒天気

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 善導くん。
 貴方は、最高の眷属だったわ。
 それは絶対に誰にも否定させない。
 誰よりも私たちのことを考えていてくれた、私には勿体無いくらいの眷属だった。


 貴方は、イッセーくんとはまた違う形で私たちグレモリー眷属の中心でした。
 確かに貴方は私たちの大事な寄る辺を遺してくれたかもしれません。
 しかし、イッセーくんが寄る辺なのだとしたら、私たちは何物にも代え難い大事な止り木を失くしてしまいましたよ。


 善導先輩は、ちょっと不思議な人でした。
 けど、とても優しい人で、私にも親切にしてくれた人。
 お姉さまとの仲直りにも一役買ってくれた、偉大な先輩。
 またお菓子買いに連れていってくれるんじゃなかったんですか、先輩……。


 彼は、凄い人だ。
 昔の私であったら、とても考えられないような強さと凄さを持つ人物。
 キワモノ揃いの私たちをああも使いこなせる人物など他には部長以外にはいまい。
 あぁ、本当に、惜しい人を失くしてしまった……クソ。


 あの人は、私にとってお兄ちゃんみたいな存在。
 出会いはイッセーくん伝いからだったけど、たぶん向こうも私を妹として見てくれたんじゃないかしら。
 再会して悪魔に堕ちていたことがわかったときは落胆もしたけど、あの人は何一つ変わってなかった。
 ……何で、死んじゃったの、お兄ちゃん……っ!


 冬也さんは、イッセーさんと同じく私の恩人。命の恩人。
 イッセーさんとの仲を取り持ってくれただけじゃなく、他にも学校生活を始めとして色々と取り計らってくださっていたことも他の皆さんから聞きました。
 レーティングゲームの時の狙われ易い私の立ち回りも、ずっと一緒になって考えていて下さりました。
 私は、まだ全然貴方にお返しができていません。
 貴方の代わりが務まる人なんていません。
 ですが、私たちも頑張って行きます。
 それを見守っていてください、冬也さん。


Dear My……

 

 

 

 

 奴のことか?

 アイツは不思議な奴だ。

 力は弱い。それこそ俺にとっては歯牙にかける必要性がないくらいに弱い。

 まあ、これには少なくとも武力――しいて言うならば、暴力に関しては、というのが奴と関わってからわかったことだが。

 奴の役割は、場の状況把握と問題への打開策を見出すこと。

 その視点の多彩さで、味方の手数を増やし、勝利への道筋に奴の周囲の連中を導くことだ。

 学んだのだろう。才能こそ感じられないが、様々な分野や種類の魔術への造詣は非常に深い。

 これで奴にそれを扱い切る才能があれば、とも思うが、それは仕方がないことか。

 第一、奴は龍の軍師。ふ、まさかアルビオンすら思い付かなかったような力の使い方を考え出すとは。

 奴と語り合うのは非常にいい。

 おかげで、俺とアルビオンの目指す『真なる白龍神皇』の完成形の目処が立った。

 その点と、ここまで兵藤一誠を導いてきてくれたことには感謝している。

 それに加えて、あの曹操に一泡吹かせた男。

 そして、そこで曹操に突き付けた台詞。あれは、いいものであった。

 

「良いことを教えてやるよ、テロリスト。お前たちは英雄でもなんでもない。

 英雄とはな、人から褒め称えられて成るものだ。決して戦場の華となる強さを持った存在じゃない。少なくとも、イッセーとは違って、チビッ子に泣かれるお前らは英雄じゃない!」

 

 痛快、と言うべきか。

 あの時の英雄派どもの顔は見物だった。

 奴――善導冬也の死亡。これは大きな損失だ。

 悲しむほど友好を深めていたわけではないが、惜しい存在を亡くしたものだ。

 

 我らがライバルの心が折れていないことを祈るばかりだ。

 まあ、奴があれだけ気に掛けて、ここまで導いたのだ。

 この程度で立ち止まってしまうような奴ではないだろう。

 そうだろう? 赤龍帝――兵藤一誠?

 

 

 

 

 善導冬也、のこと、ねえ?

 一言で言うなら、天才に憧れて足掻いている凡才ってところか。

 ヤツは、基本的にはどこまで行っても一流にはなれない、せいぜいが二流止まりにしかなれないような素養の持ち主だった。

 本人も自覚はあったのか、悪魔としてだけでなく、人間としても器用貧乏な奴だった。

 神器も『龍の手』、中身なんて俺が片手間でも数千回と殺せるような木端ドラゴン。

 どう頑張っても倍加するだけが限界みたいな神器。

 隣にいた『赤龍帝』兵藤一誠と比べたら、気に掛ける必要性すら感じない存在だ。

 

 だが、ヤツはそんな中でも存在を確固たるものにしていた。

 確かに戦えば、勝てるだろう。

 堕天使の総督である俺にかかれば、一瞬で済むような戦闘能力だ。

 しかし、ヤツが敵対勢力にいるとなれば、別だ。厄介なこと極まりない。

 厭らしい手を使って、あの手この手と搦め手で戦力を削って来やがる。

 そういうヤツだ。

 

 しかし、人格面ではそんな色なんて見せず、どこまでも愚直で誠実な奴だった。

 ああ、確かにアイツは良い奴だ。

 んなもん、アイツと関わってきた時間が長い期間じゃなかった俺ですらわかる。

 加えて、アイツの思考は独特だ。

 俺の神器研究には程よい刺激となってくれた。

 

 もちろん俺も感謝してるさ。

 そんな善導のヤツが遺していきやがったんだ。

 アイツがあの世で悔むようなことにはしねえ。させねえ。

 俺の全力をアイツが遺したかった大事な連中に注いでやる。

 逆にその場になぜ自分がいなかったのか、後悔させてやる。

 覚えていろよ、善導。

 俺も、お前のことは覚えておくからよ。

 

 

 

 

 奴――善導冬也か。

 確かに名立たる眷属の溢れ返るグレモリー眷属の中では目立たい存在だろう。

 だが、奴ほど厄介なグレモリー眷属もいない。

 『僧侶』アーシア・アルジェントと同じくグレモリー眷属の生命線。

 故にリアスとのレーティングゲームでは、全力でその力を削ぎにかかった。

 しかし、俺たちの考え出した戦術は全て読み切られ、個々の力で一部圧倒したこともあって互いに眷属を削り合う試合にはなったものの、視点を変えれば、あれは我々の完敗であろう。

 そう、リアスと善導冬也に。

 それに奴は、俺の一撃に耐え切ってみせた。

 確かにダメージは大きく、動けなくなるほどではあった。

 しかし、レーティングゲームから敗退にならない程度に意識を留め、サポートに徹した。

 奴は、端から頭だけで戦うつもりなどなかったのだ。

 自分ができることを必死に考え出し、どうすれば有効な一手を生めるかを考え出した結果、ああいう立場に至っただけ。

 兵藤一誠に並ぶほどの奴は、どこまでも熱い奴であった。

 そんな奴をグレモリー眷属は――赤龍帝は失った。

 

 今の眷属に不満はない。

 だが、俺もあんな奴が仲間に欲しくなかったかと聞かれれば、それは嘘だ。

 まあ、数ヶ月前にリアスにトレードを申し出た際には断られてしまったわけだが。

 可能性の一部を千切られてしまったグレモリー眷属、少し不安に思うところもあるが、奴があれだけ全てを懸けたのだ。

 再起し、さらに上を目指してもらわねば、奴がその全てを懸けた意味がない。

 乗り越えろとは言わない。

 それを抱えたまま、前へ進め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。支取の夢は学校を作ることか。うん、俺に出来ることなんか知れてるとは思うけど、何かできそうなことがあったら教えてくれ。俺にもそのすごい夢、手伝わせてくれないか?」

 

 

 

 私、支取蒼那ことソーナ・シトリーが彼、善導冬也と初めて出会ったのは、駒王学園の入学前オリエンテーションのこと。

 元より学園サイドの――悪魔側の存在である私にとってはあまり必要のないものでしたが、せっかく学生の身分としてこの人間界にいるのですから、学生として義務付けられたものには参加するべきでしょう。

 加えて、眷属に加えたくなるような人物にも出会えるかもしれません。

 そう思い、参加したそのオリエンテーション。

 今思うと、本当に参加していてよかったと思えるものでした。

 

 別段早く行こうだとか思っていたわけではないのですが、往来の性格かオリエンテーションの開始時間よりもかなり早めに駒王学園へと辿り着きました。

 これに関しては、私の『女王』である椿姫にも少し苦言を訂されてしまいましたが、まあ、私ですので諦めてもらいましょう。

 学園に着き、暇を持て余した私たち。

 会場で待っていてもよかったのですが、どうにも作業をしている方々の中に多く悪魔の方々がいるようで、頻りに私たちに気を使ったような反応や視線を向けてきていて、それに少し疲れた私は椿姫を連れて、学内を見て周ることにしました。

 すでに下見を済ませていたので特に迷うこともありませんでしたが、順に主要な場所を周っているところで、一人私たちと同じように学園を見て周っている男子生徒に出会いました。

 その男子生徒こそが善導くんでした。

 

 目的も同じだったので、その後は一緒に学内を見ていくことになり、その間の会話でおそらく友人とは言えるような関係になっていたように思います。

 彼は非常に気さくで気が利き、あまり初対面の人には笑顔を見せない椿姫ですら彼には微笑み返していて、その時間は非常に楽しいものでしたね。

 時間がやってきてオリエンテーションが行われる会場に戻り、その時も彼は私たちのすぐ近くに座り、進行をしている方には少し悪い気もしましたが、時折会話を交わしながらそのオリエンテーションを過ごしました。

 オリエンテーション開始時間にやってきたせいで、私たちとは離れた席に座っていたリアスと姫島さんには、後々に見知らぬ男性と私がしゃべっていたことに驚いた、と告げられましたが、そこまで私も硬くありませんよ、まったく。

 

 オリエンテーション終了後は少し善導くんと喋っただけですぐに別れましたが、その後はすぐにまた顔を合わせることになります。

 と言っても、同じクラスだったというだけなのですが。

 一応学園側からの配慮なのか、王と女王の組み合わせでクラスが分けられたようで、リアスたちとは別のクラスでしたが、椿姫とは同じクラス。

 そして、善導くんと同じクラスでした。

 まあ、結局彼とは三年間ずっと同じクラスに配属されたのですけど。

 加えて出席番号も近かったこともあって、よく席の並びが私、椿姫、善導くんというものであることも珍しいことではありませんでしたね。

 

 友人関係となってから一番驚いたことは、どこで知り合ったのか、お姉様と善導くんが非常に仲の良い様子であったことなのですが。

 と言いますか、「セラ」と「とぉくん」と渾名で呼び合っている姿は少し妬きもしたくらいです。

 

 それからも彼との交友関係は続き、こう言うのも少し含むところもあるのですが、おそらく眷属を除けば、最も仲の良かった近しい存在と言えるでしょう。

 何度か恋仲かと勘ぐられたこともありましたが、別に彼とはそういう関係というわけではありませんでしたし。

 まあ、好意を抱いていなかったわけではないので、何かキッカケがあれば、そうなっていた未来もあったかもしれませんね……。

 善導くんはお姉様からの印象もいいものでしたし、その能力も戦闘能力こそあまり持たないものの、それを補い切れるほどの戦術眼。

 椿姫も何かに付けて焚き付けようとしてきていましたし、つまりはそういうことなのでしょう。

 しかし、それはもう、永遠と来ない不可能な未来になってしまいましたが。

 

 善導くんは、我々悪魔でも驚くくらいに色々とできる方です。

 しかし、仲良くなって初めてわかったことではありましたけど、それ以上に彼は努力家でした。

 本人曰く、ほとんど才能がないけど、才能がないなりに足掻いている、と。

 天才ではなかったのでしょうけど、努力する秀才であった彼は、確かな結果を残していきました。

 それこそがきっと彼にしかできなかったことだと私は思います。

 

 彼は、どこか人を惹きつける何かを持っていました。

 男性陣に対しては、憧れを抱かせるような何かを。

 女性陣に対しては、それこそ私自身どうしてかはわからないのですが、非常に心配したくなる、母性本能なのかは不明ですけど、そういったところを擽られるような、惹きつける何かを。

 アレも一種のカリスマなんでしょうね。

 彼の能力が認められ、『王』となっていたら、さぞや素晴らしい眷属陣になっていたのではないでしょうか。

 加えて彼は、私をチェスで打ち負かす数少ない人物でしたし、レーティングゲームでの頭の回り様。

 私のライバルになり得たのではないか、と思っていた――のに。

 

 善導冬也。生死不明。

 この報が知らされたとき、周りから見た私はどのような様子に見えたのでしょうか。

 報を聞き、それがどういうことか頭で理解したところで視界が真っ暗になったことは確かで、椿姫や匙くんから励まされるまでは、ずっと今いる場所がボンヤリと現実ではないような気分に陥っていました。

 しかし、私はただ泣いているだけではいられなかった。

 いえ、泣いているだけでなんていたくはありませんでした。

 生きているにしても、本当に死んでしまっているにしても、あの善導くんがここにいなくて、そして誰かしらに指示も出していないということは、私達の力とやりようでこの場は収められるということ。

 そして、何より善導くんが死んでしまっているとしても、私は彼に夢の達成を応援されているし、手伝ってもらいもしました。

 だからこそ、私達はこの冥界の危機を乗り越えねばなりません。

 

 私だけだったら、こんな考えには至らなかった。

 椿姫や匙くん、他の眷属たちにリアスたち……そして善導くん、お姉さま。

 これまで私と関わってきた人たちと、今励ましてくれたみんながいなければ、ここまでこれなかったでしょうし、立ち直れなかったでしょう。

 その私を変えた――前に進ませてくれた内の一人であるお姉さまは、涙を堪えながら冥界を危機に陥れる超獣鬼たちの討伐に出ました。

 聞いた話では、私以上に善導くんとの交友関係の長かったお姉さま。

 四大魔王という立場であろうとも、精神は一悪魔に違いありません。

 お姉さまも頑張っておられるのに、その妹がただただ後方で守られているわけにはいきません。

 

 

「行きましょう」

 

 

 こちらを心配そうに眺める椿姫や匙くんを横に、私はとある人物に連絡を入れます。

 彼ならば、リアスたちを呼び覚ませるでしょう。

 私には向かない作業で、それを押し付けてしまう形となりますが、そこは男の甲斐性ということで。

 

 

 ええ。決して乗り越えたわけではありません。

 生きているという確かな希望があるわけでもありません。

 そして、なぜか彼とは二度と会うことはないという確信を持ってしまっていた私は、不謹慎なのかもしれません。

 けれど、今だけは貴方の言葉を頼りに動かせてください、善導くん。

 

 

「未来を見て動いてる支取はかっこいいよ」

 

 

 貴方は格好良くないつもりだったのかもしれませんけど、私にとってはイッセーくんや他のみんなのために動く貴方も凄く格好良かったですよ。

 

 

 では、頑張ってきますね、善導くん。




まさかの四キャラ分!
今回は正直失敗したかな、って思ってる。
けど、これ以上も練り上がらなかったので、諦めて投下。

ソーナたん視点難し過ぎ。超難産。
むしろ上で書いた野郎ども3人の方が書きやすかったくらい。

気が乗ったら書き直してもいいかも、ソーナたん部分は。

前書きでギャスパーとロスヴァイセさんを書いていないのは意図的。
書く内容が思い浮かばなかったとも言う。

今回の追加設定は
・もう面倒だからセラフォルーさまとも仲良くさせておこう(錯乱)
・ミルたんとも仲良し(裏設定)
・日朝番組が大好きだった→特撮も大好き⇒つまり……?
・ヴァーリやアザゼルとはよく討論してた
・曹操たち英雄派には結構なことをかましている

ただ、もう続きを書く元気はない。
とりあえず時間が出来たら買ったまま放置の17巻読もう。

誰もしないとは思うけど、これらの作品の設定はフリーです。
お好きにご利用ください。





ただ、最後の最後にちょこっとだけ救いをして終わりです。
(あと一話で完結)

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