気が付くと、俺は別の誰かとして生を受けていた。
別に死んだ記憶なんてものはないし、それらしい切っ掛けも思い当たらない。
かと言って、今生に生まれる直前は何をしていたのかと問われると答えられない辺り、この微妙な空白に秘密がありそうだ。
そんなことを考えながらも月日は過ぎていく。
どうやら、俺の名前は、何と曹操というらしく、ここがどこかはわからないが、少なくとも日本ではない場所に住んでいる。
というか、人里離れた場所なせいであまり他の人を見かけないが、一応テレビが一台家にあるので三国志時代に生まれた、というわけではないようだ。
親の名前もこの地域では埋没してしまうような、何でもない普通の名前だが、俺は曹操らしい。
幼心どころか普通に疑問なので何度か聞いてみても、その度に俺が曹操だからという理由だと言われた。まるで意味がわからん。
さて、そんな俺だが、物心付き始めた頃――に相当する3歳を迎えた辺りから、両親から武術を学ぶこととなった。
何でも俺の両親はほどほどに有名な使い手らしく、二人の力を持って、俺こと曹操を真の英雄にしてみせると意気込んでいる様子だ。
俺は半ば強制的に戦う術を学ばされ始めたわけだが、最近は自分の意志で両親から鞭撻を頂き、日々腕を磨いている。
確かに初めの頃は嫌々であったが、この身体のスペックが異常なようで、教えられた技術はすぐに身に付く。加えて、そうやって自分のものにしていく過程が気持ちいいくらいに楽しい。
今日はどんなことを教えてくれるのだろう。明日は何をさせてくれるのだろう、と最近は毎日が非常に充実している。
しかし、この身体は、本当にびっくりするほどのハイスペックだな。俺には勿体無いくらいだ。
そんな生活を続け、早十数年。
悲しきかな俺は、あっという間に人間の範疇を超えてしまっていた。
種族的には、まだ――たぶん“まだ”人間である、はず……。
生まれてからもうすぐ二十年。
大人の仲間入りも目前としている俺が、今何をしているかと言えば――
「いいぞ。ああ、いいぞ曹操! まだ私のライバルとやらには出会えていないが、ここまで心躍る好敵手に出会えるとはなぁ!」
「俺も、キミとの出会いは嬉しい限りだ、ヴァーリッ!」
数日前、何度目かわからないが、俺を訪ねてきた白いドラゴンと戦っていた。
否、わりと本気で、心から――心の底から楽しんで、全力で殺し合っていた。
まあ、白いドラゴンと言っても、ドラゴン本体ではなく、その魂を宿した『
そんな些細なことはいい。全くもってどうでもいい。
俺にとって大事なのは、コイツは俺が全力を出せる相手なのか、ということくらいだ。
そう、何とこの世界、ドラゴンとか悪魔とか神話の神とか、非常に倒し甲斐のある人外が非常にたくさん生活しているらしいのだ。
生活しているといっても、そこはやはり人間社会を脅かさないように、人間には見つからないように配慮してくれているらしいのだが。
逆に言えば、暗い裏社会なんかでは、そういう連中が平然とした顔で我が物顔で牛耳ってやがるわけだ。
そうなると、パワーバランスにおいて人間は間違いなく下位の存在だ。
だが、人間も全てがそこに収まっているわけではない。
その鍵となるのが、先ほど言った『神器』というわけだ。
神話や昔話に登場する英雄たちは、この『神器』やその他聖剣などの聖遺物を持っていたからこそ、敵や悪である怪物たちを打倒できていた、という。
まあ、この話も俺は聞いただけで、大して興味もないんだがな。
強いやつっていうところには興味津々だけど。
ヴァーリの背中の光でできた翼が一際光を放つ。
「アルビオン!」
『Divide!』
「ぐっ……結構持っていかれるなぁ、それは!」
そして、目の前のヴァーリと言う俺より少し下くらいの“少女”が持つ『神器』の名は『
しかも、その力に振り回されることなく、己が我によってその力を掌中に置いている。
相手にとって不足はなし。
ゆえに俺も使おうか、俺の『神滅具』を――
「では、御開帳と行こうかァ――!」
使っていた一応業物の槍を投げ捨て、ヴァーリに叩き付けるようにソイツを出現させる。
それは黄金の槍。
聖人を穿ち、神をその座から叩き落とす人外殺しの頂点。
最強の『神滅具』。
その名を『
正真正銘の、世界の覇者のみが持つことを許された究極の一つである。
「そうでなければなァッ!」
だが、阻まれる。
目の前の少女は、腕を交差させ、エネルギーで作られた翼をその前に挟むことで俺の一撃を食い止めた。
この一撃はまともに決まれば神すら崩れ落ちるというのに。
本当によくやる。
本当に――ドラゴンっていうのは、どいつもこいつも俺を楽しませてくれる……!!
「ならば、私ももう一段階上でお前を制そう! アルビオンッ、『
『Vanishing Drangon Balance Breaker!』
ヴァーリの身体が純白の鎧に包まれていく。
あぁ、期待が膨らむ。胸が躍る。
これこそが『神器』の覚醒の一つ『禁手』。
『神器』が持ち主の感情の高ぶりなどによって影響され、一段階上どころか完全に一つ壁を跨いだ先の力を得る現象、というか、まあ、そういった類のもの。
一般的な雑魚『神器』では、いくら『禁手』しても似たようなものにしかならず、大して期待もできないものにしかならないが、相手は『神滅具』。
それも、伝説の二天龍の一体『白龍皇バニシング・ドラゴン』を宿した魔王の血筋が辿り着いた『禁手』。
胸が、心が、この餓えてやまない俺の魂が、躍らないわけがない。
「これならば、お前とも打ち合えるだろう? なあァ――曹操ッ!」
激突。
ヤツの放った拳と俺の振るう聖槍がぶつかり合う。
手に返ってくる衝撃が、俺は今、生きているのだと実感させてくれる。
今、この瞬間をどこまでも人らしく、命を散らしているのだとわからせてくれる。
打ち合う。ぶつけ合う。高め合う。
いつから俺は、こんなにも戦闘狂となってしまったのだろうか。
まあ、今となってはどうでもいいことでしかないが、この時間だけは至福だ。至高だ。
こんな、わけのわからない世界に生まれ落ちた意味があるッ!!
「うおぉォォォォォォっ!」
「ッ――――ぐ、一気に行かせてもらうぞ!」
『Half Dimension』
周囲の全てがぴったり半分、ごっそりとヴァーリに持っていかれた。
持っていかれたものは、全て糧としてヴァーリの力と変換される。
戦い始めた時は、相手の弱体化を狙うなどと、と若干思うところがあったが、あれは違う。
そんなちゃちなものではなかった。
あれは、貪欲に力を求めるソレだ。
ありとあらゆるものを飲み込んで、果てしない頂きを目指す覇者のソレだ。
遥か高みに座す何かを下から地の底に墜としてやる、という全てを打倒したいと希う戦闘者の野望そのものだ。
いくら聖槍の加護があるとはいえ、流石に禁手化したヴァーリの相手は、このままでは不利か。
いや、無理なわけではないが、ここはある程度手札を切っておいたほうが得策か。
何より、このままで力を出し続けるのなら、どうしても今の“アレ”ではない本来のものを使いたくなってしまう。
それはいけない。今はまだ時じゃないのだ。
そう言い聞かせ、俺もさらにギアを一つ上へと上げてやる。
「ここまで行かせたのは、キミで5人目だよ、ヴァーリ! 『禁手』!!」
そして、聖槍が光と共に弾け飛ぶ。
それはハーフとはいえ、悪魔であるヴァーリにダメージを与える類のもので、あまりの勢いに俺と打ち合っていたにも関わらず、ヴァーリは数十メートル吹き飛ばされた。
むしろ消し飛ばなかったのは流石だよ。凡百の連中はこれだけで呆気なく消し飛んだのに。
「『
これぞ『黄昏の聖槍』の本来辿り着くべき通常の『禁手』。
聖槍は輝かしい光を纏い、それは俺の身体をも包み込む。
「これで俺に半減能力は無効となった――ッ!」
「私が全力で殴り掛かる分には何の関係もないッ!」
俺に翼はない。ゆえに空は飛べない。
しかし、相手は悪魔であるために悪魔の翼を持ち、加えてヤツの『白龍皇の光翼』はその名の通りエネルギーでできた翼だ。
空が飛べないわけがなく、今も俺を高みから見下ろしながら、地に立つ俺にその強大な一撃を打ちに来る。
それを禁手による聖なるオーラを纏わせた聖槍で迎撃する。
オーラは穂先に比重を置いて集まり、槍自体を柄に見立てた大剣のようになる。
「――ぬッ」
ヴァーリが吹き飛ぶ。
相手は二天龍を宿した神滅具。しかし、こちらは最強の神滅具だ。
二天龍そのものではないのだ。力負けはしない。
押し負けたヴァーリは、翼を大きく広げ、砕けた鎧のヘルムの隙間から喜色に染まった瞳と勝利に餓えた笑みを浮かべた表情を覗かせた。
ああ、そうでないとな。
「なあ、アルビオン。コイツになら使うに値するだろう」
『使うつもりか? まだお前でも完全に制御化には置いていないだろう』
「構わないさ。だが、歴代連中の残滓も私と同じく戦いに、勝利に餓えた連中だ。そして、相手は伝説の聖槍。嫌でも力を寄越すさ――だから、使うぞ『覇龍』を。
我、目覚めるは――」
さぁて、ここからが本番だ。
コイツ相手なら、確かに俺ももう一段上の力を使う必要性が――――
『はぁい、そこまでにゃん』
だが、そこで高ぶった気分の中では非常に耳障りに聞こえる、スピーカーからのノイズの入った女の声が水を差す。
……本当に、イイところだったのに。
忌々しい。ああ、本当に忌々しい。
しかし、それは今しがた禁手のさらなるもう一つ上を使用しようとしていたヴァーリも同じようで、何とも言えない煮え切らない表情で顔を顰めていた。
「まったく、曹操……お前とは星の巡りでも悪いのか?」
「俺もキミとなら楽しめるところだったんだがな……」
「なぁに言ってるにゃん。これ以上は周りがもたないにゃ」
「むしろ俺ッチと黒歌の二人で仙術の結界張って、それを曹操――てめえが連れてきた英雄派の小勢が全力で強化してんのに軽々しく結界を撓ませる――どころかアレは破損か……はぁ、こちとらが頑張ってるもんを余波だけでぶっ壊すてめえらがどうかしてんぜ」
俺とヴァーリの戦いの邪魔をした下手人である美候と黒歌がやってくる。
まあ、邪魔と言ってもこれ以上組織の施設を壊してしまうのだから、やむなしか。
この二人は俺の所属する組織『禍の団』では、いわゆるヴァーリ派と言われるヴァーリと行動を共にしている連中である。
どいつもこいつも癖と我が強く、全員を相手にするのは俺でも面倒な連中だ。
なお、黒歌は猫耳に猫尻尾の黒髪和服美人である。そして、美候は締まっているんだかそうでないんだかわからない顔の、彼の斉天大聖の末裔だ。
さて、俺とコイツらの関係であるが、ヴァーリの言った通り腐れ縁一歩手前の、なかなか勝負をつける機会に恵まれない間柄である。
恋愛感情などはなく、ただただお互いに相手の全力を叩き潰したいという戦闘意欲の付き合いだ。
俺もヴァーリも、戦闘中に精神を高揚させると共に力も随時開放してギアを上げていくタイプ。このギアチェンジの過程で時間切れとなるのが、もはやテンプレ化してきている。
おそらくヴァーリの切り札はさっき言っていた『覇龍』だろう。アレはドラゴンとしての力を解き放つものだ。俺の聖槍とだって打ち合えるに違いない。
どうやれば、ドラゴン相手に全力を振るえる機会が得られるだろうか。
「まぁた面倒なこと考えてるだろ、曹操」
「さて、何のことやら」
俺に怒りを向けさせるのは特効薬だろうが、それは一度限りしか使えない手だろうしなぁ。
はぁ……。
「すまんが、萎えた。今日はお暇させてもらう」
「ちょっと待て、曹――」
さて、じゃあ、あとはオーフィスのところにでも行くか。
どうせ次元の隙間に連れ込まれるんだろうけど。
「フ。また振られたな、ヴァーリ」
「あぁ、全く。こうもすげなくされては、余韻で打ち震えることすらできないな。
は、ははははは……あァ、しかし、心躍る闘争だった。身体中がアイツを求めてやまない」
「いや、それもどうかと思うにゃ」
というわけで、前にポロッと予告をやった戦闘狂な憑依曹操のお話第1話お試し版です。
トーカちゃんの出番はまだなし。
こんな感じのキャラでやっていく予定。
続きがいつとかわかるわけナッシング。
連載始める時は、ここから外して別枠で投稿します。
簡易設定
・曹操
どこぞの誰かが憑依してしまった曹操。戦闘狂だが、戦闘時以外は意味深発言を連打する黒幕タイプ。性格的には熱血だと思われる。
禁手は原作とは違い、亜種ではない正規の禁手なのでオリ設定。人外に超強い槍になる。
実は黄昏の聖槍自体も少し設定が違う。
その他原作との差異があれば、半分くらいはだいたいコイツのせい。
本編前にだいたいやりたいことを済ませてしまったために本編で暗躍して、好敵手を創りだそうとしている。
SOUSOU。
・その他原作にもいる英雄派の皆さん
普通に英雄を目指していいことしようと心がけている熱血漢。お前ら誰だよ状態。
その内「禍の団」から離脱する。
・ヴァーリ
女の子。戦闘狂なこと以外は結構ロマンチストな予定。ぺったんこでもボインでもなく美乳。
原作もより幾分か強い。原作とは違い、実姉がいる。
性知識はだいたい黒歌に教え込まれているので、色々とおかしい。
・アルビオン
ケツ龍皇とか言われない世界線なので心身穏やか。赤龍帝の状態には大変遺憾である。
原作とは違う理由でドライグと和解させる予定。ヴァーリの保護者。
・ヴァーリ派の皆さん
基本的には変わらず。しかし、やんちゃなお嬢さんであるヴァーリの保護者的一面強し。
・オーフィス
我、曹操に負けた。敗者、勝者に従う。だから、曹操と一緒にいる。
いつか勝つ。でも、曹操といるの悪くない。
曹操サイドはだいたいこんな面子で進行されていく予定。