鬼狩りの鬼   作:syuhu

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会談の後

「返事は何時になっても良いよ。新しい日輪刀はカナエに渡しておくから、後で受け取ってね」

 

お館様との会談はひとまず無事終わった。日輪刀と情報提供の協力は結べたが、一番の目的だった鬼殺隊からの信用は得られないまま終わってしまった。しかし、それでもうまく行き過ぎているくらいだ。いつの間にかお館様からは信用され、鬼殺隊にまで勧誘されたのだ。失敗したら首を刎ねられるやも、と思っていた頃と比べれば、明らかに状況は好転している。

 

だが、代わりに岩柱からは、敵意なのか疑念なのかわからない感情を持たれてしまったらしい。お屋敷を去る時、向けられた視線が痛かったのをよく覚えている。

 

「日輪刀が出来るまで、蝶屋敷にいたら?」

 

「いや、流石にそこまでは世話になれない。というか、まずいだろ、色々」

 

「そうなの?」

 

「そうなの」

 

屋敷からの帰り道、胡蝶からの空気読めてない提案を断る。胡蝶は納得していない様子だったが、とりあえずは了解してくれた。妹に紹介したかったのに、なんて呟きも聞こえてきたし、行かなくて正解だった。どうやら妹さんも鬼殺隊員のようらしく、姉が鬼などと協力していると知れば、きっと柱達以上に良い顔をしないだろう。

 

「しのぶには話してるわよ?」

 

「…何を?」

 

「独孤くんのこと、一通り。笑いながら、ぜひ一度会ってみたいって」

 

え、怖い。お館様の時と同じ反応のはずなのに、胡蝶に良く似た女の子がにっこりと笑って日輪刀に手をかけている姿が思い浮かぶ。命懸けの交渉はもう一つあったか。その時がきたら、今日以上の覚悟をしなければならないやもしれぬ。

 

「じゃあ、また」

 

「うん。気をつけてね、独孤くん」

 

胡蝶と別れて、ねぐらにしている廃れた山小屋に走る。ほとんど人が立ち入ることがなく、気配を感じたら腐った床板を剥げば身を隠せる、鬼が潜伏するには都合の良い場所だった。教えてくれた胡蝶には感謝しか無い。いずれ何かしらの形で恩を返すべきだろうと思う。その帰り道の最中、ふいに投げつけられた殺気を背中に感じて、立ち止まった。

 

「…気付いていたか」

 

「まぁ、気配には人一倍、敏感なもので」

 

暗がりから現れたのは―――岩柱、悲鳴嶼行冥。尾行されていることは知っていた。だから置き去りにするつもりで走ったが、この男は平然とついてきた。巨体に似合わぬ速度。加えて息切れ一つしていない。柱最強との話も頷ける身体能力の高さだ。

 

「何用でしょう。生憎と、ねぐらにまで来ても饗すことは出来ないのですが」

 

「お前を見極めたい。信用に値する鬼なのかを…」

 

「どのように?」

 

「一つ、手合わせ願う。信念を持つ者の振るう剣には、必ず意志がある。光は見えずとも、相手の意志はよく見える」

 

なるほど、それはわかりやすくて大変よろしい。鬼だから信じない、と突っぱねられるよりはよっぽど可能性がある。

 

「わかりました。日輪刀を受け取った後、必ず」

 

「…お前は何故、鬼を狩る」

 

不意打ち気味の質問。そう尋ねる岩柱の表情からは、真意が掴めきれない。隠す事も無いだろう。鬼を狩る理由。それは初めから、たった一つだ。

 

「鬼が許せないから、です」

 

「お前とて、鬼だろう」

 

「はい。だから俺は、俺自身がずっと許せない」

 

鬼は、人の命を蔑ろにする。粗末にする。そこに尊重も敬意も無い。理由も目的も無い。ただそうしたいから、当たり前のように人を殺す。鬼だった自分自身が、誰よりも一番そのことを知っている。

 

「人を殺し続けました。それを悪いとも思わないまま、命を足蹴にし続けました。自分の家族を殺して支配から逃れた時、犯した過ちの大きさで、気が狂いそうになりました」

 

「ならば、その罪を償う為に、鬼を狩っているのでは無いのか」

 

「初めはそう思ってました。でも、犯した罪は償えない。やり直せない。失った命は、決して回帰しない。貴方が先程、会談の場で言ったように」

 

「………」

 

だから、俺は俺を決して許さない。同じ理由で、命を無下にする鬼も許せない。ならば狩ろう。この命が尽きるまで、鬼舞辻無惨を滅ぼす日まで。

 

「もし、俺が俺を許せることがあるのなら。それはきっと、鬼舞辻無惨とともに日の光で滅びる、その時だけでしょう」

 

「―――そう、か」

 

この最後の目的だけは、胡蝶にも言っていない。優しい彼女のことだ。知ればきっと、邪魔してしまうだろうから。その秘密を岩柱に零してしまったのは、この男ならきっと邪魔も妨害もしないだろうという確信があったからだった。

 

「…お前の真意は理解した。あとは、疑いようの無い信念を、私達の前で見せて欲しい」

 

「はい。出来る限り、頑張ろうと思います」

 

姿を消す岩柱を見送る。緊張が急に解けたせいだろうか。思わず、頭に浮かんだ言葉を口に出してしまった。

 

「なんだ。あの人、なんだかんだ言って優しいじゃんか」

 

まだ見ぬ他の柱も、こうあってくれれば良いのだが。まぁ、中々そううまくはいかないだろうけど。

 

 

そして十日後。一振りの日輪刀を持ってきた胡蝶が言った。

 

―――手合わせの場は鬼殺隊本部、その中にある演習場。半年に一度行われる、九人の柱達が集う柱合会議の最中だと。

 

 




次回、主人公VS岩柱in柱合会議
どうなるのか自分でもわからないです。

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