鬼狩りの鬼   作:syuhu

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遅くなりました。申し訳ないです。


育手

多分、夢を見ている。眠ってしまったのか、それともぽっくり死んでしまったのか。直前の記憶は、それこそ夢のように不確かで。掴もうとすれば、さらさらと崩れて指の隙間から流れていった。

 

―――これは、誰の夢だ。見覚えの無い場所。見覚えの無い景色。くすんだ世界の中で、知らない男と知っている男女が、睨み合うように相対している。知っている方は、鬼舞辻無惨と珠世さん。知らない男は、黒い刀身の日輪刀を持つ、耳に花札のような飾りをつけた剣士。

 

「―――」

 

その剣士を直視した瞬間、全身が総毛立つような感覚が走った。鬼では無い。だが人とも思えない。何がそう思わせているのかはわからない。しかし、あれが理の外側に立つ存在であることだけは、明確にわかる。本能か、それとも経験によるものか。どちらでも良い。出会ったら終わりなのだから、基準などは些細な問題だ。

 

そんな男を目の前にしても、鬼舞辻無惨は逃げなかった。それほどまでに自身の力に自信があるのか。もしくは、男の脅威を理解出来ていないのか。

 

「呼吸を使う剣士には、もう興味が無い」

 

そう言うと、鬼舞辻は人からはかけ離れた形をした腕を振るう。瞬き程の僅かな時間。人ならば回避どころか、反応すらも出来ないうちに絶命するだろう、その刹那に。―――確かに、この戦いは幕を引いていた。それも、鬼舞辻無惨の敗北という形で。

 

―――ああ、そうか。この夢は、鬼舞辻無惨の見た悪夢だったか。

 

 

目を覚ます。視界に広がったのは満天の星空と三日月。ここはどこだろうと考えて、思い出した。確か、霞柱との手合わせを終え、さて屋敷に帰ろうかと思った時に意識を失ったのだ。

 

「まぁ。起きれただけ、儲けもんか」

 

身体を起こし、上体を伸ばす。帰るのは一旦止めだ。なによりも優先すべきは、夢の終わり際に垣間見た剣技を再現すること。取り零しが無いよう身体に刻み込むこと。

 

振るう。振るう。嵐のように。神楽のように。刹那の身のこなしを再現し、刀の握りを再現し、呼吸の仕方を再現する。

 

「―――駄目だ。真似事にも、なってない」

 

何度か振るって、理想と現実が大きく乖離していることに気付く。あれは完成されていた。呼吸が行く着く最果てにある技だった。だから、鬼舞辻と言えども完全に見ることが出来なかった。鬼舞辻の記憶を夢として垣間見てる以上、見ていないものは俺にも見えない。再現するには情報が足りなすぎた。

 

『いたのです。鬼舞辻に並び立つ、人間が』

 

珠世さんの言葉を思い出す。多分あの剣士が、鬼舞辻に並び立ったという人間だろう。あのような人間がそうそういるはず無いのだから、きっと間違いない。ならばあの呼吸は何だったのか。今までに見たどの呼吸とも、根本からして違っていた。

 

そもそもあの剣士は何だったのか。耳飾り。黒い日輪刀。人の限界を超えた人。そして、額に浮かんだ炎のような痣。わからないことがあまりにも多すぎた。

 

だけど、一つだけ確信したことがある。あの呼吸はきっと―――全ての元となった呼吸だ。水や風など、基本となる呼吸の先にあるものだ。呼吸には適性がある。元となった呼吸を習得出来なかった剣士たちが、各々が得意とする剣技に落とし込んだ。だからこそ呼吸は枝分かれし、様々な剣士が使えるよう形を変えていったのだ。

 

再現は出来ない。しかし、行き着く先にあるならば到ることは出来る。派生でも混合でも無く、先に進める。それさえ出来れば自然と、始まりの呼吸にたどり着くはずだ。ならば、やらなければならないことは決まっている。先に進むための素材を集める。基礎となる呼吸を全て習得すれば、きっと見えてくるものがあるはず。

 

「なら、善は急げだな」

 

足りない欠片をいち早く埋めねばならない。向かうのは鬼殺隊本部、お館様の屋敷。

 

 

「うむ!存外早く着いたな!」

 

3日後。先頭を走っていた杏寿郎は、目的の人物がいる小屋を見据えると満足そうに一つ頷いた。そりゃ、ここまでほとんど休まずに移動し続けていたのだから、当初の予定よりも早く着いて当然だろう。

 

「大丈夫? しのぶちゃん」

 

「…大丈夫、です。体力だけは、訓練でつけてきたので」

 

とは言いつつも荒く肩で息をし、今にも倒れてしまいそうだ。当たり前だ。柱の移動速度に、曲がりなりにも着いてきたのだから。

 

「姉さんでわかったつもりでしたが、本当に、柱の人ってどうかしてますね」

 

「同意。人間やめてるよね、アレ」

 

「どうした!あと少しだぞ!」

 

わっはっはとこちらに手を振る杏寿郎。疲れてる様子など微塵もなく、このまま夜明けまででも走れそうな雰囲気である。

 

「…姉さんに言われて来ましたが。今、かなり、後悔してます」

 

「もっかい背負っていこうか?」

 

「結構です」

 

即答すると、ざくざく歩いていくしのぶちゃん。立派なものだ。強がりだとしても、柱の速度についていける隊員など、そうそういるものではない。だからこそ、カナエはしのぶちゃんを俺に同行させたのだろう。

 

目的の小屋に着いた。予定よりも早かったことが幸いしたのか、中からは明かりが漏れている。

 

「すいません、鬼殺隊の者ですが」

 

戸を叩きながら呼びかけると、突然に勢い良く戸が開いた。向こう側にいたのは、小柄な老人。左目の下に残った傷跡と、義肢で支えられた右脚が印象的だった。

 

「夜分遅く失礼します。あなたが、雷の呼吸の」

 

「善逸を知らんか!?」

 

「―――はい?」

 

誰、それ。

 

「黄色い髪をした、見るからに情けない風貌の小僧じゃ!」

 

「…はぁ。特に見ませんでしたが」

 

後ろの二人とも顔を見合わせる。二人揃って、ふるふると首を横に振った。

 

「また逃げたか!あの馬鹿者が!」

 

叫ぶなり、そのまま凄まじい速さで外へと出ていく老人。それはさながら雷が落ちるような速度で、確認せずとも彼が目的の人物―――桑島慈悟郎だと知れた。

 

「あ、ちょっと!」

 

「すぐに戻る!しばし待たれよ!」

 

目にも止まらぬ速度で視界から消えていく。素晴らしい。とても足を無くして引退したとは思えない動きだ。そして訪れる静寂。それこそ雷が過ぎ去った後のような静けさだけが場に残った。

 

「…とりあえず、上がらせてもらいましょうか」

 

「…そうしようか」

 

しのぶちゃんの言葉に頷く。幸先が良いんだか悪いんだか、わかったもんじゃない。

 

 

雷の呼吸を完全な形で見るのなら、育手の元へ行くのが良いとお館様は言った。雷の呼吸は習得している剣士が少なく、階級も高くないから技が熟達していないらしい。なら会いに行く許可を貰えないかと問うと、これがもうあっさりと認めてもらえた。

 

「始まりの呼吸を知る者は、もう誰も残っていない。独孤の助けになるのなら、断る理由もないよ」

 

とのこと。先んじて、育手の元へ鎹烏で文も出してくれた。あとはこちらから赴くだけだが、鬼を単体で行かせるわけにもいかない。カナエに頼み、都合のつく日取りを決めてもらおうと考えた時。

 

「俺が行こう!」

 

名乗り出てくれたのが他でもない、炎柱の煉獄杏寿郎だった。なんでも、ちょうど数日程任務を休んで鍛錬に力を入れるつもりだったらしい。こちらとしてはありがたいが、何故わざわざ面倒を引き受けてくれたのか聞いてみると。

 

「君の姿勢を尊敬しているからだ」

 

真っ直ぐな目でそう言われ、背中がむず痒くなったのはここだけの話。

 

その後、カナエに経緯と目的、恐らく4、5日程蝶屋敷には戻れない旨を伝えたところ、任務で同行出来ないことを心底残念がっていた。しかし、急に何か思いついたように、ぽんと両の手を叩き。

 

「そうだわ、しのぶを連れて行ってくれる?きっとあの子のためになると思うから」

 

そう言って強引に、研究途中のしのぶちゃんを引き摺ってきた。すぐに狙いはわかったので、困惑しっぱなしのしのぶちゃんを無理矢理連れ出し、後戻り出来ないとこまで抱えてきた。

 

「…姉さんは許します。でも、独孤さんは絶対に許さないので」

 

地面に下ろした時の、しのぶちゃんの笑顔が忘れられない。この姉妹、笑ってる時が一番怖いのである。

 

 

「申し訳ない。来て早々、驚かせてしまった」

 

「いえ、こちらこそ突然の訪問、申し訳ありませんでした」

 

軽く頭を下げる。ちらと横に目をやると、ボコボコに殴られて身じろぎ一つしない金髪の少年が、情けなく床に転がっている。

 

「お弟子さん、ですか?」

 

「我妻善逸という。素養はあるが、どうにも根性が無く、度々逃げ出す厄介もんでな」

 

「はぁ、さいですか」

 

それにしても殴り過ぎじゃない?とは思いつつ、口には出さずに黙っておく。育手の方針に口を挟める程上等でも無い。それがやり方なら、尊重すべきだろう。

 

「…しかし」

 

育手の老人がじっとこちらを見る。それは好奇と疑心が入り混じった、見覚えのある目だった。

 

「お館様からの手紙を見た時は、半信半疑ではあったが。まさか本当に、鬼殺隊に与する鬼がいるとは」

 

「運が良かったのです。鬼舞辻の呪いから、逃れることが出来ました」

 

「じゃろうな。儂も今までに聞いたことがない。長い歴史の中でも、類を見ない奇跡じゃろう」

 

もしかすると、他にも呪いから逃れた者がいたのかもしれない。しかし、鬼と鬼殺隊の両方から狙われ続けて生き残れる鬼などそうはいない。元から十二鬼月になるだけの力があったことと、呼吸を覚えられたこと。この二つの奇跡が重なったことで、かろうじて今を生きている。

 

「力を、お貸し頂けませんか」

 

「―――無論。人だろうと鬼だろうと、人のために戦う者に、助力を惜しむはずがない」

 

「…ありがとう、ございます」

 

生命力に溢れた力強い言葉に、深く頭を下げる。もし断られ、あの速度で首を斬りにきたら本当に死んでしまいかねない。

 

桑島さんが立ち上がる。義肢であることなど感じさせない、滑らかな動きだった。

 

「鬼ならば、外に出れるうちに始めた方が良かろう。稽古場へ案内する、着いてきなさい」

 

言いながら、ずるずると気絶したままの弟子を引き摺っていく。…もはや何も言うまい。何故か嬉しそうな顔をした杏寿郎と、げんなりした顔のしのぶちゃんを連れて、その背中を追った。

 




桑島慈悟郎さん登場少なすぎて口調わからん。
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