鬼狩りの鬼   作:syuhu

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短いですが、キリが良かったので。


鬼と柱

鬼は染み付いた血の匂いがする。鬼は澱んだ目をしている。鬼は自分勝手な言葉ばかりを口にする。鬼と仲良くなりたいという夢は嘘じゃない。しかし、心のどこかで、そんなことはあり得ないと思っている自分もいた。

 

何人もの鬼と会ってきた。会話は一度も成立せず、その度に首を斬った。斬る度に、自分の心が錆びていくのを感じた。剥がそうとすれば痛みを伴い、剥がし切る前にまた首を斬った。諦めてしまえと誰かが言う。諦められるはずが無いと私が言う。この夢を捨てれば、私は私で無くなってしまう。

 

「大丈夫?姉さん」

 

擦り切れていく心の変化に気づいたのはしのぶだけ。大切な肉親。大切な妹。妹を守るために姉がいる。妹に心配をかけるような姉は、姉ではない。大丈夫よと答えるたび、私は私でいられる気がした。

 

 

そうして気づくと、知らぬうちに柱になっていた。しのぶは大層喜んでくれたが、私は柱になりたいわけではなかった。ただ、しのぶを守れる私でいられればよかった。そうやって割り切れないから、私は夢を見ているのに。

 

だから、鬼を狩る鬼の噂は、私にとって朗報であり悲報でもあった。鬼を狩るなら、もしかすると仲良くなれるかもしれない。しかしそうでなかった場合、夢は始めから夢で、叶うはずもないただの妄想だったということ。

 

知らず震える肩を抱き、それでも私は鬼狩りの鬼を探した。柱となってからは融通の利く時間が少なくなったが、それでも情報を集め、行方を追った。

 

そして。

ようやく出会えた、鬼狩りの鬼は。

 

「……下弦の壱、独孤。元、だけど」

 

血の匂いが薄く。目は濁っておらず。何よりも。

 

「じゃあ俺も、できる限りは抵抗させてもらう」

 

正々堂々と、自分の意志を口にする鬼だった。

 

 

「――と、いうわけなの」

 

「…………………はぁ」

 

話を終えた彼女――胡蝶カナエに、曖昧な返事をする。というわけなの、じゃない。そんな話を突然に聞かされてどうしろと言うのだ。感動した、こちらこそよろしく、とでも言って欲しいのか。

 

「じゃあ、握手しましょう?やっぱり友だちは握手からじゃない?」

 

「そういうことなら、友だちじゃないから握手はしない」

 

「どうしてよぅ」

 

「俺が鬼で、君が鬼狩りだから」

 

実に単純でわかりやすい理屈だ。狼とうさぎが手を取り合えないように、人と鬼も手を取り合えない。ましてや鬼と鬼狩りなら、お互いに手を斬り合うのが正常だ。

 

「それなら大丈夫。独孤くんは鬼だけど、鬼狩りだから」

 

「何が?」

 

「もう仲良しってこと!はい、握手!」

 

気づいた時には胡蝶カナエはこちらの両手を握っていた。そういえばこんなんでも柱なんだった。特に間合いを詰める身のこなしに関しては、今までに会った柱の中で最も長けている。

 

「そういえば」

 

「どうしたの?」

 

「風柱。何か聞いてる?」

 

「不死川くんね。彼ならぴんぴんしてるわ。怪我が治ってないのに、もう暴れてるみたいだから」

 

それは大丈夫なんだろうか。まぁ、暴れてるということは刀は振れるということだ。大事ないようで安心した。で、いつになったら手を離してくれるんだろう。

 

「手、温かいのね」

 

「生きてる以上、体温はあるよ」

 

「うん、知ってる。でも、知らなかった」

 

確かめるように手を何度も握られる。不思議と不快感はなかった。

 

「教えて欲しい。鬼のこと、独孤くんのこと」

 

「知ったところで何にもならないけど」

 

「そんなことないわ。私は今日、鬼も温かいって知った。それは独孤くんに会わなかったら、ずっとわからなかったことだもの」

 

目を伏せる彼女を見て思う。やはり危うい。弱さなどではなく、その在り方が。彼女は鬼を哀れんでいる。その上で、手を伸ばそうとする。殺すべき対象に同情し、伸ばそうとした手で刀を握り、首を斬る。そんなことを繰り返していれば、いずれ心は瓦解する。むしろ、よく柱になるまで壊れなかったものだと感心すらしてしまう。

 

何故鬼に手を差し伸べるのか。聞くのは簡単だが、言葉にするつもりはなかった。理由のある無しに関係なく、彼女はずっとそうであり続ける。鬼を哀れみ、少しでも救おうとするのだろう。

 

「教える以上、こっちも聞きたいことが山ほどある。でもそれは、鬼殺隊への裏切りにならないか?」

 

彼女は鬼のことを知りたい。俺は鬼殺隊のことを知りたい。それはつまるところ、鬼と柱が手を組むということ。

 

「そうね。多分、すっごくまずいわね」

 

「すっごくか」

 

「うん。だから、内緒!」

 

「――は?」

 

「内緒にしてれば大丈夫!だって私は、友だちと会ってるだけだもの」

 

でしょ?と問いかけてくる花柱。…今わかった。こいつ、想像以上にやべぇ奴だ。

 

「それにね」

 

「何だよ」

 

「私は、私がしていることを間違っているとは思わない。きっとこれは、多くの人を助けることに繋がってると思うの」

 

「……多くの人を殺してきた、鬼と手を組むことが?」

 

「ええ。殺してきたことを後悔して鬼を狩り、昨日戦った相手のことを心配してしまう、独孤くんなら」

 

買いかぶりだ。殺してきたことを後悔しても、罪は消えない。かぶってきた血は今も色濃く、ずっとこの身体に染み込んでいる。風柱のことだって、鬼殺隊の戦力低下を気にかけただけで、誰が自分を殺しかけた男の心配などするか。だけど。

 

「――胡蝶。お前は多分、やばい奴だ」

 

「そうかしら?あまり言われたことが無いのだけど」

 

「鬼と仲良くしようなんてやつが、やばくないわけないだろ。……まぁ、鬼なのに鬼を狩ろうなんていうやつも、同じくらいやばいけど」

 

鬼と柱はわかりあえない。だけど、同じ変わり者同士なら、利用し合うくらいはできるかもしれない。

 

「俺は鬼舞辻無惨を滅ぼしたい」

 

「うん」

 

「そのために、もっと強くならなくちゃならない」

 

「うん」

 

「だから、教えて欲しい。鬼殺隊のこと。呼吸のこと。―――胡蝶のこと」

 

「―――うん!」

 

伸ばした手を胡蝶は両手で握った。その時、歯車が回り始める音を聞いた。




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