TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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100話の区切りを迎えました本作品に、皆様から暖かいお言葉をいただきまして、ありがとうございます。これからも楽しんでもらえる作品になるように頑張ります。

それはそうと、変なタイトルですが、別に最終回ではありません。
どういう意味なのかは……次回以降かな?

ともあれ、追試終了後のお話です。もう一区切り、ということで……どうぞ。


第101話 TS少女:ピリオド

 

 

Side.緑谷出久

 

 僕が今住んでいる部屋の……その隣の部屋の扉。

 今まで、もう幾度となくくぐった扉。

 

 なんなら、この扉の先の部屋で『楽にして待っててよ』なんて言われてくつろぐのまで、日常のほぼ一部になりつつある僕ではあるが……今日ばかりは、その……この扉をくぐるのに、かつてないレベルの緊張を覚えていた。

 

 それこそ、初めてこの部屋を訪れた時以上に。

 

 恐らく、この扉を開けば僕は……未知の領域に踏み込むことになる。

 多分、再びこの扉をくぐって出ていくときには、その……何というか、色々と、今の僕とは違う僕になって帰ることになると思う。というか、できるならそうなりたい。

 

 あの時、あの場で、あんなことを言って……そして、ああ返してもらったからには……

 

(で、でも、いざとなるとちょっとコレ……緊張する……さすがに……! ど、どうしよう、どんな顔して会えば……っていうか、何を話せば……!? というかそれ以前に、まともに顔を見れる気がしないっていうか、い、今思えば僕なんであんな場面であんな……も、もうちょっとああいうのって雰囲気を大事にするべきだったんじゃ……!? いくら全力の模擬戦で栄陽院さんに勝って調子づいてたからって、あんな勢いで言うみたいに……だとしたら、その更に、成功したというかOKもらった勢いの延長でこうして部屋にお邪魔しようとしている現状も決して褒められたものでは……せ、せめて心を落ち着かせて、緊張をほぐすために気の利いたジョークの一つでも……う、うん、やっぱりここは一旦ちょっと心を落ち着かせて色々準備してから出直し……)

 

 何か色々考えた結論として、一旦部屋に戻ろうとして……

 

「うおぉーい待て待て待て! ちょっと待て緑谷!? え、何帰ろうとしてんの!?」

 

 バタン! と勢いよくドアを開けて、栄陽院さんの方から出て来た!?

 見慣れたはずのエプロン姿が、何だろう……妙に艶かしく見える……ようなそうでもないような。

 

 少なくとも、本人が出て来たタイミングとかテンションはコメディちっくだったからな……いや、今の状況ならそれもかえってありがたいかもだけど。

 っていうか、ホントにすごいタイミングよく出て来たな……待ってたの?

 

「待ってたっていうか……まあ、緑谷の接近を察知して玄関まで出てきて、せっかくだから定番の『ご飯にする? お風呂にする? それとも……』ってやろうとしてたところだったよ……まさか帰られそうになるとは思わなかったから、折角作ったキャラも表情も全部壊れたけど」

 

「そ、そうなんだ……ごめんというか、ありがとうというか……」

 

 どうしよう、何か僕もったいないことしちゃってたみたいだ。……率直に言って、そのセリフを行ってくる栄陽院さん……見たかった。そしてできることなら、その3つから選びたかった。

 どれを選ぶのかって? あー……ノーコメントで。

 

「いやまあいいんだけどさ……それよか、そんな緊張しなくていいからさっさと入りなって。来てもらっておいてなんだけど、用事自体はもう半分以上昼に済んでんだからほら、緊張しないで」

 

 くいっ、と、ドアを開けて部屋の中を指し示す栄陽院さん。

 

 幸か不幸か、今のやり取りのおかげで多少緊張はほぐれたので、お邪魔します、と断って部屋に入らせてもらう。

 

 それでも……1歩1歩進むごとに……見慣れたはずの部屋の光景が、なんというか……違ったもの、違った雰囲気に見えてきてしまうのは……うーん……やっぱまだ緊張してるのかな。

 あるいは、今までにない何かを『期待』してるのか……。

 

「あ、そうだちなみに緑谷、一応聞いてみるけど……ご飯にする? 食事にする? それとも飯?」

 

「えっ!? あ、そ、そうだな、えっと……いやちょっと待って、それ全部同じだよね?」

 

 言い方変えただけで、どれ選んでも食卓に行くコース一択だと思うんだけど。

 『お風呂』と『それとも……』はどこ行ったの?

 

「うん。ぶっちゃけ丁度料理が出来立てだから、出来ればもう今熱いうちに食べてほしいなー、と思って。ほら、あっため直すより出来立てが一番美味いからさ」

 

「あ、うん、そういうことなら……いただこうかな。じゃあ、ご飯で」

 

「はいはい了解、仕上げっていうか準備するから、適当に座って楽にして待ってて」

 

 

 

 待つと言ってもほんの数分ほどで、配膳とか色々済んで、食卓の上に、豪華な料理が並んだ。

 

 期末試験(追試含む)無事に終わった記念+αってことで張り切ったそうだ。いつもではあるが……どれもこれも美味しそうで目移りしちゃうな。

 

 ただその……美味しそうだけど、料理とか食材のチョイスに、何かしらの思惑を感じなくもないメニューな気が……する、かも。

 

 白米のご飯はいいとして……おかずが色々豪華だな、量もある。

 カツオのたたきやマグロの刺身、カキフライにサザエのつぼ焼きなんかの海の幸。

 肉類では、牛肉のステーキ(焼き加減レア)に、トンカツ……レバニラや鴨肉なんてものも。

 サラダはトマトとチーズ、アボカドなんかで彩り鮮やか。見た目にも美味しそう。

 汁物は……アサリの味噌汁か。……貝類多いな。

 

 献立に、和洋中的な統一性はないけど……どれも美味しそうだ。

 というか、美味しかった。

 

 トレーニングで体が作られているおかげで、今の僕は前までより結構食べるようになってる。

 普通の男子なら苦しくて食べきれないような量でも、ペロッと行けるくらいに。

 

 まして、ここ数日……試験やら追試やら、そして『ワーキングホリデー』やらで体を酷使してきたから、ご飯が美味しいのなんの。

 肉、魚、貝、野菜、そして米……美味しい料理と、それを消化吸収して得られる栄養素を、体が渇望しているのがよくわかる。舌とか頭だけじゃなく、体が喜んでる感じだ。また強くなるための、強い体を作るための最高の材料だー、って。

 

 夕食にしちゃガッツリめだったかもしれないけど、栄陽院さんと2人で、きちんと残さず全部食べた。ごちそうさまでした。

 

 

 

 その後は2人で、何てことない穏やかな時間を一緒に過ごした。

 

 最近話題のドラマを一緒に見たり、その合間に流れるCMで出てくる店や食べ物なんかについて『美味しそうだね』って話したり。

 

 栄陽院さんがいつものぶどうジュースとワイングラス×2、おつまみのチーズやドライフルーツを一緒に持ってきて、なんちゃって晩酌みたいにして笑いながら食べたり。

 

 今日が期末試験の『追試』だったわけだが、明日はちょうど日曜日。学校は休みだ。さらに言えば、『デウス・ロ・ウルト』の修行も休みにしてもらっているので、いつもよりゆっくりできる。

 

 ……そう。ゆっくりできるのだ、いつもより。

 

 ちょっと夜更かしして、夜中くらいまで今日起きていても……その結果、明日ちょっと寝坊してしまっても、大丈夫なのだ。特別に。

 

 そのことをわかっている僕は、普段なら『それじゃ、今日はこのへんで帰るね』ってお暇するくらいの時間になっても、のんびりだらだらと彼女の部屋で過ごしていた。

 栄陽院さんもそれを咎めることはなく、取りとめもない話題でゆったり話し続ける。

 

 ……彼女の方はどうかわからないけど、僕の場合は……ただ理由もなくここにいるわけじゃない。

 きちんとこの後、言いたいこと、やりたいことがあって粘ってるんだけど……た、タイミングとか色々考えちゃって……ふ、踏ん切りとか決意みたいなのがまだ……い、いや、そもそもそういうのをしたうえでここに来たつもりだったんだけど……

 

 こういう時って、いつも栄陽院さんの方から話題振ってきてくれたからなあ……

 で、でも、あの時もきちんと考えたじゃないか……自分から行動することが大事なんだって。

 

 何かしたいことがあるのなら……望むものがあるのなら! 僕の方から動いて、伝えなきゃ!

 

 ……僕の考えすぎというか、自意識過剰とかでなければ……望んでくれているようにすら見える。その先を言ってくれることを、期待している的な。

 

 態度以外にも、そう思う根拠はもう1つ。

 そろそろ消化・吸収もあらかた終わる頃だと思うんだけど、晩御飯として作ってくれた料理のメニューが……ね。

 

 カツオやマグロなんかの青魚、カキやサザエ、アサリといった貝類。

 肉類全般……特にレバニラや鴨肉。

 トマト、チーズ、アボカド……その他色々。色の濃い野菜や、乳製品。豆類など。

 

 これらは全て、程度に差はあれど……俗にいう『精がつく』食材だ。しかも、迷信とかじゃなく……そういうのに必要な栄養素として科学的にきちんと立証されているそれ。

 

 ここまで狙って出してきたってことは……うん。

 

 それに、こう言っちゃなんだけど……もう一番大事なところは超えてるんだ。OKももう貰っているに等しい。

 僕が『求める』ならば、彼女が断ってくることは……まず、ない。あとは、僕の度胸の問題。

 

 意を決して僕は……その直後、おあつらえ向きに話題が途絶えたタイミングで、

 

「……あの、栄陽院さん」

 

「……! うん……何、緑谷?」

 

 どこか、僕の語調というか……雰囲気が今までと違うことを察してか、微妙に栄陽院さんの声にも緊張が含まれているようだ。

 

 でも……彼女にその先を止めるつもりはないみたい。

 

 ……どっちにしても、僕はもう、引く気は……ない。

 だから……

 

 

 ―――でーんーわーがー、来た! でーんーわーがー、来た!

 

 

「「!?」」

 

 ……すごいタイミングで、僕の携帯が鳴った。

 

 力強いオールマイトの着ボイスに、その場の空気は完全にスマッシュ……じゃなくてクラッシュされ、ぼーぜんとした状態で、僕も栄陽院さんも……机の上に置かれているそれを見る。

 

 ……いつもは聞くだけで安心できて心躍るその声が、今日だけはちょっとその……うらめしい。

 

 いや、オールマイトは何も悪くないんですけどね? せめてその……誰がかけてきたのかわかんないけど、タイミング……

 

 画面を確認すると……上鳴くん?

 

「(ピッ)もしもし、上鳴くん? どうしたの、こんな時間に?」

 

『おう緑谷! 悪いな夜遅くになってから……あのさ、明日って空いてたりする? 昼から』

 

「う、うん、たぶん大丈夫だと思うけど……どうかしたの?」

 

『おう、今日でどうにか全員『追試』終わって、めでたく全員林間合宿行けることになっただろ? それを祝って、まあ打ち上げみたいなのやろうと思ってさ。追試メンバーで』

 

 急で悪いんだけどさ、と付け足しながら、上鳴君はそう聞いてきた。

 うん、それなら……大丈夫かな。明日も……午後なら。

 

 追試メンバーと言いつつ、僕は付き添いだから厳密には違うんだけど……まあいっか。そこ指摘するのも野暮だろう……彼らからしてみれば、一緒に頑張った人たちは皆、誘いたいんだろうし。

 

 上鳴くんに了承の返事を伝えて、僕は電話を切る。

 ふぅ……思わぬハプニングだった。

 

 そのまま少し、ちょうどいいのでその『打ち上げ』を話題にして話し……頃合いを見計らって……

 

「……栄陽院さん」

 

「……! うん」

 

 何か、自動的に声のトーンが変わっちゃうな。

 どくん、どくん、と鼓動が早まるのを感じながら、僕は思い切って……

 

 

 ―――TRRRR!! TRRRR!!

 

 

「「!?」」

 

 また電話!? あれ、でもこれ、僕の着信音じゃない……栄陽院さんの?

 

 すると栄陽院さんは、ズボンのポケットに入っていたスマホを取り出して……ああ、やっぱり彼女のだったんだ。

 画面を確認して、僕に『ごめん』とジェスチャーで伝えてから、それに出る。

 

「あーもしもし、芦戸? どしたん、こんな時間に」

 

『ごめんねー永久、遅くなってから。あのさあ、明日って空いてる? 昼からとか』

 

 電話口から漏れ聞こえて来た声は、A組のムードメーカーの1人である芦戸さんのものだった。

 ついでに言えば、彼女もまた、『追試』メンバーの1人であり……栄陽院さんをパートナーとして選んで参加していた。

 

 ああ、考えてみれば当然か……同じように追試に参加したんだから、彼女にも誘いが来るだろう。ちょっと時間差だったけど……悪意を感じそうなタイミングだったし。

 

 案の定、その誘いだったので、栄陽院さんも受けて……ついでにこんな会話も。

 

「あのさあ芦戸、その……何だ、打ち上げ? 場所って決まってたりする?」

 

『場所? いや、適当にカラオケとかファミレスかなーとか思ってたけど。時間遅いから電話とかで話し合うのも今日はまあ……アレかなと思って、目星だけつけとくつもりだった。連絡はメールかLINEあたりで』

 

「そっか……あのさ、1コ提案あるんだけど。こういうこと言うのアレだけど……私のうちって、八百万と一緒で結構……なんだ、セレブリティな枠組みに入るのね? いや、自慢するつもりないけど」

 

『あーうん、永久ってそう言えばそうだったね。油断すると忘れがちになるけど』

 

「おい」

 

『あははは、ごめんごめん。それで、それがどうしたの?』

 

「うちの実家の系列店で新しくオープンした飲食店の招待チケット貰ってさ。1枚で4人までOKのが6枚もあってめっちゃ余ってて……どうかなと思って」

 

『そんなにあんの!? 多!?』

 

 あ、それさっき話した奴だ。確か、栄陽院さんがもらったのは2枚だけなんだけど、お義姉さんたちが『忙しくて行けないから』って自分達の分2枚×2人分も押し付けて余らせてたって。

 

「その打ち上げ、B組の奴らも来る? だとすると、全部で16人……心操と青山は? ああ、連絡つかない……それに忙しそうだった? 普通科も何かあんのかな……まあ、そういうことなら仕方ないか。 でもそれならチケット4枚あれば足りるな」

 

『ちなみにどんなお店? 高級店とか?』

 

「いや、確かにちょっとおしゃれな雰囲気かもだけど、そこまで肩肘張った感じじゃないよ。中華料理のビュッフェのやつなんだけどさ」

 

『おぉー、中華! しかも食べ放題! いいね、打ち上げにぴったり! わかった、それ提案してみるね! ありがと永久!』

 

「どーいたしまして(ピッ)」

 

 

 

 楽し気な打ち上げの予定が決まったところで……と。

 

 ……ええと、雰囲気ができるのを待つのもアレだ。もう夜遅いし……電話している間に、心の準備は済ませてた。

 よし、じゃあ……

 

 

 ―――TRRRR!! TRRRR!!

 

 

 また!? え、何なのこのタイミングで、また今度は栄陽院さんの……誰だ? 芦戸さんかな……何か話忘れてたことでもあったのかな……?

 

 栄陽院さんも、僕からの話の続きを期待してたみたいで、若干『何だよ……』みたいな表情になってスマホを操作し、

 

「はいもしもし……どしたん葉隠、こんな時間に」

 

『こんばんわー、永久ちゃん。ごめんね夜遅くに。今いい?』

 

「うん、まあいいけど……何?」

 

 今度は葉隠さん? 何だろう……彼女は追試メンバーでもないのに。

 

 聞いてみたら、どうやら葉隠さんの発案で、皆で林間合宿の買い物に行かないか、っていう話になってるみたいだ。

 

 ただ、さすがに明日とかは急は話だから断念して、来週末ってことになったらしい。

 仲のいい女子メンバーにだけ今電話してて、他の面々には明後日以降、学校で話すみたい。

 

 なるほど……合宿なら、色々準備とか必要だろうしな。それに、期末試験っていう、いわば試練を乗り越えたタイミングだし、楽しく買い物ってのもクラスの親睦を深める意味でいいかも。

 

 葉隠さんとの話は割とすぐに終わったので、今度こそ……

 流れも何もないけど……構うもんか。僕は、電話を置いた栄陽院さんの目を正面から見て……

 

 

 ――ピンポーン

 

 

 インターホン!? 今度は来客だと!?

 バカな……タイミングの悪さもそうだけど、今9時過ぎだぞ!? 夜の!

 

 一体誰が……ああだめだ、ここ栄陽院さんの部屋だから、僕が出るわけにはいかない。

 

 玄関から見えないように、扉を閉めて身を隠して待ってると……

 

「母さん、何なのこんな時間に……」

 

「ごめんごめん永久、遅くに来ちゃって。今日泊めてもらっていい? 明日、早朝からこの近くで仕事なのよね」

 

 アナライジュだったのか!? ま、まあ、肉親なら……この時間に来てもまあ、セーフと言えばセーフかもしれないけど、……いや、それにしたってホントに何で……

 

「いや、別にいいけど……ただ、別の部屋使ってくれる? 頼むから、今日だけは」

 

「? それは構わないけど……あら? ああ、あらあらあら? あ、そういう感じ!? ついに!?」

 

「……察したなら頼むから……」

 

「うんうん、わかってるわかってる。ふふふ……ごゆっくりー♪」

 

 ばたん、と音がして、アナライジュは扉を閉めて去っていったようだ。

 ……最後の『ごゆっくり』、やけに音量大きかった気が……ひょっとして、僕がいることに気づいてた? いや、それも当然か……玄関に思いっきり靴置いてたし……

 

 でもそれはつまり、あの感じだと……こ、これからすることを(しようとしていることを)理解した上でなお認めてくれたっていうことで……よし、これはもう……行くしかない。

 

 ……わずかに聞こえて来た『納品書要る?』『いや、いらないから』っていうやり取りの意味がちょっとよくわからなかったけど……まあいい。

 

 リビングに帰ってきた栄陽院さんも、幸か不幸か、アナライジュの言葉でちょっと意識して赤くなってるし……タイミングも雰囲気も、今なら図らずも悪くない感じだ!

 

 今度こそ、僕の口から……

 

 

 ―――でーんーわーがー、来た! でーんーわーがー、来た!

 

 

 ……なんでさ。

 

 今度は誰だよ、と思いながらスマホを手に取る。……着信元は……んん!?

 

「も、もしもし?」

 

『HAHAHA! やあ、緑谷少年、夜分にすまないね……今ちょっといいかな?』

 

 と、着ボイスと同じ声が電話の向こうから聞こえて来た。まさかのオールマイト本人である。

 どうしたんだろう、こんな時間に……

 

「あ、はい、大丈夫ですけど……どうかしましたか?」

 

『うん、あ、でもその前に……君今、1人? ちょっと込み入ったことも話したいんだけど……』

 

「あ、はい、ちょっと待ってくださいね」

 

 栄陽院さんに断って、廊下に出る。

 

 あのちょっと言いよどんだ感じ……何か、人には聞かれたくないことを話すようだった。もしかすれば、『ワン・フォー・オール』とか、その関連かもしれない。

 

 なら……悪いけど、栄陽院さんに聞かれるわけにはいかないからな。

 

 話をする準備ができたと伝えると、オールマイトは、

 

『うん、実はね……ナイトアイのことなんだけど』

 

「? サー・ナイトアイですか?」

 

『最近、事務所というか、ヒーロー業を暫く休業……とは言わないまでも、規模を縮小してやってるみたいでね。いやまあ、最近と言ってもここ数日くらいのことらしいけど……何か知らない?』

 

 ナイトアイが……? 知らなかったな。

 

 いやでもそういえば……前に栄陽院さんが、ナイトアイに呼び出されて行ったっていう、壊理ちゃんが入院してる病院で……『ナイトアイが来るはずだったのにバブルガールだけが来てた』って言ってたっけ。それも何か関係あるのかな?

 

 オールマイト曰く、ナイトアイはそのサラリーマンっぽい見た目通り(?)事務とかデスクワーク的な仕事がすごく優秀らしく、人の何倍もの量の案件をいつも同時進行で進めているんだって。オールマイトのサイドキック時代からそうだったらしい。すごいな。

 

 そうは言っても、ナイトアイも人間だ。たまには休みたい気分にもなるんじゃないかな……特に今は、『死穢八斉会』の摘発、『オーバーホール』の逮捕っていう大仕事を完遂したばかりだし。

 

 何にしても、特に体を壊してるとかじゃなければいいんだけど……と思っていたら、

 

『まあ、私としてもそれは同感なんだけど……ナイトアイには、なるたけ早く連絡を取らなきゃいけない理由もあるからね。というか、そのことをナイトアイも承知してるはずなのに、私に連絡もなしで……というか、なんか連絡自体つきにくいみたいでさ、少し気になるなと』

 

「理由……?」

 

『覚えてるかな、緑谷少年。ナイトアイが君と……栄陽院少女を『ワーキングホリデー』に招いた理由。君の強さを見るためと、栄陽院少女から話を聞くため……だったろ?』

 

「! はい、そうでした。あ、もしかしてそれで?」

 

『うん……まだ私、その見解というか結果というか、彼に聞けてないんだよね。その様子だと君もかな……まあ、前者に関しては正直心配してないけど、後者については……まあ、心配はこっちもしてはないけど、やっぱり気になるから、電話ででも聞きたいんだけど……なぜか、ナイトアイにそれを聞こうとすると、『少し時間をくれ』ってはぐらかされるんだよ』

 

「…………?」

 

 ナイトアイが、なぜそんなことを……栄陽院さんに関して、何か気になることでもあるのか?

 『ワーキングホリデー』中は、特におかしな様子はなかったと思うけど……なんだったら、彼女の事務作業とかそのへんの手際に関しては、褒めてたくらいだし。サイドキックのバブルガール共々、思わぬ戦力だって評価してたはずだ。

 

 それに、ナイトアイは言いたいことがあるならはっきり言うタイプの人だ。それが例え、オールマイトが相手であろうと、遠慮せずに。

 

 そんな彼が、はぐらかす……確かに、気になるな……

 何か言えない理由があるのか……それとも、言う前に何かやることがある? ヒーロー業の一時縮小や、その割に最近忙しそうにしてるってのは、そのためか?

 

 何にしても、僕は残念ながら何も知らないので、そう伝える。

 

『そうか……わかった。ありがとう。すまないね緑谷少年、遅くに変な用件で電話して』

 

「いえ、そんな。じゃあ……おやすみなさい」

 

『うん、お休み……あ、それと緑谷少年、もう1ついいかな?』

 

「? はい、何ですか?」

 

『ええと、上手く言えないんだけど……おめでとう。栄陽院少女と仲良くね?』

 

「へぁ!? な、何っ……あ。あっ、えっと、あの……はい、ありがとうございます……」

 

 ……そう言えば、そうだった。オールマイトはもう知ってるんだ。

 僕が、彼女に、その……告白したって。

 

 ……というか、あんな場所で、あんな場面で告白なんてしたらそりゃ……当然なんだけどね。

 

 何せ、あの時はもうなんか……気持ちが高ぶって、目の前の栄陽院さんしか見ていなくて忘れてたけど……『追試』の会場で……試験中だったんだから。

 生徒の安全確保や、『追試』自体の実技採点のため、先生たちが見てたんだから。

 

 ただ、僕の場合は少し特殊だ。何せ、継承される特殊な個性にして、オールマイトの秘密……ナチュラルボーンヒーローとしての立場の秘密にも関わる『ワン・フォー・オール』が絡んでくる。

 だから僕の試験――いや僕のじゃなくて瀬呂君のだけど――に関しては、採点役を選別し、オールマイトとリカバリーガール、根津校長だけで主に見ていたそうだ。上手いこと役を割り振って。

 

 追加で後から知らされることになるのも、せいぜい担任の相澤先生くらいだそうで……まあ、そのくらいは甘んじて受けるべきだろう。生徒同士の関係で、把握しておかなきゃいけないこともあるだろうし……

 それ以外は、プライバシーというか、生徒の個人情報ってことで一応公にはしないでいてくれるとのことだった。まあ、何か事情があればその限りではないけど。

 

 ともあれ、オールマイトにお礼も言って……通話、終了。

 

 しかし、それを置いといても、ナイトアイのこととか、色々と気になることはあったけど……まあ、考えても仕方ないか。今は。

 

 ……それよりも……今度こそ……

 もう何度目かわからないくらいではあるが、決意をし直して、廊下から部屋に戻ると……

 

「……えっ?」

 

 そこには……机に突っ伏して寝てしまっている栄陽院さんが。

 

 え、うそ……寝……!? こ、このタイミングで!?

 いや、それはあんまりじゃ……確かに僕、何度も言い逃しちゃったけど、だからってこんな……それに、まだ10時だよ!? 早寝早起きは心がけてるとはいえ、起きてられない時間って程でも……

 

(……ん?)

 

 失意とか落胆、困惑の只中にあった僕は……ふと、栄陽院さんの目の前に置いてある、あるものに気付く。

 

 それは、さっきまで僕も一緒に飲んでいた、いつものぶどうジュース……だが、さっきよりビンが1本増えている。

 片方は空みたいだ。結構長く話しちゃってたから、待ってる間に、新しいの開けたのかな……なんて思って見てみたんだけど……よく見るとその新しい方のビンが、いつも飲んでいるものと違うことに気づく。

 

 ラベルのデザインはほとんど同じ(ドイツ語だから何書いてあるのかは相変わらず不明)だけど、張ってある値段シールが、いつものよりさらに高い。倍以上だ。

 

 

 加えて、ラベルの下の方にちっちゃく『7.7%』っていう表記が……

 

 ……!? これ、ジュースじゃなくてワインじゃないか!? アルコール入ってる奴だ!

 

 え、何でこんな……そういえば、コレの輸入先の業者は、ワインも作っていた(というかむしろワインが本業で、ジュース『も』作っている業者)はず……納入されたジュースに混じってたのか!?

 それとも、アナライジュかビスケさんあたりが晩酌用に持ってきたものが混じった!? 2人共、時々栄陽院さんの部屋で、料理持ち寄ってそういうことしてたはずだし……

 

 ビンは冷たい。冷蔵庫に入ってたみたいだ。どうやら栄陽院さん、ラベルよく見ないで出して……見た目ほぼ同じだから、間違えてコレ飲んで寝ちゃったみたいだな……

 

 いつもの彼女ならこんなミスしないのに……緊張してたのかな、やっぱり、彼女も。

 

 しかし、これは……今日は……もう、仕方ないかな……

 無理、だよな……いくら何でも、起こしてまでっていうのは……

 

 正直、落胆は隠せないけど……こうなってしまったものは仕方ない。今日は、その……諦めて、明日以降また……機をみて、伝えるしかないだろう。

 

 それに、アルコールが入ったとはいえ、こんなにすぐ寝ちゃったってことは……疲れもたまってたのかもしれないし……いや、たまってないはずないか。『ワーキングホリデー』に加えて、この間の期末試験や、今日の追試もあったんだ。

 特に今日は、僕との戦いで、『エネルギー』ほとんど全部使い果たすほど消耗させちゃったし……それなら、このままゆっくり休ませるのも、決して悪い選択ではない、はず。

 

 ともあれ、ここにこのまま寝かせておくことはできないだろう。

 体が痛くなっちゃうかもしれないし、せめてベッドに運んで寝かせなきゃ。

 

 起こしてしまわないよう、注意して優しく抱え上げると、彼女の部屋に行く。

 

 192㎝の栄陽院さんでもゆったり横になれるほどに大きなベッド(たぶん特注)。

 その布団を軽くめくり、そこに彼女を横に……したと同時に、ふと気付く。

 

 このまま寝かせちゃっていいのかな……服、部屋着とはいえしわくちゃになったり、寝汗で匂いがついちゃうかも……パジャマか何か……。

 前に僕が同じようなことになった時は……きちんと丁寧に寝間着に着替えさせてくれたっけ。僕もそうした方が……待てよ?

 

(栄陽院さんって、寝る時たしか……な、何も着な……)

 

 ということは、ふ、服を脱がせ……い、いやさすがにそれはまずいよな……

 

 悪いけど、しわとか匂いは、後々洗濯とかアイロンとかで何とかしてもらうとして、このまま布団を……

 

「ん、んぅ……っ!」

 

 ぐぃっ ← 身をよじり、襟元のあたりを苦しそうに引っ張る

 

 ……寝苦しい、のかな?

 いつもと違う格好で寝てるから……

 

「……っ……(ごくり)」

 

 これはアレだから……必要なことだから。

 栄陽院さんが寝苦しそうにしてるから、少しでも楽にしてあげるためだから……多分このくらいじゃ怒らないから……もし怒られたら謝るから……

 

 服が元々ゆったりめだったのが幸いして、そんなに苦労せず脱がせることができた。

 その最中にあちこち『ぷにっ』とか『ぎゅむ』とか当たったり擦れたりしてこっちも大変だったけど……どうにかこれで、上下下着姿にまでは脱がせた……。

 

 ……これ以上は流石に無理。

 モラル的なところもそうだけど(そっちはもうとっくにアウトかもだけど)……僕が我慢できなくなる。

 

 さっき食べた『精がつく料理』の数々は見事に仕事をしていて……そしてここまでの刺激で、見事に一部分が『変形』しちゃってるので……割と理性、ギリギリなんで……

 

 今更だけど……この状況、傍から見たら……完全に夜這い、どころか性犯罪の現場だよね。

 

 同級生の女の子が寝ている所に、一部分を変形させながら服を脱がせて息を荒くしている……しかも、僕は何もやってないとはいえ、寝ているのは酒のせい(事故)、というおまけつき。

 

 酔わせて寝込みを襲っていると言われたら、酒の部分以外反論できない。ヒーローどころか、人として終了である。

 

(こっちは自分で、というか自力で処理するとして……さっさと部屋から退さ―――ん゛っ!?)

 

 しかしその時、服を脱がせるためにベッドの上にいた僕は……ベッドの縁から足を踏み外してしまい、ガクッと体制を崩してそのまま下に倒れ……

 

 ――どさっ!(むにゅ)

 

「むぐっ……!?」

 

「ぐっ……ほっ!? な、何…………ぇっ?」

 

 そのまま、寝ている栄陽院さんの上に頭から思いっきりダイブしてしまった!?

 

 絵面はともかく、実態は完全なるドジ。しかも結構勢いづいて突っ込んで……というか落下してしまったため、その衝撃は結構なものだったと思う。

 ル○ンダイブじゃなくて、ボディプレスだったもんな最早……起きた瞬間の栄陽院さんの声も、苦しそう+驚いた感じだっ、た……し……

 

 ……そう……『起きた』瞬間の……

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……よりにもよって、落下位置と身長差の関係で、彼女の豊満なバストにうずもれる形になっていた頭を、恐る恐る上げると……それはもう見事に、目があった。

 彼女の……困惑している目と、僕の、色々死にそうになっている気がする目が。

 

 さっき言った通り、この状況はただ滑って転んでボディプレスなんだけど、彼女からすれば……いつの間にか寝室に運ばれていて、下着姿にされていて、僕(一部変形済)がその旨に顔をうずめているという状況に他ならないわけで……

 

「えっ、と……緑谷……?」

 

「ち、違うんだ栄陽院さん! は、話を聞いてお願い! その、こうなってるのは不可抗力というか、僕はただ単に栄陽院さんの服を脱がせてただけであああそれも別にやましいことを考えてじゃなくてほら栄陽院さん苦しそうだったし寝る時裸だって聞いてたからいや裸って言っても全裸にするつもりはなかったしととととととにかく誤解なんだ! お願い信じてくだ……」

 

 

「…………誤解、なの?」

 

 

「……え?」

 

 ふと見ると……栄陽院さんは、少しだけ顔を赤くしつつ……どこか、微妙に残念そうな表情をしていて……少なくとも、怒っている様子は微塵もない。

 というか……何かを期待しているように、見えなくも……

 

「いや、その、まあ……いきなりっていうか、気が付いたらこんなことになってて、びっくりはしたけどさ……別に私、その……何も……うん……嫌、とかではないというか……」

 

「……えっ、あ……!」

 

「……ね、緑谷……誤解?」

 

「ご、誤、解……だけど、誤解じゃなくなりそう……」

 

 思わず、といった感じでそうつぶやいてしまった僕。

 

 すると栄陽院さんは、残されていた最後の衣服……上下1枚ずつのそれを、自分で取り去った。僕の、目の前で。

 

「ねえ緑谷……今日、言ってくれただろ? 『全部をくださいって』」

 

「……う、うん」

 

「それに私も『はい』って言ったろ?」

 

「……うん……」

 

「なら……今、目の前にあるものは? 頭のてっぺんから足の先まで、中も外も、髪の毛一本にいたるまで……誰のもの?」

 

「……僕のもの。栄陽院さんの全部は……僕の、ものだ」

 

「そう。なら……遠慮なんかせず……

 

 

 

 召 し 上 が れ?」

 

 

 

(あっ、ダメだこれ、やば……)

 

 

 

 

 

 僕の理性が、わずかでも働いていたのは……ここまでである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、気が付けば……

 

 

 

(……黄色……くはないな、別に)

 

 気が付けば……朝。時刻は、午前6時30分。

 

 窓のところのカーテンを開けて……最初に思ったことがそれだった。

 

 よく、そういうことした翌朝は太陽が黄色く見えるっていうけど……黄色いと言われればそうも見えるし、いや別にそうでもない、普通というかいつも通りだって感じもするし……っていうか自然光って色ないよね。白とかだよね。

 

 なんて、中身のない、取りとめもないことを考えてしまうのは……まだどこか、僕の心が冷静でないからなんだろうか。

 朝の外の景色を見て落ち着こうと思ったけど……ちょっと無理かもだな。まだ。

 

 朝、一発目で目に飛び込んできた光景が、刺激的過ぎた。

 というか、その瞬間に、昨日の夜のことまで全部一気に思い出して、その刺激に叩き起こされたというか、何というか。

 

 ふと、斜め後ろの方……ベッドの方を見る。僕自身()さっきまで寝ていた、寝心地のいいベッドを。

 

 ベッドの片側半分というか、人1人分のスペースが、不自然な空白になっているベッドだが……もう片側半分には……彼女が寝ていて、まだ寝息を立てている。

 

 この部屋の主であり、さっき寝ぼけまなこの僕を一瞬で覚醒させた犯人であり……つい昨日、僕のものになった……栄陽院さんが。

 布団で隠されてて見えないけど……生まれたままの姿で。体中を、寝ている布団ごと、色々なものでべとべとにして。

 

 ……汗とかももちろんそうだけど、半分くらいは多分……僕由来のものである。

 何とは言わないけど……うん、色々アレだから。

 

 僕もそうだが、栄陽院さんは……『デウス・ロ・ウルト』のトレーニングの関係もあって、午前5時くらいには起きる習慣が身についている。

 それが、こんな時間までぐっすりってことは……よっぽど疲れちゃったんだろう。

 

 ……その犯人というか……『無理させた』のは僕なんだけどね……昨日の夜。

 

 そのことを思いだすと、昨日あんだけやったのに、色々むずむずしてくるというか……っていうか、ちょっと肌寒いな。いや、当たり前か……今更だけど、僕も起きた時のまま……裸なんだし。

 暖を取ろうと布団に入ろうとして……しかし、その布団には先客というか、栄陽院さんが今既に入ってるわけで……でもさっき起きるまでは僕も入ってたわけで……そもそも昨日あんだけのことをしておいて、布団くらいで恥ずかしがるのも……いやでもやっぱり多少は恥ずかしいわけで……

 

 ……でも……いい、よね? もう、そのくらい。

 もう……『僕のもの』なんだから。

 

 

 

 




納 品 完 了


……こ、このくらいならまだセーフのはず……年齢制限版は気分が乗ったら書きます。
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