「ってな感じでやってきました! 県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端! 木椰区ショッピングモール!」
……って芦戸がテンション高く仕切ってるが、『誰に言ってるんだ?』って言ったら負けなんだろうかコレ?
私達は今、『追試』が、その後の補講も含めて全て無事に終わったって頃で、改めて皆で買い物に行こうってことになって――あの夜、葉隠から電話来たアレである――週末の休みを利用してここに来たわけだ。
夏休み中旬くらいに始まる『林間合宿』……めでたく全員普通スケジュールで行けることになった一大イベントの、その準備のために。
1週間の日程の中で色々やるわけだが、それに持ってくのに必要なものがないって人もいるからな。どっちみちほとんどの連中が、各自何かしら買い物に来ることにはなったはずだ。
だったらそれをもうイベントっぽく遊びの機会にしちゃえってことで、こうなった。
こういうのを思いつくセンスというか、思考の瞬発力は流石だな、葉隠。
そして、その目的地を選ぶ方のセンスも。
このショッピングモール、ホントなんでもあるからな……色んな種類の店が揃ってて、しかもそれぞれの品ぞろえが豊富でまあ……
「腕が6本のあなたにも、ふくらはぎ激ゴツのあなたにも、きっと見つかるオンリーワン! 『個性』の差による多様な形態を数でカバーするだけじゃないんだよね。ティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインが集まっているからこの集客力……」
「幼児が怖がるぞ、よせ」
思わず緑谷が、ヒーロー関連でもないのに饒舌になってしまうほどである。
ああ、そういえば緑谷って、ヒーローマニアであると同時に『個性』マニアでもあったな。それでこういう『個性』絡みの事柄になった時もああなるのか……
たしか、自分の『個性』が発現したのがごく最近だから、それまでは緑谷は『無個性』で……コンプレックスから逆に詳しくなったとか、かな? そのへん、聞いたことないからあんまり知らん。
まあ、あんまり聞いてて明るい話じゃなさそうだし、緑谷も話そうとはしないから、例によって私の方からは聞きませんよっと。
話を戻そう。このショッピングモールで、私達は今日、林間合宿の買い物だ。残念ながら、轟や爆豪など、不参加の奴らもいるが、そこはまあ……仕方ない。
轟は家族のお見舞い行くって話だし――誰か入院でもしてんのかな?――爆豪は『行ってたまるかかったりィ』の一言で不参加だって。
切島の『補修』には参加したのに……なんでこっちはバックレたんだろ?
そう話したら、緑谷が若干気まずそうにしつつ……『詳しくは言えないんだけど……多分、追試は……ストレス発散の場が欲しかったんだと……』……期末試験で何があったんだ?
まあそれはしかたないとして、いるメンバーで楽しみましょうかね。
6泊7日の合宿……結構な大荷物だ。勉強道具とか着替えとかはもちろん……レジャー企画の中で使うことになる水着とかも買わないとだ。
こないだ配られた『合宿のしおり』の中に書いてあるイベント、結構多いんだよな。
(忙しいのはそうだが、楽しい部分ときつそうな部分と、上手いことバランスとって持続性を持たせたメニューだった……あの組み方、多分アレにも母さん噛んでるな)
なんて考えてるうちに……まあ、時間も有限だからってことなんだろう、続々とクラスメイト達が買い物のため行動に移っていく。
「とりあえずウチ、大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」
「あら、では一緒に回りましょうか、耳郎さん」
と、耳郎と八百万が旅行用品のあるエリアに向かえば、
「俺アウトドア系の靴ねえから買いてえんだけど」
「あ、私も私もー!」
「靴は履きなれたものをとしおりに書いて……あ、いや、しかし成程用途にあったものを選ぶべきなのか……?」
上鳴と葉隠は靴か。飯田は……なんかいつもの感じで熟考モードに入った。
「暗視ゴーグル」
「いや、んな奇をてらうような買い方しねえで素直に明かり買っとけよ。懐中電灯とか」
「切島、多分峰田そういう感じで言ってるんじゃないと思う」
何やら不穏なものを買おうとする峰田に対し、切島と尾白がそれぞれツッコミを入れる(片方はちとピントがずれてるが)。
「糖分多めの携帯食料みたいなのってあるもんかな……1本あたりの含有量とか表示されてると一番いいんだが」
「ミリタリーショップにでも行けばあるいは……いや、あの手の商品は栄養バランスが前提ないし、売りのようなものだからな……ピンポイントでとなると難しいかもしれん。単に甘いもの、ないし菓子類というだけならまだ別だが」
「だよなあ……けどそういうのって嵩張るし見栄えも……やっぱ自分で作るのが一番確実か」
「それが選択肢に出てくるってだけですげえよお前」
砂藤、障子、瀬呂のそんな会話。特訓メニューに備えた買い物かな? 砂藤の場合は、トリガーになる『糖分』を常備しておく必要があるからな……
「あーそうだ水着も買わなきゃね! ねー永久、一緒に選ぼ? 追試のお礼に私も選ぶの手伝うからさ!」
と、芦戸。あーそうだ、水着もなあ……やっぱ買った方がいいかな?
ちらっと緑谷の方を見ながら、そんな風なことを思う。
その緑谷は、麗日と何を買うか話してるみたいだが……一緒にいる麗日は、ちょっと顔を赤くしつつも、嬉しそう、ないし楽しそうだ。
……まあ、当然だよな。麗日も、緑谷のこと……
……ここで、今までなら心の中でガッツポーズ決めてたであろう私が、なんとなく『面白くない』って感情が浮かんでくるあたり……あー、取陰に言われた通りだ。ホント、一線超えてから……私の心の中に、普通の女の子の価値観が急激に……
「永久ー?」
「ん? ああ、ごめんごめん芦戸、考え事してて。えーと、水着だっけ? やっぱ新しいの買った方がいいよなあ……」
気分的にも……サイズ的にも。
去年より背も胸も成長したからなあ……多分、入らんし。
「そりゃもう、せっかくの機会なんだもん、買おう買おう! すっごいの選らんだげる!」
「すごいのって……いや、普通でいいけど……」
と、何か気合入ってる芦戸の『すごいの』発言に、周囲の男性陣の大半がぴくっと反応して……内何人かはちらちらと視線をこっちに向けてきたり、逆に目を反らしたり……
なぜか突然座り込んだ奴もいるな……理由は考えんとこ。
あと、麗日とか耳郎からも意味ありげな視線が……
麗日は『あれを『すごい水着』が包んで……』とかっていう戦慄するような視線。耳郎からは(結構離れてるのによく聞こえたな)それに加えて、何やら恨みがましそうな……いや、毎度のことだけど嫉妬されても私には何もできんて……
あ、隣にいる八百万にも『そう言えばこいつも……』って感じの視線を向け始めた。八百万、寒気でも感じたのか震えとる。とんだとばっちりだ。
そして、緑谷はというと……ちょっと気になった風ではあるけど、他の男子達ほど反応はしてないな。
別に興味ないから、とかだったら悲しいけど……『僕はいつでも見れるから』とかいう風に考えてくれてるとすれば嬉しい……ええ、ええ、いつでもいくらでもお見せしますとも。
「ピッキング用品と小型ドリル……」
そしてさっきから犯罪臭が漂うもんばっかり買おうとする峰田はちょっと本格的に注意が必要なのではないかと思う今日この頃。合宿中に問題が起こる気が……。
後で先生に何か注意が必要だって進言……いや、相澤先生なら私が何か言うまでもなく対策とかしてくれるとは思うけども……生徒達でもできることはやっといたほうがいいかな?
障子とか耳郎あたりに頼んで監視が要るか……? それとも、ピッキングとか盗撮・盗聴防止のグッズを買っていくか、八百万に頼んで用意してもらうか……
……って、折角の買い物でこんなこと考えたくもないっての。
「目的地ばらけてっし、時間決めて自由行動すっか!」
と、切島の号令?でそれぞれ買い物に向かう。
……まあ、全員纏まって団体行動ってのもあれだしな。何グループかにわかれて各々好きなように買い物するのが一番効率的か。
「んじゃ、水着か……普段は特注とか輸入品で買ってるんだけど、どこで買うのがいいのかな?」
「おぉ……さすが永久、セレブっぽい買い物。でも最近は既製品もすごく品ぞろえいいのそろってるよ? そうだな……日用品なら、デトネラット社とか一番堅いかもね」
「ああ、業界最大手の……なるほど、見てみるか。えーと、服飾店は……」
……あ、服飾で思い出した。
服、とはまた違うけど……私、と緑谷のヒーローコスチュームについて。
戦闘訓練の一件の後や、『職場体験』の時にいじってからこっち、私も緑谷も、ちょいちょい改良を続けてきたわけだが……そのコスチュームにも、いよいよ『デウス・ロ・ウルト』の手が及ぶ段階に来ている。
具体的には、今、雄英の委託してる業者や、工房での簡単な改造(発目プレゼンツ含む)による性能に落ち着いているコスチュームを、『栄陽院』が全力でバックアップしてリビルドする。素材、組み込む技術レベル、アイテム1つ1つの性能……何から何まで最新鋭・最先端・最高級のものを使って。
そしてそのために、ついに日本すら飛び出す時が近づいている。
行き先は……ヒーロー・『個性』関連の技術の粋が集まると言われている科学技術のメッカ。
海の上に浮かぶ巨大研究施設兼テーマパーク(的なところ)……『I・アイランド』である。
そこに既に話が通ってるので、夏休みになって少ししたら、私と緑谷は『栄陽院コーポレーション』の案内でそこに行き、そこに集まる最高の素材と技術でヒーローコスチューム、及び付随するサポートアイテム各種を作るのだ。
そしてそこで同時に、その最新版コスチュームの慣らしのための訓練とかも行う。『I・アイランド』にはそういう設備も充実してるので、問題ない。
さらに、ちょうどそこで近日開催されるエキスポにもついでに出る。遊ぶ。
……というより、『I・アイランド』には『栄陽院コーポレーション』も出資してるので、色々融通利くんだよね……今回の企画協力もその伝手らしいし。あいかわらずやり手な義姉達だ。
しかも、何やら当日は、『デウス・ロ・ウルト』とはまた別に、大口の取引も予定しているとかなんとか……企業秘密だからって教えてはくれなかったけど。
そしてその伝手で、入場のためのI・アイランドのエキスポチケットも手に入ったわけだ。
ただ、緑谷の場合、雄英体育祭で優勝したため――爆豪と『同時優勝』ではあったけども――エキスポのペアチケットを別口で既にプレゼントされて入手していた。体育祭優勝するとそんなのももらえるんだ……初めて知ったよ。
そして、ペアとして行く相手に私を誘ってくれたので、私もそっちで行くことに。
チケット用意してくれた義姉さん達には悪いけど……こっちの方で行きたい。ごめん。
ま、そっちの規模とか意味が違う『買い物』はその時までとっておくとして……今はこっちの買い物に集中しなくちゃね。
あんまり緑谷のことばっかり考えてると、芦戸に気取られそうだ。
結局、私と緑谷の関係は、一応秘密にしたまま行くってことになったからな。今んとこは。
一部には気取られそうにはなってる――取陰あたりは確実に気づかれたよなあ――けども、まあ……とりあえず秘密の関係のままってことで。今んとこね。
☆☆☆
Side.緑谷出久
途中まで、麗日さんと一緒にショッピングモールを回って……色々おしゃべりしたり、買い物したり……楽しい時間を過ごした。
僕は最初、ウエイトとか、トレーニング用品を買おうかと思ってたけど、そういうのは『デウス・ロ・ウルト』のスタッフの人に言えば、最適なものを選んで手配してくれる、あるいは特注すらしてくれるので、こういう店で出来合いのものを買う機会がないんだよなあ。
なので、麗日さんにつき合って、虫よけとかキャンプ用品的なものを色々買った。
キャンプとかアウトドア系の専門店に行って……普段あんまり行く機会がない店だから当然だけど、見慣れないもの、あるいは見たことないものばっかりで……なんか、思いがけず楽しくなって色々見たり買ったりしちゃった。
途中で偶然、砂藤君達と合流したりもした。保温水筒や弁当箱、携帯型の調理器具とか見に来たんだって。お菓子に限らず、色々な料理が得意な砂藤君らしいな。
そして、あらかた必要そうなものを買った後……麗日さんと一旦別れた。
麗日さんは、葉隠さんや八百万さん、耳郎さん達と一緒に、栄陽院さんと芦戸さんに合流して、女子皆で水着選ぶんだって。皆、どんなの買うんだろうなあ……。
芦戸さんは、栄陽院さんに『すっごいの』買うって言ってたけど……
……頼んだら見せてくれるだろうけど、楽しみを林間合宿の時に取っておくべきか……うーん……
贅沢な悩みを頭に浮かべつつも、集合時間までまだ少しあるので、何をして時間を潰そうかと考えていて……
……そこに、そいつは現れた。
「おー、雄英の人だ、すげー! サインくれよ、サイン」
そんな軽い感じの口調で話しかけながら、すたすた歩いて近寄ってきた。
フードを深くかぶっていて、顔はよく見えない。上下黒一色、長袖長ズボンの服……もう夏だっていうのに、ちょっと暑そうだな。
こういう人は、今日もう既に何度も出くわしている。
雄英体育祭の時の反響はまだ尾を引いているようで……特に僕は優勝したし、麗日さんも決勝トーナメントまで残ったからなあ。いろんな人に、まだ覚えられてるみたいだった。
ネットや雑誌で取り上げられることはほとんどなくなっても、世間に知られてるんだなあ、って実感することになった。
中には……麗日さんと2人でいる時に出くわして、『つき合ってるんですか!?』なんて言ってくる人もいて……
勘違いされたり、拡散でもされたら困るから、『クラス皆で買い物です』ってきっぱり否定したら、なぜか麗日さんが少し面白くなさそうな顔を……何で?
そんな風に、騒ぐ人や『ファンです』っていう人に何人ももう出くわした。
けど……
近づいてくるその人は、若干馴れ馴れしい感じで肩を組んで、声だけは明朗なまま、僕の首元のあたりに手を添えようとしてきて……
―――がしっ
そうなる前に、僕はそいつの手を、手首をつかんで止める。
突然つかまれて、驚いたようにその人は一瞬、びくっと震え……
「えっ、何!? ちょっ、痛いよ雄英さん、馴れ馴れしいのが嫌だった!? ごめん、放して……」
途中まで、戸惑った感じの口調で言っていたものの……すぐに、そんな雰囲気はどこかに霧散した。
「…………ああ、何だ。もうバレてるパターンか」
どこか気だるげ、投げやりな感じの……聞き覚えのある声に戻った。
……近づいて来た時から、何かやばそうな奴だってのはわかってたけど……声のトーンが違うから確証は持ててなかったんだよね。さっきまで。
けど、こういう風に話してもらえると……あの時と同じ声だってよくわかる。
「……最近、お前みたいな奴に特に敏感になってね。何となくわかるんだ」
「俺みたいな奴が、かい? はははっ……大したもんだな……まさにヒーロー向けの能力じゃないか。悪意とか殺意でも感じ取ってるのか? どっちも出したつもりはなかったが……」
「一体こんなところで何の用? 僕を待ってたのか?」
「おいおい、そりゃ自意識過剰ってもんだ。偶然だよ、今日は。正真正銘な」
まあでも、と男は続ける。
「ここまでくると、因果、因縁……あるいは、運命じみたもんを感じるよ。USJ、保須市……行く先々でお前という存在が視界にチラついたり、立ちはだかったり……しかし、ちょっと見ない間にお前、大人っぽくなったんじゃないか? オドオドしたりせずに、落ち着いてるし……男子三日会わざれば、って奴?」
「……さあね。それで、何の用さ? どうしてここにいる……死柄木弔?」
「用、ねえ……。特にないんだが……まあ折角だ、座ってゆっくり話そうぜ……緑谷出久?」
こうして会うのは、USJ以来になる。
70名を超える『敵』を率いて雄英を襲撃してきた『敵連合』……その主犯格。手で、あるいは指で触れたものをボロボロに崩して崩壊させてしまう、凶悪な『個性』の持ち主。
半ばトレードマーク扱いされていた、手の形のアクセサリーは、今は一つもないけど……紛れもなく、そこに立っているのは、その男だ。
平和に、楽しく過ごせるはずの休日だったのに……最後の最後、とんだハプニングが起こったもんだ……。
妙に傷だらけでしわも多いように見える顔で、ニヤリと不気味に笑うそいつ……死柄木を前に、僕はこの後自分がどうすべきか、自分でも驚くほど冷静に考えていた。