TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回で『期末試験編』は終了になります。

第104話、どうぞ。


第104話 夏休みの予定

 

 

 その日、久しぶりに私は、『1人だけ』で家に……マンションの部屋に帰ってきていた。

 

 いつもは一緒に、あるいは時間をずらして帰ってくる緑谷はいない。彼は今……というか今日、ここには帰ってこない。

 警察から、実家の方に直帰する予定だからだ。

 

 ……話は、数時間前に遡る。

 といっても、私も伝聞の情報しか知らないんだけど。

 

 ショッピングモールで買い物を終え、そろそろ集合時間ってことで、事前に決めていた場所にちらほらクラスメイト達が集まり始めていたところで……不意に、飯田のケータイに着信が入った。

 飯田、バイブで着信入るとあんなんなるのか……全身で着信が来たって表現するような……また1ついらんことを知ってしまった。

 

 それはともかく、ケータイに出た飯田の顔色がみるみる変わり……周囲にいた面々が『何かあったのか?』って聞いたところ、予想の斜め上を行く自体を、その口から告げられることになった。

 

 曰く、『緑谷君が『敵連合』の死柄木と遭遇した』……と。

 

 ……どういうことなの。

 いや実際あの時はそう思ってしまった。

 

 何でも、それ自体は完全に偶然の邂逅らしいんだが……そのまま色々話して、何も荒事とかに発展することはなく別れたそうだ。

 緑谷自身は大丈夫だったようだけど、休日のショッピングモールってことで、周囲に無関係の一般人が大勢いるから、もし死柄木が暴れ出して犠牲者が出たらまずい、っていう配慮だったと。

 

 何かこう……お互いの主張とか心情?みたいなものを話して、表面上は平和的に、その場は別れたんだそう。……色々と物騒なことを言い残して消えたそうだけど。

 USJの時と同様、ヒーローや今の社会、そしてオールマイト憎しみたいなところは変わらずだったようだし……相変わらずよくわからない奴だな……。

 

 その後、緑谷は警察で事情聴取を受け、私達は、一緒に行動していた麗日も含めて先に帰ることに。

 緑谷はその後、親御さんに連絡が行って迎えに来てもらって……今日はこのマンションじゃなく、実家に帰ることになった、というわけ。

 

 さすがに、お母さんにすごい心配かけただろうからな……それは仕方ない。

 なんだったら、そのまま何泊か家で過ごして、親御さんを安心させるのもありだろう……諸々のことは全部こっちでやるから、ゆっくりしてきな、ってさっき電話したとこだ。

 

 あとで、こっちに移してある緑谷の荷物のうち、必要そうなの届けないとな。

 

(にしても……タイミングの悪い。こんな休日、ゆっくり過ごしてる時に……それも、私と緑谷が別行動取ってる時に遭遇するとは……)

 

 ……こんなこと考えても仕方ないというか、どうしようもないってのはわかってるけど……自分の知らないところで、緑谷が危ない目に遭ってるってのは、想像するだけでもうなんか、辛いというか悔しいと言うか……。

 緑谷が大変なことになってたんなら、私もその場にいたかった。できるなら。

 

 緑谷のことを信じてないわけじゃないし、実際無事だったとはいえ……

 

 いや、傲慢な物言いだってのはわかってるけどもね? 重ね重ね。

 ……緑谷のお母さんの心配とか不安感は、私なんかより断然上だろうし……。

 

(そもそも、私がいたところで何ができたとも……いや、実際何ができたか……もし万が一の事態になった場合、私がそこにいれば……)

 

 ……そのまま少し考えて、はぁ、と息をついた。

 何か、思考がどんどんダークな方へ行くわ……不安感その他で正常な思考が働いてないのか、はたまた何か夜ってそんな気分になるからか……考えても仕方ないなコレ。

 

 一瞬ちょっと怖いこと考えちゃったし……いや、でも……実際そうなったら……

 

(多分、その時は私は……やめやめ! 考えても仕方ないこういうのは!)

 

 緑谷関連で、今回ばかりは私にできることはない。緑谷のお母さんの心配を和らげることも、緑谷自身が敵に狙われないようにすることももちろん無理だ。

 だったら、今の私にできることをするしかない。

 

 すなわち、次に備えて体調を万全にってことだ……多分。

 

 なので、今日はもう休みます。あ、でも腹減ってるから何か作って食べてからな。

 

 いただきます。ごちそうさま。

 

 そして、おやすみ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ただいま、黒霧」

 

「死柄木弔……よくご無事で」

 

 いつもの、と言っていいのであろうか。彼らが会合によく利用するバー。

 カウンターの向こうで、グラスを磨きながら、入ってきた男……死柄木を迎えた黒霧は、異形ゆえに表情こそうかがい知れないものの、声音からは、言葉通り安心したような空気が伝わってきた。

 

 しかし、死柄木自身は特にそんな黒霧の気持ちも気にせず、カウンター席についてくつろぎ始める。

 ふと目を向けた先のテレビでは、自分が数時間前までいたショッピングモールの映像が流れていた。どうやら黒霧はニュースでコレを見ていたようだ。

 

「雄英の生徒と接触したそうですね? 最初からそのつもりで?」

 

「まさか、偶然だよ……けど、中々いい時間を過ごせた」

 

「おや、それは……こちら側に引き込めそうな人材でも?」

 

「いや、逆。……殺すべき、壊すべき対象が何か、定まった」

 

 出されたドリンクをぐび、と一口飲んで、死柄木はポケットから、いつもの手のアクセサリーを取り出し……顔に装着する。その特徴的過ぎる1つがついただけで、たちまちそこにいる男は、雄英襲撃の際に音頭を取った『敵』その人にしか見えなくなった。

 

「緑谷出久……あいつ、前にあった時より随分変わってたな。何つーか……真っ当に成長してるっていうか、大人になったっていうか……うん、そうだな。腹立つくらいに」

 

「……よりにもよって、接触したのは緑谷出久でしたか。彼との話が、実りあるものだったと?」

 

 USJの件の際、自分と死柄木を殴り飛ばした少年……あの時はまだ、パワー以外は素人に毛が生えた程度のそれだったはずの少年を思い出し、黒霧は呟くように言った。

 

 顔面を思い切り殴り飛ばされ、歯が欠けるまでの負傷を負い、挙句、オールマイトの到着まで粘られて敗北することとなったあの一戦。その最たる敗因の1つであったあの少年を相手に、死柄木が再会した際、激昂することを危惧していた。

 しかし、そうはなからなかった様子である。その点についても黒霧は胸をなでおろした。

 

(彼との邂逅が何をもたらしたのか、何を話したのかは知りませんが……こちらにもいい影響をもたらしてくれているようですね。不幸中の幸い、といったところですか)

 

 一方で、死柄木もまた、今日の邂逅、そして緑谷出久との話の中で、いくつか思ったことを反芻し、考えをまとめていた。

 

(オールマイト……平和の象徴……。あいつが全ての起点になってる。平和ボケした一般人共……物騒な持論を振りかざして暴れまわった『ヒーロー殺し』……そして、今の世の中をご丁寧に守ろうと、そのために強くなろうとしてる、ヒーローの卵共……。そしてそれは、俺も……)

 

 またドリンクを一口。手のアクセサリーを器用に避けて、口に含む。

 

 アルコールではないため、酔う感覚はないが、思考を続けている死柄木には却って好都合だ。

 

(どいつもこいつも、あの『平和の象徴』様が作ったこの世の中を、平和な今をありがたがって……今を惰性で過ごしている。自分達の目に見えないところで、そうしていられない奴らがいることに目をつぶって……。いや、むしろそんなものなどいないとばかりに、知らずに……それができてしまっている……だからわかってない、わからない。平和なんて、まあ脆いものなんだと……)

 

「始まりは、オールマイト……か」

 

「? 何か言いましたか、死柄木弔?」

 

「何でもないさ。それより黒き……」

 

 

「緑谷出久君!? 今、緑谷出久君の話してましたか!?」

 

 

 と、そんな2人の会話に割り込む、明朗な女の子の声。

 死柄木が聞こえた方を振り向くと……案の定、そこには……つい先日、『私も入れてよ!』と、自分達の組織『敵連合』への加入を希望してきた、女子高生……らしき見た目の少女がいた。

 実際は、学校になど通っていないので、そんな身分はないわけだが。彼女……トガヒミコ本人は、逃亡生活を送る中で、女子高生の恰好をしていると色々と好都合なのだと言っていた。

 

 うきうきとした目をしながら、店の奥に備えられているスペースから出て来たらしい彼女。どうやら今の話題を聞きつけて来たらしかった。

 

 その後ろからは……こちらは今のところ無言で、全身あちこちの皮膚が焼けただれたような、あるいはつぎはぎのようになっている男……荼毘が現れる。

 こちらはただ単に、何事か騒がしくなってきたから出て来ただけのようだ。

 

「緑谷出久君の話してましたよね? 会ったんですか?」

 

「会ったけど……何、お前アイツのファンか何か? ステインのファンじゃねーの?」

 

「ステ様も好きです! でも出久君も好きです! どっちもボロボロで、すごくかっこよくて!」

 

「あー……お前が暇なときにステインか、雄英体育祭の映像見てるのってそういう理由かよ」

 

 と、こちらは何やら納得いったとばかりにため息をついている荼毘である。

 トガヒミコの『血まみれでボロボロな人が好き』という性癖?を理解して、彼女の行動に得心が行った様子だった。それは、聞いていた死柄木達も同じだったが。

 

「どうでした? ボロボロでしたか? 血だらけでしたか? かっこよかったですか?」

 

「ショッピングモールにボロボロの血だらけで来る奴がいるかよ……普通だったよ。少しばかり……前よりシュッとした感じはあったかな」

 

「そうですか! でもボロボロになればもっときっとかっこいいです!」

 

「だといいな」

 

 とりあえず満足いく、ないしは噛み合う会話については、死柄木は早々に諦めた様子であった。

 

 死柄木からの返答にはあまり関係なく、とりあえず自分の願望と期待でのみワクワクしているトガヒミコ。そんな彼女に続いて、荼毘が訪ねて来た。

 

「にしても、『シュッと』って……何だそりゃ? 背でも伸びてたのか?」

 

「さーな……上手く言えない。ただ、前より落ち着いてた……堂々としてたとか、おどおどした感じがなくなってた、かもな。何かきっかけがあったのか……」

 

(ただ単に場数や経験を積んで、真っ当に成長した、って感じとは違った気がする。まるで、一気に自分という存在に自信が持てるようになったみたいな……)

 

「へー……よくわからねえけど、あんたが素直に他人をほめるなんて珍しいな。明日は槍でも降るんじゃないか?」

 

「……お前、初めて会った時から変わらず失礼だよな……悪口なしで会話できないのか?」

 

 死柄木は、はあ、とため息をついて呆れ気味に言うと、

 

「まあいい……どんなふうになってるかは……もうじき会えると思うから、見たきゃその時自分で見て確かめろ」

 

「ホントですか!? わあ、楽しみ!」

 

「ほー……ってことは、やんのかい? 例の計画」

 

「ああ……ま、しばらくは準備とかプランニングだけどな……黒霧」

 

「はい、死柄木弔」

 

「まだ手が足りない。『先生』の伝手と……ブローカーにも声をかけて、動ける奴を集めろ。ただし……USJの時とは違って、今回は少数精鋭だ。あと、先生から出せる脳無の数を確認しとけ」

 

「かしこまりました」

 

 会釈程度に一礼する黒霧。死柄木はそれを横目でだけ確認すると、死柄木はテレビに視線をやる。

 

 そこには……タイムリーなことこの上ないタイミングのCMが流れていた。

 

 ショッピングモールの事件を取り上げていたニュース番組がちょうど途切れ、流れていたのは……オールマイトの出演するCM。

 何のことはない、単にタイアップしているお菓子というだけのものだが、むしろ死柄木には、画面の中で、見る者全てを安心させるであろう――少なくとも、真っ当な生き方をしている者であれば――スマイルを浮かべる、No.1ヒーローだけが見えていた。

 

(緑谷出久も、この狂った世界も……そして、俺も……あんたが全ての始まりだった。ああ、認めるよオールマイト、あんたはすごい奴だ……拳1つで、世界を変えた。犯罪率を減らし、バカな民衆が何も考えずにのうのうと過ごせるだけの、平和に狂った世界を作り上げた。でも、だからこそ……始まりがあんたなら、『終わり』もまた……あんただよなぁ、オールマイト……!)

 

 狂気を孕んだ笑みを浮かべる死柄木。

 

 緑谷との対話を通して、自分の『やるべきこと』を、『壊すべきもの』を見つけた彼は……どこか『吹っ切れた』ような、ある種清々しさすら覚える思考の中で、来るべき時に備えて、頭の中で、再度計画を練り上げにかかっていく。

 

 平和の象徴が作り上げた、この素晴らしい……しかし、同時に脆く儚い、メッキないし張りぼての平和を……ひと思いに壊し、世の秩序を瓦礫の山に還すために。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……というわけで、例年使用させていただいている合宿先は急遽キャンセル。合宿の行先は、当日まで明かさない運びとなった」

 

「「「え―――!?」」」

 

 という説明と同時に、先日配ったばっかりの『合宿のしおり』をびりっと破いて捨てる先生。『コレもう役に立たねーぞ』的な演出だろうか。

 

 告げられた内容に、教室中が『マジかよ』的な空気になるけど……まあ、仕方ないかな。

 

 緑谷と死柄木の接触自体は、そいつの言動が本当なら、単なる偶然だったっぽいけど……今後、『敵連合』が本格的に動き出すとしたら、USJに引き続き、雄英がターゲットになりかねない、という可能性は否定できないもんな……。

 別れ際には、緑谷に向けて『次は殺す(意訳、略)』とか言ってたそうだし……

 

 だとすれば、今までと同じ行き先を使うのは危険、か。

 

 瀬呂とかは『もう親にどこ行くか言っちゃってるよ』って困った風な顔になってたけど、その後に八百万が指摘していた通り、まさにそれが変更の理由なんだろうな。

 

 ただでさえ、40人もの生徒が、敷地内であれば一応は警備体制万全の学校を1週間も外れて外泊するんだ。

 その学校のセキュリティすら抜いて侵入してきた連中が相手だとすれば……このくらいしないと警戒十分にはならないだろう。

 

「つか、いきなりイベント始まったり、当日まで秘密だったり……雄英ってこういうの好きというか、得意だよなホント」

 

「今回ばかりは好きでやってるわけじゃないだろうけどね……」

 

 と、思わずつぶやいてしまった言葉に、後ろの席の尾白が返してくる。

 

 確かに……今回のコレは、意外性を狙ってでも何でもなく、単純に安全確保のためだしな。

 

 それでも合宿自体を中止にしないっていうのはまあ……思い切った判断というか、またこれも体育祭の時と同じ『屈しないよ!』アピールなのか……

 

 何にせよ、合宿といい『デウス・ロ・ウルト』といい……忙しい夏になりそうだ。

 

 

 

 




書いてみた感想。

……予想できてたことだけど、トガちゃんの口調と思考がさっぱりわからん……
二次創作書くたびに思うんですけど、作者は悪役とか小悪党とかラスボス系とかよりも、単に思考回路がぶっ飛んでるキャラを書くのがすっげー難しいです。発目の時にも同じこと思いました……キャラ自体はかなり好きなんだけどなあ……

違和感あったらごめんなさい。精進します。
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