といっても、諸事情によりそんなに長くはならないでしょうが……
第105話 I・アイランド
『当機は間もなく、I・アイランドに到着いたします。皆様、着陸に備えて、着席の上シートベルトを着用してください』
「早ッ!? もう着いたの……I・アイランドってそんなに近い位置にあったっけ?」
「まあ、『
「聞こえてるわよ、ちゃんと。コレ終わったら片づけるから、あんた達先に準備しちゃいなさいな」
現状を説明すると、今、私達は……さっきのアナウンスの通り、『I・アイランド』に向けて飛ぶ飛行機の中にいる。
こないだ言った通り、『デウス・ロ・ウルト』の一環として……私と緑谷のコスチュームを改良するために、あの個性技術の総本山に向かっているわけだ。
移動手段として、『栄陽院コーポレーション』所有の自家用ジェットを飛ばして。
なお今回、添乗員その他のスタッフを除けば、私と緑谷に加え……さっきから私の隣の席で事務仕事をこなしている、成実義姉さんが一緒に来ている。
島にいる間の『デウス・ロ・ウルト』関連の手続きなんかは、彼女が担当してくれる予定なのだ。
それ以外にも色々とやることはあるみたいだけど、そこは仕事の領分なので聞いていない。
「それにしたって……随分早く着いたよね。それだけ早く飛んでたってことなんだろうけど……全然そんな……Gとか感じもしなかったのに」
「まあ、基本的にうちの自家用ジェットはどれも、乗り心地重視というか、ストレスにならない快適な空の旅を、っていうコンセプトで作られてるらしいからな」
「けど同時に、そのクオリティを保ちつつも最大限のスピードを出せるように設計されてるわ。そのへんの絶妙なバランスもまた、うちの技術者たちが頑張ってくれた誇れるところね」
と、成実義姉さん。
「快適な空の旅もいいけど、それでもあくまで移動は移動。早く、短く済むに越したことはない……言う人の中には、長い移動は時間の無駄だ、なんて人もいるしね。スピードと快適さのバランスを最高効率で保つことこそ最重要……ってのが開発時の至上命題だったらしいわ」
「うちは……っていうか『本家』の血筋は仕事人間多いからなあ……そういう考え方にもなるか」
言いながら私は、隣にいる義姉さんの手元をちらりと見る。
さっきのアナウンスにあった『もう間もなく着陸(略)』までにキリのいいところまで終わらせようと、シュババババ……とすごい速さで仕事を片していっているが……その光景は少々異様だ。
凄い早さで書類が作成されていく。レイアウトはもちろん、中身の完成度も、そのまま重要会議の資料に使ってもいいくらいのものが。1枚、また1枚と見ている間にできがあっていく。
だというのに義姉さんは、パソコン、ないしは電子機器の類を一切を使っていない。
白紙のコピー用紙に義姉さんがすっと指を滑らせると、その跡に突如、印刷されたようなきれいな活字が並んで現れる。
さらさらさら……と文字通り指を滑らせているだけ。なのに、見る見るうちに書類が出来上がっていく。
今度は、手元にあった資料……そこに載っている写真を見ながら、また紙に、今度は手のひらを押し付けるようにしてから滑らせて……すると、今目で見ている資料の写真と寸分違わぬ画像が印刷されて現れた。
これが成実義姉さんの個性……『文房具』だ。指や手のひらなど、体の各部があらゆる文房具……あるいは、オフィス用品の役割を果たす『個性』である。
指でなぞるだけで、頭の中で考えた文面を紙に印刷でき、目で見たものをそのまま画像にして、同じく印刷できる。今やっていたみたいに……人間PCとか人間プリンター、人間コピー機とか人間スキャナなわけだ。……いろいろ言い方はあるな。
他にも、爪を押し付けるとその部分にホチキスの針が刺さって紙を固定したり、唾液が接着剤になったり、じゃんけんの『チョキ』がそのままハサミになって切れたりする。
「……む、間違えた」
と、珍しく書類作成ミスっちゃったらしい義姉さんは、使える部分を別なまっさらな紙にコピーして写した後、ミスプリントした方の紙を、5本指の爪を立てて軽くひっかく。するとその瞬間、1㎜以下の幅に断裁されて紙面がバラバラになり、そのままゴミ箱にぽい。ああ……今度のは人間シュレッダーってとこか。
PCみたいなことができる義姉さんであるが、一度印刷したもの、されているものを編集し直す、ということはできない。あくまで印刷するところまでだ。PCってよりタイプライターに近いか?
指で紙面をこすって消しゴムみたいにすることはできるらしいが、ペンで書かれたものはそのままってことだな。
一応、砂消しゴムみたいなこともできなくはないそうだけど……紙が削れて見た目悪くなるしな。
ま、義姉さんの『個性』のことはこのへんにしとこう……って、そんなこと考えてる間に仕事終わらせてもう片付けてる。素早いな……流石敏腕OL。
「じゃ、着陸したら着替えてロビーに集合ね。あんた達はヒーローコスチュームでしょ?」
「あ、はい。きちんと申請して持ってきてあります」
「義姉さんは仕事だからスーツだっけ? 肩こりそうで大変だね」
「もう慣れたっていうか、コレがもう私にとっては、あんた達の戦闘服みたいなもんだからね。到着時間から少ししたら、今回お世話になる人に会いに行くからね。失礼のないように」
「「はい」」
かちっ、と音を立ててシートベルトを装着しつつ、ふと窓の外を見ると……洋上に浮かぶ人工の島が、そこに見えた。
あれが……話に聞いた『個性』研究の総本山、『I・アイランド』か。思いっきり近未来な感じの施設がたくさんあるな……かと思えば、テーマパークみたいな場所も、観光地っぽくホテルが密集してるようなエリアもあるし……。
ちらりと向かい側の席をみれば、すごく興奮した様子の緑谷が、窓際に張り付いてその光景を眺めている。テーマパークに来た子供そのものだな……かわいい。
まあ、この後もっと興奮することになると思うけど。
主に、これから会う人が原因で。
「で、確かこの後会う人っていうのが……」
「名前くらいは知ってるでしょ? デヴィッド・シールド博士……よ」
☆☆☆
デヴィッド・シールド博士。
『個性』関連の研究の現場における世界的な権威であり、『ノーベル個性賞』を受賞した『個性』研究のトップランナー。今までに様々な発明品を世に送り出し、『個性』分野の研究を前に進め、それを生かして世界中のヒーロー達を助けて来た実績を持つ(中略)。
そして何よりもこの人は……オールマイトのコスチュームを手掛けたことでも知られている。
アメリカにいた頃の『ヤングエイジ』から、『ブロンズエイジ』『シルバーエイジ』そして『ゴールデンエイジ』に至るまで、激しい戦いの中でも見事にオールマイトと共に戦い抜いたコスチュームを素材から開発し、形にしたのがこの人なのだ。
彼らはカレッジの時代からの親友同士であり、アメリカで活動していた時は相棒と呼べる存在だったとかで……事務仕事や情報整理なんかもやってたって聞いてるし、日本で言えば、サー・ナイトアイみたいな立ち位置だったのかな?
今でも個人的に交流があるそうだ……と、ここまで緑谷のマシンガン説明トークより抜粋である。
「ほら、博士びっくりしちゃってるでしょ、緑谷」
「はっ!? す、すいません、つい……その、興奮しちゃって……」
「ははは……いや、光栄だよ緑谷出久君。君にそんな風に思ってもらえているとはね」
「!? 僕のことを知っていただいてるんですか!?」
「いや、そりゃ『デウス・ロ・ウルト』でこれからお世話になるんだから情報くらい行ってるだろ」
「それだけじゃないよ。時々国際電話でオールマイトと話すんだが、その時よく話題に上ってくる子だからね……あいつがあんなに楽しそうに話すんだ、そりゃ印象にも残るってものさ」
ああ、なるほど……そういうのもあったか。
「そして、そちらが栄陽院永久君だね。2人共、よろしく頼むよ……私にできることなら、精一杯やらせてもらうつもりだ。お互いのベストを尽くして、最高のコスチュームを作り上げよう」
「か、感激です……デヴィッド・シールド博士に、僕のコスチュームを手掛けてもらえるなんて……よ、よろしくお願いします!」
「そう緊張しないでくれ。別に私だけがやるわけじゃないんだからね」
博士はそう言うが……オールマイトのコスチュームを作った発明家だもんな……ヒーローオタクであると同時に『個性』オタクでもある緑谷には、そりゃ夢のような展開だろう。
もうさっきから目が輝いて、きらきらしっぱなしだ……話が頭に入ってるか若干不安なほどに。
「では博士、打ち合わせは予定通り、この後15時からということでよろしいでしょうか?」
「ああ、よろしく頼むよ、栄陽院……成実さんだったかな。今回は世話になる」
「いえいえ、こちらにも利益があってのことですし……『個性』研究の第一人者であるデヴィッド博士とこうして協力してコトに当たれるというのは、ヒーローを支える仕事に就く者として大変な名誉です。経験として十分に糧にさせていただく所存でおります、どうぞよしなに」
と、仕事モードの義姉さんが、お世辞抜きに完璧な礼儀作法とか動作で博士に挨拶。フランクな人柄なのは見てわかるけど、それはそれとしてきっちりやる人だ。
……が、気のせいだろうか?
何か一瞬、笑みを浮かべつつも真面目な義姉さんの瞳の中に……何やら鋭い光が見えたような気がしたんだが……『ギラリ』とか効果音つきそうなそれが。
そして、その瞬間、僅かにデヴィッド博士が体をこわばらせて、反応したようにも……
何だ今の……? 何かこう……剣呑とは言わないまでも、ビジネスとか大人の仕事の現場に似つかわしくない雰囲気が漂った気が……
もっとも、その雰囲気も既に霧散してしまって残っては……いや、元々私の気のせいって可能性もあるけども……何だったんだろうな?
緑谷が……あ、気付いてる様子ないなコレは。おめめキラキラ継続中だもの。
「なら、それまでどこかで時間を潰してきてはどうかな? ここはまだプレオープンだけど、飲食店なんかは既に営業を始めているし、エキスポを前に各展示スペースも見れる、体験できる状態になっているはずだから、楽しめると思うよ。私はそれまでに……この部屋をもう少し見れた状態にしておくことにするから」
「そういえば、この部屋は……探し物か、模様替えの最中ですか?」
と、ふと思ったらしい緑谷が尋ねる。
私としても、緑谷が今言ったことをまさに尋ねようかと思ってたところだ。……この部屋の状態というか惨状を見たら、誰だってまあ……そんな風に思うわな。
なんかもう……散らかり放題って感じだ。
所かまわずものが散乱してるってほどじゃないが、机の上とか棚の上に書類が山積みになってたり、チューブファイルや書籍……論文?なんかが無造作に積んであったりする。
ちょっとバランスが崩れたら、雪崩が起こるんじゃないかと不安になるほどに。
書類だけじゃなく、何かこう……サポートアイテムか何かのパーツみたいなものまであちこちに……工房で発目がとっ散らかしてる光景を思い出すな。研究者とか技術者って結構こうなのか?
いや、それにしては、部屋の一角はきちんと、というか妙に片付いてる。片付けが苦手とか、散らかし癖があるってわけじゃなさそうだ。……案外緑谷が言った通りに、掃除とか模様替えの途中、あるいは探し物をしてるところ……って言った方がしっくりくる気も……
「いや、お恥ずかしい……ものが多いせいで片付けや荷物の整理1つとっても結構な手間でね……普段なら助手が手伝ってくれるんだが、彼はもう……」
「あれ、パパ、お客様?」
と、そんな声が唐突に後ろから聞こえてきて……後ろ?
振り返るとそこには、長い金髪にメガネをかけた美少女が立っていた。
この服……たしか、この『I・アイランド』のアカデミーの制服か? この子、高校生か大学生っぽく見えるけど……そこの生徒さん?
というか、今……
「ああ、メリッサ、帰ったのか……今ちょっと仕事の打ち合わせをしていたところでね」
「そうなんだ、ごめんなさい、邪魔してしまって……あ、私はメリッサ。メリッサ・シールドです。パパがいつもお世話になってます」
そう言って一礼。やっぱり、デヴィッド博士の娘さんか。
娘がいるとは聞いてたけど……私達と同じくらいか、少し年上かな? 『異形型』の個性でもないようだし、見た目通りの年齢だと思うが。
けっこう快活というか、フレンドリーな性格のようだ。初対面の私達の手を躊躇なく取って、両手で握手してくる。距離も近いし……緑谷、ちょっと緊張して顔が赤いな。
まあ、芦戸とか葉隠っていう前例が身近にあるから、そこまで戸惑いはしないけど。
あとどうでもいいが、スタイルいいな……やっぱ外国人って育ちが早いのかね?
こちらも簡単に挨拶して、もう話は終わったのでお暇する旨を告げると、
「あ、そうなんだ……なら、大丈夫かしら?」
と、何やら入り口の方をちらちら見ながら言うメリッサさん。大丈夫って何が?
「どうかしたのか、メリッサ?」
「あ、うん……ちょっとね? パパを驚かせようと思って、来てもらってる人がいるの」
と、デヴィッド博士が首を傾げた瞬間、緑谷が何かに気づいたように、はっとして入り口に視線を向け……その瞬間、
「わーたーしーがー! 再会の喜びに打ち震えながら、来た!」
割と見慣れている、しかし世間的にはこれ以上ないビッグネームである、No.1ヒーローが……ちょっと窮屈そうに入り口を通り抜けつつ、ポージングして現れた。
しかもよく見ると、その向こう側には、彼ほどではないにせよ、長身にスーツ姿の元サイドキックの御仁が一緒にいるようで……
「と……トシ!?」
「「オールマイト!?」」
「……うん? え、アレ、緑谷少年に栄陽院少女!? どうしてここに!?」
「……ほう、こんなところで会うとは。例の『プロジェクト』の一環か」
「あら、オールマイトに、サー・ナイトアイ……おそろいで」
「あ……やっぱり知り合いなんだ。まあ、雄英の生徒さんだものね」
なんだか奇妙な場所で奇妙な邂逅を果たした私達であった。
いやまあ、この後すぐにお暇しますけどね? 邪魔はしないんで……ご存分に旧友との親交を温めてください。
そこで、オールマイトとデヴィッド博士のツーショットに興奮し始めてる緑谷回収して帰りますんで。……あ、でもせっかくだから写真1枚くらい撮ってあげてもらえると喜びそうな……
……どうでもいい話だけど、今、デヴィッド博士……オールマイトのこと『トシ』って呼んでたような……何だその呼び方?
普段は、メディアの前とか、それこそさっきまでも、『オールマイト』っていうヒーローネームで呼んでるはずだが……さっきはとっさに、って感じで……。
『トシ』、ねえ……? ただの仇名か、それとも…………というか……
(……何か最近、オールマイト関連で、似た響きの名前を聞いた気が……?)