TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第109話 新たなる協力者

 

Side.緑谷出久

 

「……なるほどな。『ワン・フォー・オール』……成長し、継承される個性、か」

 

 内容が内容だから、少し、いやかなり長めで、しかも密度も濃かった話が終わり……それを聞き終えたデヴィッド博士が、ぽつりとつぶやくように言った。

 

 オールマイトにより、今まで隠してきた『ワン・フォー・オール』の秘密を聞かされた博士は……流石に咀嚼して理解するのには苦労していたようだけど、一旦飲み込んでしまえば、話は早かった。

 あるいはそれは、学生時代、ずっとオールマイトと行動を共にしていたからこその理解の早さ、そして信頼のスムーズさだったのかもしれない。

 

 譲渡できる、受け継がれる個性なんて、普通の常識から考えてみれば、ありえないと言っていいくらいの話なのにな……僕も最初は信じられなかったし。

 

「……流石に驚かされたし、正直まだ戸惑いが消えたわけでもない。だが、理解はできたよ……トシ、それが君がカレッジの時代から、私にずっと隠して来たことなんだな」

 

「ああ……すまない、デイヴ。君のことを信頼していないわけじゃないんだ、だが、こればかりは……」

 

「わかっているとも。私を……私達を巻き込まないように、という理由からだろう? 君が誰かに隠し事をしたり、負担を押し付けるようなときは……大抵その誰かのことを思ってのことだ。……なんだ、昔と何も変わらないじゃないか」

 

 そう言った博士の目に、オールマイトを責めるような色は少しもない。

 むしろ、安心とか感謝とか……そういう優しい感情を宿して、目の前に座るやせこけた親友を見ているようだった。

 

「しかし、それを今になって私に話した。まあ、さっきの測定結果を見られたからというのもあるだろうが……それだけが理由じゃないだろう? さっきもちらっと言っていたが……」

 

「ああ……デイヴ、君にも協力してもらいたい。私達でも全容をつかめなくなってきている、緑谷少年の『個性』について知るために……そしてそれを鍛え上げ、来るべき巨悪との……復活した、『オール・フォー・ワン』との戦いに備えるために」

 

「……そっちの話の方が、私にとってはよほど悪夢だ。君を疑うわけではないが……確かなのか? 奴が復活した……いや、生きていたというのは」

 

「残念ながら、その可能性が濃厚だ。根拠はいくつもあるが……特に大きいのは、あの『脳無』という怪人の存在と、もう1つ……」

 

「この間、『敵連合』の首魁の……死柄木と、僕が遭遇したんですが……その時僕は、奴に、『AFOは何が目的だ』と聞いたら……『さあな、知らない』と答えてきました。つまり……」

 

「……AFOの存在、そしてそれと関わりを持っていること自体は、否定しなかった、と」

 

「付け加えて言うならば、『敵連合』には、首魁と幹部格として、死柄木、黒霧の両名の存在が認められていますが、その更に黒幕たる『先生』と呼ばれていた人物の存在が示唆されています。今彼が言った不意の邂逅の時に加え、『USJ』の襲撃の際にもそのような様子が見られた、と」

 

「そして、怪人『脳無』は、複数の個性を持っており、受け答えするほどの知性を有していない……なるほど、知れば知るほど『AFO』の存在を疑う、いや確信してしまうような情報だな」

 

 博士はイスに深く腰掛けると、ふぅ、とため息を1つついた。

 

「よくわかったよ……今、状況は私が予想、ないし覚悟していたそれよりもよほど悪いということがね。伝説の巨悪が復活し、私兵を率いて何かを成そうとしている。加えて、君の力は衰え、残された時間は少ない……しかし、君の『個性数値』の急激な減少、そのからくりも同時にわかったのは、不幸中の幸いというべきか」

 

「ああ、緑谷少年に『個性』を譲渡して以来、私の中の『残り火』は徐々に弱くなってきているからね……だが、遅かれ早かれ、私の体は限界に近づいてきていた。このタイミングで彼に『OFA』を譲渡できたことは、私にとってむしろ幸運だったと考えているし、後悔なんてあるはずもない」

 

「……そうか。なら、私が何か言うべきではないのだろうな」

 

 博士はそう言って、何度目かになるため息をつくと、背もたれから体を話し、今度は少し前のめりな感じになって、テーブル越しにオールマイト達に視線をやった。

 

「オールマイト、ナイトアイ、それに……緑谷君。私に何を望む? 私は、君達のために……世界の平和のために、何をすればいい? 私の全てをかけて君達に協力させてもらうよ」

 

「ありがとう、デイヴ……! 私達が望むのは、彼の……緑谷少年の『個性』に関する詳しい解析だ。現在、緑谷少年の体の中には、『OFA』に溶け込んで残っていた、歴代継承者の『個性』が眠っている……潜在的に複数の『個性』を宿している状態なんだ。彼自身の努力もあって、『黒鞭』と『感情感知』はある程度使いこなせるようになりつつある。しかし恐らく、これからもまだまだ……最低でも4つの個性が発現することになるだろう。その時に、それらの個性との付き合い方や、それによる『OFA』そのものの異変などについて、検証を頼みたい」

 

「そして、それに対応したコスチュームの改良も、ですね。『個性』を複数有するというその特異性から、既存の企業や、それこそ雄英の設備であっても、彼の装備を作るのは難しいでしょう。いや、正確には、『使える』装備を作るのは難しくないが……彼の能力を『十全に発揮できる』ような装備を作るのは難しい。それこそ、多種多様な『個性』を持っていることを前提にした上で研究・開発を進めなければいけないでしょうからね」

 

「不特定多数の相手に今の状況を明かすわけにはいかない以上はそうだろうな……雄英では既に、『正体不明の力』としてある程度の情報開示を行っているという話だったが、それにも限界があるだろうし……わかった、私の方で全面的に協力させてもらうよ。ただ……」

 

 ? ただ?

 

「先に話したかと思うが、私は近々ここを離れる身だ。だから、ここに籍があるうちはよくても、その後は少し時間をもらうことになると思う」

 

「あ、そうだったな……そういえばデイヴ、こないだ聞けなかったけど……君、I・アイランドを離れた後、どこに身を寄せるつもりなんだい? 引退するわけじゃないみたいだし」

 

「その場所、あるいは立場によっては、今後の展望を考えなければなりませんね」

 

 思い出したように、オールマイトとナイトアイが言う。

 

 そっか、デヴィッド博士……と、メリッサさんも一緒にだけど……2人は近々、このI・アイランドを出る予定になってたんだっけ。

 何だか複雑な事情がありそうだから、そこは詳しくは聞いてないんだけど……いくら博士が優秀な研究者だと言っても、設備も何も満足なものがない状態で、解析も開発もろくにできるもんじゃないだろう。

 

 聞けば、きちんと再就職先?みたいなのは決まってるみたいだけど……もしそこが、外国の企業とか研究所だったりするなら、この先もちょくちょくお世話になるとかいうのは難しいはずだ。

 博士個人の仕事になるのはもちろん、僕やオールマイトだって、日本で決して暇なわけじゃない。いや、お世話になる立場でこんなこと言うのもアレだけど……

 

 いや、というかそっちの方が可能性高いよな。何せ、デヴィッド博士の祖国はアメリカだ。

 そこはヒーローの本場だし、むしろそこに戻って研究を続ける可能性の方が高いだろう……だとすれば、今後の協力は限定的なものになるか。

 

 まあ、それでも僕らは何か文句や不満を言うべきじゃ……と、思っていたんだけど、

 

「ああ、それなら心配いらない。私の次の勤め先は……『栄陽院コーポレーション』だからね」

 

「「……へぁ!?」」

 

 なんか変な声が出てしまった。

 しかも、なんか2人分聞こえたな、と思ったんだけど……横に座っているオールマイト(トゥルーフォーム)も同じように驚いていた。

 

 いや、でも無理ないと思う……え、今なんて?

 デヴィッド博士……今度、栄陽院コーポレーションって……栄陽院さんの実家の会社に勤めるんですか!? 確かにあそこ、ヒーロー関連の支援事業とかにも手を出してるけど……このタイミングで……いや、もしかして、このタイミングだからこそ?

 

「あの、もしかして……『デウス・ロ・ウルト』と関係があったり……」

 

「ああ、そういう部分もあるね。一番は単純に、理想的な環境で研究を続けられるからだけど……栄陽院成実氏と今進めている、契約内容に関する相談では、その事業に技術面で協力することも、仕事内容に含まれている。だから何と言うか……神妙な話の後でこういうことを言うのもアレなんだが……私は元々、君達には協力する予定だったんだよ」

 

 事情を知っているかどうかの違いはあるがね、と付け足して苦笑したデヴィッド博士に、僕もオールマイトも唖然とするしかなかった。

 

 なんだ、コレ……こんな偶然が……いや、ある意味『偶然』とは違うかもしんないけど。

 両者とも、優秀な研究者だからこそ、デヴィッド博士に話を持って言ったわけだろうからな……その結果、どっちに転んでも結局僕は彼のお世話になることが決まっていた、ってだけで。

 

 彼の言った通り、違うのは、博士が『OFA』について十全に理解した上で仕事に取り組めるかどうかっていう点……いやこの部分結構大きいだろうから、プラスには間違いなく動いてると思うけどもね。

 

「一応まだ内密に話を進めている段階だから、他言はしないでくれよ? まあそういうわけで、その立場からいくらでも彼の『個性』に関する協力をすることはできるし、なんなら積極的にそれに携わることだって簡単だろう。安心してくれ」

 

「そ、そうだな……私達にとってもそれは好都合だ。でも、なんだっていきなりそんな話に? そもそも君が『I・アイランド』を離れるってこと自体、私は聞かされた時驚かされたんだが……一体君ほどの研究者が、なぜここを離れて、巨大企業とはいえ民間のそれに移ることになったんだ?」

 

「……そうだな、それについても話しておいた方がいいか」

 

 デヴィッド博士がその後話してくれたのは……彼がこの『I・アイランド』から離れるきっかけになった、ある研究についてだった。

 

 それは、彼が独自に編み出した『個性強化装置』についての研究・開発事業だった。

 

 『個性』を強化するだけなら、今現在でも様々な方法が提唱され、実践されている。『限界突破』によって普通にトレーニングして上げる方法や、薬物によって強化する方法。

 後者はあまり褒められたものじゃないし、副作用なんかもあったりするから、日本では認められていない非合法なものだな。一時期は、弱個性への救済策として注目されたらしいけど。

 

 でも、博士が研究していた装置は、一切の副作用とかデメリットをなしに『個性』を限界以上に強化することができるもので……『個性社会』に革命を起こしかねない技術だった。

 強いて言えば、装置自体への負担が大きく、寿命が極端に短い、くらいか。試作品は、数十分も使っていれば、動作不良を起こして壊れてしまう程度の耐久力しかないとか。

 

 さらに言えば、博士はそれをオールマイトに使ってもらうつもりだったようだ。衰えつつある彼に再び全盛期の力を取り戻してもらい、確かな『平和の象徴』であり続けてほしいと。

 

「もっとも、それも望み薄、というものになってしまったがね……今、君の中にある『個性』が、いわば『残り火』のようなものだとは……いや、私の研究が形になりさえすれば、それを強化してより長く、より強く戦うことも不可能ではないのだろうが……」

 

「そう、だったのか……しかし、もしそんな手段があるのなら……」

 

「オールマイト……ですから、そういう破滅的な、あるいはワーカホリック的なものの考え方はそろそろ自重してください。そもそも、あなたは『個性』以前にそれを使う体そのものがボロボロなんですから……『個性』だけ強化しても、体への負担が大きくなるのでは……」

 

「あ、ああ……そうだね、すまないナイトアイ。わかってる、わかってるんだ」

 

「わかっているのは本当でしょう。ただ、それでも反射的にそういう考えが頭をよぎったり、口から出てきてしまうのが問題だと言っているのであって……」

 

「さ、サー・ナイトアイ! その話はその、また今度に……ええと、デヴィッド博士の話の途中ですから、ね?」

 

「……ああ、そうだったな。申し訳ありません博士、つい熱くなってしまって……」

 

「い、いや、構わないとも……むしろ、トシのことを大切に思っていくれているようで何よりだ。さて、話を戻すが……私はその研究を進めていたんだが、『個性社会』のパワーバランスを崩してしまうのではないかと危惧した各国からの圧力で、研究を中断せざるを得なくなったんだ。そのことは正式に『I・アイランド』にも通達され、その研究に関しては予算も降りなくなった。そんな環境では、私も流石に研究を続けられない。大切なサンプルも封印されてしまったしね……そんな時に声をかけてくれたのが、『栄陽院コーポレーション』だったんだ」

 

 そこは、というか成実さんは、自分達が十分な予算と万全な設備を用意するから、やりたいように研究を続けてほしい、と持ちかけて来た。

 もちろん、自分達の望む形で力を発揮してもらうことにはなる、という話も込みでだけど、企業との契約なわけだから、そういうものだろう。もっとも、その『望む形』っていうのの一番は……僕が今参加している『デウス・ロ・ウルト』なわけだけど。

 

 そしてデヴィッド博士は、その話を受けた。つまり彼は今後、『栄陽院コーポレーション』で研究を続けていくことになるわけだ。表向きは、企業に勤め、企業の指示で研究・開発を行いつつ……『I・アイランド』ではできなかった研究で、やってみたいものを進めていくつもりらしい。

 『個性強化装置』以外にも、あそこは各国に対して中立であるという立場上、『特定の国や地域に有利なものになりかねない』というような研究はやりづらかったそうだから。

 

「今月中にはここを引き払う予定だ。手続きも込みでね。その後に日本に渡って、来月の半ばか、再来月の頭くらいから正式に研究機関に所属し始めて……といったところだな。メリッサもそれに伴って日本に渡るが……編入先がまだ決まっていなくて、近々紹介してもらう予定でいるんだ」

 

「メリッサか……確か今17歳、今度18歳だったか? 日本で言えば高校3年生だな」

 

「今から編入となると……残りおよそ8か月の学校生活ですか。長くもなく短くもなく……彼女自身が優秀な技術者ですから、どこを選ぶかは余計に迷う所でしょうね」

 

「微妙な期間だから、本人は試験か何かで高卒資格だけ取って、大学へ編入で入るルートでも構わないと言ってるがね……と、話がそれてしまったな」

 

 いけないいけない、と話題を元に戻すデヴィッド博士。

 

「そういうわけだから、緑谷君の『個性』を引き続き見ていくという点での協力は、むしろ仕事として、『栄陽院』のバックアップを受けた上でやれると思う。もっとも、今聞いた話を企業側にするわけにはいかない以上、多少なり気を使って見ていくことになるだろうがね……それよりもトシ、いやこの場合、ナイトアイに聞くべきかな……さっき言っていたことについてなんだが」

 

「と、申されますと?」

 

「言っていただろう? さっきまでここにいた、彼女……栄陽院永久くんの『個性』についても、詳細な解析を頼みたいと。そして……どういう意味かは分からないが、彼女の『個性』が……トシや緑谷君が宿している『ワン・フォー・オール』や、かの大悪党『オール・フォー・ワン』以上に特異で、強力で、残酷だと。彼女もまた、『デウス・ロ・ウルト』では私が見る対象になるだろうから、見ろと言われれば見るが……一体、何をもってそんなことを言ったんだい?」

 

 そうだ、僕もそれが気になってたんだ。

 栄陽院さんの個性『オール・フォー・ユー』が、どうしてそんな……物騒な言われ方をされているのか。一体、オールマイトとナイトアイは……何を知っているのか。

 

 多分、それを僕に聞かせていなかったのは……何か理由あってのことだろうと思う。

 あるいは、単に聞かせるまでもないと判断したか……時期を見て聞かせるつもりだったのか。

 

 いずれにせよ、可能なら、その理由も合わせて聞きたかったところだけど……何にしても、仲のいいクラスメイトであり……その……決して浅からぬ関係になっている彼女が、一体どういう扱い方をされているのか……その辺も興味あるし。

 

 そういう感情を視線に乗せてしまったんであろう僕と、それからデヴィッド博士の視線も受けて……オールマイトは、少し考えた後に、『わかった、話そう』と言った。

 もうとっくに覚めてしまったお茶を口に流し込んで喉を湿らせ、ふぅ、と息をついた。

 

 しかし、そこで口を開いたのは……オールマイトではなく、ナイトアイの方だった。

 

「事の発端は、私がオールマイトから、栄陽院永久の『個性』と、彼女自身の、緑谷出久に対する態度、ないし向き合い方……姿勢……そういったものを聞かされた時、脳裏によぎったある噂話でした。いや、噂というよりは、都市伝説に近いものがありますが……」

 

「都市伝説……?」

 

「ええ……そして時をほぼ同じくして、偶然、オールマイトからそれを聞かされた根津校長が、グラントリノにもその話をして……その時に返されたある質問。それらを脳内で重ね合わせ、生まれた懸念を検証した結果が……先の、博士への依頼につながります」

 

 都市伝説に、グラントリノに……なんか、また妙に話が広がってるな……。

 

 いや、オールマイトに栄陽院さんの『個性』について報告したのは僕だし、そのオールマイトが相談した相手……ナイトアイや校長先生、さらにそこから聞かされているグラントリノ……全員、きちんと事情を知っていて信頼できる人だから何も問題はないと思うけど……この話が一体どんな形で収束するのか、全然想像つかないな……

 

 でも、だからって途中で茶々を入れる気はない。ナイトアイのことだ、きちんと順序を踏んで、最終的にはきちんとわかりやすい形で話してくれるだろう。今はまず、待とう。

 

「根津校長がグラントリノから聞いた話を、オールマイトは根津校長から聞かされたわけだが……そこで校長は、『奉生(ほうじょう)家』なるものの存在をについて話したとのことです。そしてそれこそが……私が眉唾物に聞いて知っていた、都市伝説の内容でもある。この奇妙な合致に違和感を持った私は、グラントリノと協力して詳調査し……1つの結論を得ました。これからそれについてお話しします。彼女の『個性』……『オール・フォー・ユー』……そのルーツについて。そして……『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ワン』との関連について。これら3つの『個性』には……ある繋がりがあったのです」

 

 

 

 

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