TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回で『夏休み編』というか、『I・アイランド編』は最後です。

そして、長くなりました……おまけに、かなり突っ込んだ独自解釈や設定、そしてけっこうシリアスも入ってます。苦手な方いましたらすいません。

次回から『林間合宿編』です。……これも夏休みの内ですけどね。


第110話 哀しい過去と、残酷な未来

 超常黎明期……突如として出現した『個性』という名の特殊能力。

 その頃はまだ『異能』という呼ばれ方をしていたその力は、普通の人間を『超人』に変えた。

 

 そして当然のごとく、『異能』を持つ『超人』とそうでない者の間では確執が生まれ……『異能』を持つ者が暴力によって他者を虐げるようになり、持たざる者達もまた団結し、安寧のために彼らを排除しようとした。

 法も何も意味を失い、秩序は破壊され、社会は混乱の中にあった。

 

 そんな中にあって、己が力によって逸早く社会をまとめ上げてみせた男がいた。

 

 後年、『オール・フォー・ワン』と呼ばれるようになるその男は、『他人の異能を奪い、与える』という反則じみた力を持ち、その力で自分に従う者を増やしていった。

 

 時に、反目する者を力でねじ伏せた。自らの使える『異能』をもって。あるいは、相手の『異能』を奪って自らの力にすることで。

 

 時に、力を欲するものに『異能』を与えることで、自分の手駒とした。

 

 時に、望まざる『異能』を持つ者からそれを取り去ってやることで、恩によって協力者とした。

 

 その男を中心に強力な『秩序』が生まれていき、彼を中心に、限られた範囲ではあるが、社会は回っていく。彼に従う者、心酔する者は数多く現れ、反目しようとする者は排斥された。ついには彼を守るため、なんら指示を出さずとも行動に移す者が現れるまでになっていった。

 

 そんな『オール・フォー・ワン』には、弟が1人いた。

 

 彼は体が弱く、『異能』も持っていなかった。

 そして正義感が強く……悪の道をひた走る兄の所業に心を痛めていた。何の力も持たない自分では、彼を止められないことを嘆きながらも。

 

 力がないにもかかわらず、自分に反目し、共に征こうと誘っても、決して首を縦には振らない。

 そんな弟の反抗を嘆きつつも、『オール・フォー・ワン』は彼を傍に置いていた。

 

 そんなある時、彼は弟に、『力をストックする』という『異能』を与えた。

 体の弱い弟にも都合のいい、それでいて使いやすい『異能』だと言って。

 

 そしてその結果、弟の体内で、『個性』が変容することとなる。

 持っていないと思われていた弟だが……彼も、『力を与える』という、それ単体では意味のない『異能』を持っていた。それが、『力をストックする』という異能と混ざり合い……変質した。

 

 そうして生まれたのが……『ワン・フォー・オール』である。

 

 ……ここまでは、オールマイトが緑谷出久に、既に話して聞かせている内容である。

 

 しかし、ナイトアイが、そしてグラントリノが調べたところで……この話には、さらなる裏が、事情が隠されていることが明らかになった。

 そしてそこにこそ……『奉生(ほうじょう)一族』が絡んでくる。

 

 

 

 ここで一旦、話は『個性』ないし『異能』の話を離れる。

 

 『奉生一族』とは、遡れる限りでは、源平合戦の時代にまでその存在を確認することができる存在である。当時の彼らは、非常に忠義心に厚く、己の全てを懸けて主君に尽くすことを喜びとする一族だったと記録に残っている。

 武力やその命のみならず、地位も、名誉も、家も、金も、全てをかけてただひたすらに主君を支える。文字通りその『生』の全てを『奉』げる者達として、その時代の主たちからは信頼され、他の武士達からも一目置かれていた、とされている。

 

 一説には、時の幕府を支えたかの『北条』の一族に源流を発する、という説もあるが、これについては書物にも記載はなく、定かではない。論ずるべき所ではないだろう。

 

 当然であるが、その頃はまだ『個性』も『異能』もありはせず、単なる忠義者の一族であった彼らだが……そんな逸話も忘れられるほどの時間がたってから、彼らの末裔にも『異能』を持つ者が現れ出した。

 

 超常黎明期、すでに『奉生』という名前すら失っていた彼らの末裔達……その多くが手にした力は……『力をストックする』というものだった。中には、それをさらに『他者に分け与える』という性質を持つ者もいた。

 

 普段は力をためていて、ここぞという時に発揮するものだと思えば……あるいは、溜めた力を直接主に、あるいは同じように主に仕える者に分け与えて使うものだと思えば……その性質も、彼らの『忠義者』としての性分に合っていたのかもしれない。

 

 そして、その中の1人が……戦いに身を置いていた。

 その当時の『秩序』であり、悪と認識されていない巨悪……『オール・フォー・ワン』に反抗するための勢力に。

 

 レジスタンスとも言うべき勢力に身を置いて……時に、その弟……まだ何も力を持たず、弱いままだった頃ではあるが、紛れもなく正義の心を持っていた彼と通じ、戦うこともあった。

 彼も、『オール・フォー・ワン』の弟も、共に正義のために戦い続けようと誓い合っていた。

 

 しかし、力及ばず……その末裔の男は、打ちのめされた挙句に、命を絶たれてしまう。

 その間際……『オール・フォー・ワン』は、その耳元でこう囁いた。

 

「力をためる……そして、少しずつでも使ったり、弱い力を補うことができるのか……いいね。シンプルで使いやすそうな力だ……ちょうどいい。あの子への贈り物にしよう」

 

 そして、『異能』が抜き取られる感触を味わい……しかしその間際、その男は、それを表情に出すことなく……ニヤリと、心の中で笑った。

 

(俺の力を……そうか、自分の弟に……彼に与えるつもりか。いいだろう……持っていけ。だが、俺はただでは死なん……命を失っても、俺の『異能』が、魂が……必ず彼と1つになって、彼の力になって、お前を倒す武器になるだろう……その時まで、せいぜい笑っているがいい……!)

 

 そして、末裔の1人は……命と『異能』を奪われた。

 奪われた『異能』は……『オール・フォー・ワン』の手による少しの検証を終えた後、『体の弱い弟にも使いやすい異能』として、無理やり彼に与えられた。

 かつて自分の友だった男の形見だと聞かされ、涙する弟に。

 

 そして……事態は奇跡的に、末裔の男の思惑通りに動く。

 2つの『異能』が混ざり合い、巨悪を倒すための力が……『ワン・フォー・オール』が生まれた。

 

 

 

 話はここで終わらない。

 

 『オール・フォー・ワン』は、その当時はまだ、『オール・フォー・ユー』とも『無限エネルギー』とも違う名前を持っていた、『ストックする異能』に目をつけて、彼以外の末裔を探した。

 自分に従うならばそれを取り込み、従わないのなら『異能』だけを奪うために。

 

 しかし、それなりに苦労して、ようやく別な末裔を見つけた『オール・フォー・ワン』は……自分の下につくことを拒否したその者から、命と『異能』を奪い……そして、この『異能』が本来、使いやすさ、都合の良さなどとは無縁のものであることを知る。

 

 弟に渡した異能だけが使いやすかったのか、あるいは何か条件が違ったのか……わからないことは多いが、とても使えたものではないことだけは確かだった。

 

 その当時から、後の世で『オール・フォー・ユー』と名付けられることとなるその『異能』には……『主のために全てを奉げて尽くす』という、『奉生一族』の源点とも呼ぶべき思考がしみついていた。『オール・フォー・ワン』には特に、致命的に合わないものだったのだ。

 

 それを悟った『オール・フォー・ワン』は、奪っても制御しきれない、思う通りに使えない……それどころか余計な感情や思考を呼び起こさんとするその『異能』をすっぱりと切り捨て、他の末裔探しもやめた。

 興味を失いはしたが、脅威に覚えるほど危険視もしなかったというのも理由だった。いくら力を蓄えたところで、即座にそれを圧倒できるだけの力を、自分は扱うことができたからだ。

 

 

 

 そして時は流れ……互いのために互いに関わることをやめた2つの力は、それぞれ代を重ねて力をつけていった。

 

 『ワン・フォー・オール』は、人から人へ渡っていき、練り上げられ……譲渡の度にその力を増していった。

 そしてついに、八代目にあたるオールマイトの手で、『オール・フォー・ワン』が打倒されるに至り……しかし、その脅威は、薄れはせども未だ晴れず。

 『オール・フォー・ワン』は、健在……とは言えないまでも、未だ死なず、闇に君臨している。『ワン・フォー・オール』の役目は、9代目……緑谷出久に受け継がれた。

 

 そして、『ストック』の個性は、こちらも代を重ねるごとに強化されていった。

 もっとも、その強化は、他の個性にも起きている程度の微々たるもので、『ワン・フォー・オール』のような劇的なそれではなかったが……代を重ねるごとに、使い手たちはその力の使い方を覚え、より効率的に使う術を、より強い力を振るう術を学び、ものにしていった。

 

 そしてそれに伴い、遺伝子にしみついているのではないかと思えるような、『尽くす』精神もまた『個性』と共に成長していき……いつしかその名を『オール・フォー・ユー』とするまでになった。

 

 私を滅し、誰かの傍らに立ち、その者に全てを捧げて尽くす生を送ることを前提とした……ある意味で尊く、ある意味で残酷な『個性』に。

 本人達がそれに気づくことも、気付いたとしても、それを気にすることもないままに。

 

 

 

 2つの力は、ともに『ストック』という共通の原点をもつ力。

 戦いの中で枝分かれし、今に至るまで出会うこともないままに数百年の時が流れた、生き別れの双子のような力。

 

 それぞれに力を増し、そして今、ひとところにて巡り合おうとしている2つの力。

 

 九代目『ワン・フォー・オール』……緑谷出久。

 『奉生一族』の末裔にして歴代最高レベルの『オール・フォー・ユー』の担い手……栄陽院永久。

 

 2人の邂逅は……そして、この2人の間に紡がれた『主』と『従』の関係は、互いの『個性』を……そして、それが紡ぐ運命を……大きく変えようとしていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「セントルイス……スマッシュ!」

 

 私の鳩尾を狙って放たれる緑谷の蹴り。

 それを私は、左腕で受け止める……ずしりと重い一撃を感じるが、十分に耐えられる威力だ。

 

 お返しに1歩踏み込んで、こちらは緑谷の上方から打ち下ろす形で手刀を放つ。

 ハエ叩きみたいに叩き落す軌道で放たれるそれはしかし、緑谷が空中で腕や足を振るい、その勢いで体をひねったことによってかわされる。

 

 それでも空中で動きがとりづらいままなのは変わらない……と思いきや、かわしたと同時に『黒鞭』を放っていた緑谷は、それを巻き取る、あるいは引き寄せるようにして大きく動き、私の射程の外に出る。そして着地してから、改めて構えなおす。

 

 それを見届けた私は……この模擬戦の目的でもある、新しい装備の力を使うことにした。

 

 ああ、今更になるが……何やら緑谷達が秘密の話っぽいのを終えた後、あらためて解析を行って……で、そのデータをまとめる間、模擬戦して装備をならしとこうって話になったんだ。

 それの監督をしてもらってるのが、観客席にいるメリッサ。装備の稼働状況なんかを見つつ、気づいた点があったら、適宜試合を止めたり、あるいは終わった後に言ってくれる。

 

 そんなわけなので、新装備の力を使うことも必要なわけだ。戦闘の中でしか取れないようなデータってものもあるしね。

 

 まあ、単に装備の材質が変わってるとか、装甲を追加したって程度の部分なら、もう存分に使ってるけど。

 

 緑谷のアイアンソールが『ダークマターインゴット』製になってる点とか、私も含めて体の各部に保護用の『アダマンチウム』が仕込まれてることとか。攻撃に防御に存分に使えている。

 

 そしてここからは、そういう『結果的に使うことになる』機能ではなく、『使おうと思って使う』機能の方だ。

 

 私は今の状態でも、体に『エネルギー』を充填して強化しているが、それを拡大させる。

 体だけでなく……身にまとっているコスチューム……軍服全体に、『エネルギー』をいきわたらせるイメージだ。

 

 服の下に走っている『フォトンストリーム』を経路として、全身に素早く、力強くエネルギーがいきわたる。その際、金色に発光するそれが紋様、あるいは血管のように全身に現れる。

 そしてそれに反応して……全身に仕込まれている人工筋肉が稼働し始める。

 

 コスチュームの内側に仕込まれている人工筋肉。これらも今回追加されることになった装備の1つだが……最大の特徴として、半生体の有機素材であることがあげられる。

 

 バイオ素材とも呼ぶべきコレを用いることにより……強度は十分なそれを持たせたままに、私の『エネルギー』による強化を受け付けるようになっているのだ。

 

 私の『エネルギー』は、無機物や道具を強化することはできない。よくフィクションとかで見るように、『魔力を剣に流して切れ味と強度を~』なんてことはできない。馴染まないから。

 

 しかし、この素材であれば……『半生体(バイオ)素材』であるがゆえに、普通の人間の体ほどではないにせよ、駆動を強化できる。そしてその分のパワーを、私の攻撃に上乗せでき、同時にサポーターとしての機能も持っているので、反動を抑えることもできるという優れモノだ。

 

 それが全身に装備されているので、コレを稼働させれば私は、パワー・スピードは更に上がり、なのに体への反動はむしろ下がるという状態になる。装備に頼っている部分があるのは否定できないが、それでも実戦においてはこの上なく頼りになる、純然たるパワーアップだ。

 

 おそらく、許容上限を、今の500%から……600、いや650%くらいまでなら上げられるんじゃなかろうか。その状態で、今までよりもはるかに高いパフォーマンスを発揮できる。

 

 見た目も……全身に金色の光のラインが走って、いかにも何か『強化フォーム』っぽくなるし、気に入っている。

 

 まあ欠点としては、体とスーツの両方を常に強化し続けるわけだから、使うエネルギーの絶対量は倍増してるわけなんだけど……そこは仕方ないよな。

 

 一方、私が『フォトンストリーム』と『バイオ人工筋肉』を稼働させたのを見た緑谷も、新たにコスチュームに搭載された機能を開放する。

 

 呼吸を整え、精神を集中するようにする。と同時に……体の各部に、赤い光のラインが走る。

 

 もともと緑谷の『フルカウル』は、一定以上の出力で使うと、緑色の火花と同時に、体の各所に傷跡みたいな赤いラインが光って浮き出る特徴があるけど……コレはそれとは違う。コスチュームに内蔵されている『サイコフレーム』が放っている光だ。

 

 この『I・アイランド』でもまだ実験開発段階であるらしいそれは、某宇宙世紀で用いられていたロボの材料的なアレではなく……しかし、それに近いんじゃないかという性質を持つものだった。何研究して、何作ってんすかデヴィッド博士……。

 

 さて、『個性無効糸』というものをご存じだろうか。

 人間の髪や古い角質なんかを材料にして作られる素材で、その持ち主の『個性』発動に合わせて、それに順応した効果を同時に発揮する性質を持っている便利な素材である。

 

 例を用いてわかりやすく説明すると、ナイトアイ事務所でお世話になった『ルミリオン』こと通形先輩のコスチュームに用いられているのがコレだ。

 

 通形先輩の『個性』は『透過』。発動中は、彼の体は全てをすり抜ける。

 それはもちろん服も例外ではないので、服を着てる状態で『個性』を使うと、脱げる。

 素っ裸になる。放送事故が起こる。というか、過去の体育祭で起こった。

 

 しかし、通形先輩の髪の毛から作られた『個性無効糸』でできたコスチュームは、彼の『透過』の発動に合わせて自分も『透過』の性質を持つので、脱げることはない。

 これにより通形先輩は、ヒーローとしての活動現場でも、素っ裸にならずに戦えているわけだ。

 

 話が遠回りしたが、緑谷のコスチュームに搭載されている『サイコフレーム』もその類の素材なのだ。緑谷の毛髪や爪の欠片から生態素材になる部分を培養して増やし、それを材料にしている。

 

 緑谷の意思に反応して、内蔵されている受容体がその脳波だか意思の力だかを感知し、彼の体の一部となって動きをサポートする。その結果、多少ではあるが動きがよくなる、早くなるというのが効能なわけだが……戦闘においては、そのコンマ数秒の動きの差が勝敗を、あるいは生死を左右することだって珍しくない。彼の大きな助けになるであろうシステムだ――

 

 

 ――と、いう見込みだったんだけど、予想外にそれどころじゃなくなったんだよな、これが。

 

 

 某機動戦士でもそうだったけど、『サイコフレーム』は使用者の精神と密接に関わって、時に想像を超えた動きを可能にし、時に説明不可能な『奇跡』とすら言えるようなことを引き起こす。

 それが、緑谷にも起きた。

 

 さっき言った通り、あくまでこの『サイコフレーム』は、緑谷の動きのサポート用として搭載を決めた装備だったんだが……ここに来て予想外に、『感情感知(仮)』の能力と、凄まじく相性がいいことが分かったのである。

 

 その『感情感知』については、さっきの『解析』の際に、やはりこれも『黒鞭』と同じように、独立した1つの『個性』である可能性が高い、という結論が出たところなんだけど……これもまた人の脳、ないし意思と密接にかかわる『個性』だった。

 その結果、その能力増幅に『サイコフレーム』が一役買ったのだ。

 

 『サイコフレーム』が受信機、ないしは受容体の役割を果たし、より強力に、より精密に相手の感情を感知し、それをさらに効率よく動きの補助に回せるようになったのである。

 しかもその性質上、緑谷の思考の補助みたいなものまでしてくれるから、もたらされる情報の処理で脳が疲弊することはほぼなく、むしろ負担は軽くなっているとか。

 

 結果、何が起こるかというと、

 

(わかっちゃいたけど……当たらないなあ、1発も!)

 

 さっきよりスピードもパワーも……パワーは関係ないか……上がっているはずの私が、ろくに攻撃を掠らせることもできない。いや、当たってないわけじゃないんだけど、ことごとく緑谷が手や拳で受け流したり、撃ち落としたりしてるもんだから、ダメージはほぼほぼゼロだ。

 

 私の縄張りであるはずのインファイトで、コスチュームの改良によって、自分でもわかるくらいには強化されてる状態でこれかあ……自信無くすな。

 いやでも、緑谷が強くなるのは私にとっては喜びだ。問題ない。

 

 殴っても蹴ってもつかみかかっても、全部避けられる、あるいは防がれる。

 しかもそのほとんどが、私が動くと同時、あるいは動く前に対処されてる。

 

 今の緑谷は、目で見て、耳で聞いて、鼻で……はあんまりないかもだけど、そして、脳と『サイコフレーム』で感じ取って、相手の攻撃……のみならず、挙動のほとんどを察知できる。そこに、緑谷自身がスキルとして体得している『予測』や『直観力』が加わる。

 

 その結果、思考を読むがごとき『先読み』が可能になり、攻撃前に攻撃をかわされる、防がれる、なんていう事態が起こるわけだ。

 

 ……これもう、『直観力』の領域超えてないか?

 今はそれでもいいかもしれないけど……なんだろう、近いうちに、もっと別な何かに変わってくるような気がするんだが。

 

 今のこれだって、ある種の『無我の境地』……いや、それも逸脱し始めてるな。

 『サイコフレーム』の補助があってとはいえ、体中で思考して反応してるようなもんだ……どっちかっていうと、『身勝手の○意』の方が近いんじゃ……

 

 ……案外近いうちに、そんな領域にも至りそうな気がするんだが……

 

 ともあれ、そんなわけで模擬戦は私の負け。

 惜敗とかそんなんじゃなく、完敗、あるいは惨敗だ。

 

 緑谷が強くなってくれたのは嬉しい。嬉しいが……私自身も、このまま満足してちゃいけないよなあ……!

 

 でも緑谷って、見てるこっちが怖くなるくらいには早いペースで成長していくからなあ……いや、コレを成長と呼んでいいものか……まさか『個性』が増えるなんて思ってもみなかったしな。

 

 ま、何であれ緑谷は緑谷なのには変わりない。私は全力で、彼を支えるだけだ。

 ……そのためにも、私自身も強くならないといけない。これからの『デウス・ロ・ウルト』に加え……今度の『林間合宿』も、気合入れて臨まないとな。

 

 あ、ちなみに模擬戦を見ていたメリッサだが……途中から私達の戦いを目で追えなくなったので、多角度から録画したそれをスロー再生して解析を行っていた。

 まあ、彼女、戦闘要員でも何でもないし、訓練も積んでないからな……仕方ないか、それは。

 

 それとコレは関係ないかもだけど、彼女、今の世代には珍しい『無個性』らしい。

 

 本人はもう……少なくとも今は……それを気にしてる様子はないけど。

 昔はヒーローにあこがれてたけど、それはもういい。今は、研究者としてヒーローを支えることを目標にしてるんだって。前向きでいい子だなあ……いや、年上だけどね。

 

 ぜひその調子で、うちの緑谷のことも支えてほしいもんである。なんなら『一緒に』。

 

 ……積極的にハーレム作るつもりはなくなっても、発想としてはパッと浮かんできちゃうな……未だに。何でだろ?

 

 

 ☆☆☆

 

 

「運命、って奴なのかな? これも」

 

 模擬戦スペース……その観客席で、オールマイト(マッスルフォーム)はぽつりとつぶやいた。

 

 その隣には、ナイトアイの姿もある。相変わらずの仏頂面のままで、何も言わずに座っていた。

 

「緑谷少年と、栄陽院少女……2人がこうして出会い、歩み出したのは……まあもちろん、男女の関係としても微笑ましいというか、喜ばしいことかもしれないけど……まさか、彼らの『個性』に……『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ユー』に、そんな過去があったとは」

 

「しかも、当人たちはそれを知らずに知り合い、惹かれ合い……絆を育んだ。その片割れが真実を知ったのは、全てが出来上がってから……なるほど、確かに運命的ではある。……それが、望ましい結果をもたらすものなのかはともかくとして、ですが」

 

 口を開いたナイトアイが呟くように言ったのは……オールマイトの言葉を、肯定も否定も両方するものだった。

 

「……それは」

 

 彼には珍しく、あまり感情の抑揚を感じない声で、ナイトアイに尋ねるオールマイト。

 

「君が見た……彼女の未来の『予知』ゆえのものかい、ナイトアイ? 結局……緑谷少年には、君はそのことは伝えなかったね。私の『予知』の話と同じように」

 

「……伝えられるわけがないでしょう……どんな顔をして、言えと……そして、彼にどうしろというんですか、こんな、残酷な未来を……!」

 

 そして、今度は本当に珍しい事態だ。

 ナイトアイが、その表情を、苦悶、あるいは葛藤かと思えるようなそれにゆがめ……視線を下に、目を伏せた。

 

 まるで……フィールドの中心で楽しげに話している、永久と緑谷を見ていられない、とでも言うように。

 

「緑谷出久は……彼は確かに、あなたの後継者となれるだけの人物だ。今はまだまだ未熟、あなたに遠く及ばずとも……すでにあなたを超えてすら行けるだけの才覚の片鱗を、今見せている。そしてその力は、彼女が……栄陽院永久が彼を支えることで、より早く、より盤石に結実するでしょう」

 

「けど、君はそれを祝福しない……できない、かな?」

 

「新たなる『平和の象徴』……その誕生、大成、それ自体は喜ばしい。だがその道中……あるいはその後かもしれませんが……彼を絶望に落としかねない悲劇が待ち受けている」

 

「………………」

 

「恐らくは、今年、あるいは来年にまで迫った、あなたの死……そしてもう1つ……」」

 

 一拍、

 

 

 

「今、彼の隣にいる……彼女の……栄陽院永久の死だ」

 

 

 

 永久が事務所にインターンに来た時、ナイトアイは彼女の人となりを知るため、そして緑谷出久と『ワン・フォー・オール』の異変への関与の有無を、そこに彼女自身の意思の有無を見極めるため、様々な手を仕掛けた。『予知』によって彼女の未来を見るのもその一つだった。

 

 結果、ナイトアイは永久が、悪意を持って緑谷に何かを仕掛けているのではないということを知り、彼女をひとまずは信頼するに至った。

 

 ただその際、余計なものも見てしまい……やや微妙な心境に至ることとなる。

 ……一時的に。

 

「……昨今の高校生というのは、進んでいると言えばいいのか、ふしだらと言えばいいのか……どうやら緑谷出久は、随分と多くの女性に好かれているようで……ええ、随分と」

 

「(二回言った……)ええと……君、『予知』でそういう未来も見ちゃったんだっけ?」

 

「ええ……人として、男として……あまり褒められたものではないのではないかという場面もいくつか。英雄色を好む、という言葉はありますが、それにしても……まあ、緑谷出久の性格からして、あんな状態を彼が望んで、積極的に作り上げたというのは考えづらいですから、恐らくはあれも、栄陽院永久による彼への献身の結果、と見るべきなのでしょうが」

 

 あからさまに『何を』見たのか、は語ることはないナイトアイ。

 ……あまり語らない方がいいものなのは確かだろう。下手をすれば、年齢制限がかかるようなものである可能性すら、ある。

 

 最初にその話を聞いた時、オールマイトも『うわぁ……』と心の中で呟きながら、微妙な気持ちになった。

 男女の恋慕に口出しするのは、教師としてどうなのかと。しかし、そういうあまり褒められたものではない形に生きかねないのなら、それをそのままにしておいていいのかと。そもそも栄陽院永久は、一体緑谷出久という少年をどうしたいのかと。

 

 ヒーロー一筋でここまで来たがゆえに、そのあたりで困惑するしかできないオールマイトだったが……その時、違和感にも気づいた。

 それを話すナイトアイが、神妙な雰囲気のままだった。

 

 緑谷出久の不貞を咎めてのもの……ではなく、何か悲痛な思いを押し殺しているかのような目をしていた。オールマイトには、そう見えた。

 

「あなたの後を継ぐ者として、それはどうなのかと正直思いました。やや、落胆も……ただ、その後に見たものが加わって……話が変わってきた。彼女の未来は……恐らくは、緑谷出久のそれと同じように、定まっていなかった。いくつにも枝分かれし、私の『予知』でも読み切れなかった」

 

 彼が目にした、緑谷出久との『そういう未来』自体も、いくつもの形を見たとのことだった。

 

 永久と結ばれる未来、

 麗日と結ばれ、永久はその補佐に徹して支え続ける未来、

 そのどちらでもない者と結ばれる未来、

 そして……幾人もの女性と結ばれ、共に歩む未来も、

 

 しかし、そのあたりはともかくとして……それらの未来全てに……少なくとも、ナイトアイが『予知』で見た未来全てにおいて、共通していることがあった。

 

 それは……『死』である。

 

「私が調べた限り……『奉生一族』に名を置く者は、代々短命だ。それは、体が弱いとか、遺伝性の病気を持っているからとかではない……むしろその理由は、彼らの『性質』に起因するものであり……代々の『ワン・フォー・オール』継承者に通ずるものがある」

 

「すなわち……何かのためにその命を使う。燃やし尽くす……か」

 

「ええ……『ワン・フォー・オール』の歴代継承者が、ことごとく悪との戦いの中で……そのほとんどが『オール・フォー・ワン』との戦いなわけですが、その中で命を燃やし尽くし、死んでいった。それと同じです。『奉生一族』は、主と定めた者のために命を燃やしつくす。時に主の剣として死ぬまで戦い続け、時に主をかばって盾となって凶刃に倒れ……主よりも先に死ぬ」

 

「……それを、君も見たのか」

 

「……見た『予知』の中における栄陽院永久の死……それらは全て、時期や場面は違えど、緑谷出久を何らかの形でかばって倒れるという最後だった。それも、何の迷いも躊躇もなく……彼女に、そして『奉生一族』にとってすれば、守るべき主よりも自分が先に死ぬという選択肢は、当たり前なのでしょう」

 

 そして、と、ナイトアイは続ける。

 

「ここからは私の推測……いえ憶測です。栄陽院永久の死……それをある種の『前提条件』として据えて見た場合、先程私が話した、ふしだらな未来……その意味が変わってくる」

 

「聞く限り、栄陽院少女が、緑谷少年が自分以外の女の子と親密になることを歓迎してるような感じだったんだよね?」

 

「ええ……陳腐な物言いになるのを承知で言えば……ハーレム願望、とでもいうのでしょうか。私も、また若くしてとんでもない性癖を持っている者だと思ったものですが……そうではない、としたら?」

 

「? どういう意味だい?」

 

「今言ったように、コレは私の憶測です。彼女自身、意図してそうしているのかはわからない。しかし、これも今言ったことですが……『奉生一族』の者は、主の盾として自分の身を、命を投げ出すことを当然の使命として考えている。いざそうなった時に、迷いも躊躇いもない。ならば……そうなった時、あるいは後のことを考えているのも、ごく自然なことではないでしょうか」

 

「……何?」

 

 一瞬、何を言っているのかわからなくなるオールマイト。

 ナイトアイは少し間を開けつつも……困惑したままのオールマイトに、話して聞かせる。自分が至ってしまった、とある仮説を。憶測を。

 

「ある種、自画自賛のような考え方になりますが……緑谷出久の中において、栄陽院永久という少女の存在は大きい。それが、ある日突然帰らぬ人となれば……そしてそれが、自分を守るためだったとすれば……当然、気を落とすでしょう。彼は優しい……わかり切ったことだ。ならば……

 

 

 

 ……栄陽院永久が、そうなった時のための備えをしていないと、どうして言えます?」

 

 

 

「……っ!?」

 

 今度こそ意味を理解したオールマイトは……はっとしたように、フィールドの中心にいる永久と緑谷を見た。

 どうやらもう模擬戦は終わりなのか、待機席に戻っていくようだ。

 

 傍らには、今までそこで試合を見ていた、興奮している様子のメリッサもいた。

 恐らく、『すごい戦いだったわ! 2人ともやっぱり強いのね!』というあたりのことをしゃべっているのだろう……手を取られている緑谷が顔を赤くしている。

 

 そしてそんな様子を、ねたむでもなくすねるでもなく、永久は笑顔で見ている。

 

 今の話を聞いてしまったからか……普段ならば微笑ましく見えてしまうはずのそんな光景が……ひどくいびつなものに見えた。

 

 メリッサと緑谷が仲良くすることに対する笑顔。あれは、単なる友人としての祝福か、はたまた倒錯した性癖からくるものか、それとも……

 

「自分が、主よりも先に死ぬことを見越して……自分が死んだ後の備えをする。それはすなわち、後継者の用意……オールマイト、あなたがやっていることと同じです」

 

 それに気づいた時、ナイトアイの脳裏に浮かんだのは……『オール・フォー・ワン』との戦いの直後の、傷つき、病人着に身を包んだオールマイトの姿だった。

 病院の廊下で、手すりと壁に体を預け、口の傍から血を流しながらも、現場に戻ろうとする……あまりにも痛々しい姿。

 

 

『テレビ、見ていないのか……皆が、私を待っている。なら、行かなきゃな……私は、平和の象徴、なんだから……!』

 

『そんな姿で出てこられても辛いだけだ……無茶だ、もう引退すべきだ、オールマイト……あなたはもう十分に戦った、柔らかいベッドでゆっくり休んでいいんだ!』

 

 

 ナイトアイは、既に……緑谷出久の中に、その時のオールマイトにも見た、狂気的なまでの『英雄の精神』を見出していた。

 しかし、それとはまた別種の『狂気』を、彼女の……永久の頭の中に、信念に、見ていた。

 

「まさか……彼女は……!」

 

「何度も言うように、私の憶測です。どころか、彼女自身、意図してそうしているわけではない可能性もある……だが、現状は確実に、もしそうなった場合……そうなる道筋ができている」

 

 思い返せば、緑谷が仲良くしている女性は、ある程度の親密さにしぼって考えるくらいであれば、オールマイトにも予測できた。

 

 栄陽院永久に、麗日お茶子、蛙吹梅雨、そしてあそこにいるメリッサ・シールド。

 B組の2人までは思い浮かばなかったし、そもそもここ最近で知り合ったばかりのメリッサをそこに加えるべきかは悩むところだろう。

 

 この中で、永久を除けば特に仲がいいと断定できるのは、クラスメイトであり、いつも一緒にいるほどには仲がいい、麗日だろう。

 彼女なら……何かあって落ち込んでいる緑谷を、放っておかないだろう。彼女自身、優しい性格だ……どうにかして彼を慰め、支えようとするだろう……今の永久と同じように。

 

 そう、つまり……

 

 

「……栄陽院永久。彼女が、主と定めた緑谷出久の周囲に女性を、仲間を集めるのは……自分が彼を残して死んだ後、その彼を慰め、支え、立ち直らせ……共に歩んでいく者を用意するためではないか……自分の後を引き継いで、彼を支えることを任せられる者を……!」

 

 

「バカな……戦国時代じゃないんだぞ? そんな考えが……」

 

「近代であっても戦国時代にも等しい忠誠心を持っているのが『奉生』であり彼女だ……そういう考えが魂に根付いていても不思議ではないでしょう。たとえそれが、無意識にでも……」

 

 そこまで言って……ナイトアイは席を立った。

 

「私にはわからない……同じように、誰かを失う未来を恐れ、憂いている者として……失われようとしている命を、それでも生かし、自分以外が次に繋げてくれることを……主を支えることを考えているかもしれない、彼女という存在が……! そして、その彼女と共に歩み、いずれ悲劇を迎えることになるであろう、緑谷出久……彼の前途を、祝福していいものかすらも……!」

 

「…………」

 

「これらは、彼女の持つ『主従関係』としての意識ないし在り方のほんの一部分にすぎない……今後、博士の解析で徐々に彼女の『個性』について明らかになっていけば……さらに恐ろしい事実が明らかになる可能性すら、ある」

 

「……今話した以上のことが、彼女の『個性』には隠されていると? ……そう言えば言っていたね、OFAやAFOよりも特異な力だ、と……その部分かい?」

 

「……今はまだ、もしかしたら、という程度のものですが。予想が外れていることを、願うばかりです」

 

 そしてそのまま、もうこれ以上は話すのもつらいという感じで、その場を去った。

 トイレにでも行ったのか、あるいはこのままホテルにでも戻って帰ってこないのか……それは定かではない。

 

 だが、残されたオールマイトは特にそれについては考えず……無言で、そこに座っていた。

 先程まで、前途有望な若者2人が、拳という刃をぶつけあい、研鑽し合っていたフィールド……今は無人となっているそこを、眺めながら。

 

 さっきまで笑い合っていた、少年と少女の笑顔……いずれ、あの片方が永遠に失われ、もう片方が曇ってしまうのかと思うと、何を言うどころか、何を考えていいのかすらわからなかった。

 

(……君が、『予知』の未来を見たがらない気持ちがよくわかってしまったよ……ああ、本当に……未来って、残酷だな。そんな彼らに、それでも、託さなければいけないんだから……)

 

 

 

 




今回の説明範囲はここまで。
永久の『個性』についてのさらなる情報は……デヴィッド博士のさらなる解析結果を待って、ということになりそうです。始まったばかりですからね……こうご期待。
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