TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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はい、林間合宿編のスタートです。
原作通りに行くのか、それとも……


第7章 栄陽院永久と林間合宿
第111話 林間合宿・スタート


 

 薄暗く、得体の知れない……謎、としか言えないような空間。

 風が吹きすさぶような音だけが響いているそこに、私は、ただ棒立ちになっていた。

 

 ……棒立ち、という表現が正しいのかどうかも怪しいな。ただそこにいるだけ、って感じがするだけで……姿勢まではわからんし。

 なぜか、首を動かしたりして自分の姿を見ることができないから……そういう感覚だけで『棒立ち』って言っちゃったんだよな。

 

 ……まあ、それはいいとして。

 

 そんな私の目の前には……ヒーローコスチュームで完全武装状態の緑谷が立っている。

 

 そして、緑谷と向かい合うように……誰だコレ? なんか、いい身なりの壮年男性みたいなのが立ってて……しかし、顔のあたりに靄がかかっていてよく見えない。

 ただ、何だろうコレ……妙な、というか嫌な、威圧感みたいなものを感じる。……『敵』なのかどうかわかんないけど……単なるそこらの一般人、って感じじゃなさそうだ。

 

 しかもなんか、目の前で黒々としたオーラみたいなのを纏いだして……チープな例えだけど、悪の魔王みたいな感じの見た目に……

 

 そしてその魔王(仮)を前にして、緑谷は体中から電光を迸らせ、全力での戦闘態勢にシフト。

 

 しかし、身構える緑谷の体からあふれ出す緑色の光よりも、敵(多分)である男が放つ黒い光が強くて……そのまま押し切られそうに、あるいは飲み込まれそうになってしまう。

 

 そんな時、私の体に異変が起きる。

 相変わらず自分の体を見ることができないんだけど……私の視界が緑色に染まっていく。

 

 視界そのものがその色になってるわけじゃなく……まるで、私の体から、緑谷のそれと同じ、緑色の光があふれ出しているかのようだ。それまで1つだった光が、私を光源とするものと2つ、それらが更に合わさってより輝き始め……黒い光を押し返していく。

 

 緑谷の体から迸る光、私の体からあふれる光、どちらもどんどん強くなり……さらには、まるで共鳴するかのように、互いが互いを強めていく。私が緑谷を、緑谷が私を強くしていく。

 その境界線はやがて薄れていき……2つの光は溶け合って、1つの大きな眩い輝きのようになっていく。

 

 黒い輝きにも負けない明るさ、眩さ。空間そのものの闇をも切り裂く光となったそれを、緑谷はその身に宿し……拳を握りしめ、大きく振りかぶって、目の前の黒い魔王に立ち向かっていく。

 それを私は、緑谷の後ろのような、あるいは前のような……あるいは隣のような……よくわからない、不思議な位置から見守りながら……なぜだか、心を満たす満足感に包まれながら、目を閉じた。緑谷の輝きの強さに比例するように、私の意識が薄れていき、そして……

 

 

 

 ――ガタン

 

 

「……んぁ?」

 

「あ、ちょうど起きたか栄陽院。休憩だってよ」

 

「……あー、なる。おう」

 

 

 

 そこで、目が覚めた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 さて、何か変な夢見てた気がするがよく思い出せない……ので、今の状況を整理しようか。

 

 今現在私は、とうとうやってきた雄英高校夏の一大イベント『林間合宿』に参加するため、学校が手配したバスに乗っているところだ。

 ところだが……途中で寝ちゃったらしいな。

 

 例によって『行き先は秘密』なので、このバスがどこに向かうのかは聞かされないまま、雄英のバス乗り場集合からの出発となったわけだが……寝てしまうまでの道中は中々楽しかった。

 

 定番のしりとりやら、持ってきた音楽プレイヤーを使った、それぞれの好きな曲披露やら、持ち寄ったお菓子の交換やら……

 

 最後のお菓子については、ほとんどの面々が買ったものを出している中、砂藤が自作のチーズタルトを持ってきており、『シュガーマン』の名に恥じないその見事な出来に皆が感心していた。

 負けじと私もそこに、ちょっと今回気合入れて作ってみたガトーショコラを出してみた。『どっちも美味しい!』って好評だった。よかったよかった。

 

 まあ私のお菓子……に限らず料理はね、最近はもっぱら緑谷に作ってあげる日々を送ってるから、こういう時に作るものも、前に作ってあげた時に好評だったものを選ぶパターンが多いわけだが。

 それをわかってるというか思い出したのか、緑谷もにっこり笑ってこっちを見てくる。

 

 最高の報酬をもらった気分で満足しながら、私も自分の分を食べる。あー美味しい。

 

「……っておい、栄陽院お前自分の分一番でかいじゃねーかよ」

 

「あーホントだ、永久ずるいー!」

 

 と、横の席に座ってた瀬呂と、前の席に座ってる葉隠が気づいて指摘してくる。バレたか。

 

「仕方ないだろー、包み紙の大きさとか考えてちょうどいい感じで切ったらこうなったんだからさ。アレだよ、作った人の特権みたいなもんだよ」

 

「配ってた奴の2.5倍くらいあんだけど……ホントにお前花より団子だよな」

 

「失礼な、きちんと『花』の方を楽しむ時は楽しむって。……食べられる『花』ならなおよし」

 

「それ両方『団子』だろーが……ってもう食ったのかよ、早っ」

 

 ご馳走様でした。あー、甘いもん食べたら喉乾いた……お茶飲も。

 

 

 

 とまあ、そんな感じで進んできて……いつのまにか寝ちゃって、変な夢見て……起きたと思ったらちょうど休憩らしくて……現在に至るわけか。

 

 何か全員降りるみたいなので、私もまあ……折角だし降りることに。

 自販機でもあれば、何か飲み物でも買おうかと思って、手持ちバックも一緒に持って降りたわけだけど……なぜだか、降りたところにいた相澤先生に、じろりとにらまれたような気が……?

 

 ……っていうか、アレ、何ココ?

 

「何だここ、パーキングじゃなくね?」

 

「何もないな……登山道の途中にある休憩所とか展望台みたいな感じだ」

 

 とまあ、私と同じような感想を抱いた人は多いようだ。

 

 バスが止まっているそこは……降りる前、私は勝手に、高速道路のサービスエリアみたいな……自販機とか売店、トイレなんかがある場所を想像、ないし期待してたんだが……降りてみればそこは、何もないただの広い場所。

 

 山肌からそこだけ出っ張っている……今丁度尾白が言ったように、展望台か何かって感じの場所である。地面……そう『地面』だ。アスファルトで舗装すらされてない。土の地面だ。

 

「ふー、やっと着いたー!」

 

「いやまだ着いてないから、パーキングで休憩……あれ、パーキングじゃない?」

 

「ホントだ、何ここ……あれ、A組もいる」

 

 とか言ってたらB組も来たみたいだ。私らと同じように、何か謎な場所に降ろされて不思議な感じになっている。……向こうも、何も聞かされてないままに降ろされたっぽいな。

 

 そのB組が乗ってきたと思しきバスの入り口には、当然ながらB組担任のブラドキング先生が立っていて……何やら相澤先生と目配せし合っている。

 ……何だろう、嫌な予感がする。

 

 他にも勘のいい連中が『何かおかしくね?』って感じの空気を醸し出し始めた中……

 

「よーぅ、イレイザー! ブラドキング!」

 

 突如、何の前触れもなく、聞き覚えのある声が響いた。

 声が聞こえた方に、私や、他の面々の視線をやると……あ、やっぱり。

 

「きらめく瞳でロックオン!」

「猫の手手助けやってくる!」

「どこからともなくやってくる……!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「「「ワイルドワイルド・プッシーキャッツ!!」」」」

 

 つい最近、『ワーキングホリデー』でお世話になった4人。

 山岳救助等を得意とするヒーローチーム……『ワイルドワイルドプッシーキャッツ』。

 

 マンダレイ、ラグドール、虎、ピクシーボブの4人が、相変わらず見事にキマっているポージングでそこに立っていた。

 

「あれ、ワイプシの皆さん……」

 

「わー、お久しぶりです!」

 

 取陰と麗日が再会を驚きつつも喜び……緑谷と宍田は、向こうの方で説明してるな。結構な人数、『誰だこの人達』ってなってる連中が多いから。

 

 とりあえずあっちは任せて……挨拶せな。

 

「お久しぶり……って程でもないけど、ご部沙汰してます、皆さん。その節はどうも」

 

「いえ、こちらこそ。元気そうで何よりだわ、ダイナ……おっと、まだコスチューム着てなかったわね。それはまだ今日は取っておきましょうか」

 

 と、マンダレイ。前あった時がそうだったからか、ヒーローネームで呼ばれそうになった。

 

 その後ろでは、あははは、と笑うラグドールと、うむ、と相変わらず貫録たっぷりの虎さん、そして……あれ、ピクシーボブいない……?

 

「心は18!」

 

「へブッ!?」

 

 あ、なんかあっちで緑谷に猫パンチしとる……

 ……年齢か経験年数でも話題に上がったかな? 相変わらずだなあの人……

 

「まあ何にせよ、皆さんお元気そうで。今日は洸汰君は一緒じゃないみたいですけど……」

 

「ああ、洸汰なら一足先に宿泊施設で待ってるわ。色々準備とか手伝ってくれてる」

 

「宿泊施設、って……今日の、っていうか今回の『林間合宿』の宿泊先って、もしかして!」

 

「そーだよ! あちきらの管理する……ってアレ、イレイザー、ブラドキング、話してないの?」

 

 驚いて言った取陰の言葉に、ラグドールは……どうやらあっちも思い違いがあったようだ。先生方が私達に、ギリギリまで……うん、ホント当日の、今になってもまだ、どこでどんな風に合宿やるのか話してないって聞いて、きょっと驚いてる。

 

「ええ、生徒にはギリギリまで知らせずに来たもので……とはいえ、もうそろそろ説明しておいた方がいいかもしれませんね」

 

「ここまで来たらほとんど同じだと思うがな……まあいい。よぉし、B組集合! A組もだ! 全員注目! 今からいうことをよく聞くように!」

 

 と、ブラドキング先生の怒号……もとい号令で、パーキング……とはいえない休憩場所に散っていた面々が集まってくる。

 ……何人か、トイレ我慢してるっぽいのがいるようだ。ちょっとつらそう。特に峰田。

 

 ……私の予想だと、これからもっとつらいことになるかもしれんが……

 

 で、その説明だが……集合かけたブラドキング先生じゃなく、マンダレイがやるようだ。

 簡単に自己紹介した後、休憩所?のヘリの柵のところまで歩いて行って……

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね……あんたらの宿泊施設は、あの山のふもとね」

 

 猫爪グローブで……すっげー遠くの方にある山を指さしながら、そう言った。

 

「遠ッ!?」

 

「え、じゃあ何でこんな半端なところに……」

 

「いやいや……え、おいまさか……」

 

「ははは……バス……戻ろうか? 早く……な?」

 

 マンダレイの言葉に、不穏な空気を感じ取る麗日と砂藤。

 そうした方がいいと本能が囁くのか、乗ってきたバスに戻ろうと、そそくさと歩き出す瀬呂。

 

 そこにさらに、追い打ちをかけるように……ラグドールとピクシーボブが、

 

「今は午前9時30分。大体3時間くらいとして……早ければ12時前後ってとこかなー?」

 

「じゃ、余裕持って12時30分ってことで。昼食その時間で設定するから……遅れたコは残念だけど、お昼抜き、ってことで」

 

「ダメだ……おい」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ、早く!」

 

 次々と告げられる不穏な言葉に、1人、また1人とバスに向けて……歩いて戻るどころじゃない、走り出す。

 

 しかし、そのバスに向かう途中……目の前に、虎とブラドキング先生が仁王立ちで立ちふさがっている。威圧感その他諸々がヤバいですはい。

 

「知らなかったのか? 雄英のカリキュラムからは逃げられない」

 

「どこの大魔王ですか……つか、これってやっぱり……」

 

「お察しの通りだ。A組B組、全員ここから徒歩だ。歩いてあの山のふもとにある宿泊施設を目指してもらう」

 

「んな無茶苦茶な! いや、雄英が無茶苦茶なのは割といつものことですけど、いやそれでも!」

 

「見たところ……ここからだとかなり距離がありますぞ!? 山道だということを加味して考えると……3時間程度では到底……」

 

 上鳴と、B組の宍戸が……宍戸は、私ら同様『ワイプシ』のワーキングホリデーに出てたから、この課題?の過酷さが正確にわかってるっぽいな。

 かく言う私らも同様だが。ここから、あの山のふもとって……どう考えても3時間じゃ絶対足りないって……それこそ、マンダレイ達みたいに、慣れてて体力もある面々ならってレベルだ。

 

 しかしそんな部分を指摘しても、先生方の答えは変わらない。

 

 相澤先生曰く、

 

「本当はここから問答無用で突き落として、嫌でも歩かせる計画も上がってたんだが……今のお前らだと、何人かは確実に反応して回避したり、這い上がって来そうだっていう結論になったんでな。不意打ちとかではなく、きっちり説明した上で歩かせることにした」

 

「あ、なんか一応実力的なものを認めてもらった上での対応なのね」

 

「それにしたって内容が内容だから喜べないノコ……」

 

「ん……」

 

 と、B組の方から……柳、小森、それに小大だったか。率直にして切実な言葉が飛んでくるわけだが……すると、そんな言葉を聞いたからなのかはわからないが、ブラドキング先生が、

 

「まあ、お前達の気持ちもわからないでもない。いきなり制服姿で、何の準備もなしに森を縦断しろ、と言われてるわけだからな。なのでそのあたりを鑑みて……どうしても嫌だという者は、バスに戻って乗って、このまま普通に宿泊施設を目指すんでも構わない」

 

 などと言う。

 

 その言葉に『やった!』と喜ぶ面々が出る中……これはこれで何かおかしい、といぶかしむ者も多くいる。

 私も後者である。いやだって、今まできっちりスパルタでやります的な宣言しておいて、こんな甘やかすようなことを言うというか、ただの逃げ道なんて用意するはずないし……何かあるだろコレ。

 

 極論、先生方からすれば『いいから行け』って命令するように指示していかせてもいいわけだし……そうしないってことは、何かは確実にあるんだろ。この後、私達に自分の意思で選択を迫るだけの理由、みたいなもんが。

 

 すると案の定、ブラドキング先生は『ただ……』と繋げる形で言い……

 

「まあどっちでも構わんが……1つ補足というか、今のうちから説明しておこう。ここから徒歩で宿泊施設を目指す場合においてだが、ただ歩いて行けばいいわけではない。詳細は省くが、途中に様々な障害物などを用意してあり、それらに対応することをもって、立派なトレーニングメニューの一環となっている。合宿はもう始まっている、と言っていいわけだ。そして……」

 

 なるほど。その分、トレーニングメニュー1つ飛ばすから損すると。向上心を持って合宿に臨むなら、きちんとコレもやるべきだと。

 ……そして?

 

「徒歩で目指すことを選択した者については……既にというか、今もう一足先にこの下に降りている生徒2名と合流した後に、協力して宿泊施設を目指すことになる」

 

「? もう既に……2名?」

 

「え、今回の合宿……俺達以外にも参加者いるんすか?」

 

 と、今度は常闇と、B組の……泡瀬だっけか?

 ブラドキング先生の言葉に、初耳だ、って感じで聞き返す。他の生徒も、その意味を図りかねてきょとんとしている顔が多いようだ。

 

 が……一部の生徒は、それを聞いて、思い浮かぶものがあったようで……あ、私もだが。

 幾分遅れて、はっとしたように上鳴が、

 

「2名……あ、ひょっとして、心操と青山!?」

 

「え、心操!? 心操って……体育祭で緑谷と1回戦で戦った……あ、その前には、騎馬戦で尾白と栄陽院と鉄哲と混成軍作って暴れてた、あの心操か?」

 

「ああ、あの寝不足っぽい紫髪の……いや、あの騎馬戦で暴れてたのはほとんど栄陽院だろ」

 

「うるせーやい」

 

「つか、青山って誰?」

 

 上鳴の言葉に、『ああ、あいつか』的な感じで思い出してく者が多い。凶悪なまでの初見殺しな個性ってことで、結構注目浴びてたからな。

 『追試』に参加していなかった者も、ほとんどがすぐに思い出していった。

 

 ただ残念ながら、青山の方は……体育祭では第2種目にも残れておらず、覚えている者はごく一部だったが。

 第1種目も、40位以内にこそ及ばなかったものの、結構上の方の順位にはなってたんだけどな……レクリエーションでもそこそこ活躍してて、『個性』の煌びやかさもあって目立ってたみたいだし。

 

 あと、あの『追試』の時は気づけなかったけど……私が、そして恐らくは緑谷も、あいつに微妙に見覚えがあった理由もわかった。

 青山優雅……あいつ多分、私と緑谷がいた入試の試験会場で一緒だったんだ。残念ながら、私や緑谷は受かって、あいつは(ヒーロー科は)落ちちゃったようだが。

 

 そんな青山と、そして心操は……こないだの『追試』の時の話を聞いてもわかるように、今、普通科からヒーロー科へ編入するために一層努力して、今年度のトップ2、編入の最有力候補として見られるまでになっていて……そして今回の林間合宿にも、特別に参加する立場のようだ。

 『追試』に参加した面々が、そんな感じのことを簡単に説明した後で……タイミングを見計らっていたんだろう、相澤先生が、気だるげに、しかしはっきりと聞こえるような声で、

 

「まあ、そういうわけで、普通科からヒーロー科へ編入を希望する中での最右翼の2人なわけだが……2人共、この事情を説明した上で、お前達と同じように、バスで行くか徒歩で行くかを聞いた時には……一切迷わず『徒歩で行く』と返答した」

 

「「「!!」」」

 

「『自分達はただでさえヒーロー科の面々には、全てにおいて遅れている位置にいる。それを少しでも縮められる助けになるなら、出来ることは何でもやる』……だそうだ。今回のこれも、余すことなく自分の経験にする勢いで2人とも言ってきたぞ」

 

「さて、それを踏まえてもう1度聞こう。1年、ヒーロー科の諸君。普通科ではなく、ヒーロー科の諸君。……徒歩とバス、どちらで行きたい?」

 

 続ける形でブラドキング先生がきいてきたわけだが……うん、まあ……ここまで言われちゃあね。そりゃもう、答えは決まってるわな。

 

 基本的にヒーロー科ってのは、向上心と……あと結構な頻度で、負けず嫌いな性根の連中が揃ってる場でもあるからな……

 

「上ォ等じゃねえか! たかだかこの程度の距離、余裕で歩き殺したらァ!」

 

「おうよ! 普通科の2人がそこまで漢見せてんだ、俺達がそこで逃げるような真似できねえ!」

 

「言うじゃねえか切島ァ! 俺も同意見だぜ、ヒーロー科として情けねえ真似するわけにはいかねえよなァ!」

 

「もとよりこの合宿は強化合宿……今の自分を超えることにつながるのなら、そもそも避けるべきことなど考えるべくもないということか……!」

 

 あ、順に爆豪、切島、鉄哲、飯田ね。

 爆豪はまた、変な新語作って……歩き殺すってなんだよ。

 

 盛大に口に出していったのは4名ではあるが、他の面々も大体同じ感じのようだ。まあ、ここまで言われちゃあ……ヒーロー志望として、安易に楽な道を選ぶなんてことは選択できないわな。

 

 ヒーロー科としての意地もあるが……そもそもが立派な試練の1つとして用意されているものなんだ。こなせば確実に1つ成長できるわけなんだし、そう考えれば避けて通るのももったいない。

 

 皆、大なり小なりそういう風に考えて心を決めたところで、『うむ』とブラドキング先生は満足したようにうなずいた。意図した通りの展開になった、ということのようだ。

 

 すると、今度は虎さんが口を開いて、

 

「全員覚悟が決まったようで結構。では今一度説明する! 貴様らには今から、ここから歩いて、あの山のふもとにある宿泊施設を目指してもらう! ただ歩くだけではたどり着けん……途中には様々な障害を用意してある。私有地につき、『個性』の使用は自由だ、協力して切り抜けろ!」

 

 なるほど。さっきも言ってたが……何かあるわけね。『障害物』的な何か……『個性』を使って対応すべきレベルのものが。

 

 全員それを聞いて頷いたところで、

 

「では、ピクシーボブ、頼む」

 

「はいさ」

 

 と、ピクシーボブが答えてしゃがみ込み、両手を地面について……その瞬間、私達が立っている展望台(?)全体が、地響きのようにゴゴゴゴゴ……と揺れ始めた。

 というか、ピクシーボブが手をついている点を中心として、波打つように……アレ、え、ちょっとコレやばいんじゃ……つか、下がアスファルトじゃなく土のここにバス止めたのって……

 

「では、今より試練の始まりである。行ってこい有精卵共!」

 

 と、そんな虎さんの、怒号にも等しい号令と同時に……地面がめくれ上がり、まるで大津波か鉄砲水のように私達全員を押し流した。

 全員なすすべもなく巻き込まれて、崖下の森へ落とされていく……

 

「……って、ちょっとぉ!? 行くのは全員承知してるんですから、こんな乱暴な方法使わんでも!? せめて普通に降ろしてくださいよぉ!?」

 

「ねこねこねこ、甘ったれたこと言っちゃだめだよキティ達! 言ったでしょ、もう合宿は始まってるってね! ライオンは我が子を谷に突き落とすっていうアレもあることだし……あーでも別に私子供とかいないしそもそも相手もいないっていうか影も形も気配もないんだけどね……」

 

「こらピクシーボブ、自分で言って自分で勝手に傷ついてんじゃないの。ちゃんと集中して『土流』操りなさい」

 

「さっき言った通り、12時30分までに到着できなかった場合はお昼抜きだからねー! 協力してこの『魔獣の森』を抜けて、宿泊施設まで急いでおいでませー!」

 

 なんか漫才っぽいやり取りが挟まったりもしたが、最終的にラグドールの声を聴きながら、私達は全員仲良く崖下に流されていった。

 

 林間合宿……とんでもない始まり方をしたもんだ。

 1日目のド初っ端から飛ばしてくるなあ……さすが雄英。過酷な1週間になりそうだ。

 

 

 

 

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