TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第116話 2日目、終了

 

「さあ、昨日言ったね!? 世話焼くのは今日だけだって!」

 

「己で食う飯くらい己で作れ! カレー!」

 

 らしいです。

 現在、合宿2日目の夕方。

 

 限界突破でトレーニング頑張りまくった末に、食事が用意されていないと知った時の喪失感・絶望感よ……いや、まあ、こういう所もスパルタってことなんだろうけどさ。

 

 あっちでは飯田が毎度おなじみ『確かに、災害時などに、疲弊した人達の心と腹を満たすのもヒーローの仕事……』って勝手に納得してやる気出しとるし。

 ……まあ、間違ってるとは言わないが、その背後で『飯田便利』とか思ってそうな相澤先生の視線がその……うん。

 

 ともあれまあ、そういう仕様なら落ち込んでても仕方ない。きっちり作るとしよう。

 

 

 

 ピクシーボブとマンダレイが用意してくれていた食材は、何十人分……下手したら百人分以上になるんじゃないかってくらい大量だった。大きな編み籠に山盛りのジャガイモ、ニンジン、タマネギ……肉は大きな塊で……豚肉か。

 カレールーも何箱も積まれてるし、鍋その他調理器具もめっちゃいっぱいある。

 

 けどまあ、育ち盛りの高校生……しかも、昼間動きまくってヘトヘトで腹も減ってる42人分の食料だもんな。

 食べる奴は2杯も3杯もお代わりするだろうし……つか私がするし……体が大きい生徒もいるからな。これでも足りるかどうかは不安なくらいかも。

 

 効率を考えて、A組とB組(あと心操と青山も)合同で協力して作ることになったんだが……その際、何班かに分かれて作業をしていくことになった。

 

 白米のご飯、飯盒で炊いて作るってなった時は驚いたけど、そのへんのノウハウは爆豪が知ってたので、任せることに。

 登山が趣味らしく、その延長上で自炊とか普通にできるらしいんだよな。意外。けど納得。

 男子何名かと共に、炊飯係を担当してくれることになった。

 

 カレーを作る班には、メンバーの中でも料理慣れしている私や砂藤、蛙吹や尾白、塩崎や小森が主にひっぱっていく感じになった。

 

 私と砂藤は、お弁当交換の場で知られてるから言わずもがなだ。特に私は、単に自分の食欲ゆえだが、一度に大量の食事を作るのに慣れてる。

 塩崎は淑女のたしなみとして、小森は後々を見据えて自発的に料理は勉強してるらしい。

 蛙吹は家で弟や妹の面倒を見てるから、家事の一環として慣れてる。尾白は料理というより、こういう大人数で合宿とかの食事を作るのに慣れてるそうだ。武術やってたんだもんな、そういう経験もあるってことか。

 

 こちらの班にも何名か手伝う人を選抜し、残りは色々な雑務を担当してもらうことに。食器の用意とか、ゴミ捨てとか、使い終わった調理器具を先に洗ったりとか。

 こういうのを全部後回しにせず、こまめにやっておくことが、後々の処理を楽にする秘訣だ。

 

 そういうわけでまずは、野菜を洗って切って、って感じになるわけだが……量が量だ、結構大変である。

 幸いピーラーとかは用意されてるので、全部包丁でやらなきゃいけないってなことにはならなかったけども……それでも手間だな。

 

「砂藤と栄陽院は流石に手馴れてるな……」

 

「うん、そうか? まあ、普段から色々やってるからな……慣れだ、慣れ」

 

 尾白が感心する横で、手早くジャガイモの皮をむいている砂藤。

 2人とも同じ作業をやってるんだが、その手際の差は歴然である。指や手首の細かい動きでシュルシュルとジャガイモの皮をむく砂藤は、尾白が1個やる間に2~3個は終わらせるうえ、皮と一緒に削れてしまう身も最小限だ。プロレスラーのような体格に似合わぬ繊細さが光る。

 

 まあ、体格と作業のギャップは私も似たようなもんだが。

 

 塩崎と一緒にニンジンを担当させてもらってるんだが、ピーラーでしゃしゃっと皮をむくだけの簡単なお仕事である。切る部分は流れ作業的に別の人……後の方にスタンバってくれてる麗日とかに任せてるし。

 

 なお、タマネギの担当はじゃんけんで負けた蛙吹と小森である。

 涙と戦いながらの作業になるかと思われたが、八百万がゴーグルを作ってくれたので、それを装備することで事なきを得たようだ。よかったよかった。

 

 それらの作業で一番早く終わった私達ニンジンチームが肉の下ごしらえも終えて、全部食材が揃ったら火にかけて少し炒める。

 量が量なので、何個もフライパン使って、分担してやることになるんだが……中華鍋があったので、それ使って私1人で一度に大量に炒めた。周りで見てる面々から『おー』って歓声が上がった。

 

 

 

 そのまま順調に進み、後はいくつもの大鍋でカレーを煮込むだけ、という所まで来たんだが……その煮込みが終わるのにも、あと向こうの爆豪チームのご飯が炊きあがるのにも、まだ少し時間が必要そうだ。

 後片付けは、前もって分業していた片づけチームが既にやってくれているので、手持ち無沙汰になってしまった。

 

 ……普通に大人しく待っててもいいんだけど……

 

「相澤先生……あの、怒らないで聞いて欲しいんですけど」

 

「内容によるが……何だ、栄陽院?」

 

「その……ですね。カレーとか、まあ、いかにもキャンプとか合宿の定番っぽくて、美味しいしいいと思うんですけど……流石にそれ一品とかじゃ寂しい気がすると言うか……おかずとかトッピング、オプションで付けられたりしません?」

 

「一応学校行事の一環なんだ、そんな至れり尽くせりな感じになるわけないだろうが」

 

 ですよねー……流石に無理か。

 

「まあ、量が足りてなくて困るとかならその限りじゃないが……そういうわけじゃないんだろ?」

 

「ん~……まあ、こんだけ作りましたんで、足りないとか、食えなくて飢えるってことはないでしょう。……物足りない、なら随所で発生するかもしれませんが」

 

 コレは本当だ。私だけじゃなくて……昼間あんだけ動いたわけだから、さぞかし皆腹を減らしてるだろうしな。男子連中、特に大柄な面々は、がっつりお代わりもするだろう。この辺はさっきも懸念したが。

 

 それでもまあ、1人あたり1~2杯は確実にいきわたるだろうし、足りないってことはあるまい。

 

 ま、もともと強化合宿の体だったんだし、仕方ないと思うことにするか……と、私が思ったところだったんだが、

 

「あ、もしあるものでよければうちの備蓄から提供しよっか?」

 

 と、マンダレイからそんな言葉が。え、マジですか?

 思わず、相澤先生と同時に振り向く。

 

「あーいえマンダレイ、お世話になっておいて、そこまでしていただくわけには……」

 

「いいのいいの。どっちみち足が早くて、早めに出さなくちゃいけない食材だから。おすそ分けでもらったはいいけど、多すぎて処分に困ってたのよね」

 

 捨てるのももったいないし、とのこと。

 

 ワイプシが面倒を見ることになっていたキャンプ行事で、例の事件の影響か、中止になってしまったものがあるらしい。それ関連で、急に取りやめたお詫びってことで、おすそ分けしてもらった食材が余ってるんだとか。

 

 そりゃ、大人数用の食材もらったらなあ……イベントか何かくらいでしか使える場面ないだろうし。

 

 肉とかは燻製なり何なりに加工して保存するつもりだったらしいが、野菜とか、燻製に向かない肉はどうしようって話になってたらしい。

 なので、むしろ好都合だそうだ。

 

「もちろん、食材は出すけど、作るのはあなた達だけどね? それでもいいなら、保管してあるところに案内するわよ?」

 

 それを聞いて、思わず期待した視線を向ける私。

 向けられた相澤先生は、ハァ、とため息をついて、

 

「……ま、そういうことなら問題ないか。すいません、マンダレイ、お気遣いいただきまして」

 

「いいわよこれくらい。私達も助かるし。1人で作るの?」

 

「いえ、ノって来そうなの数人連れてきます。ちょっと待っててくださいマンダレイ!」

 

 相澤先生のお許しも出たので、マンダレイにそう断って、仕事が終わって休んでる連中のところに行く。

 

「おーい、ちょっといい? 暇してる奴らで、誰かおかず作るのに協力してもらえる?」

 

「おかず? え、何、プラス1品とかできんの?」

 

「マンダレイ……っていうか、ワイプシが余ってる食材くれるってさ。調味料とかも。カレー1品じゃアレだなーと思ってたらご厚意で。どうする?」

 

「いいなそれ。よし、俺も手伝うわ。他は……」

 

 砂藤がそう言うと、俺も、私も、と次々名乗りでる。おお、みんなプラス1品がいいか、嬉しいか。よし行くぞ。

 

「……って、あり? 爆豪もくんの?」

 

「あぁ? 飯あと蒸らすだけで暇なんだよ、悪いかボケ」

 

「いや、悪くないけど……味付けは普通にしてくれよ? 激辛とかでなく」

 

「わかっとるわ! ちっ……後付けで調整できるようにすりゃいいだろ」

 

「まあ、それなら……」

 

 

 

 そして、カレーとご飯も出来上がり、さあみんなで食べよう、って時になって、

 

「いただきま……何コレすっご!?」

 

「カレーだけじゃない! ハンバーグとかから揚げとかトンカツとか……何コレ、生卵? ……違う、温泉卵だ!」

 

「え、うそ、これってアレ? トッピング自由な感じ!?」

 

「すげー、豪華じゃん! 誰作ったのコレ……砂藤と栄陽院と、爆豪も? マジで?」

 

 大好評。よかったよかった。

 

 疲れも吹き飛んだかのようなテンションの中、皆大満足で食事を終えた。

 うん、エネルギーも補給して、明日からもきっちり頑張れそうで何よりである。

 

 なお、そんだけ追加して作ったにもかかわらず、皆の怒涛のお代わりの結果、肉の一欠片、米の一粒も残らず平らげられた。マジで、ホントに一粒も。びっくりした。

 やっぱみんな疲れてるからだろうか、全然入っちゃうもんなんだな。

 

 もちろん、作った私達も、美味しく食べてもらえて満足である。

 緑谷の時にもいつも思うけど……いいね、美味しく食べてくれる人の笑顔ってのは。

 

 

 

 そしてその日は、そのまま平和に……何事もなく終わった。

 

 腹も膨れ、お風呂にも入り……あとその後ちょっと、女子部屋にお菓子とか持ち寄って女子会みたいなのしたわけだが……それ以外は、特に何もなし。

 疲労感に包まれて、その日を終えた。

 

 なお、女子会では、A組が誇る恋愛番長こと芦戸&葉隠(本人達が恋愛経験があるわけではない)により、コイバナトークが実施されたものの……私は現状、緑谷との関係は、緑谷自身の意向もあり、当分は秘密にしていく予定であるので、そこでは何も言わなかった。

 

 その結果、『花の女子高生がこんだけそろって恋愛話ゼロなの!?』と、期待を外されて芦戸と葉隠が絶望したりしていたものの、自分達もそうである以上、強くは言えず。

 結局、『男子で言えば誰がかっこいいか』とか、その他、他愛もない雑談に終始した。それでも十分楽しかったし、皆笑顔になってたけどな。

 

 ……ただ、その女子会に参加していた者達のうち……麗日、蛙吹、取陰、塩崎、そして私の5人の間には……表面上は何一つ変わらずとも……気のせいでなければ、火花が散っていたような気が……しなくもなかった。

 

 ……こないだ取陰が言ってた通り、口には出さなくとも、皆、多少なり悟ってるのかもしれないな……私が、緑谷と何かあったって。

 

 そして、その上で……誰一人諦めてないと。うん……引き続き油断できないわけね。

 

 今はおそらく、『当事者』である私ら以外の目もあるから何も言わないんだろうが……こないだみたいに温泉で、内輪だけになったら、どうなんだろうね……?

 

 ……これが、ラブコメ漫画の学校行事とかなら、誰かヒロインと一歩関係が進むようなイベントが起こったり、もちょっと過激な奴なら、『間違い』が起こったりするのかもしれない。

 けど、さすがにここは雄英ヒーロー科。皆でお泊りという場で解放感に包まれているとはいえ……そこまでやる者はいないだろう。私もしないし。

 

 つか、特に私の場合……先生には知られてるからな、緑谷との関係を。

 どこまで進んでるかはともかく、追試のテスト会場で告白とかされちゃったから。うん……そら仕方ないわ。そら知られるわ。秘密にしてくれるだけ御の字だわ。

 

 ……まあ、それはもういい。

 恐らく、この合宿中にそういうイベントが起こることは……ないんだろうな。決定的なチャンスとか、あるいは正真正銘の不慮の事故でもない限り。

 

 なんなら私らの場合、そういう色気のあるハプニングよりも、もっと物騒な……『敵』関連のハプニングとかにしょっちゅう見舞われてるからな。ひょっとしたら、この合宿中にも……いや、さすがにないか。

 やめよう、こんなとこでまでそんなこと考えるの……気が滅入る。

 

 日程は、あと5日間。ひとまずこの期間は、色恋は(なるべく)忘れて、強くなることに没頭することにしよう。今後のためにもね。

 

 そんなことを思いながら、布団で2日目の夜、眠りについて……

 

 

 

 また、夢を見た。

 

 立ちはだかる『何か』。

 『何か』に立ち向かう緑谷。

 

 せめぎ合う、黒と緑の光。

 

 徐々に追い込まれていく緑谷。その時、私の体から光が立ち上り……あるいは、私の体が光に変わり……緑谷に吸い込まれていき、彼の光と響き合う。

 生まれる、いっそう大きな緑色の輝き。それに伴って、心地よい満足感が生まれ……徐々に私の意識は薄れていく。

 

 しかし、一点だけ、前に見た時と違う点があった。

 

 緑谷の体に、私の光が吸い込まれた時……何かを感じた。

 

 それは、気配だった。緑谷でも、彼が立ち向かっている巨悪(仮)でもない、誰かの気配。

 それも、1人や2人じゃない……緑谷と繋がった瞬間、その存在が私に流れ込んできた。

 

 しかし、嫌な感じじゃなく……まるで、それらの気配は、私達を……というか、恐らくは緑谷をだと思うが……見守っているような、支えているような感じで……

 

 しかし、結局また……それが何なのかわからないまま、私の意識は……消えた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 同時刻……男子部屋。

 

(何だ……今の……? 夢……?)

 

 息を荒げ、寝汗……あるいは冷汗で、顔や背中をぐっしょりにして、緑谷は起き上がっていた。

 ゆっくり、むくっと起きたのではない。跳ね起きた、とでも言えそうな勢いで、がばっと上体を突然起こしたのだ。

 

 幸い、それで他の男子達の迷惑になったり、起きる者がいるわけではなかったが……そんなことに気をやる余裕がないほどに、緑谷は困惑していた。

 

(何だ、今の夢……妙にリアルな……いや、リアルさはないけど、なんか、夢って感じがしなかった……生々しい? どう言えばいいんだろう……。栄陽院さんが……彼女の力が、僕の中に……僕と1つに……? いや、違う……あれは、1つになったっていうより……同調した……? しかもその瞬間、歴代の人達の気配が……一体、あれは、あの夢は……ダメだ、結局何もわからない)

 

 ふと見ると、壁に掛けられた時計が示す時間は……まだ夜中である。

 まあ、窓からわずかな光も差し込んできていないのだから、それは当然だが。

 

(……ひとまず、寝よう……。気になるけど……寝不足にでもなったら、明日に差し支える)

 

 考えても答えは出ない。なら、考えても仕方ない。

 その時はまず諦めて、緑谷は……再び布団に横になり、目を閉じた。

 

 その数分後、まだ体に残る疲労感は、速やかに緑谷を眠りにつかせた。

 

 幸か不幸か……今度は、夢は見なかった。

 

 

 

 

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