TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第119話 『必殺技』を求めて

 

「纏え、黒影……『深淵闇駆』……!」

 

「必・殺! こう、手から酸を……ドバァァアア!!」

 

「おりゃああぁぁああ! スーパーグレープラッシュ!」

 

 

 

 うーん……順調そうなのから、そうでなさそうなのまで……

 

 『黒影』を身に纏う形で、弱点だったらしい接近戦能力をカバーする作戦に出た常闇に、一度に出せる酸の量を増やしたことでより強力な攻撃ができるようになった芦戸、今までよりも大量に『もぎもぎ』を投げつけている峰田……

 その他、皆、色々なやり方で、思いつく『必殺技』を試している。

 

 今現在、4日目午後。

 A組は半分以上が、B組は3分の1ちょっとが『個性伸ばし』が及第点に至ったとして、『必殺技考案』にシフトしている。

 

 この差はやっぱり、そこかしこで指摘されてきた『経験値』の差だろうか。A組とB組で達成者の割合に差がでたことには、B組の連中は悔しそうにしていた。

 それでも、それをばねにして前に進むくらいのことはすぐに思い至るらしく、さっさと自分達の修行に戻ってたな。

 

 あ、それと……『必殺技』研究にシフトした面々は、先生方がいつの間にか持ってきていた『コスチューム』に着替えて練習してる。より実戦に、実際に使う際に近い状況で練習する方が身になるからってことで、ジャージから一転、本気モードって感じだ。

 

 まだ及第点に至らず、ジャージ姿で基礎固めの面々は、自分も早くああなりたいと思って、意気を高めている。

 

徹甲弾(A・P・ショット)!!」

 

 向こうでは、爆豪が一点に収束させ、その分貫通力を強化させた『爆破』を放ち、その威力で一気に数体の『土魔獣』を貫いて破壊していた。

 

 これには、監督していたピクシーボブも思わず『おぉ!』と声を上げていた。

 

「すげーな爆豪、お前もう『必殺技』作ったのかよ!?」

 

「お前もう何個も必殺技持ってんだろうに……つか、修行初めて数時間で形にするって何なの?」

 

「っせえわ、クソ髪にしょうゆ顔。元々考えて練習してたのが形になっただけだ……まだまだこれからだっつの」

 

「そしてこの向上心よ……っし、俺らも負けてらんねえな! よぉし砂藤! 栄陽院! 気が済むまで思いっきり俺をサンドバッグにしてくれ!」

 

「言い方! 誤解を招くぜ!?」

 

「よし任せとけ」

 

「栄陽院!?」

 

 切島の言い方もまあアレだが、予想外の返事をさらっと返した私にもツッコミが入る。

 ただ、そのツッコミ元の砂藤も……どら焼き片手にダンベル持ちあげてるっていう中々にカオスな絵面なんだが……まあこれは『個性』の関係上仕方ないというか。

 

 ただ私と切島のスパーリング(ただし一方的)は、きちんと根拠というか方針あってのものなんだけどもね?

 

 切島の『硬化』は、鍛えれば鍛えるほど強くなる。それは、筋トレその他で自分の体を鍛えるのに加えて、『硬化』した状態で攻撃を受け続けることで強度を上げるっていう訓練も有効だ。

 合宿の最初の方は、ひたすら硬化状態で尾白の尻尾に殴られたり、鎌切に斬りつけられたり、拳藤に殴られたり、爆豪に爆破されたりしてたし。

 

 で、そこで今回私がスパーリングの相手に選ばれたのには、今言った通りきちんと理由、ないし目的があってだな……

 

「ドラララララァ!! ドラララララララァ!!」

 

「うおおおぉぉおおお! 『安無嶺過武瑠』―――ッッ!!」

 

 切島の『必殺技』である『安無嶺過武瑠』……単に、体を超がつくほどガチガチに固めるだけの技だが、その硬さは、爆豪や鎌切の攻撃でも、全くと言っていいほど傷がつかないレベルだ。

 

 その状態の切島を私はひたすら殴ってるわけだが……殴る際、微量に『エネルギー』を叩き込んでいる。しかし別に、『エネルギーバインド』をかけるわけじゃなく……むしろ、切島を回復させて殴り続けるためだ。

 そして、もう1つ。

 

「……っ……切島、左脇腹と右腕! 緩んできてる! 締めろ!」

 

「ぐっ……お、おう!」

 

 私は、エネルギーを流し込んだ相手の体の状態……こと、『力』に関することについて、敏感に感じ取ることができる。流し込んだエネルギーを介して。

 ゆえに、切島の集中やら気力が続かなくて、『硬化』が緩んで防御が崩れそうになってしまっている部分がわかる。そこを指摘して引き締めさせ、また延々と殴り続けるのだ。

 

 幸い、殴りながら流し込んでる『エネルギー』のおかげで、切島も体力その他は補充できるし、あとは切島の気力と集中力だけの問題……となれば、そのへんにこだわりのある『漢』切島は何も言わなくても必死で、歯を食いしばって固め続けるからな。

 

「今度は頭と腹だ! どうした!? 疲れたか!? ちょっと休むか!?」

 

「いやまだ大丈夫だ! 痛えけど……全然疲れてはいねえ……まだまだこのくらいならァ!」

 

「よぉしその意気や良……うぉっ!?」

 

 と、再び乱打に戻ろうとした時、突如として私の目の前に土の壁が現れて進路をふさぎ……同時に、切島の『硬化』が解除されて普通の肉体に戻っていた。これは……『抹消』?

 

「そこまでだ。栄陽院、切島、お前らちょっと休憩しろ」

 

「ピクシーボブに……相澤先生」

 

「お、俺まだやれます! 全然疲れてなんざ……」

 

「疲労感がないのは栄陽院が注いでるエネルギーの影響だ。その実体内にダメージはたまってる。ラグドールの『サーチ』で観測した結果だから間違いない。少し休んで回復させろ」

 

 なるほど……表面からじゃわかりにくい、その辺の観測もしてくれるのはありがたいな。

 切島も、そう言われたら頷くしかないようで、『うっす』と一言言って、地面に座り込んだ。

 

 その切島に、私は今度は『コンセントヒール』で回復力を強化してやって……さて、切島が回復するまで、私は何すっかな。

 

 と思ってたら、即座に指示が飛んできた。

 

『栄陽院さん、あなたは切島君の休憩の間、今から言う生徒達のところに行って治療をお願い。『トワビタンE』だけじゃ抜けきらない疲労が出てきてる生徒が何人かいるのよ』

 

「了解です、マンダレイ。……あ、いや、こっちからの声は聞こえないのか」

 

 

 

「あー……痛い、疲れた、痛い、疲れ……おぉぉおおい瀬呂テメェ!? 何お前そんな羨ましいことになってんだこの野郎ォ!」

 

「いきなり出てきて何でそんな呪詛ぶつけてくんだよ峰田……普通に治療してもらってるだけだろうが」

 

 えー、只今はこうして、『コンセントヒール』で瀬呂の肘の部分を治療してやってるところで……そこに峰田が来た結果、さっきまの疲れはどこ行ったって感じのシャウトが響いたわけです。

 

 瀬呂の『テープ』は、使いすぎると腕に痛みが走るようになる。使えば使うほどそれは増していって、最終的には激痛になる。

 それを超えて使い続け、『個性伸ばし』を進めている所なわけだが……流石に限界に来たところで、体力回復のために私が遣わされたのだ。

 

 しかしながら、峰田にはもう『女子と触れ合ってる』って時点で『許ッ羨』な事態だったようで……もうなんか血涙でも流しそうな勢いである。

 

「心配すんなって峰田……この後お前にもやってやっから」

 

「マジでか! うひょぉぉおお、合宿きてよかったぁ!」

 

「ただしお前、言うまでもないと思うけどおさわり厳禁な。あ、瀬呂念のためこの後テープちょっと貸してくれ。縛るからアイツ」

 

「おぉい!? そこまですることないだろ!? 大丈夫だよ何もしないって! クラスメイトを信用できねえのかよ栄陽院!」

 

「初日にガッツリ女湯覗こうとした上に、夜中に女子の部屋に忍び込もうとして男子達に布団で簀巻きにされた状態で寝ることになった奴の何を信用しろってんだよ」

 

 コレ、緑谷から聞いた情報である。これ以上こいつが問題起こすと、下手すると管理不行き届きとかで連帯責任で自分達もまずいかもだからって、男子一同結束して、夜は峰田は布団でぐるぐる巻きにした状態で床に転がしてんだと。

 普通に見ればいじめの現場みたいなもんだが……こいつの場合、間違った対応じゃないからな。

 

「普通にマッサージとしては気持ちよくしてやるからそれで我慢しろ。……お前の個性に関連する部位は頭だから……頭皮マッサージみたいになるな」

 

「うぅ、仕方ねえ……そのシチュエーションだけで我慢する……。っていうか栄陽院、前より少しガード堅くなった感じしねえ? 多少のハプニングは笑って見逃してくれたあの頃のお前はどこ行ったんだよォ……」

 

「お前の起こすハプニングは『多少』じゃないし、そもそも故意だろが。まあ……もうちょっとまともに羞恥心持てって色んな奴に言われたからな」

 

 それに今の私は、髪の毛一本に至るまで緑谷のものだ。そうやすやすと他人に見せも触らせもしないよ。……それが結果的に貞操観念の後押しにつながってるのは……まあ、結果オーライってことで。

 

 なお、その後の峰田は、ピクシーボブに頼んで土で美容院のリクライニングチェアみたいなの作ってもらって、そこに固定した峰田に頭皮マッサージをしてやる形とした。

 

 最初の方は『女子の指……うひひひ……』ってにやけてたけども、すぐに『あ゛~……』って普通に気持ちよがるようになって、しまいには『zzz……』寝た。

 頭皮マッサージって、やり方にもよるけど、頭の血行よくするから、気持ちいいし眠くなるんだよな……私のはビスケさん直伝の技だから、自分で言うのもなんだが自信あるし。

 

 にしても、こんだけ早く寝るとは……疲れはガチでたまってたんだな。

 回復したらマンダレイが『テレパス』で叩き起こすそうなので、そのままほっといて……次。

 

 

 

 続いての客?は飯田なんだが……

 

「お前、何してんのコレ……え、あのバイクの排気筒みたいなんどこいった?」

 

「っ、ぐ……引っこ抜いた……」

 

「何で!?」

 

 今、飯田の足を『コンセントヒール』使いながらマッサージしてやってるとこなんだが……そのふくらはぎのあたりから生えているはずの、あのバイクのマフラーみたいな器官が、ないのだ。

 で、聞いてみたら今の返答である。何でそんなことしたん……見るからに痛そうだけど。

 

「エンジンの『チューニング』……我が家に伝わる修行法だ。マフラーをあえて引っこ抜いて鍛錬を行うことで、より強い負荷に耐えられるそれが生え変わってくる……! 激痛と忍耐を伴うが……『個性』を、『必殺技』を最大効率で使うためには、必要なことだ……!」

 

 それでさっきからめちゃくちゃ脂汗かいてるのか……ホント、大した男だよ。お前は。

 

「私の『コンセントヒール』は……自然治癒の延長上だから、その『チューニング』の邪魔にはならないよ。ただ、少し治癒……この場合は『生え代わり』が早くなるだけだ」

 

「それは助かる……ありがとう、栄陽院君! 疲れが抜けたら、また走らせてもらう!」

 

「おう、頑張れ」

 

 

 

 その後も、拳藤の手と腕や尾白の尻尾、耳郎のイヤホン、障子の触腕、なんかを治して回って……けど半分くらい、本来人間にはない器官が治癒対象だったから大変だったな。

 

 あとそれ以上に大変だったのは、葉隠と梅雨ちゃん、そして取陰である。

 

 葉隠はほら……透明だし。体見えないし。

 手先の感覚を頼りにマッサージするしかないんだけど……見えないって厄介だな。『うひゃひゃひゃ、くすぐったい』って動くから、やりづらくて……。

 

 梅雨ちゃんは……足はともかく、ベロが筋肉痛っぽくなったって言われた時はどうしようかと。とりあえず『トワビタンE』飲ませて、ベロは私の腕に巻き付けてもらって、その状態で『コンセントヒール』使ってなんとか……

 

 あと取陰、お前、熱心なのはいいけどもさ……私に体の一部分だけ渡してマッサージさせて、他の残った部分で修行続けるのやめれ。怖いわ普通に。

 どんな気持ちで私があんたのバラバラパーツ相手にマッサージしてると思ってんだ……目の前にぽすんと置かれてる腰『だけ』をもんだり押したり……これじゃ治療ってより修理だよ。

 

 

 

 そして最後はやっぱり緑谷。

 

 いつもの奴に加えて、『黒鞭』とかいうあのエネルギー紐も鍛えてるらしく……流石に消耗が速いようなので、念入りにマッサージしておいた。全身。

 

 手にまとわせた『エネルギー』を随時注ぎ込みながら……筋肉1つ1つを丁寧に……解きほぐすようにして疲労から解放していく。回復して、より強靭なそれが出来上がるように。

 

「ホントは『オイルマッサージ』ならもっと効率よく回復させてあげられるんだけどね……さすがに屋外でやるわけにもいかないし」

 

「ははは……それはじゃあ、また今度の楽しみにしとくね」

 

 なんて軽口を叩きながら進めて……はい終了。

 

「んー……なんか緑谷、いつもより腕の部分の疲労が激しかったな……。やっぱあの『黒鞭』っての使うと、負担大きいの? いつも腕からだしてるもんな」

 

「そう……かもね。でも、前より楽に使えるようになってきた感じなんだよ、これでも」

 

「そうなのか?」

 

「うん。……それこそ、昨日とかあたりからかな。栄陽院さんの『エネルギー』のおかげで、目に見えなかったり、実体のないエネルギー的なものを扱う感覚、みたいなのがわかってきてさ……で、調子に乗って練習しすぎた結果、余計に疲れちゃって」

 

「ははは……ほどほどにな。そうでなくたって、緑谷の……何だっけ? 『ワン・フォー・オール』だっけ? それ自体が相当ピーキーなんだから」

 

「うん、本当に………………えっ?」

 

 その時、ふと会話が途切れた。

 緑谷の顔が、一瞬、きょとんとしたものになって……見る見るうちに青くなっていく。汗も……多分、冷汗か何かの類であろうそれが、どっと噴き出していた。ど、どうした!?

 

「え、栄陽院さん……今、何て……何で、その名前を知って……?」

 

「うん? 名前?」

 

「ぼ、僕の『個性』……『ワン・フォー・オール』って……ぼ、僕、教えてないよね!? どうして知ってるの……!?」

 

「……あー、ごめん。つい。えっとほら……もうずいぶん前だけど、まだ緑谷が私の『寝技』っていうか、『人間ギプス』で『フルカウル』の練習してた時にさ。いつもの得意のブツブツで、『もっとフラットに『ワン・フォー・オール』を考えれば……』って呟いてるの聞こえてさ。もしかしたら緑谷の『個性』の名前なのかな……って思ってたんだけど、何か聞く機会なくて今まで」

 

(そんな前!? え、ていうか僕そんなこと言ってた……いつもの癖で……いや、確かにそういえばあの時、そんな風に考えてそんな風に言ってた気も……『フルカウル』が上手くいきそうなところで嬉しかったからちょうどよく覚えてる……いや、ていうかこれ、完全に僕の凡ミスじゃないか!)

 

「そ、そっか、ごめん……えっと、栄陽院さん、それ、誰かに話したりは……」

 

「いや、してないよ誰にも。そもそも私自身、何なのかよくわかってなくて……確信も持ててなかったし。何ならずっと忘れてたくらいだよ、最近まで」

 

「そ、それならいいんだけど……」

 

「……あ、やっぱりっていうか……何か、秘密にしてた感じ?」

 

「う、うん……ごめん、栄陽院さん。その……理由は、言えないんだけど……その名前については、秘密にしておいてくれる? ちょっと、誰にも知られたくなくて……」

 

「? いいよ、わかった。黙っとく」

 

 ……なんか、理由は不明だけど変な空気になっちゃったな。

 今、露骨にほっとしてる緑谷……やっぱり彼には、何か、私がまだ知らない秘密があるみたいだ……恐らくは、『個性』関連の。

 

 いつもは『超パワー』とか適当な名前で呼ばれてるけど、本来の名前すら知られたくないなんて……一体どういう秘密なんだろうな? そもそも、『黒鞭』なんてものが出て来た時点で、単なるパワー系の個性じゃなかったみたいだってのはわかってたことだし……

 今言った通り、詮索するつもりはないけど……いつか、話してくれたらうれしいな。

 

 そんなこんなで緑谷のところを後にし……もう要治療者はいないってことで、自分の修行に戻る。もう切島も回復したらしいからな。

 

 ここからは、切島を殴りつつ……同時に『エネルギー』を操作して回復もさせる感じの訓練になる。そうすれば、課題だった私の『エネルギー操作能力』の改善にもつながるからな……母さんみたいに、ごく少量のエネルギーを注いだだけで、狙った結果を引き出せるようにならないと。

 

 ……傍から見てたら、私がひたすら切島を殴りまくってるだけの絵図だから……見た目ちょっとアレだけどもね……。

 

 

 

 そうして自分を鍛え続けて、今日の訓練は終了。

 夕食はまた、本来のメニューである手巻き寿司に、有志連合のプラスアルファメニュー満載で大満足のひと時を過ごした。ていうか、巻く具がめっちゃ増えて多彩になって……折角なので先生方やワイプシの皆さんも一緒になって手巻き寿司パーティーだった。楽しかった。

 

 そのまま、風呂に入って疲れを取って、布団に入ってゆっくり寝て、4日目が終了し……

 

 

 

 ……そして、その夜……また、夢を見た。

 

 

 

 

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