TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第120話 5日目

 

Side.緑谷出久

 

 …………おかしい。

 いくらなんでも、これはおかしい。

 

 目の前というか足元で、とけるように崩れ去って消えていく『死の騎士(デスナイト)』を見ながら……僕はしかし、困惑や混乱で頭がいっぱいになっていた。

 とにかく、おかしい。そう思うことしかできなかった。

 

 3分。

 僕がこの『死の騎士(デスナイト)』に加え、その取り巻きとして一緒に襲って来た『スケルトン』30体、合計31体もの敵を倒すのに要した時間である。

 

 パンドラズ・アクターの『個性』によって作られたこれらのモンスターは、下手な『敵』なんかよりも強い。それこそ『死の騎士(デスナイト)』は、生半可な『敵』は問題にならないくらいには強い。知能は……高いとは言えないが、戦闘に関する技量はかなりのものであり……だからこそスパーリングや、『必殺技』の試し打ちの相手としては最適だった。

 

 昨日も同じように、これらの『モンスター』や、ピクシーボブの『土魔獣』を相手にして戦ってたわけだけど……昨日と、明らかに違う点がある。

 

 その前に今のこの状況だが、さっき言った通り、僕は今しがた、『死の騎士(デスナイト)』を含む30体以上のモンスターを全滅させたところだ。

 

 そして、この31体一気に相手にする多対一バトルだが……今日、すでに5回目である。

 

 すなわち僕は今日、まだ午前中の時間の半分も終わっていないこの時点までで……『死の騎士(デスナイト)』5体を含む、合計150体以上のモンスターを倒している。

 当然ながら、相応の強さを誇る敵、相応の労力を費やしての戦いだった…………なのに、

 

「疲れない……。いや、疲れないわけじゃないけど、すぐに回復する……腕や足の痛みも、昨日までよりもずっと早く引いていく……」

 

 昨日までの僕は……それなりの強さを持つモンスターの相手ともなれば、こなすことはできても、それなりに疲れてしまって……その後しばらく休んでいる必要があった。

 時間も……回を重ねるごとに、長くかかるようになっていって……10分も20分もかかるようになったりした。

 

 けど今日は……合間にとっている休憩の最中……そのわずかな時間だけで、今までよりも格段に早く体力が回復する。

 

 地べたに座り込んで、息をついて……動くことをやめ、『休む』ということに、体を『休ませる』ということに意識を向けてじっとしていると……体中がリラックスして、徐々に活力が湧きあがってくる。疲れが抜けていき、仮眠でも取ったみたいに、短時間で大きく体力が回復する。

 昨日まではできなかったというか、考えもしなかったことだ。だけど、今日……ふと思いついたというか、頭をよぎって……出来そうな気がして、やってみたら、できた。

 

 これって……『ワン・フォー・オール』の効果なのか? 確かにまるで、強化された『身体能力』を、そのまま『回復力』にも向けているような感じにも思えるけど……

 それでも、今までそんなことができるなんて、オールマイトにもナイトアイにも、グラントリノにも、誰にも聞いたことなかったのに……

 

 けどまあ、空気弾みたいに、ある程度僕が『個性』を使いこなせるようになってから教えるつもりだったのかもしれないし……

 

 

 

『……え、何それ?』

 

 違ったみたいである。

 

 何度目かの休憩時間を利用して、オールマイトに電話かけて聞いてみた返事がこれだ。

 そんな使い方はしたこともない、できたこともない。自分だけじゃなく、先代である『七代目』もそんなことはできなかったはずだ……とのこと。

 

 ……まあ、正直、ある程度予想してた返答ではあるんだけど……

 

『ていうか、そういう聞き方してきたってことは……え、緑谷少年、そんなことできるようになったの? うわ……羨ましっ』

 

「あ、あはは……なんか、気が付いたら今日、出来るようになってまして……」

 

 オールマイト曰く、『そんなんできるなら私が使いたい』とのことだった。すいません、なんか。

 

 ただ……この能力に関しては、ふと思ったことがもう1つあって……

 

「あの、オールマイト。少し前……そう、ちょうど『黒鞭』が発現した時あたりのことですけど……僕が変な夢を見た、っていう話をしたの、覚えてますか?」

 

『? ああ、もちろんだ。歴代の継承者……私もそこにいたみたいだけど、そのビジョンが見えたんだよね? しかも、その内の『初代』と『5代目』と会話して、『ワン・フォー・オール』の異変……歴代継承者の『個性』の覚醒について聞かされた。そして……継承者以外のビジョンもそこにいたんだよね。その中には……栄陽院少女もいた、と』

 

「はい。あの時はまだ、一体何で僕の夢に、栄陽院さんが出てくるのかわからなかったけど……『I・アイランド』で、ナイトアイから『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ユー』の関係について聞かされて……ひょっとしたら、この2つが近くにあることで、互いに干渉し合って何かが起こってるんじゃないか、って思ったんです。現に……今言った回復力の強化も含めて、ここ最近……『ワン・フォー・オール』に、急激に変化が起こりすぎてる気がして」

 

『というと……具体的には?』

 

「体の各部位に込められている力をより正確に感じ取れるようになったり、それを操作する精度や速さが上がったり……それに、さっき言った回復力の強化……これらはどれも、この数日間でできるようになったことなんです。そして……これらって、栄陽院さんが使える技に似てる気がして」

 

 回復力の強化は、エネルギーを集中・活性化させて回復を促す応用技『コンセントヒール』に似ているし、込められている力の感知は、今まさに彼女が磨いている応用能力だ。力の操作精度や速度の強化は、そこから派生したものだと言える。把握が迅速かつ正確になった分、扱いそのものが上手になった、っていう感じだ。

 

 そして、これはもうだいぶ前になるし、今更って感じもするけど……体育祭で心操君と戦った時や、職場体験で『ヒーロー殺し』と戦った時……拘束や支配系の『個性』に対して、それを僕は、自力で、ないしは制限時間よりも早く振り切ることができた。

 

 以前栄陽院さんに、『エネルギーバインド』の応用で、こういう特殊な拘束状態を、体内のエネルギーの操作によって解除できる技能があるって聞いたことがある。ひょっとして、それに近いことを僕は、あの時無意識にできていた……のかもしれない、なんて思った。

 

 彼女が使える技……そのいくつかを、僕は、少し形を変えてとはいえ、使えるようになっている。彼女との仲が親密になり、彼女が身も心も僕に捧げてくれてからは、一層それが加速している。

 

 加えて、ここ数日、割と頻繁に見る、妙な……どこか不吉な、あの夢。

 

 まるで、栄陽院さんの力が僕のものになるような……あるいは、栄陽院さんそのものが僕の力になろうとしているような……不思議な夢。思えば、あの手の夢を見た翌日、ないしは近々に、新しい能力が花開いているような気がする……

 

 やっぱり、偶然じゃないのかも……? 僕と栄陽院さん、2人の『個性』が……『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ユー』が、干渉し合って何かが起こっている。

 いつか『初代』が言っていたように、分かたれた『2つ』が、『1つ』に戻ろうとしているかのような……予想もつかない、何か……。

 

 これ……放置していていいものなんだろうか……?

 『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ユー』は……一体、どこに行こうとしてるんだ……僕と栄陽院さんの行きつく先に、一体どんな未来が待ってるっていうんだ……?

 

 オールマイトとの通話はそのまま終わり、その後、思考を続けていても結論は出ず。

 

 新たにパンドラズ・アクターが出してくれたモンスターとのスパーリングの時間になって……結局、僕はそのまま……また、疑問を流して修行に戻ってしまった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「なあ上鳴、俺さあ……ちょっと重大なことに気づいちまったんだよ」

 

「奇遇だな、峰田……俺もだ」

 

「おかしいんだよ、この合宿……どう考えても……」

 

「ああ……ずっと思ってた。というか、ずっと待ってた。なのに……なのに……」

 

 

 

「「いつになったら女子の水着を見れるんだ!?」」

 

 

 

 以上、峰田・上鳴コンビのいつもの煩悩炸裂トークでした。

 

 合宿5日目、昼も近くなったくらいの時間帯である。昨日と同じように、疲れがたまってきている連中の治療というか回復のため、『コンセントヒール』行脚で回っている私の耳に聞こえて来た。

 

「おかしーだろ!? 林間合宿! 自然の中での楽しい共同生活! 開放感からいつもより開放的にで大胆になる女子! 始まる青春まっさかり、真夏のアバンチュール!」

 

「オイラ達の理想郷は! 肌色の美女達が舞い踊る楽園はどこにいったんだよぉぉおお!!」

 

「お前らその辺にしろ、教育上よくないから」

 

「洸汰君、見たらあかんよー」

 

 アホなことを言ってる2人の影響を受けないように、ちょうど特訓を手伝ってくれてた洸汰君の視線をさりげなく外させる。見ちゃいけません。あんなふうに醜い大人になっちゃダメだぞ。

 

 なお2人には、その場にいた女子人数分の白眼視が突き刺さっている。

 

「栄陽院んん! お前ショッピングの時に水着買ったんだろぉ!? 芦戸とかと一緒にさぁ、『すっごいの』選んで買ったんだろ! いいのかよせっかく買ったのに披露しなくてよぉ、なぁおい、もったいないだろォ!? かわいそうだろ水着がァ! 着ろよ、着てみろよ、着て見せろよォ!!」

 

 怖ぇよ。

 峰田、必死過ぎ。血涙出すんじゃないのかってくらいに……目力が……こんなことで。

 

「仕方ないだろ、その直後に『敵連合』の死柄木だかが出てきたせいで、合宿のプラン、場所だけじゃなくてレクの内容とかもまるっと変更になっちまったんだから」

 

「例年使ってる合宿所なら、近くにレジャーとか川遊びにちょうどいい川や湖もあったらしいけど……ここは全体的に山とか森だものね」

 

「日程が公開されてないからいまいちわかんねえけど……コレ、今年そもそも水着の出番ねえかもな」

 

「「あぁぁんまりだぁァアア!!」」

 

「上鳴さんと峰田さん……ひょっとして、暑さと疲れで……」

 

「いや、あいつら割と普段からああでしょ」

 

 心配する視線と共にそんなことを言う八百万だが、その隣で耳郎がバッサリ切って捨てた。

 

「でも、せっかく買ったのに出番ないのは残念かもー……ねえ、合宿終わったらさ、それとは別にして皆で海とか行かない?」

 

「あ、さんせー! やっぱ息抜きも大事だよねー、せっかく買った新しい水着もお披露目したいし」

 

 あっちでは、話題が飛び火したのか、芦戸と葉隠……A組の盛り上げ担当コンビがまた何か企画してるな。

 

 しかし、海か……もうしばらく行ってないな。

 別に水泳もレジャーも嫌いとかじゃないんだけど……中学生なったくらいからか、海とかプール行くと結構な確率、ないし頻度でナンパされるから、そのへんがうっとおしくて敬遠してたな。

 まだ義務教育のJCをナンパすなよ、って思ってたんだが……その頃から私、かなり背高かったから……女子高生くらいに見えてたらしくて。

 

 今年は久々に……皆でなら、行ってみてもいいか?

 

 あるいは……八百万とか、プライベートビーチとか持ってないかな?

 

「ありますよ?」

 

「「「あるんだ」」」

 

 しかも別荘付きらしい。すげー……流石お嬢様。

 

 ちなみに、栄陽院家にもあるが、外様の私が使うのはあまりアレなので、どっちみち避けてる。

 使いたいとも思わんけどね……遠いし。

 

「まあ、私はどっちかっていうと夏は山派だから、こっちの方が楽しくていいんだけどな」

 

「いや、楽しいってお前、栄陽院……今んとこやってること、たまに入ってくるレク系以外は特訓ばっかだろ。いや、そういう合宿だけどよ」

 

「昼間はな。ただほら……ここ最近、夜、有志のコックで追加メニュー作ったりしてるじゃん。皆で協力して。自然の中で料理作るのとか、他の人が作る料理食べるのとか、あとそういうの見ててノウハウ覚えて、自分の料理のレパートリー増やすのも楽しいし……そのへん」

 

「ああ、それは俺も実はあるな。味付けとか、料理法の工夫とか……皆結構色々引き出しあるんだなって勉強させられてるぜ」

 

 お、砂藤もか。毎日違った料理を楽しそうに作ってるもんな。

 

 あと、そういう感じの話題になった時、爆豪も一瞬ぴくっと反応した気がしたんだけど……登山が趣味なんだよな、たしか。

 それ以外にも、アウトドア系全般に趣がある感じなんだろうか? 包丁使うのも手馴れてたし……野外クッキングも色々と勉強してるっぽいしな。飯盒で米炊くのも上手かったし。

 

 しかし、キャンプとか、こういう野外でやんちゃするのが好きだったりする感性は……TS前の男の価値観なのかと思ってたけど、今でもこうして楽しめてるあたり……きちんと私個人の趣味だったのかね。

 

「ちなみに目下の興味は、いわゆるジビエ料理だったりするんだけどな。何回か食べたことはあるんだけど、ちょっと作るところから挑戦してみたい」

 

「栄陽院の場合『狩る』ところから挑戦しそうだわ、むしろ」

 

「狩猟免許もってないから無理かなー」

 

「持ってたらやるのかよ。……でも実際、ジビエって美味いの? 鹿とか猪とかって、筋張ってて硬かったり、臭みがあるって聞いたけど」

 

「下処理ちゃんとすれば結構美味いらしいぞ?」

 

 実際私、何回かそういうレストランで食べたことあるし。

 鹿肉とか兎だったと思うけど……結構美味かった。

 

「ていうか……さっきからなんかそこ、がっつり男の子同士の会話っぽいよねー……料理の話だけど、アウトドアとかサバイバル的な要素がさ」

 

「もともと永久って男の子っぽいところあるもんね。色々豪快だし、リーダーシップもあって引っ張っていくタイプだし。男子連中も自然に話せるくらいに壁ないしね」

 

「女子高とかでモテそー」

 

 女子勢は好き勝手に言ってくれてるなー……まあ、実際小中学校時代から割とそんな評価だったし、なんなら、色んな意味で『女』になった今でも、その辺の価値観とか残ってる部分あるから……別に何か言うつもりもないけどさ。

 

 時には、『生まれてくる性別間違えてね?』とか『何で男に生まれてきてくれなかったの』なんて言われたこともあったし……

 ちなみに、後者を言って来たのは中学時代の先輩(女性)だったんだが、『この際女でもいいから……』とか言って鼻息荒く……まて、落ち着け、不毛だ、非生産的だ。

 

 ……アレなこと思い出した。去れ、忌まわしき記憶。

 

 なんてことを考えていたら、増強型『個性』の人らの指導にあたっていた虎さんが、じっとこっちを見ているのに気づいた。

 どうしたんだろう、と思って見返していたら、少し考えるような感じの素振りを見せた後……

 

「…………タイ、行く?」

 

 行きませんよ。

 

 

 

 

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