TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第121話 バーベキューと決意表明

 

 この林間合宿は、単に訓練だけして1週間過ごすわけではない。きちんと合間合間にガス抜きになるイベントが用意されている。

 しっかり鍛錬した後は、しっかり楽しいことがある。ザ・飴と鞭。

 

 3日目にやった肝試しや、毎晩の炊事の時に許可されてる、有志連合によるおかずプラス合戦なんかがそれにあたる。

 

 残念ながらちょうどいい水場がないので、水着の出番が来るようなイベントは用意されていない様子で、峰田と上鳴が慟哭していたが……それでもきちんと、他にも楽しいイベントってものは用意されている。

 

 そう……こんな風に。

 

「そぉら焼けたぞ、食らいつけ野郎共!!」

 

「「「おっしゃー!!」」」

 

 私の号令と共に、殺到してくる男子達。

 見る見るうちになくなっていく、串にささってちょうどよく焼けた肉や野菜たち。それらにかぶりついて、笑顔になる食べ盛り共。

 

「うめぇぇえ! バーベキュー美味ェェエ!!」

 

「やっぱキャンプときたらコレだよなあ……!」

 

「焼き加減も絶妙! さすがだぜ栄陽院! A組の料理番長!」

 

「何だそれ初めて言われたぞ……まあ、悪い気はしないけどな。ホラ、どんどん焼くから遠慮せず持ってけよお前ら! 早いもん勝ちの恨みっこなしな!」

 

 言いながら私は、このバーベキュー大会の料理係として、あらかじめ切り分けられて下ごしらえも済んでいる肉や野菜をしゅばばばっ、と適当に串に刺し、焼いていく。

 熱で焙られ、肉汁が滴る。じゅうじゅうと食欲中枢を刺激してくる音、肉が焼けるいい匂い……野外で皆でわいわい食べるっていうシチュエーションも相まって、皆楽しそうに、美味しそうに食べるのなんの……うんうん、作ってるこっちも嬉しくなるね。

 なんていうかなコレ……緑谷に限らず、いっぱい食べる男子って見てていいわぁ……ああ、いやもちろん男子に限らず女子もだけどな?

 

「あー、味付けは各種調味料テーブルに置いてあるから好みで変えろ……ってもうやってるな」

 

「おーい、こっちでは肉以外も焼いてんぞ、食いたい奴から自由に持ってけよ」

 

「おう、砂藤……ってこっちは焼きそばにお好み焼き!? まさかの粉もの!」

 

「しかも美味そう……焼き加減ふわっふわじゃねえか、流石砂藤! 料理もできるシュガーマン!」

 

「いやあ……うちのクラスは料理番長が2人もいて助かるわぁ……おかげで日々、美味な飯にありつける」

 

「ホントそれな。毎日の夕食もそうだし、こういうイベントがもっと楽しくなるわ……マジ砂藤と栄陽院に感謝だわ」

 

「だってよ、砂藤。嬉しいこと言ってくれるじゃねーのうちのわんぱく小僧共は」

 

「栄陽院お前、まんまガキの面倒見る母親か姉の思考回路だろそれ……まあ、景気良く食ってくれるのがこっちも嬉しいってのはわかるけどよ。それに、ここまで言われちゃあ……」

 

「ああ、張り切らねーわけにはいかねーってな!」

 

 そこからはまあ、私と砂藤と協力して色々作った。

 

 スタンダードなバーベキューはもちろん作り続けつつ、うなぎの蒲焼や焼き鳥なんかも作ったり、鉄板で焼肉にステーキ、チャーハンや餃子、焼きおにぎりやゴーヤチャンプルーなんてものまで手分けして作った。

 周囲の連中はそれらに驚きつつも、すぐに食欲を刺激されて片っ端から平らげていく。

 

 なお、合間合間に私らもつまみ食いする感じで食べてるので、空腹とかは問題ない。

 むしろそういう感じなので、ほぼ全種類ちょっとずつ食べてると思うし。さーて、次は……ジャガイモ切ったのが余ってるな、スパニッシュオムレツとジャーマンポテトでも作るか。

 

 暫くそれを続けていると、A組の他の生徒や、B組の方でも負けじと料理好きが立ち上がって色々作り始めた。

 

 ソーセージに焼うどん、お餅にハンバーグ、目玉焼きにカツレツ……さらには網焼きの方で、サンマ焼いたりスルメ焼いたり、ホタテやサザエや牡蠣を殻付きで……おい誰だたこ焼き器持ち出して焼いてんの……美味いけど。

 

 面白かったのは、何やら青山がゴソゴソやってると思ったら……その少し後に、アルミホイルで器を作った『チーズフォンデュ』が出来上がったことだった。マジか、やるな貴様。

 当然ながら大好評である。一気に彼の知名度と株価が上がった瞬間だった。

 

 さらに時間がたつと、スイーツ方面の焼きネタも出て来た。ホットケーキやパンケーキみたいなメジャーなのに加え……バーベキューらしく、マシュマロ焙って焼いたり。

 ここでシュガーマンこと砂藤が本領発揮。『鉄板ケーキ』なるものを作ったり、すぐに作れるレシピのクッキーを焼いたりと、その実力を遺憾なく見せつけた。

 

「いやしかし、栄陽院ってばそのスタイル似合うね、やたら。何て言うの? その……屋台のお兄さんスタイルって言うか、男の料理って言うか」

 

「ああ、うん、まあ……どうも耳郎。褒められてると独自解釈しとくわ。まあ……言わんとすることはわかるし、自覚もあるから」

 

 髪上げて頭にタオル巻いて、シャツの袖まくって鉄板や網焼き台に向かってるからなあ。そういう印象に落ち着くのも無理はない。

 

 次いでそこに芦戸や葉隠も、

 

「似合っちゃってるのがすごいよね……違和感全然ないもん。恰好もそうだけど……こうして砂藤と一緒に縁日の鉄板担当みたいなこの図が」

 

「永久ちゃんってどっちかっていうと、ヤオモモと同じお嬢様のはずなんだけどね。B級グルメの方が圧倒的に似合ってる気がする」

 

「いやでも実際……こう言っちゃなんだけど、栄陽院ってそういうイメージだよな最早。色気より食い気っていうか……入学してすぐの頃だっけか? 『私の青春は甘酸っぱいレモン味じゃなくてデミグラスソース味だ』とか何とか言ってたし……」

 

「あんたそんなこと言ってたのか……」

 

 また微妙に懐かしい記憶を掘り起こす瀬呂の言葉を聞いて、耳郎が呆れたように言っていた。ああ、うん、言ったなあ確かに……昼の弁当交換の時だっけか?

 

「まあでも、今はレモン味も悪くないかな、って思い始めてるけど」

 

「おぉっ!? そ、そのこころは!?」

 

「焼肉やバーベキューってあっさりしたレモンだれよく合うよな」

 

「知ってた」

 

「ははは、まあ栄陽院だしな」

 

 『永久に春が!?』とばかりに興味津々で聞いてきた葉隠だったが、答えが期待外れだったために、ずっこけるリアクションとともに、雑談しつつ食べるのに戻った。ははは……残念でした。

 恐らく、そんなことだろうと予想してたんだろう。おかしそうに砂藤笑ってるし。笑いながら一切手は止めず、今度はクレープ生地っぽいの作ってるし。

 

 ……いやでも実際、最近は私、きちんと私生活ではレモン味……も下手したら通り越して、緑谷味の日々を過ごしてんですけどもね。ふへへ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

「プレゼント☆」

 

「えっ!? あ……ありがとう……青山君」

 

 バーベキュー、皆で楽しく騒いでる中……結構食べてお腹も膨れてきたので、ひとまず小休止にしようかな、と思って、輪を外れた時のことだった。

 

 にゅっ、とでも効果音がつきそうな動きで、横合いから突如出現した彼……青山君。

 

 彼がさっき作って、皆から喝采を浴びていたチーズフォンデュ。それをたっぷりまぶしつつ、こぼれない程度にしっかりからめた肉の串をもらった。

 まあ、ちょっとびっくりしたけど……まだお腹に入るので、お礼を言ってもらっておく。

 

 そのまま彼は……同じベンチ、僕の隣に腰かけて、取り皿によそった料理と、どこから取り出したのかわからないが、ワイングラスにジュースを入れて、ナイフとフォークで食べ始めた。

 

 僕も同じように、貰ったバーベキュー串を食べるけど……何だろう、この空間……? 何で僕ら今、一緒にいるの?

 

 正直、彼のこと……よくわからないんだよな。

 

 『追試』の時からちょくちょく見てるけど、何というか……不思議系、っていうのかな、こういう人って。あるいは……ナルシスト?

 雰囲気も行動も独特で……今までに似たタイプの人に会ったことがないので、上手く付き合い方がわからないっていうか……

 

 彼の『個性』……へそからビームを出す『ネビルレーザー』を見せてもらう場面も何度かあったから知ってるけど、かなり強力な『個性』だ。デメリットはあるけど、破壊力はもちろん、色々と応用できそうな感じだし……見栄えもかなりいい。

 

 加えて、努力家でもあるんだろう。心操君同様、普通科からヒーロー科に編入を狙ってて、しかも先生たちが『最有力候補』とまで言うくらいだし……『個性』のみならず、体も鍛えてるようだ。

 

 この合宿でも、最初の『魔獣の森』に加え、『個性伸ばし』でもその姿勢を見せ続けている。

 彼がクラスメイト……になるかどうかはわからないけど、一緒に鍛えて、歩んでいけるなら、心強いし……こっちも身が引き締まる思いだ。皆同様、刺激し合って、一緒に強くなっていけると思う。

 

 そういう感じのことを、僕は、雑談の中で――会話のペースまで独特なので、ついていけてるか若干不安になりながら――彼に話したんだけど……その瞬間、ふいに、彼の笑顔にわずかな影が差したような気がした。

 同時に……僕の脳裏に、彼の『感情』が届いた。

 

 ……この『感情感知』の能力、戦闘なんかである程度高ぶってるような感情だったりしないと、あまり感じ取れないんだけど……今、彼の心はそんな感じに動いたんだろうか?

 

 しかも、何だろうコレ……感じ取れた感情は……ほんの少しの嬉しさと、奮起。それに好感。

 そして、それらを大きく上回る……悲しさと、後悔?

 

 そしてさらに、その次に彼が口にした言葉が、さらに僕を混乱させた。

 

 『ごめん』 そして、 『ありがとう』

 

「……えっと、いきなり何?」

 

「……いきなり、じゃないよ」

 

 ……気のせいだろうか? さっきまでと同じ笑顔なのに、なんだか……少しだけ遠い目をしているように、憂いを帯びた表情になっているように見える。

 青山君は正面を向いていて、顔は半分しか見えてないけど……そんな風に見えてしまう。

 

「僕らが初めて出会った日のこと、覚えてる?」

 

「初めて……ああ、うん……覚えてるよ。一応……」

 

 僕と青山君が初めてであったのは、あの『追試』の日……ではない。

 

 実はそれ以前に一度、僕らは会っている。といっても……別にこんな風にまともに会話したわけじゃない。どっちかっていうと、青山君から一方的に声をかけられただけ、みたいな感じだ。

 それもほんの数秒のことで、それ以降別れちゃって……それこそ『追試』の時まで、会うことはなかった。

 

 学校で何回かすれ違ったりしてるかもしれないけど、そこまでは流石に覚えてないしな。

 

 彼と僕の初対面は、入試の日だ。僕が初めて『ワン・フォー・オール』を使って……見事に腕と足を壊してしまった、あの日。

 

 麗日さんや飯田君と同じように……同じ試験会場に、彼はいた。

 

 筋力がついて、多少動けるようになった程度の僕が、突然現れた敵ロボに襲われて、パニックになりかけていた時に……横合いから飛んできたレーザーが、その敵を破壊した。

 

 言うまでもない。その時僕を助けてくれたのが、青山君だ。

 

 ……あの頃の僕は、まだ全然、心も体も弱くて……敵を前にしてビビるのがもう癖みたいなものだった。今では全然、怖くもなんともない敵ロボも……あの時の僕には、それを前にして動けなくなるほどの脅威だった。

 

 だから、その時に助けてくれたことには純粋に感謝してるんだけど……同時に何となく、彼が何を『ごめん』なんて言ってるのかがわかった気がした。

 青山君……こう言ってたっけな、その時。

 

 

『メルスィ! いいチームプレイができたね』

『でも……君と会うことはもう二度となさそうだ』

 

 

「あの時言ったこと、ずっと後悔してた」

 

 そう、呟くように言う青山君。

 

「煌めきとは程遠い……酷いことを言った」

 

「いや、そんな……僕、全然気にしてないよ? 実際その……あの頃の僕は、全然弱くて、情けなくて……1Pのロボ相手に、委縮して動けなくなってたし……全然ダメだったよ」

 

「そうだね」

 

 肯定された!? しかもノータイムで!?

 

 あ、いや、別にそれはいいんだけど……ちょっと話の流れから『そう来る?』って思っちゃって……うん、僕がダメなのは確かだったからそこは……

 

「でも、僕が悔いてるのはそこじゃない」

 

「え?」

 

「バカにしたようなことを言ったのも、もちろん酷かった。でもそれ以上に……怯えて何もできない君を見て……上から目線で見て、考えてしまった。……人のことを言えた義理じゃないのに」

 

 その話をしている間は、何というか……独特な彼のペースが、少しゆったりなものに思えた。

 考え、顧みながら話しているかのように。

 

 青山君は、常にサポートアイテムのベルトを装備している。

 今こうしてジャージでいる時もそうだし……学校でも制服と一緒に身に着けているそうだ。体育祭の時も、事前に申請して、装着して出ていたらしい。

 

 『個性』を上手く使うため……だと思ってたんだけど、微妙に違うそうだ。

 

 青山君の『ネビルレーザー』は、そのまま何も着けずにいると、時々レーザーが漏れ出てしまうらしい。これは体質的なもので、改善が難しいものなんだとか。

 幼い頃にかかった医者の先生に、そう言われたそうだ。身体に『個性』が合ってない、と。

 

 自力では『ネビルレーザー』を制御しきれず、時々暴発して漏れ出してしまう。それを防ぐために、彼は幼い頃からベルトを身に着けていた。

 

「試験で緊張していたとか、自分の力が通用していて浮かれていたとか、理由はいくらでもあった。それでも……自分がそうだった、いや、今もそうであることを忘れて、他人を見下していい気になるようなことをしていた。そう思いだすだけで……キラメキが遠のく思いだ」

 

 そしてその後、僕はヒーロー科に合格し……青山君は、その篩から落とされた。

 普通科には合格していたので、そっちに進学して……ずっと、複雑な思いを抱えて、学校生活を送ってきたらしい。

 

 入試であんなふうに言っておいて、僕が受かって自分が落ちたことへの……自己嫌悪やら、後悔やら、苦悩を抱えて……それでも、立ち止まったり、投げ出すことだけはしなかった。

 心操君と同じで……彼も、『ヒーローになりたい』と思ってしまったから。憧れて、そう思ってしまった以上は……もう、どうしようもないから。

 

 今いる場所で我武者羅に、出来ることをし続けて……しかし、どこか心の中にしこりを残したまま、雄英で普通科として暮らし続けていた。

 あんな風なことを言っておいて、この結果。やはり自分には、ヒーロー科なんて、ヒーローなんて、高望みだったんじゃないか。そんな、ネガティブな思いが、ふとした拍子に頭をよぎる日々だったそうだ。誰かの活躍を聞いたり、何か些細なことで失敗したりするたびに。

 

 しかしそんな中で迎えた体育祭で、彼は……普通科の応援席から、決勝戦を見ていた。僕と、かっちゃんの試合を。

 

「物言いを悔いつつも、どこかで君と僕は似ていると思ってた。身体に合わない『個性』……無理をして、格好つけて、自分の体を壊してしまう……生まれつき背負ったハンディキャップの中で、あがかなければならない人生。……でも、違った」

 

「君は、決してあきらめず努力を続けて……強くなった。入試の時は、正直言って、僕なんかよりよっぽど危なっかしかった君が……見る者全てに火をつけて、前に進ませるような戦いを見せた。それは確かに、あがいて、もがいて、苦しんだ末に手にした力だったんだと思う……でもそれは、見苦しさなんて欠片もない……磨き上げられた宝石みたいに、舞台の上の君は、輝いて見えた」

 

「理解した瞬間、それで悩んでた自分が馬鹿らしくなった。体質がどうとか、もしもっと恵まれていたらとか……そんなことばかり考えていても仕方ない。そう思ってしまうのは仕方ないとしても……自分には他にやるべきことがあるし、できることがまだまだある。なら、それが見えているうちは……弱音を吐くのも立ち止まるのも後でいい。自分にできる全部をやって、上を目指せばいい」

 

「あの日、君は僕にそれを教えてくれた。だから、ありがとう」

 

 そう言って、青山君は……言いたいことは全て言ったとばかりに立ち上がり、使っていた食器やら何やらをひとまとめにして片づけて……まだ座ったままの僕に、告げた。

 

「僕はもう、迷わない。煌めきも、強さも、リスクも、弱さも……全部拒まず、受け入れて……乗り越えて、磨き上げていく。このベルトと、『ネビルレーザー』と一緒に……努力して、強くなって……ヒーローになる。なってみせる」

 

 腰に巻いたベルトに、さするように手をやりながら言う。

 最早、彼から感じられる感情に……マイナスなそれは微塵もなかった。

 

 ただただ……感じ取っているこっちまでやる気になるくらいの……そう、まさに『煌めいてる』とでも言えそうな、前向きで、力強い意志がそこにあった。

 

「すぐ追いつくよ。だから、もう少し待っててほしい。その時が来たら……君の光と僕の光で、共にこの世界を照らそう……緑谷君」

 

「……うん! その時がすごく楽しみだよ……お互い頑張ろう、青山君!」

 

 その言葉を最後に、青山君はそこから歩き去っていった。

 

 ……なんだかな……話を聞いて、嬉しくなっちゃったよ。

 青山君からそんな風に思ってもらえてたのか、とか……あの『決勝戦』で、そんな風に人に勇気を与えられてたのか、とか……調子のいいこと言うようだけど、ヒーローらしく(まだ卵だけど)、人を元気にできてたのかな、なんて。

 

 そして同時に、僕の方も……負けてられないと火をつけられた気分だ。

 

 今は普通科だけど……青山君はきっとヒーロー科に来る。そのくらいの実力が、器が、彼にはある気がする……いやむしろ、何か1つのボタンの掛け違えとか、その程度の理由で……ヒーロー科にいてもおかしくなかった、とすら思える。

 

 だからこそ、そんな青山君が認めてくれた思いを裏切らないように……彼のやる気に負けないように……僕も、もっともっと強くなって、上を目指さなきゃ。

 

 合宿ももう5日目が終わる。残り2日……できること全てをやって、もっともっと強くなろう。明日は、もっと充実した、やる気に満ちた一日を過ごせそうだ……!

 

 

 ☆☆☆

 

 

「まずは思い知らせろ、荼毘……連中の平穏だの、希望に満ちた明日だの……そんなものは全て、あってないようなもんだってことを。むしろ、俺達の手のひらの上だってことを」

 

『了解した、死柄木。メンバーが揃い次第、行動を開始する。……にしてもあんた、最近とんと連絡とれなかったな……電話にも黒霧しか出ないし。どこに行ってたんだ?』

 

「ちょっとな……先生に会ってたんだ」

 

『先生……ねえ。お前の支援者で、『敵連合』の黒幕で、その他にもいろいろと得体が知れない、あの『先生』か……今回の作戦の手伝いでも頼んだのか?』

 

「いや、それはお前らだけで十分なはずだ……先生に出てきてもらうほどのことじゃない」

 

『ハッ、褒められてんだか、便利に使われてんだか……じゃ、何してたんだよ?』

 

「……思い出話、かな。俺の過去に向き合ってた」

 

『……へえ……過去、ねえ……』

 

「案外とバカにできねえもんだぜ? 自分の『源点(オリジン)』に向き合うってのも……おかげで、随分と長いこと忘れてたことを思いだせた……足りなかったものを、取り戻した気分だ」

 

『そりゃよかった……かどうかは知らねえが、まあ何かいいことがあったみたいなのは何よりだ。んじゃ、こっちも吉報を届けられるように、せいぜい頑張るとするかね』

 

「ああ……楽しんで来い」

 

 ―――プツッ

 

 

 

 

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