TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第124話 『開闢行動隊』来襲

 

 雄英高校、ヒーロー科1年の夏の恒例行事『林間合宿』。

 

 例年と違い、ヒーロー科以外からも生徒を参加させ、例年よりもさらに気合を入れたカリキュラムを組んで行われたそれは、充実した時間の中で大きく生徒達を成長させ……大成功のうちに終えられようとしていた。

 最後の夜、花火とキャンプファイアーによって、この6日間の苦労をねぎらい、助け合い、高め合いながら過ごした日々を振り返り、導いてくれた教師や、ワイプシらプロヒーロー達に感謝し、明日の最終日に向けて英気を養う時間になる……はずだった。

 

 しかし、楽しいはずの時間は……始まるのを待たずして、恐怖の夜に変わる。

 

 春先にもその姿を見せた、『敵連合・開闢行動隊』の襲撃によって。

 

 キャンプファイアーの準備のため、手分けして会場を設営したり、ものを運んでいた生徒達や、それに付き添っていた教員、あるいはヒーロー達。

 

 あちこちで『敵』との遭遇が起こり、否応なしに戦闘に巻き込まれていく。

 状況は奇しくも、USJの時に近い。あの時は、黒霧によって各所に『飛ばされた』結果、そこに待機していたチンピラ同然の『敵』を相手に、否応なしに戦うことになった。

 

 しかし今回は、各所に散らばるように生徒達が最初からおり、そこに敵が襲撃をかけてきた形になる。あの時よりも数は少ないが……その分、油断などできないレベルの、『少数精鋭』が。

 

 備蓄されていた花火……ではなく、恐らくは敵が持ち込んだ爆発物か何かによる轟音。

 それによるものか、森のあちこちで火の手が上がっている。

 

 さらには別な区画では毒ガスが充満し、また別な区画では道が崩れて通れなくなっていた。

 

 移動すら満足にできない状況の中、容赦なく『敵』は襲ってくる。

 

 

 

「うぬら一体何をしに来た!?」

 

 振るわれる虎の剛腕を、あっさりととは言わないまでも、揺るがず片手で受け止める男……『マグネ』。

 大柄でがっしりした性格に加え、布の巻かれたこん棒のような武器を手に持っているその男はしかし……その外見と野太い声にはミスマッチな口調が、逆に不気味さを醸し出していた。

 

「あらやだ、そんなに怒らないでよ。用事がないと襲いに来ちゃいけないのかしら?」

 

「一週間……と言うには少し足りんが、この修行の日々を乗り越え、夢に向かって羽ばたこうと汗を流して歩む若人達……そのひと時の安息を邪魔しておいて、ふざけたことを抜かす……!」

 

「その未来ある若人に用意されているのは堕落の道か? ヒーローとは私を滅し、他を救う、それに全てをかける者の尊号なり。それを教えずして何を威張り腐るかァ!」

 

「っ……当たり前だけど話通じないわね!」

 

 一方で、トカゲのような異形の風貌の男……『スピナー』は、無数の刃物を鎖で束ねて作った武器を振り回し、マンダレイを相手に戦っていた。

 

 

 

 また別な場所では、

 

「あぁ~……仕事……しなきゃ、我慢……! 仕事……でも、見せて……」

 

「きっ……もち悪! 何あいつ!?」

 

「何だか分かんねえし何だっていい……ただこれだけは言える……」

 

「ああ……相当やべえぞ、あの拘束野郎!」

 

「言ってないで逃げなあんたたち! こいつ、前にニュースで見たことある……脱獄中の死刑囚だ! そこらのチンピラとはわけが違うよ!」

 

 歯を枝分かれした伸縮自在の刃に変えて攻撃してくる敵『ムーンフィッシュ』。

 ピクシーボブが生徒達を守りながら、土魔獣を次々突撃させて迎え撃つ。刃の1つ1つが凶悪な威力ゆえに、1体1体はさほど長持ちもせず壊されてしまい、しかし壊れた端から作り直して突撃させていく。

 

(くっ……ふざけた格好の割に素早い上に……手数が多すぎる! 攻撃一発一発も強力だし、生徒達をかばいながらじゃろくに戦えない……無線も通じないし……他の皆、無事なんでしょうね!?)

 

 

 

「全員急いで宿舎に戻って! こいつは私が引き受けるから……ごめんだけど引率は無理! さっきマンダレイが言ってた通り、敵と遭遇しても戦わないで撤退ね! 委員長、先導!」

 

「了解しました! ラグドールも……どうかご無事で!」

 

「にゃははっ、大丈夫大丈夫! おねーさんもプロヒーローだからね!」

 

 既にキャンプファイアーの会場……に、なるはずだった広場まで来ていた生徒達を襲撃してきたのは、下半身が巨大な蛇のようになっている脳無だった。

 

 監督に当たっていたラグドールは、飯田に生徒達の引率を任せて、その脳無に立ち向かう。

 

 マンダレイ同様、決して戦闘に向いた『個性』ではないが、その熟達した身のこなしからは、危なげなく戦えている、確かな実力というものを察することができた。

 

 ヒーローの卵として、そこに加勢したい衝動を覚える生徒は多くいたが、今はまだ自分達はそれを許されない身。ラグドールを信頼し、その指示通りに踵を返す。

 飯田の先導に従って、避難場所である施設を目指してかけていく。

 

 その背中が見えなくなったことを横目でちらりと見て、ラグドールは確認した。

 

(……よし、行ったね。後は私も……できればコイツここでしとめたかったけど……それより生徒の安全が最優先だもんね。適当に撤いて、残る生徒を助けに行かないと……)

 

 『サーチ』の個性を持つラグドールは、目で見た者を、同時に100人までモニタリングできる。直接見ていなくても、居場所も含めてわかる。

 この合宿の間、ずっと生徒達を遠隔でモニターしていた。ゆえに今も、彼ら彼女ら全員の居場所と状況を、ラグドールは認識していた。

 

「無線さえ潰されてなきゃ、通信で他の皆に指示出して、マンダレイの『テレパス』で全員迅速に動いて助けられたのに……」

 

「あぁ、そうさ。そうされると困っから、封じさせてもらったんだよ、通信手段をな」

 

「……っ!?」

 

 突如その場に響いた、脳無でもラグドールでもない、第三者の声。

 

 はっとして振り向いた――もちろん、脳無への警戒はそのままに――ラグドールの目に映ったのは、夏だというのに、丈の長いコートやら半長靴やらを身に着け、まるで戦場に行く傭兵か何かのようないでたちの男だった。その顔は、装甲のようにも見える仮面で隠されている。

 

「ラグドール、だったな? 俺んとこのボスがおめえに会いてえんだとよ。一緒に来てもらうぜ?」

 

 

 

 他の場所でも、それぞれに戦いは始まっていた。

 

 生徒の救出に向かおうとした相澤に、手から青い炎を迸らせる敵……荼毘が立ちはだかり、その行く手を塞ぐ。

 

 運悪く他の生徒と別れて、2人で行動していた蛙吹と麗日に、暗がりから女子高生のような姿の、刃物を持った敵が……トガヒミコが迫る。

 

 逃げ道になり得るところにガスをまき散らし、学ラン姿の少年のような敵……マスタードが、生徒達の行動範囲を狭めていく。

 

 投入された他の脳無達が、生徒達を見つけ次第襲い掛かるべく、夜の森を徘徊する。

 

 

 

(……ここも、か)

 

 地盤沈下か土石流でも起こったのかというほどに、無残に崩れ去った道。

 もともと舗装もされていないため、脆くなっているであろうそこは、通ろうとすれば崩れて生き埋めになってしまうかもしれないような危険な状態だ。

 

 ピクシーボブの『土流』ならどうにかできるかもしれないが、そういった何かしらの手段を講じずにこの道……だった場所を通ることはできないだろう。ましてや、大勢では。

 

 忍者のような装束に身を包んだ男が、それを見下ろしていた。

 やれやれ、とでも言いたげに頭を振ると、どろりとその体が崩れて……つるんとした卵のような顔を持つ、軍服姿の異形……パンドラズ・アクターにその姿が変わる。

 

 先の忍者姿は、隠密行動及び高速移動に最も適した形態である。その力を使って、彼は今、避難経路となり得る場所を見て回り、いざという時に生徒達をどう逃がすか、どこで敵を迎え撃つかのプランを立てるために動いていたのだが……

 

(脱出経路がことごとく潰されている……しかもこの痕跡は、ただ力で崩したものではない。一見すると雑に道だけが崩れているように見えるが、その実、破壊は崩落部分の周辺にまで及んでいる。大人数で通ろうとしたり、その他、一定以上の力が加わればその周囲ごと広範囲が崩落する仕組みの罠だ。金属片や木片などが大量に含まれて混ざっているため、殺傷力が高い上に、ピクシーボブの『土流』でも簡単には撤去できないようになって……それが何カ所も……)

 

 ポケットから取り出した、この森の地図に、今確認した場所を『×』で書き込みながら、パンドラズ・アクターは思案する。

 しかし手や足は止めず、書くべきことを書き終えたら、即座に別なルートを確認しに行くべく、またその身を忍者に変えて、目にも留まらぬ速さで走り出した。

 

(これだけ大規模に、かつ精密に、何カ所も、素早く……材質の違う細工を大量に埋め込んで……こんなことができる『個性』は限られる。恐らく、今朝の朝刊に脱獄したと載っていた……奴か)

 

 

 

「……早いな、もう終わったのか?」

 

「想定しうるルートは全部崩した。ピクシーボブさえ合流させなければ、生徒達がここから逃げることはできない」

 

「マジかよスゲーじゃねえかヤクザ! 大したことねえな!」

 

 森の中、とある場所。

 

 現在、施設を出たところで、相澤と交戦しているはずの荼毘。

 正確には、相澤と交戦しているのは『コピー』の荼毘であり、トゥワイスが『個性』を用いて増やした偽物だ。そのトゥワイスと一緒にここにいる荼毘こそが本物である。

 

 その2人に……避難経路全てを、トラップを組み込ませたうえで潰すという仕事を終えた治崎―――『オーバーホール』が合流したところだった。

 

「破壊も再構築も自由自在とはな……すげえ個性だ。羨ましいもんだ」

 

「それを使ってやるのが土木作業員の真似事じゃあ台無しだけどな! いやホント大したもんだ!」

 

「……俺の仕事はひとまず終わりだな? なら後は、動きがあるまで休ませてもらう」

 

 治崎は、荼毘の棒読みのほめ言葉にも、トゥワイスのほめているのか貶しているのかわからない物言いにも興味を寄せず、切り株に腰を下ろした。

 

「何だ疲れたのか? なら俺が『倍』にしてコピー作れば、お前ここでゆっくり休めるぜ? 怠けてねえで働けよコラァ! そいつに任せときゃ……」

 

「触るな」

 

 トゥワイスの提案を、言い切る前にバッサリと切り捨て、触れようと手を伸ばしてきたトゥワイスをぎろりと睨みつける治崎。

 

 一時的に協力関係となることを了承はしたものの、彼は連合を完全に信頼はしていない。どさくさに紛れて妙なことをされないように警戒は切らすことはなく、また自分のコピーなどという、何が起こるのか不確かなものを他人に預ける気もなかった。

 付け加えるなら、潔癖症でもある彼は、他人に触れられることを嫌がる。今の剣幕の幾分かは、そのことへの嫌悪感も含まれているものだっただろう。

 

「ジョーダンだよ、ジョーダン! 俺はいつだって真面目だぜ! まあ、どの道きちんと測らねえと出来ねえしな!」

 

「……ジョーダンは置いといて、お前、ぶっ殺したい奴が生徒の中にいるんじゃなかったのか? そいつ殺しに行かなくていいのかよ?」

 

「……プロヒーローが何人もあちこちにいる森の中だ。行き当たりばったりで行動して不測の事態を招くのは不本意だ……やるならきちんと計画立てて自分でやる。今はまだ、いい」

 

「そうかい。なら好きにしな」

 

 

 

 ……そして、

 

 

 

「血ィ……見せろやァ!!」

 

「こん……のぉっ!」

 

 全身から緑色のスパークを発し、傷跡のような赤い紋様を浮かび上がらせて立ち向かう緑谷。

 

 その正面には、増殖して腕の外にまではみ出している筋肉が特徴的な、力任せに振り下ろす拳で破壊を引き起こす巨漢の敵……マスキュラーがいた。

 

 岩肌を容易くえぐる威力の拳が繰り出され、しかも決して素早さなどを損なっているわけでもない。単純極まりない増強型の戦い方。シンプルゆえに、対応が難しい。

 

 それでも……

 

(このくらいなら十分対応できる! パワーは危険だけど、前に戦った、乱破って奴よりもスピードや攻撃の頻度、連打能力は下だ……コスチュームの補助がないのは少し不安だけど……やるしかない!)

 

 突き出される拳をすり抜けるようにかわし、追尾してくる裏拳の薙ぎ払いをかがんでかわす。

 今度は蹴りが飛んでくるが、それをジャンプしてかわし、そこを狙って飛んできた拳の一撃は、こちらの拳ではじくようにして反らし、その巨大な腕の上を転がるようにしていなす。

 

 そうして懐に飛び込み、拳を打ち込むが……頑丈さも相当なもののようだ。

 全く効いていないわけではなさそうだが、そこまで痛打になったようにも見えない。

 

 少なくとも、腕の力だけで打ち込んだ拳では、この男を止めることはできないだろう、と、緑谷は悟りつつ、追撃をかわしながら距離をとった。

 

「はっはっはぁ! いいじゃねーか坊主おい! なんだよ、ガキなぶり殺しにするだけの、弱い者いじめみてえなケチな仕事になるかと思ったら、いるじゃねーかイキのいい奴がよ!」

 

 血狂いマスキュラー。非常に好戦的で残虐な性格の、指名手配中のネームドヴィラン。

 

 今までに何人もの罪のない一般人や、捕らえようとしたヒーローを返り討ちにして殺害している凶悪犯であり……何を隠そう、『ウォーターホース』を……洸汰の両親を殺害した張本人である。

 

 何の因果か、洸汰の前に現れたこの男から洸汰をかばい、立ち向かうこととなった緑谷は……再び拳を振りかざして襲い来るマスキュラーに対し、こちらも体からスパークを溢れさせ、全力で持って迎え撃つ構えを取る。

 

 この男を倒し、止めるため。そして、それ以上に……

 

(栄陽院さん……洸汰君……今のうちに、早く安全なところへ……!)

 

 

 

 その、緑谷とマスキュラーの交戦現場から少し離れた森の中で、永久は洸汰をわきに抱えて走っていた。

 

 理由は簡単……洸汰を安全な場所に届けるためだ。

 

 マンダレイの『テレパス』を聞いた避難中……突如襲撃してきた『脳無』を撃破した直後のこと。

 緑谷の『感情感知』が、また助けを求める声を感じ取った。

 

 それにはっとしたようになって、永久達に先に行くように言い残して走り出した緑谷を、永久は慌てて後を追った。砂藤たちに『先に施設行っててくれ』と言い残して。

 緑谷が駆け出した理由は、大体わかるから、とも。

 

 予想通り洸汰を見つけて保護した緑谷だったが、予想外だったのは、今まさにその洸汰を襲おうとしている敵……マスキュラーがいたことだった。

 

 ゆえに、マスキュラーを緑谷が殿として引き受け、その間に永久が洸汰を連れて脱出、という役割分担を行うことになった。

 

 そうしたのは、小回りの利く緑谷の方がマスキュラーへの相性がいいという判断や、洸汰を1人で行かせるのは危険が大きいという判断など、色々と理由はあるが、一番のそれは……

 

「と、永久姉ちゃん、いいのかデク兄ちゃんの手伝いしなくて!? アイツ、すごく強そうだったのに……」

 

「すごく強くて危ないからだよ! 大丈夫、緑谷もあの時よりさらに強くなってるから……むしろ、私や洸汰君がいた方が足手まといだから!」

 

「俺はそうだけど……永久姉ちゃんなら……」

 

「……私が万全ならね。緑谷と協力してアイツ瞬殺してゆっくり避難でもよかったけど……」

 

(ないんだよなあ……エネルギーが、ほとんど……!)

 

 この合宿中、永久は、修行の時こそ、栄養補助ゼリーで大量にエネルギーを補充して使えていたが、基本的にそれらのエネルギーは、修行終了までにほとんどを使いきってしまう。

 加えて、夕食に食べる量は、食べ盛りの男子が満足できるくらいの量ではあるが、永久にとってはまだまだ物足りない量である。もともと筋肉量の多い永久は、基礎代謝――何もしなくても体が消費するカロリー量――がかなり多いため、あらかた消費してしまう。

 

 今の永久は、本当に少ししかエネルギーの備蓄がない状態だった。

 

 それでも、別に足りなくて腹が減るほどでもないため、合宿中は特に気にしていなかったのだが……こういった、突発的な戦闘が起こった場合、現在の貯蓄量では確実に足りなくなる。

 

 あのままあそこにとどまって戦いを始めても、身体能力の強化だけで、ものの数分でエネルギーは底をついただろう。何かしら『技』を使えば、さらに消費は速くなる。

 

 ゆえに、洸汰を連れて逃げることだけが、永久にできることだった。

 

 しかし、勝つ見込みがある戦いとはいえ、緑谷を置いて逃げるという苦渋の決断をした永久に……さらなる厄災が襲い掛かろうとしていた。

 

「……っ!? コレ、この煙……毒ガスか!?」

 

 遠めに見える範囲にしか散布されていなかったはずの毒ガスが、風に乗ってか、はたまた単に範囲が広がったためか……永久達が逃げている場所にまで流れてきていた。

 あっという間に周囲に充満し始めたそれは、僅かに吸っただけでも頭痛を覚えて体がやや重くなるもの。とっさに永久はハンカチを洸汰の口に押し当て、自分は息を止め、可能な限り早くこのガスを抜け出るために走り出した。

 

 急いで、しかし息が苦しくならない限界の速度で。

 

 しかし、もう少しでガスの領域を抜け出るというところまでは来たものの、もう息が続かない。このままでは間に合わない。ガスの中で倒れて、自分も、洸汰も……

 

 そう思い至った永久は、苦しくてどうしようもない呼吸を必死に噛み殺しながら……洸汰を抱えたまま、ジャージの上着をバッと脱いだ。

 そして、それを洸汰の顔……口元と鼻を覆うようにして巻き付ける。

 

「むっぐ!? おあええひゃ……あにふん……」

 

「体丸めろ! 痛いかもしれんけど我慢しろ、落ちたらすぐ起きて走れ! 行くぞ!」

 

 ほとんど一息に言い切ると、永久は洸汰の体をボールのように持って大きく振りかぶり……勢いよく投げた。

 

 放物線……というには直線的な動きではあるが、洸汰は一気にガスの中を突き抜けてその外側まで飛んでいき……永久の狙い通り、クッションになる茂みの中に落ちた。

 

 無傷ではないだろう。細かい切り傷や擦り傷はできてしまっているに違いない。もしかしたら、打撲か何かできてしまったかもしれない。

 

 それでも、ここで毒に巻かれてしまうよりはましなはずだ。

 

 そして、永久は……その後息を止めて、思い切り足を動かして走り出すも……すぐに息が続かなくなり、周囲に漂うガスごと空気を吸い込んでしまう。

 さらに、ガスが漂い始めた直後や、洸汰を投げ飛ばす前に『走れ』と言って聞かせた際に、少しではあるが既にガスを吸ってしまっていた。

 

 すぐに歩みが遅くなり……息が乱れ、目の前が暗くなり……洸汰を投げ飛ばした距離の半分も走ることができずに……倒れ込んで、意識を失った。

 

 

 

 

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