TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第127話 死闘、あちこちで

 

 ヒーローチーム『ワイルドワイルドプッシーキャッツ』が保有する、山の宿泊所。

 そこは、普通に暮らしても中々快適に過ごせる合宿施設であると同時に……有事の際には、そこに籠って避難を待ったり、対『敵』における籠城に使えるほどの強度になっていたりと、ヒーローの拠点らしい性能を持っている施設でもある。

 

 しかし今回、生徒を守る堅牢な盾、ないしは砦となるはずのその施設は……今まさに、内に閉じ込めた生徒達を押しつぶし、食い殺す罠へと変貌しつつあった。

 

 外から外壁に手をついて、その施設……に、組み込まれている金属を操っている、1人の男によって。

 

 

 ―――バキ、ゴキ、バキ、ベキ、バキガシャンパリンギギギ……ゴシャアァッ!!

 

 

 轟音と共に……中心部に向けて、海の底の膨大な水圧がかかって圧縮でもされたかのような動きで……宿泊所の決して大きな建物は、潰れて無残な瓦礫の山になった。

 

 その中にいた、大勢の生徒達は、迫りくる巨大な質量に抗えるはずもなく……無残にも、押しつぶされてその短い生涯を終えた…………

 

 …………はずだった。

 

「……んん……?」

 

 男は、違和感を覚えていた。

 途中まで、自分の『個性』によって建物は確かに圧縮され、その中にいる者達に襲い掛かったはずだった。

 

 だがそれは途中で止まってしまった。

 『個性』の発動自体はしていたが……生徒達を圧殺するよりも早く、何か、壁のようなものに阻まれ……瓦礫のうねりが届かなかった。防がれてしまった。

 

 それを感触として感じ取った男……ウォルフラムは、状況を確認するため、再度『個性』によって瓦礫をどかし、違和感があった場所を露出させる。

 

 するとそこには……不可思議な光景が広がっていた。

 

(……何だありゃ……骨の、壁? 誰かの『個性』か? 警護についてるはずの、ブラドキングのそれじゃないはずだが……)

 

 生徒達が集まっている広間。

 そこで、子供達を守るように……まるで、巨大な肋骨のようなそれが展開し、壁になって施設の瓦礫を防いでいる光景があった。

 

 しかしそれもすぐに、ほどけるようにして消えてしまい……あとに残されたのは、何が起こったのかわからず、動転している生徒達。何人かは、その表情に恐怖が浮かんですらいる。

 

 ウォルフラムがその様子を見て、生徒達の誰かがやったことではなさそうだとあたりをつけた瞬間……すぐ横から聞こえて来た風切り音に反応して、ばっとその場から飛びのく。

 

 一瞬前までウォルフラムがいた場所を、薙ぐようにして血の鞭が通過した。

 

「今度のはあんたか、ブラドキング」

 

「貴様も『敵連合』の手先か……何者だ。何の目的で来た!?」

 

 いかつい見た目に似合わず、情に厚いことで知られるブラドキング。

 今まさに、生徒に手を出され……傷つけられかけたことに怒り心頭の様子で、味方でも委縮しそうな鋭い目をウォルフラムに向ける。

 

 だが、当のウォルフラムもまた、幾多の修羅場を潜り抜けて来た『敵』の強者である。微塵も怯むような様子を見せず、笑みすら浮かべて、鉄仮面の向こうから睨み返していた。

 

「『誰だ』『何が目的だ』……平和ボケした日本のヒーローの話はいつもそこから始まるな。言ってる場合かどうか、言える相手かどうかくらい認識して、無駄なやり取りは省くべきじゃないのか?」

 

「答えたくないなら安心しろ、ここでは聞かん……貴様を捕らえて、取り調べは警察に任せればそれまでだ」

 

「ネームドヴィラン『ウォルフラム』……非合法な黒い仕事も進んで請け負う傭兵にして、全世界ほとんどの国と地域で国際的に危険視され、指名手配されているテロリスト……」

 

 そこに、第三者の声が割り込んでくる。

 油断なく、視線だけを向けたウォルフラムの前に現れたのは、闇から滲み出すようにして姿を現した、軍服姿の異形……パンドラズ・アクターだった。

 

「素顔を晒すことはまずなく、仕事の度に装備や仮面を換えるため、指名手配といいつつ捜索困難な『敵』。しかし、『金属を操る』という『個性』だけは知られている……先程の破壊は、ワイプシの皆さんが、保護した一般人などを守るために組み込んでいた補強材を利用したわけですね」

 

「ほぉ……俺も有名になったもんだな。するってーと、さっきの骨の壁はあんたの仕業か……ドッペルヒーロー『パンドラズ・アクター』」

 

「テロリストだと……なぜそんな奴がここに……!?」

 

「『なぜ』はひとまず置いておきましょうブラドキング教諭。この男はあなたの『個性』では相性が悪い……私が引き受けます。教諭は生徒達の再避難を。ここはもはや安全ではありません」

 

 早口でそう言い切ったパンドラズ・アクターは、生徒達をかばう立ち位置でウォルフラムに立ちふさがる。

 ブラドキングは、危険なテロリストの相手を任せてしまうことに何か言いたげな様子だったが、言っていることが正論であるがゆえに何も言えず、黙ってパンドラズ・アクターに従った。

 

「……生徒全員、俺についてこい! この場から避難する!」

 

「おいおい、つれねえこと言うなよブラドキング先生よぉ? 本物の『敵』、それも国際手配クラスのレア者を見れる折角のチャンスだぜ? きちんと生徒に、身をもって体験させてやりな!」

 

 しかしその瞬間、ウォルフラムは周囲の瓦礫……の中の金属を操り、生徒達に殺到させて殺傷しようとし……しかし即座に反応したパンドラズ・アクターが、その姿を変えて立ちはだかる。

 

 ―――ガギィィイィン!!

 

 その身を、赤色のスライムに変え……その両手に盾を装備して、ウォルフラムの攻撃を受け止める……のみならず、その衝撃をまるで反射して返すかのように、金属の魔手はことごとくはじき返されて、逆向きに吹き飛んだ。

 

「……っ……前評判の通りか、何してくるかわからねえ野郎だ」

 

「ほめ言葉として受け取っておきましょう。ブラドキング教諭、皆さん、お早く!」

 

 パンドラズ・アクターが守る間に、ブラドキングはその場から生徒達を退避させ、今のここよりも、少しでも安全な場所を探しすべく、夜の森に入っていった。

 

 視界の端で、今度は純銀の聖騎士のような外見に変容したパンドラズ・アクターが、凄まじい剣裁きで、襲い来る金属の豪雨を相手に戦いを繰り広げ始めたのを、ちらりと見ながら……しかし、すぐにそれも、夜の闇に阻まれて見えなくなった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ち……またこの手合いか。この忙しい時に……」

 

 一方、生徒の救助に動いている相澤は……マンダレイに『戦闘許可』を伝えるところまではできたものの、その直後、新たに襲来した敵の相手で手がふさがっていた。

 

 それは……脳無だった。

 体の色は黒く、体中に鎧のようなものをつけた重装甲・パワー型の脳無である。先程から『抹消』を使って『見て』いるが、襲ってくるその勢いは微塵も緩まることはない。

 

(つまり、この脳無も……USJの時と同じで、素のパワーがコレってことか。あの時の奴ほどじゃないが、それでも十分に……食らったら即ノックアウトもあり得る。捕縛も難しそうだ)

 

 視界の端には、依然としてスピナーとマンダレイが、虎とマグネが戦っている光景が映っているが、どちらも自分のことで手一杯で、こちらに加勢しに来る余裕はなさそうである。

 もちろん逆に、相澤自身にも他の誰かに加勢する余裕はない。

 

 長引くか、と思って相澤がぎり、と奥歯を噛みしめた……その時。

 

 脳無のすぐ斜め後ろの茂みから、細身の影が飛び出し……ばしん、と脳無の首元に手刀を打ち込んだ。

 

 それ自体は、脳無にとっては痛打に等なりえない、あまりに弱い攻撃だった。打ち込んだ場所は、傷どころか赤くすらなっていない。

 

 しかし、そのたった一撃が……致命的なものだった。

 それを打ち込んだのは……その一撃で相手を止められる『個性』の使い手だったのだから。

 

「『エネルギーバインド』……イレイザー!」

 

「援護感謝します……アナライジュ」

 

 手刀と一緒に叩き込んだエネルギーを介して、脳無に『エネルギーバインド』をかけたアナライジュ。彼女が飛び退って脳無の傍を離れると同時に、イレイザーは捕縛布を飛ばして脳無を縛り上げる。

 身動きが取れなくなったところで、再度アナライジュが脳無の体に手を触れ……先程よりもはるかに多くの『エネルギー』を流し込み、それを持って完全に動けなくなるレベルで『エネルギーバインド』をかけた。

 

「……『脳無』、だったかしら? 何なのこれ……体内のエネルギーの流れが滅茶苦茶……それでいて馬力は非常に強い。長く縛るのは無理かも。でもこれで、1時間くらいは大丈夫なはず」

 

「助かります。1人じゃきつい相手だったんで……」

 

「あらやだ……新手? んもぉ、厄介ね!」

 

 ヒーロー側に加勢が現れ、さらに脳無が無力化されてしまったのを見て、マグネは相変わらず軽いままの口調で……しかし、警戒を露わにする。

 

 それはもう1人の『敵』……スピナーも同様だった。言葉こそ発しないが、マンダレイと切り結びながら、どう動くべきかを考え……しかしその途中で、別なことに気づく。

 

(……? 何だ、この音は……)

 

 どこからか、何か大きなものが移動してくるような音が聞こえてくる。

 バキン、ベキン、ドゴォン……といった、何やら破壊的な音も。生徒と思しき、子供の悲鳴もそれに混ざっているようだ。

 

 ほほ同時にマンダレイもそれに気づき……睨み合いながらも不思議に思った……次の瞬間、

 

 

『GYYYAAAAAA!!!』

 

 

「きゃあっ!?」

 

「ぬぁあっ!?」

 

 横の木立から……というか、その木立を盛大に吹き飛ばして飛び出してきた、黒い巨大な怪物。

 それに驚いて、思わず2名は逆方向に飛び退って距離を取った。

 

 マグネと虎、それに相澤とアナライジュもそれに気づき、驚きを隠せない。

 

「なっ……アレは……常闇君の!?」

 

「常闇の『黒影』……暴走してるのか!?」

 

 

『マダダ、マダァ……暴レ足リンゾォォオォ!!』

 

 

「よせ……もう、止まれ、『黒影』ッ……!」

 

 

 自らの『個性』である『黒影』に、体を半分取り込まれているようにすら見える形になっている常闇が苦しそうにうめいているのを相澤は見た。

 しかし、予想をはるかに超えて強力な破壊をまき散らしている黒影に、相澤では近づける気がしない。相澤の『抹消』では、個性そのものは消せても、異形型や、『個性』で生み出されたものそのものは消すことはできないのだ。すなわち、『抹消』で黒影を止めることはできない。

 

 夜空に向かって、オオカミのごとく咆哮する『黒影』。止めるには、弱点である光が要る。

 

(くそ、ライトでも何でも持ってくりゃよかったか……『個性』で光を出せるのは、轟、爆豪、青山、八百万、上鳴……あとは、副次効果としてなら緑谷……それに……)

 

「イレイザー、後ろだ!」

 

「!?」

 

 その瞬間、虎の声に反応してとっさに飛びのいた相澤。

 そこに……拘束されている脳無とはまた別な脳無が現れ、その太い腕……ではなく、蛇のような太い胴体を地面に叩きつけていた。

 

 間一髪それをかわした相澤は、その脳無が……上半身は人型、下半身は蛇の、いわゆる『ラミア』のような容姿をしていることを把握する。

 

 そして同時に、今の騒動の間に……先程まで、虎とマンダレイが相手をしていた、2人の『敵』がいなくなっていることに気づく。相手取っていた2人も同様のようだ。

 どうやら、形成の不利を悟って判断し、今の混乱に乗じて撤退したようだ。

 

「っ……次から次へと……!」

 

 敵が減ったのはいいが、危険人物を野放しにしてしまったという状況は決して好ましくはない。

 

 ぎり、と奥歯を鳴らして相澤は……目の前の脳無と、向こうで苦しんでいる常闇と黒影を交互に見る……が、その黒影は、今の物音を聞きつけてか、今度はこっちに向かってくるではないか。

 

 夜の闇で力を増している……だけではなく、何かきっかけがあってあそこまで暴走しているのだろう。あれほどの力であれば……あのラミア脳無はもちろん、今拘束している黒脳無すら倒してしまえるかもしれない……それほどの力だ。

 しかし同時に、理性的な動きは期待できない。こちらも敵とみなし、破壊衝動のままに攻撃してくるはずだ。

 

 幸いにして、今の脅威はあの黒影とラミア脳無だけ。相澤は素早く状況を整理し、指示を出す。

 

「ここは自分と虎で押さえます! マンダレイは他の生徒達の救助へ、アナライジュは何でもいいので光を持ってきてください、火でもライトでも……とにかくアイツを止められる手段を……」

 

「それなら心配いらないっすよ先生!」

 

 しかしそこにさらに割り込む声。

 

 と同時に、黒影と常闇の背後の茂みから、やや小柄な影が飛び出し……物音を察知した黒影が、その影目掛けて襲い掛からんと腕を振り上げる。

 が、それが振り下ろされるよりも早く……

 

 ――バチチチチィ!!

 

『キャンッ!?』

 

 上鳴が放った電撃……その光に驚いた黒影が、急激に力を失って縮んだ。

 

 その隙に、どうにか制御を取り戻すことに成功した常闇は……自分の足元に黒影が元の大きさで戻ってきたことを確認して……ようやくそこで脱力し、膝をついた。

 

 その場に、放電を終えた上鳴と……一緒に来ていたらしい、峰田、小森、小大らが『大丈夫か!?』と駆け寄っていく。

 

 それを見つつも……相澤を含む数人は、黒影が無力化された瞬間に動きだしていた。

 

 敵がいなくなってフリーになった虎が、正面にいた相澤に襲い掛かろうとしていたラミア脳無に、死角から一撃を入れて叩き伏せる

 

 同時に、相澤がそれを捕縛布で拘束し……動けなくなったところに、ダメ押しとばかりにアナライジュが『エネルギーバインド』を叩き込み、重ねて動きを封じる。

 何かする暇もなく、極めて迅速に、ラミア脳無は無力化された。

 

 ひとまず事態が好転したことにほっとしつつも……相澤は、同時に別な部分の問題に気づく。

 今目の前にいるうちの何人かは、施設で待機していた生徒のはずだ。そして、相澤は、あくまで施設に退避し、その後そこで待機していることを前提として『戦闘許可』を出した。その後、自分達で能動的に動いて敵の迎撃ないし撃破などに出ることまでは許可していない。

 

 ならばここは、指示にない行動をとっている生徒達を叱責すべき場面か、とも一瞬思ったが、それはそれでまた別な違和感がある。

 

 これが……出てきているのが、緑谷あたりならば、『お前またやりやがったな』とでも言っていたかもしれないが……相澤が知る限り、峰田や上鳴は……自分から積極的に危険に飛び込んでいくような性格ではない。むしろ、プロや教師に積極的に任せようとする気質がある。

 もちろん、いざという時には勇気を出して動ける性格であることも知っているが。今のように。

 

 つまり今、施設にいるはずの上鳴や峰田がここにいるということは……その『いざ』が今、起きている可能性が非常に高い、ということであった。

 

 そして、そのメンバーの中に……こういった場面で最も冷静沈着に動くことができる生徒の1人がいることを確認して、相澤は彼女に声をかける。

 ほぼ同時に相澤の方を確認し、駆け寄ってきた……B組の委員長、拳藤に。

 

「拳藤、一体何があった、なぜここにいる……説明しろ」

 

「イレイザー……宿泊施設が……さっき、『敵』の攻撃で全壊しました。もう、あそこを避難場所として使うことはできなくて……それで、逃げて来たんです」

 

「「「!?」」」

 

 相澤のみならず、それを聞いていた虎やマンダレイ、アナライジュにも衝撃が走る。

 

 これまで、自分達の動きの大前提になっていた部分が崩壊したのだから無理もないが……その説明を聞いていた他の面々も、口々に、こちらはしかし慌てた様子で告げる。

 

「そうなんすよ相澤先生! やべーヴィランが襲ってきて、それで……施設完全にぶっ潰れちゃって、もう全部瓦礫の山で!」

 

「死ぬかと思った……いや、パンドラズ・アクターが守ってくれなかったら死んでたかも……」

 

「その敵ですが……国際手配レベルのテロリスト『敵』らしいです。名前は確か、ウォルフラム……金属を操る個性……だったかと」

 

「それもパンドラズ・アクターからの情報なんだけど、私達を逃がすために、そいつと戦ってくれて……その間にブラドキング先生の先導で逃げて来たんだけど、また別な敵が、青い炎を出す奴が襲ってきて……先生が戦ってくれたけど、それで皆散り散りになっちゃって……」

 

 矢継ぎ早に語られる情報……しかも、ものの見事に全て凶報であるそれらに、相澤は、ぎり、と、今日何度目になるかもわからない歯ぎしりを響かせた。

 

 

 

 

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