TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回で『林間合宿編』はラストになります。

途中、ちょっと耐えきれずにネタに走ってしまった……

それと、あとがきにてちょっとした連絡?があります。
お目通しいただければ幸いです。


第128話 夜の終わり

 『敵』が襲撃かけてきてるところに常識だのなんだの期待するのなんて無駄だとはわかってるけどさ……今日これ、事態が急転直下しすぎじゃないだろうか。何から何まで。

 

 ……1回整理してみるか。

 

 えっと……花火&キャンプファイアーの用意しようとばらけて移動してるところに、同時多発的に『敵』が襲って来たんだっけな。

 マンダレイと虎さんのところ、ラグドールのところ、ピクシーボブのところ、洸汰君がいたところ、そして施設。少なくともこの5カ所に同時に。

 

 ああでも、私達が避難中にぶっ飛ばした脳無や、あのガス野郎もいたし……そうすると最低7カ所ってことか。それも、チンピラどころじゃない戦闘能力を持った奴ばっかだって話だった。

 

 それ以外のところにも出てたのかもしれないが……情報が入ってこないのでわからん。……出ていないことを祈りたいけどね……。

 

 私達と緑谷は、洸汰君を助けるためにあの筋肉野郎と戦って、けど私はエネルギーが枯渇寸前だったから、早々に洸汰君を連れて逃げる係にシフトした。

 

 が、その途中であの性犯罪者のガスに巻かれ、やむなく私は洸汰君を、少々手荒な方法でガスの効果範囲外に離脱させ……自分は力尽きて気絶。

 その最中、性犯罪の被害者になりそうだった所を、緑谷に助けられた。とっくにカンストしてると思ってた緑谷への好意がまた一段と高まったのを感じた瞬間だった。

 

 その後、再び気絶してしまった私は、緑谷とラバーによって施設に運ばれ、そこで目を覚まし……しかし、間髪入れずにそこに別な『敵』が襲撃をかけて来た。しかも、国際手配されてるテロリストだのっていうヤバい肩書を持ってる奴が。

 

 そいつをパンドラズ・アクターが相手してくれてる間に、ブラドキング先生の引率で逃げ出したものの……そこにさらにまた別な敵が襲い掛かってきた。手から青い炎を放射する奴が。

 何なんだよこの襲撃頻度……わんこそばかよ。次から次へと。いらねーよもう。ヴィランじゃ腹は膨れないんだよ。

 

 ブラドキング先生がそいつを相手する間に、私達だけでさらに逃げた。

 しかしそこにさらにまた別な、今度は脳無が何体も現れて……結局そこで皆、散り散りになってしまったのだ。

 ただ、先生が移動中に避難先の候補として上げていた場所は覚えていたため、そこで現地集合するような感じで、幾人かは集まることができている。

 

 それでも……一緒に移動していた人数の半分もいないが。上鳴や峰田、小森……それに、緑谷もいない。

 皆、伊達や酔狂でヒーロー科に在籍しているわけじゃない。無事だとは思うが……今回の場合、あのテロリストみたいな規格外の奴も『敵』側にいるらしいから……楽観はできないな。

 

 ……そして、いずれにせよ……今の私にできることは、正直……もう、ない。

 

 ここに走ってくるまでの避難……もとい運動で、エネルギーが完全に枯渇してる。今の私は……多少身体能力が高いだけの、ただの『無個性』に等しい。

 『自食作用(オートファジー)』という最終手段はあるものの……あれは相当に切羽詰まった状態じゃなければ使わないことにしている。使えばほんの数分、力は戻るだろうけど……その後、急いで何か腹に入れなければ、栄養飢餓でガチで命の危険がある。

 

 今現在、私達は……宿泊施設が避難場所としてダメになったので、そこから少し離れたところに、別に用意されている倉庫に来ている。

 古い山小屋を改装したものだそうで、宿泊施設の保管庫に入りきらない、あるいはあまり出番のない物資や設備を保管している場所だそうだが、幸いなことに非常用の物資なんかも保管されている。簡易的な山小屋として使うこともできるそうだ、今でも。

 

 ただ、防犯構造ははっきり言ってアレな上、ここを守ってくれるヒーローもいないから、率直に言って『屋根があるところで休める』くらいのものでしかないが。

 

 それでも、少しでも落ち着いて休める環境っていうのは、今の私達には必要なものだ。

 

 それは、『施設』から避難してきた私達にはもちろん……『敵』との戦いで、あるいは避難する過程で傷を負って逃げて来た者達にも言える。

 

 さっきから、何人かここに運び込まれてきてるんだよな……そういう怪我人が。

 

 当然ながら、その連中をほっとくわけにはいかず、手当しなければならないわけだが……幸いなことに、さっき言ったようにここには救助用の物資がある。医薬品なんかも。

 ただ、そんなに潤沢にあるわけじゃないし、種類も限られている。

 傷の洗浄や消毒に使える水は……一応水道は引いてあるから、今のところ問題ないが。

 

 ヒーロー科であれば、何かあった時用に、応急手当や心肺蘇生の方法は必須カリキュラムとして学んでいるので、簡単な手当てはできるが……一定以上の重傷になると、応急処置だけでは不足なこともある。……既に、そういう奴が何人か出てきてしまっている。

 

 応急処置の範囲でできることはやったが、このまま放置しておくと……死ぬことはないかもだが、かなり症状が悪化してしまう可能性が高いのが、何人か……1年ヒーロー科には治癒系の『個性』持ちがいないので、こういう場合に打てる手がないのだ。

 

 一応、応用としてそういうのができるとすれば……瀬呂、八百万、そして私くらいだろうか。

 瀬呂はまあ、テープで傷や骨折箇所の応急手当、八百万は医薬品を『創造』して……って感じで。しかしそのどちらも、ここにはきていない。

 

 そして私は、何度も言うように今、エネルギーがすっからかんだ。応急手当に手を貸すことはできても、『個性』を用いた治癒……『エネルギー譲渡』や『コンセントヒール』を行うだけの余裕がない。

 宿泊施設になら『ゼリー』があったはずなんだが……食べる前にあの、ウォルフラムだかっていうテロリスト『敵』が現れたからな……置いてこざるをえなかった。

 

 エネルギーを補充しなければ、私は役立たずだ。正直、純粋に肉体に貯蔵されているエネルギーも……ちょっと枯渇気味になってきてる感触が……さっきからろくに動けなくて、怪我人の処置とか、皆に任せっきりになっちゃってるし……

 

 ただそんな中、さっき砂藤が『ちょっと考えがある』っつって走っていったんだが……何だろう、何か秘策でもあるのか?

 

 ……まさかとは思うけど、『ゼリー』を取りに宿泊施設の方に行った、なんてことは……いや、さすがにないよな。砂藤が走っていったの、山小屋の中の方だし。何かを取りに行った、と考えるのが自然だ。

 

 でも、何を? 『考え』って……この状況を打開するための手になるようなものなのか?

 

 ……だめだ……栄養が足らないせいもあると思うけど、頭が回らなくなってきた……意識を保っているのがしんどい。体が、疲労と色々な不足で悲鳴を上げてる。

 

 ……正直、あの性犯罪者にやられそうになった(色んな意味で)時点で、結構限界で……そこからここまで逃げてこれたの、ランナーズハイみたいな部分もあったからだろうな……ここにきて、下手に心と体が休まった分、そのへんのが噴き出してきたか……と、思っていた時、

 

「すまねえ、遅くなった!」

 

「砂藤!? お前、いないと思ったら、どこ行って……何だそれ?」

 

 小屋の奥から駆け出してきた砂藤と、それを見て声を上げた尾白。尾白の方は、何か言いかけて思わず止めた、っていう感じだった。

 恐らく、今、砂藤が持ってきたものを見てだと思う。よくわからなくて。

 

 今の砂藤は、どこから持ってきたんだか……いや、多分奥の倉庫とかからだとは思うけども……よくわからないものを手に持っている。いや、何を持っているかがわからないわけじゃないんだが……何に使うためにそれを持ってきたのか、って感じだな。

 

 砂藤は、大きめのバケツ(新品っぽい。ビニールに包まれてる)と、陶器っぽいツボを持っていた。私達の目の前で、ばりっとビニールを破いてバケツを取り出し、ツボの封をしている紙のふたと紐を取り外す。きょとんとしてる私や尾白とは対照的に、神妙な顔つきで。

 

「色々考えたんだが……やっぱり今一番必要なのは、栄陽院の『個性』だと思う。怪我人の中には、本人の自然治癒力だけじゃ不安な奴らもいるからな……万全を期すなら、この合宿中何度も世話になった、あの治癒能力が欲しい。アレさえありゃ、多分大丈夫なはずだ。後遺症とかもな」

 

「それは……俺もそう思うけど、もう栄陽院自身、限界なんだぞ? これ以上の使用は……」

 

「……無茶してどうにかなるならやるのがヒーローだけど、その後に続かないとなるとな……1人か2人助けた後は、多分私、死ぬし」

 

「もちろん、そんなことを許容するつもりはねえよ。ただ単に、栄陽院に『個性』を使ってもらうためには……エネルギーの補充が必要だ。それをどうするか考えてたんだ……そして運がいいことに、この倉庫に、おあつらえ向きのもんが眠ってやがった」

 

 説明しながらも、砂藤は動いている。

 洗面所に行って水道からバケツに水を入れていく。パッケージの表示からして、10リットル入るらしいそれにたっぷりと注ぎ込み……陶器のツボの横に置く。

 

そのツボだが、向きを変えると、ラベルみたいなものが張られているのが見えたんだが……

 

「……『果糖』?」

 

 ラベルって言うか、達筆な毛筆の文字でそう書いてある紙が張り付けてあるみたいなんだが……え、何それ?

 

 『果糖』ってたしか、アレだよな? 果物を精製して作る、純粋な甘味料。

 あ、ラベルに量書いてある……4㎏? 結構あるな……

 

「山で遭難した人に対しては、少量で多くのエネルギーを効率よく取れる食品……チョコレートや、この『果糖』みたいなもんを食べさせることが多い。もちろん、一番はそういう時のための医薬品とかなんだろうが……あの手のモンは保存に気を遣うことが多いからな。こういう、多少雑に保管できるものが、今の世の中でもある程度重宝されてる。ここになら、何かしらあると思ってた」

 

「確かに……果糖は普通の砂糖とかに比べてもかなり早く、負担も少なく人体に吸収されるけど……え、砂藤? お前それ、まさか……」

 

「……常識も何もかも棄てたやり方だってのはわかってる。それでも……今は、これしかねえ。悪いな、ろくに入れ物もなくてよ……未使用品だから、コレで勘弁してくれ」

 

 砂藤は、バケツの水の中に……陶器のツボの中に入っていた果糖を、ざざざ……と一気にぶちまけた。そして、一緒に持ってきていたらしいおたまで、それをさっとかき混ぜる。

 10㎏の水に、4㎏の果糖を混ぜた……14㎏の砂糖水が、私の目の前で出来上がった。

 

 ……なるほど、大体わかった。

 

「……なるほど……飲めってか、それ」

 

「……すまねえ……でも、ここにはゼリーもねえし、携帯食料のクッキーなんかじゃ、栄養価は会っても消化吸収に時間がかかる……『個性伸ばし』で強化された消化能力でも、多分間に合わねえだろう。だが、これなら……」

 

 疲弊している私に、さらなる負担を強いる形になるこの作戦。吸収率無類の『果糖』を溶かした砂糖水で一気にエネルギーを補充し、それを用いて重傷者の治療を行う。

 ……治療には私のエネルギーを補充する必要がある、その大前提を最も効率よく解決するには……なるほど、今の状況じゃ、これ以外にないな。

 

 当然、砂藤自身も苦渋の決断だっただろうし……それを悟った尾白もまた、気軽に喜んだり、受け入れることができるような作戦じゃない。砂糖水14㎏一気飲みなんて、普通に考えて、自殺行為もいいところだ。血糖値爆上がりするだろうし、消化器官ぶっ壊れて死んでもおかしくない。普通の人がやったら、ほぼ間違いなく体壊す。

 

 けど、私なら……大丈夫だ。

 私の個性なら……オーバーカロリーなんてなんのその、むしろ全てを効率よく吸収して力に変えられる。これは……私にしかできない、けど私なら確実にできる『無茶』だ。

 

「ありがと、砂藤……私じゃ思いつかなかった方法だよ」

 

「栄陽院……すまねえ、俺は……」

 

「皮肉なんかじゃない、本気で礼言ってんぞ? ……私にとっては、何もできないまま、友達が苦しんでるのを見ていることしかできないのが……一番つらい。自分の無力を乗り越えて、力を手にできるなら……むしろ望むところだ。それに、オールマイトや……緑谷も言ってたしな」

 

「……?」

 

「ヒーローとは……常に、限界を超えていく者だ、ってよ……!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ごく……ごく……と、喉を鳴らして、砂糖水を飲み下していく音が響く。

 溶けた果糖の爽やかな甘みを感じながら、絶え間なく喉を動かして、永久はそれを胃袋に送り込んでいく。

 飲み干している量が量だ。当然、胃が膨らんで……腹部もぽっこりと出た形になっていく。

 

 その様子を、砂藤と尾白は黙って見ていた。

 

 連日の『個性伸ばし』の訓練で酷使され、修行中はともかく、その後は、常ならば摂れるはずの豊富な栄養の補給のないまま、只人の肉体としてふるまって来た彼女の体。

 

 力が十分でないところに、突然の『敵』の襲撃。そこで『個性』を使用したことによるエネルギーの枯渇……

 

 そこに加わった、『マスタード』のガスによる毒。いかな強靭な肉体と言っても、毒による負担は決して少なくないもので……衰弱しきった体は、順調に蝕まれていった。

 

 その上さらに襲い掛かる『敵』。心身ともに負担が重くのしかかる。

 

 闘争、毒、逃走……酷使に次ぐ酷使……

 限界に近かった肉体は、正真正銘の限界にまで追い詰められ、彼女の体に残る力は、『個性』によるものにとどまらず、肉体的なそれについても枯渇しようとしていた。

 

 人体最後のエネルギー貯蔵庫である、肝臓のグリコーゲンすらも底をつきかけ、本当に『自食作用(オートファジー)』しか手段が残らないまでに。

 

 何が起こったところで、抵抗する力はすでになく……襲い掛かる敵からは逃げることしかできず、現に、常であれば敵ではなかったであろう矮小な『敵』に、主に捧げた肉体を穢されかけるまでの醜態をさらした。

 

 ―――……どくん

 

 主である緑谷とはぐれて動けなくなり……彼が戦っているであろう場にいられない。

 ……今の自分では、いても邪魔になるだけだろうが、それも含めて悔しいばかりだ。

 

 ―――…どくん

 

 さらには、自分の身を案じてくれている、砂藤や尾白といった仲間に、罪悪感を抱かせ、悲痛な顔をさせるまでさせてしまった。彼らは間違いなく、最善の方法を提示してくれているというのに。

 

 ―――どくん

 

 守るべき小さな子供……力なき市民である洸汰にも……決死の覚悟で守ろうとしたとはいえ、それゆえに涙を流させてしまったと聞いた。

 

 ―――どくん!

 

 彼女の肉体は……細胞達は……そして『個性』は……復讐を誓っていた。

 

 今後もし、同じようなことが起こったならば……二度と無様は晒さない。

 共に戦う仲間のため、守るべき市民のため、仕えるべき主のため……必ず乗り越えてみせる。

 

 ―――どくん!!

 

 そのために必要なものを……今、ここで、手に入れる。

 

 ―――どくん!!!

 

 力なく朽ちかけていた、彼女の肉体と精神、そして『個性』に……空前の『超回復』が起ころうとしていた。

 

 ―――ど く ん!!!!

 

 そして同時に……前代未聞の『変容』もまた……その準備を、着々と調えつつあった……。

 

 

 

 

 

((いや、なにも一気に全部飲む必要はなかったんじゃ……))

 

 なお、言うタイミングを逃したーー飲みながら適宜治療してもらう、とかを想定していたようだーー男子2人の心の声は、形になることはなかったという。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.緑谷出久

 

「来んな……デク……!」

 

「かっ……ちゃん……!」

 

 僕の目の前で、USJの時にも見たワープの『個性』の『敵』……黒霧の開いたゲートが、閉じる。

 その向こうに……かっちゃんの……僕の幼馴染の姿を残したままに。

 

 ……守れなかった。取り返せなかった。

 自分の中で、そんな思いばかりが反芻される。

 

 恐らく、ここにいる皆……轟君や麗日さん、梅雨ちゃんや飯田君……皆、同じ思いだろう。

 

 完全に……僕らの、負けだ。

 

 

 

 宿泊施設を『ウォルフラム』とかいうテロリスト『敵』が襲撃してきた後、さらに襲って来た別な『敵』や脳無によってばらばらになった僕ら。

 その後僕は、運よく、と言っていいのか……轟君やかっちゃん、さらに飯田君や麗日さん、梅雨ちゃん達とも合流することができた。

 

 麗日さんと梅雨ちゃんは、また別な『敵』に襲われてたみたいだったけど……僕らが来たら、数の不利を悟って逃げたらしい。

 遠めに見えた感じでは、僕らと同い年くらいに見える女の子だったと思うけど……

 

 しかしその直後、敵の『個性』によってかっちゃんが攫われてしまい……それを追いかけて、僕らは『敵』が集合場所にしていたらしいところまで行った。

 

 けど当然ながら、『集合場所』である以上、そこには強力な『敵』が数多く揃っていて……コスチュームもなく、人数も十分でなく、何人かは連戦で疲弊している僕らでは防戦一方だった。

 

 加えて……そうじゃないかとは思ってたけど、どうやら今回の襲撃は、USJの時とは違って、量よりも質を重視にして集められたメンバーらしく、本当に凶悪な『敵』が揃っていた。

 

 全てを焼き払う威力の青い炎を放つ……つぎはぎみたいな肌の『敵』……荼毘。

 

 女子高生みたいな見た目の――多分、麗日さん達が襲われてたのはこいつだ――刃物を使って襲ってくる『敵』……トガヒミコ。

 ……なぜだか、妙に僕に親し気に話しかけて来た。……初対面のはずだけど……?

 

 黒い全身タイツの装束を纏った『敵』……トゥワイス。

 自分自身は戦わないものの、僕らの目の前で荼毘を2人に『増やした』。とんでもない『個性』だ。

 

 人間を磁石化する『個性』に加え、単純なインファイトの実力の高さも脅威だった、大柄な男……だけど口調がちょっとアレな『敵』……マグネ。

 

 トガヒミコ同様、いくつもの刃物を使って襲い掛かってくる……自らを『ステインの後を継ぐ者』と称した、トカゲみたいな異形の姿の『敵』……スピナー。

 

 戦い方なんかに差はあれど、油断できない奴ばかりだった。

 

 こちらも決して浅くない傷を負いながらも、どうにか食らいついて……そうしているうちに、周囲にいたらしい青山君や鎌切君、切島君や障子君なんかも駆けつけてくれて、一旦はかっちゃんを取り戻すことに成功したのだ。

 これなら後は撤退するだけ。どうにかなるか……と、思い始めた矢先だった。

 

 轟君が、熱と冷気を駆使して発生させた水蒸気の煙幕に紛れて、撤退しようとした、まさにその時。

 僕らの行く手を塞ぐように、敵の1人であり、『出入口』でもある黒霧が現れ……さらに、そのゲートの向こうから、敵方の援軍となる、予想だにしなかった相手が現れた。しかも、3人も。

 

 1人目は……宿泊施設を襲撃してきた、あの仮面の『敵』……ウォルフラム。

 パンドラズ・アクターが戦ってくれていたはずの奴がここに……彼が負けたのか、それとも黒霧が回収したから、戦線を離脱してここに来たのか……できるなら、後者であってほしい。

 

 2人目は……荼毘だった。あっちに2人いるのに……恐らくは、こっちがオリジナルだったんだろう。つまりあっちのは、コピーと、コピーのコピーってことだ。……それでも十分強かったのに。

 

 そして、最後の1人……こちらも、僕が知っている顔だった。

 それでいて、僕の知る限り……最凶最悪の『敵』と言っていい1人……『分解と修復』という、恐ろしく強力で汎用性の高い『個性』を持つ『敵』……『オーバーホール』。

 

 何でここにいるんだとか、逮捕されたはずじゃないかとか、『敵連合』に入ったのかとか……頭がこんがらがって上手く考えられない間に、オーバーホールと荼毘の広範囲攻撃で、一瞬で僕らは蹴散らされてしまった。たちこめていた煙幕ごと。

 

 僕だけならまだよけられたかもしれないが……連戦による疲弊に加え、コスチュームによる補助……特に『サイコフレーム』による感応能力の支援がない状態では、相手の攻撃を察知して、自分も皆も被害なく回避することは無理だった。

 負傷と疲労で動きが鈍くなっていて、攻撃をよけきれない麗日さんと飯田君をかばいつつ、どうにか深手を避けるので精いっぱいで……

 

 そこに追撃でもされたらまずかったかもしれないが、それはされなかった。

 しかし代わりに、かっちゃんが再び奪われ……黒霧のワープゲートに放り込まれ……

 

 そして、冒頭に戻る。

 

「悲しいなあ……有精卵共……だっけか? 目の前で攫われていく学友1人、助けることもできないとは……」

 

 嘲るような……実際あざけっているのであろう、荼毘の言葉が……僕に、僕らに突き刺さる。

 黒霧のゲートに飛び込まず、ここに残った荼毘。それも2人。

 

 こいつらはコピーだ……本体ではないから、回収しなかった、ってことだろうか。

 ……コピーだとしても、戦った感じ……攻撃性能は本体と同じか、限りなく近い。危険であることには変わりない。

 

 失意の底に叩き落され、上手く体が動かず、心も整理できていないけど……

 

(落ち込んでる暇……ない……! 戦わなきゃ……やられる!)

 

 勝っちゃんが最後に見せた、あの目。あの光景を思い出すだけで、心が張り裂けそうになる……けど、今は考えるな! これ以上犠牲を出すわけにはいかない……ここで僕が、コイツを止めないと……!

 

 そう決心するも、僕らはすでに満身創痍だ。轟君も、飯田君も、麗日さんも梅雨ちゃんも、他の皆も……大なり小なりの傷を負って、動きが鈍い。

 強い衝撃を与えれば消えるようだけど、それを補って余りある攻撃力を持つ、荼毘のコピーが2人……果たして、無事に済むかどうか……

 

 そんなことを考えていた……その時だった。

 

「せっかくだ、選ばせてやるよ。ここで死に物狂いで抵抗するか、罪の意識ごと命を棄てるか……後の方が楽だと思うぞ? お前らみたいなのは、そういうの結構気にするだろうしな……子供は子供らしく、責任全部大人に擦り付けてドロップアウトっていうのも……」

 

 

 

「く た ば れ ェ!!!」

 

 

 

 ―――ドッッゴォォオオォオォン!!!

 

 

 

「「「!?」」」

 

 突如として、横の茂みから噴き出してきた大爆発……それによる爆風に、荼毘(コピー)が2人とも飲み込まれた。

 

 突然のことに、荼毘達はもちろん……僕らも、一体今何が起こったのか、わからない。

 

 いや、わからないことはない。というか、こんな現象を引き起こせる人を……僕は1人しかしらない。それに、今、攻撃の瞬間に聞こえた声も……

 でも、そんなはずはない。だって……彼は……

 

「……おいおい、どういうことだよ……?」

 

 コピーの荼毘は、困惑と脱力感の混じった声音でそんな風に呟きながら、どろりと解けてその身を消失させた。2人共だ。

 

 そして、僕を含む生徒達は……恐らく、同じ理由で困惑しっぱなしのまま、今の光景を何も言えずに見ていて……

 

 そんな僕らの目の前に、茂みの中から2人の人物が姿を現した。

 

「はッ……俺がてめぇらなんぞに易々と攫われるかってんだ、クソ敵共が!」

 

 今さっき、確かにワープゲートの向こうに連れ去られたはずのかっちゃんと、もう1人……

 

「アハハハハッ! 連れ去られる一歩手前まで行っておいてよく言えるねえ君、手の皮だけじゃなくて面の皮まで厚いみたいじゃないか。というか君ほとんど連れ去られてたようなもんだよね? 実際僕以前に緑谷君達が助けてくれなかったらあの変なビー玉に閉じ込められてそのまま「死ね!」ぐふうっ!?」

 

 こんな時でも絶好調の煽り節を響かせ……その手から、『爆破』使用直後であることがわかる煙を立ち上らせている……B組の問題児。

 けどこの場では、MVPとすら言っていいであろう活躍をして見せたことが後で明らかになる、物間君だった。……かっちゃんに殴られてたけど。

 

 

 

 これは、その少し後になってから……無事に先生方に保護されたところで、物間君から聞いた話になる。一体あの場で、何が起こって……どうしてかっちゃんが無事に済んでいるのか。

 

 場面が動いたのは、轟君の水蒸気煙幕に紛れて僕らが逃げ出そうとした、あの時だ。

 あの時既に、物間君は物陰に潜んでいたらしい。いざという時に奇襲できるように。

 

 その必要もないまま、撤退成功、出番はないかと思われたわけだが……黒霧がゲートを開いて、見るからに強力な『敵』が現れたところで、即座に彼は動いた。

 

 煙幕に紛れて駆け出し……素早く2人の人間に触れて、『個性』を『コピー』した。

 その際、直前にコピーしていた取陰さんの『トカゲのしっぽ切り』を使い、遠隔で手を飛ばして触れる、なんて芸当も使ったそうだ。

 

 そして、かっちゃんの手を引いて茂みに逃げ込み……同時に、コピーした『個性』を発動。

 

 トゥワイスの『個性』によって、自分をコピーして2人に増やした。

 

 トガヒミコの『個性』によって、そのコピーした複製の自分を、かっちゃんに変身させた。

 変身に必要な血液は、既にかっちゃんがケガしていたので、それをこすって頂戴してからなめとることで、ごくわずかであるが摂取したらしい。

 

 その『かっちゃんに変身した複製の物間君』と、本物のかっちゃんが煙に紛れて入れ替わり、間一髪で煙が晴れる前に茂みの中に離脱。

 

 そのまま、偽物のかっちゃんを攫わせることで、まんまと敵を騙したというのだ。

 

 そしてその直後、ちょうど時間切れで使えなくなった『トカゲのしっぽ切り』の代わりに、かっちゃんの『爆破』をコピーして……かっちゃんと2人同時に放った大威力の両手爆破で、一撃で荼毘を倒した……と。

 

 敵の個性を組み合わせた囮の作成と、入れ替わり……あ、あの一瞬でそれだけのことをやってのけたのか……すごい、やっぱ物間君、性格はアレだけど、策士としては一流なんだ……!

 

 え、もともとかっちゃんが狙われてたことが分かって、あの2人(トゥワイスとトガヒミコ)の個性が分かった時点で考え付いた策だったから、あの場で一瞬で思いついたわけじゃない? いや、それでも十分にすごいよ。

 

 その 後、今言ったように先生たちによって、僕らは保護された。

 

 黒霧がゲートを閉じてから結構すぐに来たから……オーバーホールやウォルフラムが僕らにとどめを刺さないで帰ったのは、万が一にも追って来たヒーロー達に補足されることがないように、っていう理由もあったのかもしれない。

 

 そうして……もうあと1泊で終わるはずだった、楽しいキャンプファイアーが行われるはずだった『林間合宿』は……当然ではあるが、6日目の夜にして中止となってしまった。

 『敵』の……しかもあの『敵連合』による襲撃がなされ、生徒に重軽傷者多数……さらに、プロヒーロー1名……ラグドールが『行方不明』という結果になった。

 

 幸いにして、死者こそ出なかったものの……これは本当に、大変なことになった、と言わざるを得ない。

 どうすればいいんだろう、僕ら、これから……

 

 ……僕が意識があったのは、そこまでだ。

 

 倉庫を中心に設営され、栄陽院さん達が負傷者の手当をしたりしていた仮の避難所で、救助車両の到着を待っていたんだけど……どうやら、出血によるダメージや疲労がバカにならないものになっていたらしく、途中で意識を手放してしまったから。

 

 その翌日、病院のベッドの上で目を覚ますまで……僕は、そのまま眠ってしまっていたそうだ。

 

 

 

 




【速報】爆豪、誘拐回避。物間大金星。

そして砂藤海王のお陰で永久、復活。
まあ、やることは治療で、前線には出てきませんでしたが。



では、前書きでお話しした通り、連絡をば。

本作『TSから始まるヒロインアカデミア』ですが、次章『神野区編』か、そのもうちょっと後あたりで終了になるかと思います。
どんな形になるかはまだわかりませんが、そこまで全力で突っ走っていきたいと思いますので、今しばしの間、どうぞよろしくお願いします。

……今ちょうど、ちょっと前にネットTVで劇場版第2弾『ヒーローズライジング』見て、作者の執筆意欲がPlus Ultraしてますので、この熱が続いてるうちに、行けるとこまで……

それと『神野区編』ですが、かなりガッツリと原作より変わる上、結構長くなるかもしれません。そんな気配がしてます。

今後ともどうぞよろしくお願いします。
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