TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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今回より新章『神野区決戦編』スタートです。

どうぞ。


第8章 栄陽院永久と神野区決戦
第129話 広がる波紋、生まれる波紋


 

 

「あーあー、派手にやってくれたな、あんにゃろ……」

 

「えほっ、えほ……何ですかぁ、今の……自爆?」

 

「……自爆の瞬間、泥みてえに溶けてなくなってくのが見えた。ありゃ……」

 

「おいおいおい待てよ荼毘!? 俺は何もしてねえぜ!? ああ、確かに見た、ありゃ俺の『個性』だ!」

 

 場所は、とある場所にある……『敵連合』の拠点となっているバー。

 そこは現在、かなり凄惨な光景が広がっていた。

 

 まるで、店の中で爆弾でも爆発したのかというような破壊痕。机が、椅子が壊れて吹き飛び、壁や床がえぐれ……バーカウンターの向こう、棚に飾られた酒瓶も、何本か倒れたり割れたりしている。

 

 実際にこの惨状は、かなり大きめの『爆発』がそこで起こったことによるものなのだが、あまりにも突然のことだったがゆえに、現状を飲み込めている者は、まだ誰もいなかった。

 

 『敵連合』のメンバー達は、今まさに、さらってきた爆豪に『仲間にならないか?』と勧誘していたところだったのだが、捕らわれていた爆豪は、『寝言は寝て死ね』と、間違えているのか罵倒しているのか微妙にわかりにくい反論を口走った直後……最大威力の『爆破』をその場で放ち、自爆したのである。

 

 とっさに黒霧が、爆風や飛んでくるものをワープゲートで散らして癖ぎ、さらにMr.コンプレスが、玉に圧縮して持っていたバリケードなどを出して、爆風を防ぐ遮蔽物にした。

 

 そのおかげで、この程度の被害に抑えられたのだ。

 

「今の崩れ方、私も見たわ。間違いなく、トゥワイスの『個性』……でも、違うのよね?」

 

「あ、あぁ! 俺はあいつのコピーなんざ作ってねえし、そもそも作れねえよ! 事前に採寸やら何やら済ませた荼毘とかならともかく、攫ったばっかのアイツのコピーなんざ作れねえ」

 

「じゃ、間違えてコピーの方を攫ってきちゃった、っていうこともないわけですね……でもじゃあ、なんで?」

 

 トゥワイスは、自分の『個性』で作ったものであるということは否定するが、荼毘やマグネが見た光景からは、明らかに彼の『二倍』で増やしたもの……の、朽ち果て方だったとわかった。

 

 しかし一方で、トゥワイスの言い分も正しい。

 彼の『個性』は、手で触れたものを2倍に増やすものだが、無条件に発動できるわけではない。複製には、正確な採寸と明確なイメージが必要になる。装束の手首の部分に仕込んでいるメジャーを使い、対象の大きさその他を正確に採寸し、その情報とはっきりとしたイメージを持って臨むことで、初めて『二倍』にできるのだ。

 

 コンプレスが爆豪をさらってから、黒霧により転送させられるまで……そんな暇は一秒たりともなかったし、自らも暴れまわる爆豪を相手に、非戦闘型であるトゥワイスは近づけてもいない。

 

 そこで、ふと思いだしたように荼毘が、

 

「……そういや、雄英体育祭の映像の中に……他人の『個性』をコピーする奴がいたな。おいトガ、トゥワイス、お前ら……そうだな、多分あの煙幕の時だと思うが、何かに触られなかったか?」

 

「……そういえば、触られたっていうよりは、ぶつかったような気もします……」

 

「俺も確か何かにぶつかったぜ!? 覚えてねえけど! てっきりトガちゃんだと思ってたんだが……知らねえけどな!」

 

「……その時だな。今の爆豪……の偽物は多分、2人の『個性』の合わせ技だ」

 

 からくりに気づいた荼毘……と、続けてコンプレスもそこに思い至った様子で、

 

「なるほど……トゥワイスの『個性』で自分を増やして、トガちゃんの『個性』で変身したのか。スモークがたかれたあの一瞬で入れ替わって……なるほど、大した役者だな、一杯食わされた」

 

 トゥワイスの『個性』は、採寸とイメージなくして複製はできない。

 しかし例外的に、自分自身であればその限りではない。採寸なしに複製することができる。

 

 トゥワイス自身は、あるトラウマゆえに自分を増やすことができないのだが……これがもし、トゥワイスの『個性』をコピーした他人であれば?

 コピーした『個性』で自分を複製し、さらにその複製の自分に、またしてもコピーした能力として『変身』を使わせれば……

 

 真実に行き着いた連合メンバーは……最後の最後で騙されていたことに気づき……ある者は唖然とし、ある者はぎり、と奥歯を鳴らした。

 

 そんな中にあって、冷静さを保ったままだった1人である死柄木が、ぱんぱん、と柏手を打って注目を集める。

 

「やるもんじゃないか、お前らから一本取るなんてな……まあ、その点についちゃこっちの負けだ、潔く認めよう」

 

「……それでいいのかい、大将?」

 

「いいさ。ま、スカウトできればそれにこしたことはなかったが……こっちの目的そのものは、既に達成されているからな」

 

 ぱんぱん、と服についた埃を払うようにして、死柄木はカウンターの椅子に座り直す。

 そして、自分に視線を集中させている、店内の連合メンバーを見回すようにして、

 

「お前らも色々あって疲れたろ? ひとまず休もう……何、これから数日間……退屈はしないさ」

 

 そう言いながら、カウンターの上にあったリモコンを手に取り、店の壁際に置いてあるテレビ……真新しい、大画面のそれに向けて、電源を入れた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 無我夢中だったので、あの後のことは……正直、よく覚えていない。

 

 砂藤が作ってくれた14㎏の砂糖水を飲み干した後、急激に補給できたエネルギーを使って、傷を負っていた生徒達の治療を行った私は……どうにか全員分、ひとまず問題ない所まで『コンセントヒール』で癒すことを終えたところで……今度こそ、意識を落とした。

 

 で、気が付いたら……知らない天井だった。

 

 まあ、予想通り病院に搬送されていたわけで……あちこちケガしてたので、点滴とか心電図とか色々繋がれてベッドに寝かされていた。

 

 その後のことは、病室で診察してくれたお医者さんに聞いた。

 さらにその後、共有スペースで雑談――ってほど軽い感じで話してはなかったけど――していた、クラスの皆に追加で聞いて、大体の今の状況を把握できた。

 

 

 

 『敵連合』の襲撃を受け、当然ながら『林間合宿』は中止。

 かけつけた何台もの救急車両によって、私や緑谷を含む負傷者は病院に搬送された。

 

 いや、訂正しよう。A組とB組、それに普通科2人……全員が搬送された。そのまま、負傷した者はその手当のため、負傷していない、あるいは軽傷の人も、念のための検査入院として、病院に厄介になることになった。

 

 超がつくほどに大規模な個性戦闘が起こったのに加え……『マスタード』というガス使いの『敵』が投入され、複数種類の毒ガスが用いられていたのが大きな要因だった。種類にもよるが、ガスを吸っていれば、迅速に処置しなければ、後遺症につながる恐れもある。

 

 一応、問題ないと判断できれば順次退院していく予定ではあるが……少なくとも2、3日は様子を見るという方針のようだった。

 

 幸いにして、ガスを吸ってしまった者も、『敵』との戦いで傷を負った者も、心身共に回復しつつあるので、そのへんの心配はいらなそうだ。

 談話スペースでだべってる皆も、割と元気そうだったし。

 

 ただ、私達がよくても……これから、いろんなところが、色んな人が大変そうではあるけどな……

 

 『敵連合』による二度目の雄英襲撃。

 

 しかも今度は、USJの時よりも、被害規模がはるかに大きい。1年ヒーロー科全員そろった所に襲撃を食らい、重軽傷者多数。挙句、犯人グループには見事に逃げられた。

 

 さらに、プロヒーローにも被害が出ている。なんと、ワイプシのメンバーの1人……ラグドールが行方不明になっているというのだ。捜索は続いているが、見つかっていないらしい。

 

 コレ、やっぱ結構なスキャンダルになるよな……天下の雄英が、こう何度も生徒に被害を出して……合宿場所を割り出されて、情報管理も甘かったんじゃないかとかも……

 

 いくらその裏で、相澤先生達がどれだけ必死に戦って考えて、私達を守ろうとしてたんだとしても……起こってしまった結果は変えられない。

 そして、大衆やマスコミは、むしろそっちの結果を重要視して見る。

 

 個室の窓から、眼下に広がる景色を……病院の出入り口から、どうにかして入れてもらおうと、入院している私達に取材しようと、昨日から張っているらしい報道陣を見て、つくづくそう思う。

 

 この病院は、普通の病院ではない。国が運営する公的機関であり、民間の病院とは、規模も立場もちょっと、いや結構違う、特別な病院である。

 基本的に、救急を除く一般の客の診療は受け付けておらず、特殊な事情がある患者や、きちんと理由があって紹介された患者だけが入ることができる。

 

 その分、設備はスペシャルだ。個性医療をはじめ、治療方法の引き出しが豊富なのに加え、設備や物資も一流のものがそろっており……セキュリティも万全。

 

 時には、結構なVIPや訳ありの患者もかかることがあるとか……そういう、特別な病院だ。

 

 私達の場合も、襲われた相手が相手、事件が事件なので、念のためってことでこの病院に運び込まれたのだ。警備の充実に加え、不用意な報道陣との接触、モラルガン無視の取材から守るために。

 

 あんなふうに加熱した報道陣もきちんとシャットアウトしてくれるわけだ。……断っても帰らないで、あの通りたむろしてるけど。

 

 そしてそれと同様に、あるかもわからない『追撃』を警戒して……でもある。

 いや、まあ……今はそれはいい。

 

 話を戻そう。今、もう何度も襲撃を許したり、そのたびに生徒や教師に負傷者が出たりで……雄英はちょっと今、対外的にあまりよろしくない醜聞をいくつも抱えている。近々記者会見が開かれるなんて情報もあるし……ったく、どこもかしこも好き放題叩いてくれて……

 そもそも悪いのは雄英じゃなくて、襲ってくる『敵連合』だろうに……毎度ほんとに迷惑だあの連中……。

 

 そんな状況なので、私達は……セキュリティ云々に関係なく、報道陣の前に不用意に出ていくことはできない立場にある。……まあ、早い話が病院内で大人しくしてればいいわけだ。

 ガチの怪我人も大勢いるわけだし、それは仕方ないというか、文句ない。

 

 ただ……私らのために一生懸命戦ってくれた相澤先生やブラドキング先生、ひいては雄英が好き放題言われてるのを、画面越しに見てることしかできないってのは……まあ、私だけじゃなく、皆共通して気に入らない点である。

 そして、それに対して何もできない……というのもまた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「拝見します……はい、結構です。手続きを進めますのでしばらくお待ちください」

 

「お願いします」

 

 ぺこり、と頭を下げて……束になっている書類を持って歩き去っていく職員。

 

 その背中が、応接室のドアの向こうに消えるのを見届けてから……ターニャは、ソファに深く腰掛け直した。

 

 そして待つ間、鞄から新聞を出して読み始める……と同時に、ポケットのスマートフォンが振動する。

 ターニャはひとまず新聞を置き、取り出したそれの画面を見て、相手を確認して電話に出る。

 

「どうした、ビスケット」

 

『どうした、じゃないわさ……あんた今どこにいんの? 今後のことについて話さなきゃいけないからマンションにいてくれって、昨日『栄陽院コーポレーション』から連絡あったじゃない』

 

「悪いが出られなさそうだ……すまんがビスケ、代わりに話を聞いておいてくれ。資料もあれば貰っておいてくれると助かる。こっちは……本職の仕事が入りそうなんでな」

 

『本職って……え、軍関係?』

 

「ああ……少々、騒がしくなりそうだ。私の周囲も……この国も」

 

 今現在、ターニャがいるのは……日本にある、ドイツ大使館、その応接室である。

 

 そこでターニャは先程まで、この国でドイツ国籍のヒーローとして本格的に活動するために必要な手続きを進めていた。何枚もの書類を作成し、ハンコを押してサインもして、それが問題なく出来上がったということで、先程この大使館の職員に託したところだ。

 

 わざわざそのような手続きをしなくても、ある程度のヒーロー活動……もちろん、『個性』を使用した戦闘を含む、その許可を既にターニャは持っている。普通に過ごすだけなら、これ以上の手続きは必要ない。

 

 ただ単純に、今以上の権限が……それこそ、ドイツ国内で、軍のバックアップを文武両面に受けた状態で動けるのと同じだけの権限が、場合によっては必要になる、と思ったためだ。

 

 『敵連合』による雄英への二度目の襲撃。重軽傷者多数を生み出したその事件の一報を聞いた時点で、ターニャはこの大使館に走った。

 

 直感したためだ。自分がこの国に派遣された……軍人としての使命。それを果たす時が、来てしまったのではないかと。

 であるならば、ともすれば戦いはすぐそこに迫っているかもしれない。そうなる前に、可能な限りの力を集めておく必要がある。手始めに……心置きなく、全力で戦える準備を整えなくては。

 

(すでに本国に連絡はした。向こうでも手続きは進めておいてくれるだろう……最短で半日あれば準備は整うだろうが……いずれにせよ……)

 

「ビスケット。ビジネスもいいが、心の準備をしておいた方がいいかもしれん」

 

『? 何よいきなり……何か『騒がしく』なりそうなのは、あんたの軍無関係じゃないの?』

 

「それとてこの異国の地で、私単体を相手に起こるわけじゃない。むしろ私は、既にある戦いに巻き込まれる……あるいは飛び込む側だ。この国のヒーローであるお前達の方が、余程他人事ではあるまい。……すまん、人が来た。忠告はしたぞ」

 

『ちょっ!? 結局何……』

 

 何やら言おうとしていたビスケとの通信を強制的に終了し……その数秒後、扉が開いて、先程書類を持って行った職員が姿を見せた。

 

「お待たせしました、シルバーピクシー様。こちらがご要望の資料になります。ライセンスの発行につきましては、いましばらくお時間をいただければと思います」

 

 先程、手続きのための資料を提出した際、同時に大使館職員に要望を出していた、彼らが入手している限りの『敵連合』やその構成員に関する資料を受け取り、鞄にしまうターニャ。

 しまう前にぱらぱらと軽く目を通すが……やはりと言えばいいのか、構成員に関する者はかなり充実しているが、彼女が一番知りたい、ないし警戒している者に関する記述はほとんどない。

 

 せいぜいが、その存在を匂わせる状況証拠がまとめられているのみにとどまっていた。

 

(なるべくなら、この資料の出番も来てほしくないものだが……)

 

 望み薄ではあると自分でわかっていつつも、ターニャは心の中でそう呟いた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「なるほど、最後に思わぬ反撃があったものの、ひとまずは目的達成、といったところかな? 弔も中々、指揮官としての貫禄が出て来たのかもしれないね」

 

「失礼を承知で言わせてもらうなら、まだまだケツに殻のついたひよっこではありますがね。もっとも……連合のメンバー達は、単純に今回のことを勝利とも喜べない様子ですが」

 

「無理もないだろ。最後の最後でおちょくられたような結果に終わったんだ……『終わり良ければ総て良し』なんて諺があるくらいだ、その逆だって成立する。戦略的見地からものを見れないガキ共なら、なおさらだ」

 

 窓一つない部屋の中で、AFOは、ウォルフラムから報告を受け取っていた。

 その隣には、少し前に協力関係を締結した、国際的に活動しているブローカーである、キュレーターの姿もある。

 

 キュレーターがいたのは偶然だが、特に聞かれても困る話ではないと、AFOは言ってウォルフラムにそのまま報告させていた。

 死柄木弔が発案し指揮を執った、雄英高校ヒーローの『林間合宿』への襲撃。その戦果を。

 

 その一部は、AFOから加勢として差し向けられたウォルフラムによるものであり……さらにそのウォルフラムがやったことの、さらに一部……ラグドールの誘拐に関して言えば、それはAFOが指示してやらせたことである。

 

 しかし、それ以外の部分については、正真正銘死柄木弔の、そして『敵連合』の戦果と言える。

 その報告を、AFOは嬉しそうに聞いていた。

 

「死者が1人も出なかったというのは、さすがはヒーローの卵、といったところかな。それも、何人かは返り討ちにまでしてしまうとは……末恐ろしい『有精卵』達が集まったものだ」

 

「死柄木がマークしていた、緑谷って奴は流石といっていいかもですね。マスキュラーとマスタードをやったそうで。体育祭で同じように活躍した轟や、今回のターゲットだった爆豪も大した力を見せたようです。ただ、もう1人の体育祭3位はパッとしなかったようで」

 

「ああ、彼女か……無理もないだろう。あれは、事前にきちんと準備ができていなければ、途端に無力になってしまうからね。そういう意味でも、扱いづらい『個性』と言えるだろう。ただ……」

 

 かつて自分が『欠陥個性』と呼んだ、永久の『個性』について考えながら、AFOは語るが、ふと言葉を途切れさせて……

 

「あの『個性』の怖いところは、そこじゃあないんだがね……」

 

「? どういうことです?」

 

 AFOの、絶対の王者らしくもない『怖い』という言葉に、ウォルフラムはもちろん、横で聞いていたキュレーターも興味を持ったのか、AFOの次の句を待つ。

 

 AFOは、ふむ、と少し考えるようにして、

 

「そうだね……いや、『怖い』というのも少し違うか。例えるなら、悪いものでも食べた時のような……平気な人には平気だし、むしろいい方向に進むことはあるが、そうでない人には徹頭徹尾、害……体の中であまりよくないことになるというか……うん……『タチが悪い』、かな?」

 

 そのまましばし、AFOがウォルフラム達を相手に、気まぐれの雑談のような話を聞かせていた……その最中のことだった。

 

 唐突に、ばん、と部屋の扉が開き……小太りの壮年の男性が飛び込んできた。

 AFOの協力者にして、『脳無』の開発者……『ドクター』と呼ばれる男が。

 

 ノックもなく、話の途中でいきなり飛び込んできたその男に、ウォルフラムとキュレーター、2人分の責めるような視線が向けられる――AFOは特に気にした様子はないが――中、ドクターは焦った様子を隠そうともせず、

 

「す、すまん先生、来客中だったのか……じゃが、緊急事態でな……今よいか?」

 

「ははは、ダメと言うのが躊躇われるくらいには切羽詰まった事態のようだね、ドクター。どうしたんだい? ここが嗅ぎつけられて、ヒーローでも乗り込んできたかな?」

 

「い、いや、そうではないんじゃが……厄介事というレベルで言えばどっこいかの。先程、実験体が1体、ラボから逃げ出してしもうてな……」

 

「? 実験体というと……脳無かい?」

 

「いや、そっちではなく、『個性』絡みの方でな……被験体として優秀そうではあったが、どうにも癖が強い男で……色々な意味で、野放しにしていいものかと聞かれると不安が残る。何より捨てるには惜しいし……すまんが手勢を貸してくれんか、先生」

 

 よく見ると、『ドクター』は手にクリップボードのようなものを持っていた。

 

 会話の流れからして、それにはその逃げ出した『被験体』に関する資料がとじ込まれているのだろう。資料の表紙には、『個性強化及び身体組成拡張概括実験』との記載がある。

 

 何を隠そうそれは、目の前にいるAFOのために、ドクターが最も力を入れて研究を進めているテーマの1つであり……逃げ出したという被験体は、その稀有な成功例、ないしは重要なデータサンプルとでも言うべき存在だった。

 ゆえにこそ、彼は『回収』を望み、AFOを頼った。

 

 資料の表紙には、顔写真と共に……こうも記載されていた。

 

 

 

 

 

『本名:不明(名乗らず)』

『験体名称:ナイン』

 

 

 

 

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