TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第13話 TS少女とUSJ襲撃

 

「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ! アレは……(ヴィラン)だ!」

 

 1-Aの面々が『人命救助(レスキュー)』の訓練ということで訪れた、『ウソの災害や事故ルーム』……略して『USJ』。

 そこで、今まさに授業が始まろうとしていた時……黒い靄のようなものの向こうから現れた、大小様々、人型に異形に入り乱れた、統一性のない集団。

 

 共通しているのは……こちらに対する『悪意』。この一点。

 

 色々とツッコミどころ満載のこの場所にて、彼ら・彼女らは、プロヒーロー達が相手にしている、本物の『敵』、本物の『悪意』を相手にすることとなる。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ……よし、ちょっとばかり状況を整理しよう。

 

 私達は今日、ヒーロー基礎学で『人命救助(レスキュー)』の訓練を行うために、バスに乗って広大な雄英の敷地内のどこかにある演習場を目指していた。

 

 そのバスの中では、皆思い思いに会話を楽しんでいた。あまり騒がしくなく雑談するくらいなら、相澤先生もうるさく言う気はないみたいだったし。

 

 そんな中でも一時特に盛り上がったのは、やはりというか『個性』に関する話題だった。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

 自分で曰く『思ったことを何でも言っちゃう』らしい蛙吹がそう言ったのを皮切りに始まった会話。緑谷はそう指摘されて、照れてるのかはたまた戸惑ってるのか、とにかく慌てていたように見えた。

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぜ? 似て非なるアレだぜ」

 

 そう切島が反論してきたので、注目はそっちに移ったけど。

 

 それを聞いた時、私は『ああ、そうか』と思った。こいつらまだ、緑谷が個性をうまく使えるようになりつつあるんだってことを知らないんだっけ、と。

 あれ以来、個性を使って全力で戦闘するような訓練はなかった。そもそもコスチュームを使って訓練に出るのだって、戦闘訓練から間が開いて、これが二回目だし。

 

 なお、緑谷のコスチュームは爆豪とのバトルで破損してまだ修理中らしく、今日は体操服に一部のコスチュームパーツ……手袋やマスク、ブーツやベルトをつけただけでの参戦だ。

 ……元々のコスチュームが地味め(麗日曰く『地に足付いた感じ』とのこと)だったのもあって、あんまり印象変わらんな……。

 

 むしろこっちの方がカッコいいというか、似合うというか、私はそう見える。

 

 というか、雄英のジャージって結構『ダサい』って言われて評判悪かったりするんだけど、そんなにダサいかな……私は結構好きなんだが。

 

 まあ、私も今日はコスチュームで来てるが。せっかくあるんだから着ないともったいないし。

 

「しかし『増強型』のシンプルな『個性』はいいな! 派手でできることが多い! 俺の『硬化』は対人じゃ強ェけど、いかんせん地味なんだよな」

 

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する『個性』だよ」

 

「プロなー……しかしやっぱプロも人気商売みたいなとこあるぜ? それに、派手で強いって言ったらやっぱ轟と爆豪だろ」

 

「でも爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ出すわ!」

 

 聞いてて楽しい会話だな、なんて思っていたら、

 

「俺は栄陽院や八百万の方が注目株だと思うね。派手さじゃ爆豪や轟には一歩劣るけど、今切島が言ってたように、あの2人はできることがめっちゃ多いだろ?」

 

 あら、私が話題に上がった。

 しかし離れた席にいるので、私自身は話に参加できず。聞くだけである。まあいいけど。

 

「ああ、それは確かに……今考えると『創造』ってほぼチート級だよな。構造知ってれば何でも作れるんだろ?」

 

「でも分子構造から細かく理解していないといけないらしいから、本人の知識と経験、努力ありきの『個性』だと思うよ。八百万さんがそれだけ努力を積み重ねて来たからこそ、あそこまで万能な、汎用性の高い個性として使いこなせてるんだと思う」

 

 私の斜め前に座っている八百万の顔が……ポーカーフェイスでどうにか耐えてるけど、よく見るとちょっと赤くなっている。嬉しいのね、褒められて。

 

「あー、それは確かに……俺、仮に八百万の『個性』持ってたところで使いこなせる気しねえよ」

 

「お前が持ってても作れるのはテープくらいだろ。なじみ深い物質」

 

「それ今と変わんないじゃん」

 

「うっせえな、お前だって似たようなもんだろ上鳴! 単三電池がせいぜいだろが!」

 

「はっ、バカ言うんじゃねえよ、電池の仕組みなんて知らないから作れねえっつーの!」

 

「いやあんた大威張りで何を盛大に自虐してんの?」

 

「使いこなせないって言えば……緑谷ちゃんが個性を使いこなせるようになったら、栄陽院ちゃんみたいにすごいパワーとスピードで戦えるのかしら?」

 

「ど、どうかな……多分そうだと思うけど……。っていうか……」

 

「あ、やっぱり緑谷の『個性』って制御できねえからああなんだな。俺てっきり、自分の体の一部を犠牲にして超パワーを出す的なやつなのかと思ってたわ」

 

「え、あ、いや、そんな自爆技的なものじゃなくて……ごめんなさい、ひとえに僕が未熟なせいです……で、でも……」

 

「いやそんなガチで落ち込んで謝らんでも……」

 

「そうそう、前向きに行こうぜ緑谷! お前が修行すれば栄陽院みたいに戦えるようになるかもしれないんだからよ! 一緒に頑張ろうぜ!」

 

「き、切島君…………ありがとう。僕、頑張るよ!」

 

 そう、切島のエールに感激して言ったかのように見える緑谷だが……ちらっと私が見ると、若干顔色に気まずそうな部分が混じっているのが分かった。

 

 多分だが……すでに多少は制御できるようになっている、っていうのを言い出すタイミングを逃したからだと思われる。

 会話の端々で言おうとしてた感じだったのに、ことごとく割り込まれてたな。哀れ緑谷。

 

「でもそれを差し引いても、栄陽院ちゃんの『個性』は強力よね。使い方次第で攻撃に回復、味方のサポートすらもできるんだもの」

 

「だよな。事前に充電しとかないといけないっていう制約はあるけど、それを差し引いても余りあるっつーか……何より貯蓄上限無しってやべーよ。日頃からコツコツ溜めといて、有事に一気に放出する、なんてこともできるわけだろ?」

 

「都度補給するにしても、アイツ超早食いで大食いだから、補給も手間かかんねえし一気にできるもんな。車とかで移動中に飯食っとけば、現場ついてすぐに動き出せるわけだし」

 

「え、瀬呂何でお前そんなこと知ってんの?」

 

「いや、昼休みによ……」

 

 こんな感じで雑談に花を咲かせていられるうちは、まー平和なもんだった。

 

 当たり前だけど、この時の私達は……この後、こんなことになるなんて、思ってもみなかったのだから。

 

 

 それからしばらくして、『USJ』という、ツッコミどころ満載と言うか、裁判沙汰にならないのか心配と言うか……色々な不安を掻き立てられる施設に来た私達は、担当である13号先生と合流し、『個性』を使うことに関してのちょっとしたお小言……しかし、忘れちゃいけない大事なことについて聞かされた。

 

 その話が終わった後、いざ授業が始まるってタイミングになって……突如、施設の中心部付近に謎の黒い靄みたいなものが現れ、そこからわらわらと不審者の集団が湧き出してきた。

 それを見て、血相を変える相澤先生。一気に塗り替わっていくその場の空気。

 

 瀬呂が『また『訓練はすでに始まっている』的なアレか?』と呟き……実際にその通りだったら楽だったんだが……残念なことに、今度はマジ物の『(ヴィラン)』だという。

 

 私達生徒を逃がすために相澤先生は1人で何十人もの敵の中に突っ込み、私達は13号先生に誘導されて避難を開始。

 

 しかし、行く先にさっきの靄……かと思ったらなんか微妙に人の形をしてる、どうやら異形型個性らしい奴が現れた。しかも、あの黒い靄ってワープゲート的な能力を持ってるらしく、何もないところから突然現れたし。

 

 おまけにそれに対処する際、爆豪と切島が13号先生の前に飛び出して攻撃し(しかもそれ効いてなかったし)、射線を塞いじまったせいで対処が遅れて……

 

「私の仕事はこれ。散らして……嬲り……殺す!」

 

 私を含む、クラスメート達の大半が、黒い靄に包まれ……次の瞬間、ここに転送されていた。

 

 

 

「で、ここは……どこだ?」

 

「た、多分だけど……火災現場を模したエリア、ってとこじゃないかな? USJはもともと、災害現場での救助訓練のための施設だから……」

 

「この熱っちぃ空間はそれでか。訓練施設とはいえ、実際の現場と変わらないな……リアリティもここまでくると……先生方の監督なしで行動するの、ガチで危険なレベルだな。さすが雄英」

 

 一緒に飛ばされたらしい尾白と、周囲の状況を確認しながら。

 

 周囲はビルや家屋が立ち並び、それらのほとんどから火の手が上がっているという状況だ。

 まさしく災害現場を模して作られている完成度の高さには驚かされるし、ここで『学べる』というのならこの上なく恵まれた学習環境だと言えただろうが……どうやら、今は違うようだ。

 

 あくまでここで本来行われるのは『訓練』。生徒に危険が及ばないように見ていてくれる先生方がいない今、ここは火災現場そのものと言っていい。

 そして、私と尾白はここに放り出され、取り残された……半分、被災者のような立場だ。

 

 しかも、並の人間ならこれだけでも割とピンチだろうに……危険はそれだけじゃないと来た。

 

「来た来た……こいつらを殺せばいいんだな?」

 

「おう、ボーナスだボーナス、へへへ……」

 

「ちっ、たった2人かよ……もっと送ってくれりゃいいのに、しけてやがる」

 

 周囲にぞろぞろと現れる、数人じゃ利かない数の不審者たち。

 恐らくは、いや間違いなく……全員『敵』だろう。

 

 これから何をするつもりなのかがわかりやすいというか……聞く手間が省けた。

 なぶり殺す、なんて言うくらいだもんな。こんな場所に送り込んでそれでおしまい、なわけがなかったか。

 

 服装に統一性はなし。動きを観察するに……そこまで強くもないな。

 会話の内容からして、金で雇われたゴロツキか? 仕事は、飛ばされてきた私達の抹殺だな。

 

「おい、なんかよく見たらいい女もいるじゃねえか?」

 

「ホントだぜ……へへっ、殺す前にちょっと遊んでやるのもいいんじゃねえか?」

 

「バカ、時間あんまりねーって言ってただろうが、そんな暇ねーよ……やるんなら攫って帰ってからゆっくりと、だ」

 

「ぎゃははは! お前話わかるじゃねーか!」

 

 うっわぁ……しかもこういうタイプか。典型的小悪党だー……。

 

 囲んでるほとんど、っていうか全員が男だから、舐めるような視線が私の全身に注がれるのを感じる。改造学ラン着てるとはいえ、前は大きく開いててコルセット着てるから、体の線結構出てるからなあ……野郎連中が欲情するのには十分な刺激だったか。

 

「聞いた尾白? 私このままだとこいつらに酷いことされちゃうんだって。エロ同人誌みたいに」

 

「冗談でも笑えないから今はそういうのやめよう、栄陽院さん……いざとなったら君だけでも逃げてくれ、僕が食い止めてみせるから」

 

 あら、ガチな上にイケメンな返答……ちょっとドキッと来た。

 なるほど、普通の女の子はこうして恋に落ちるのか。

 

 尾白は、自身も感じているだろう恐怖や不安を押し殺して、一歩も引かない覚悟で、敵達の前に立ちはだかっている。

 その姿を私は、素直にかっこいいと思ったし……正直、緑谷と出会っていなかったら、ちょっと危なかったかもしれん。クラッと行きかけたかも。

 

(……私ってもしかして、チョロい? い、いやいやいやいや、そんなわけは……)

 

 消えろ雑念。尾白にも緑谷にも失礼だ。

 

 さて、気を取り直して。

 

 もしこれがエロゲーなら、こいつらの言う通り、私はこの後、果敢に戦うも数の暴力の前に敗北し、年齢制限のかかるシーンにまっしぐらな末路をたどるだろう。

 それこそ、かの有名な『くっ、殺せ!』とかいう展開になってしまい、しかし殺されるより残酷な、女としての地獄を延々味わわされ、強気な仮面が剝がれて涙ながらに許しを請うようになり、ぼろ雑巾のようになるまでお楽しみの道具にされ、最後には惨たらしく殺されるか、どこかに売られるかしてしまうのだろう。

 尾白はその前に殺されるのかもしれないし、もしかしたら目の前で延々『その光景』を見せつけられ、死ぬよりも残酷かつ屈辱的な形で己の無力を突きつけられるのかもしれない。

 

 ……ここまでよく一瞬で想像できたな私。さすが元・男。

 

 しかし、敵諸君には残念なことながら、私はお前らに見せてやるほど安い肌は持たない。

 代わりと言っちゃなんだが、午後10時台のドラマならギリギリありそうなセクシーシーンくらいなら披露してやろう。

 

 ――ぎゅっ

 

「っ!? え、栄陽院さっ、何して……ぁ……」

 

 尾白に後ろから抱き着く私。

 その光景を見て、一瞬きょとんとした敵達だが、すぐに自分達に都合のいいようにその光景を解釈し直す。

 

「あん、何だおい、やっぱり怖くなっちまったのかよお嬢ちゃん!」

 

「ぎゃははは! タッパはあるくせに可愛いとこ見せてくれるねえ! おら彼氏、おっぱい大きい彼女が怖いってよ! 悪者をやっつけて助けてほしいってよどうするぅ?」

 

 だみ声で煽り文句を飛ばしてくる敵達だが……その中心にいる尾白は、一瞬驚いていたものの、すぐに今何が起こっているか……というか、私が何をしているかを理解していた。

 自分の体に流れこんでくる、膨大なエネルギーによって。

 

 抱き着いていた時間はほんの数秒。しかし、全速力で注ぎ込んだ。

 

「……これで、10分くらいはノンストップで動けると思う。ちゃんと2人で生きて帰るぞ」

 

「っ……ありがとう、栄陽院さん!」

 

 短く言葉を交わして離れると、私は私で、尾白と背中合わせになるように立ち、拳を握ってファイティングポーズを取る。その様子に、笑っていた男たちが『あん?』と怪訝な表情になる。

 

「何だよおい、今更やる気にな――」

 

「いきなり300%だァァッ!!」

 

 ――ドゴォ!!

 

 言い終わる前に一瞬で距離を詰め、ひときわ大柄なその男の鳩尾に拳を叩き込む。

 男は息が詰まって声が出なくなり、体を『く』の字にまげて、あまりの衝撃に体が宙に浮く……どころか、吹き飛んでいって火災現場のビルの壁に突っ込んだ。

 そのままめり込んで、落ちてこない。気を失ったのか、身じろぎもする様子はない。

 

「……は?」

 

 余りに想定外のことが起こったからか、唖然として動かなくなる敵達。

 チンピラっぽい割に喧嘩慣れしてないな。敵を前にして棒立ちの上視線を外したままとか、自殺行為にもほどがある。

 

 すぐ近くにいた別な敵にリバーブローを突っ込んで吹き飛ばし、その隣にいた別な奴をひっつかんで膝蹴りを叩き込む。

 このへんで一部の敵が再起動し始めたので、今膝蹴りでオトしたそいつをまた別な敵に投げつけて怯ませ、飛び込んでその顔面に飛び膝蹴りを叩き込む。

 

 後ろから襲って来た敵の攻撃を体をひねってかわし、一瞬かがんで……立ち上がる勢いも乗せて渾身のアッパーカットを叩き込む。打ち上げ花火のごとく吹っ飛んだ敵は、ちょうどその先にあったビルに突っ込んで、最初に吹っ飛ばした奴と同じように沈黙した。

 

 その直後、視界の端に大きく息を吸い込んでいる敵がいるのを見て、私は学ランを翻して盾にするように目の前に広げる。その瞬間、その敵が吐いた炎が襲い掛かってきた。

 

「火災エリアに配置されるくらいだ、そりゃこのフィールドに有利な個性の奴置いてるわな」

 

 しかし、耐火性能ばっちりの学ランはそれをやすやすと防ぎ、渾身の攻撃が効かなかったことで隙だらけの姿をさらしているそいつの顎を蹴りぬいて沈黙させる。

 

 学ランを着なおしながらふと目をやると、尾白もあっちで獅子奮迅の活躍を見せている。

 

 何人もの敵に同時に襲い掛かられながらも、尻尾をうまく使って立体的に動き回り、かすらせることすらなくその攻撃をいなし続けている。

 そしてその合間に、時に拳で、時に蹴りで、時に尻尾で一撃を叩き込み、ヒットアンドアウェイの要領で1人1人着実に敵達を沈黙させていく。

 淀みない連続した動き……武術やってるとは思ってたが、予想以上の錬度だな。

 

 あ、今なんか不用意に飛びかかってきた敵を、3人まとめて薙ぎ払うように尻尾で吹っ飛ばした。ありゃまとめて気絶したな……。

 

(すごい……! 栄陽院さんの『個性』によるブースト、ここまでのものだったとは! パワーもスピードも大幅に上がったし……休まず動いても息が切れない、全然疲れない!)

 

「尾白ー! やりすぎて死人出すなよー!」

 

「今まさにっ……それが冗談でも何でもないことを痛感してるよっ!」

 

「そりゃ何よりだ!」

 

 さて……あっという間に半分くらいは切ったな。折り返し地点は過ぎたってことで……もうひと踏ん張りだ!

 

 

 

 


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