「……何コレ? やけ食い?」
「……半分あってる。もうひとつはまあ……ただ単に、エネルギー補充。あ、欲しいのあったら適当に食べちゃっていいよ?」
「いや、いい……なんかこう、見てるだけで満腹になってくるわ、今のあんた……」
そんなことを言いながら、呆れたような視線を送ってくる耳郎。隣には、『うわあ……』って感じの表情になっている麗日と、ポーカーフェイスで表情の変わらない梅雨ちゃん、そもそも表情が見えない葉隠がいる。4人一緒に、個室でくつろいでる私を、変なものを見る目で見てる。
入院した同級生達の中でも、かなり目を覚ますのが遅かった耳郎と葉隠が無事に目覚めてて、元気そうなのは素直によかった。
何とかっていう刃物使いの『敵』の少女に襲われ、斬りつけられて傷を負っていた梅雨ちゃんや麗日が無事だったのも。
負傷した2人に関しては、私も『コンセントヒール』で治療してたわけなので、気になってたんだが……うん、よかった。
そんな4人は、その治療についてお礼を言うのと、様子を見にってことで私の部屋に来たらしいんだが……今私は、ベッドサイドの机にコレでもかってくらいに食べた後の空容器を積み上げて、デリバリーで頼んだジャンクフードその他を次々に平らげているところなのだ。
ピザ(パーティサイズ)を全種類に、特上寿司5人前、ハンバーガー50個、チキンナゲット15ピース入りを10箱、カップ焼きそば20個、野菜ジュース2リットル、牛乳6リットル、etc。
ちなみに、食事に関しては『質より量』という人もいれば『量より質』という人もいるが、私の場合、食事における持論は『量あっての質』である。高級なグルメもいいけど、ひとまずがっつり量を食べたいのが私です。毎食とは言わんけど。
『個性伸ばし』のおかげで、胃袋の最大要領も消化スピードも強化されている私は、食べてからより素早くエネルギーに変えることができるようになっている。それを利用して、もうとにかく腹に詰め込んでいる。
いや、別に今からコレを『エネルギー』として使うような……治療やら戦闘やらするわけじゃないんだけど……なんか、こうしたい気分なんだよな。
直感的に、こうすべきだと……できる限り腹に食べ物を詰め込んでおくべきだと、そんな感じがして……ちょっと色々伝手を使って、こうして大量にデリバリーを頼んだ。
普通に考えて、病院に入院していながらデリバリーなんて頼むことはできないが、成実義姉さんに頼んで手配してもらい、裏の搬入口から一括で運び入れてもらったのだ。この病院には、私はともかく『栄陽院』の家としては伝手があるので、そこを利用して。
ついでなので、一緒に何か欲しいものがあれば手配する、ってクラスの皆にも聞いてみて、可能な限りそれも聞いて揃えてもらうようにした。
やっぱりというか、食べ物系多かったな。
保須市の時も思ったけど、病院の食事って味気ないの多いから……ジャンクフードとか、激辛メニューとか、蕎麦とか、フレンチとか……まー色々取り寄せたな。
喜んでもらえたので、よかったと思う。
次いで、雑誌とか、化粧品とかだったな。暇つぶしになる雑貨類とか、ダンベルなんてものもあったな。
なお、エロ本を発注しようとしていた峰田については弾いておいた。退院後に自分で買え。
でまあ、何万キロカロリーだよって量をすでに平らげているわけだが……まだ足りない感じがするな……。
腹は十分膨れてるのに――すぐ消化できるけど――まだ足りない、まだ必要だ、って頭の中でささやかれているような……冷静に考えると何を言ってんだって話だが、ホントにそんな感じなんだよな……。
「けろ……まあ、『個性』や体質の関係上、永久ちゃんが大食いなのは知ってたけど、あまり食べすぎちゃだめよ? さすがに体が心配になるわ……それに、周りへの影響も」
「周り? さっきの耳郎の、見てるだけで満腹になるとかいうアレ?」
「それもあるけど、小さい子の教育によくないわ。栄養バランス滅茶苦茶だもの……真幌ちゃんや活真君が真似しちゃったら……いや、真似できないとは思うけど……」
「うん、まあ、せやね……こんだけこってりしたもの大量に食べといて、野菜要素、野菜ジュースしかないやん。こんなん、ジャンクフード大好きな子供に見せたらあかんよ。その2人もやけど……壊理ちゃんもおるんやから、ここ」
と、今梅雨ちゃんや麗日がしれっといったように……この病院、意外な知り合いが一緒に入院している。いや、片方は入院とは違うけども。
どちらもあの、『死穢八斉会』絡みのワーキングホリデーの中で知り合った子供たち。
片や、誘拐の被害者になった上、人身売買の被害者になりかけた……真幌ちゃんと活真君。
片や、『オーバーホール』の野望のために利用されていた、組長の孫娘……壊理ちゃん。
彼女達が今、実はこの病院にいるのだ。その理由は、それぞれ違うが。
まず壊理ちゃんだが、彼女の『個性』に関する詳しい検査その他のため、一時的にこの病院に転院していたのである。ここ、元の入院していた病院よりも、そういう設備整ってるからな。
まずはここで検査して、詳しいことがわかったら、必要な病院にまた移すなり、退院して経過観察するなり……対応を考える予定だったそうだ。
私らが担ぎ込まれてきたのはそのさなかだったわけ。完全に偶然なわけだが……壊理ちゃんには随分と心配をかけてしまったらしい。反省。
まあ、大丈夫そうだと理解してからは、ほっとした様子で、最近自然に見せるようになってきた笑顔を見せてくれて……たちまちうちのノリのいい女子達の人気者になってたな。
その壊理ちゃんは、相変わらず私と緑谷に懐いてるので、日中は散歩がてら私達のところによく遊びに来る。彼女との雑談やら何やらは、私達としても気分転換になって楽しい時間である。
で、もう一方……真幌ちゃんと活真君だが、こっちは全く別な理由でここにいる。そもそもこの2人は、彼女達自身がケガとか病気で入院してるわけじゃないのだ。
入院しているのは、どうやらそのお父さんであるらしい。普段、2人を故郷『那歩島』に残して都市部に出稼ぎに来ている、あの。
聞けば、先日突如として謎の『敵』に襲撃を受けたそうだ。命に別状はないとのことだが、軽症と言えるほどでもない、とのこと。
一応今は容体は安定していて、集中治療室から個室に移っているそうだ。
真幌ちゃんと活真君は、お父さんの付き添いで病院に泊まっているらしい。
小さいことかが入院する時に、保護者が付き添いで病室に布団とか敷いて泊まり込むっていうのはよく聞く話だが、その逆ってことか? 変わってるな。
まあ……大事なお父さんがそんな大変な目にあってるんだ、せめて一緒にいたいって思うのは不思議なことじゃないし、そっちの方が2人共安心できるのかもしれないけど……
そして、真幌ちゃんと活真君は、久々に会った緑谷や、その友達であり、未来のヒーロー候補であるクラスメイト達に会って……活真君は興奮して、嬉しそうにしてたな。真幌ちゃんは……複雑そうだったけど。
あの一件で、ある程度ヒーローに対しての理解を深めたりはしたものの……今回、実際に私ら、『敵』の襲撃に会って負傷してここに入院してるわけだからな。やっぱりヒーローって危険なんだ、って思ってしまっただろうか。
……ああ、それと、そのお父さんに関して何だが……真幌ちゃんが変なことを言ってたな。
なんでも、『敵』に襲われた後……2人のお父さんは、『個性』が使えなくなってしまったらしい。
2人のお父さんの『個性』は、活真君と同じ『細胞活性』だ。緑谷にこっそり使ってくれて、回復を早めてくれたから……間違いない。覚えてる。
しかし、それが今は使えなくなっているらしい。お医者さんとの聞き取りの中で、そう言ったのを真幌ちゃんが聞いていた。
それを聞いて私が思い浮かべたのは、『オーバーホール』の奴が使っていた『個性破壊弾』だ。
けど、それはどうやら違いそうである。お父さん、別に銃で撃たれたとか、そういう感じの傷はないそうだし……それに、その襲撃してきた『敵』に、こう言われたらしいのだ。
『安心しろ、殺しはしない。だが……『個性』をもらう』
(……『個性』をもらう、ねえ……)
……言葉通りに受け取れば……真幌ちゃん達のお父さんは、その『敵』に、『個性』を奪われた、ってことになるのか? そんなことができる『敵』も『個性』も、聞いたこともないけど……もし存在するなら、えらい危険度だぞ?
現に今、2人のお父さんは『個性』を使えなくなってるそうだし……それが果たして、一時的なものなのか、あるいは……
(この『超人社会』に今更ではあるけど、何か最近、どこもかしこも物騒だな……)
ふとそんなことを考えてしまったが……より正確に言えば、むしろ普段の日本って、まだ治安的に恵まれてる方なんだよな。平和ボケできるくらいには、一般市民にとって、危機的状況っていうのは、そこそこに遠い世界の話だから。
世界的な犯罪発生率の平均が20%……だっけ? 対して、日本のそれは、オールマイトという『平和の象徴』の存在により、6%にまで抑えられている。ありがたい話だ。
……ふと、思う。
これでもし、オールマイトが……『平和の象徴』が引退したり、ないとは思うが倒れたりするようなことが起これば……普段私達が『物騒』だの『やばい』だの言ってるレベルの事態が、社会で常態化するかもしれないんだよな……。
いやまあ、そんな時代、来てほしくないけども……何でだろう、特に考えていたいわけでもないのに、頭に妙にこびりつくな……?
なぜか頭から離れてくれない……むしろ、いわゆる『虫の知らせ』みたいに、いやに印象に残るイメージに疑問を覚えつつも……私はとりあえず、胃袋が催促してくるままに、次の食べ物を口に運ぶことにした。
……この時の私は、まあ、当然かもしれないが……露ほどにも、思っていなかった。
私が、『ふと思った』可能性が……それも、それから1日も経たないうちに、現実のものになってしまうなどとは。
☆☆☆
「これは……こんな、ことが……!?」
デヴィット・シールドは……『I・アイランド』から移り住んで、日本における仮の住まいとして借りている部屋で――仮と言っても、セキュリティ万全のマンションの一室。栄陽院コーポレーションが用意した超VIP御用達の部屋だ――PCの画面を見ながら、絶句していた。
本当に仮に住んでいるだけなのか、と問いかけたくなるほどに、色々なものが置かれている室内。
その3割ほどものスペースを占領して稼働している、超高性能PC。専門機関のそれほどではないが、在宅でもデータさえあれば、解析作業が行えるレベルのスペックである。
それを使ってあるデータの解析を行っていた博士だが……その時、机の上に置かれていたスマートフォンが振動する。
はっとしたようにそれを手に取ると、発信元は……大学からの付き合いの親友だった。
「……もしもし、トシか?」
『やあ、デイヴ……今、大丈夫かい?』
いつも軽快なトークや笑い声から始まる、オールマイトとの会話は……やけに神妙そうな声音で幕を開けた。それだけで、何か重要、ないし内密な話だろうと博士はあたりをつける。
「ああ、大丈夫だ……どうかしたのか?」
『ちょっとね……明日、君とメリッサに会う予定だったろ? 引っ越し祝いにスシとテンプラをお土産に持ってくって言ってさ。緑谷少年も連れて……すまないが、多分、無理そうなんでね』
「それは……まあ、仕方ないだろう。雄英が……緑谷君達ヒーロー科があんなことになって、対応に大忙しだろうというのはわかっているさ。落ち着いた時にでも改めて、でいいだろう?」
もともと予定していた食事会についての、中止の申し出。
それを聞いた博士は、なんだそんなことか、とばかりにため息をついた。が、
『いや、それもあるんだが……今日からしばらくの間、騒がしく、というか忙しくなりそうでね……数日は満足に連絡も取れないかもしれないんだ。だから……今のうちにと思ってね』
「……? よくわからないが、まあいい……了解だ。ああ、トシ、私の方からもいいかな?」
『? 何だい、デイヴ?』
と、今度は博士の方から話題を切り出した。
先程まで、食い入るように見つめていた、PCの画面を再び見ながら。
「今日から忙しくなる、と言っていたが……落ち着いた時でも、と今言っておいてなんなんだが……時間、いつ頃取れそうかな? できれば、なるべく早く会って話したいんだ。君とナイトアイ、それに……緑谷君と栄陽院君も一緒に、かな」
『……? それは一体どういう……もしかして、彼女の『個性』の解析が終わったのかい?』
「終わってはいないよ。まだデータが足りない……でも、途中でも報告して、相談しなければならないことができたというか、わかったというか……そんなところだ」
デヴィット博士は、夏休み始め頃に『I・アイランド』で取ったデータに加え、『林間合宿』の終了後、病院で検査を受けた永久のデータを送付してもらい、それをもとにして解析を進めていた。
その結果が、先程の驚愕の表情につながる。
『……それ、電話で話せる内容かい?』
「できれば実際に画面というか、データを見ながらの方がいいが……そうだな、大枠だけでよければ大丈夫だろう。聞くかい?」
それから数分の間、デヴィット博士はごく簡単に、オールマイトに自分が目にした解析結果について告げた。
目の前にデータがない以上、詳細を説明するのは難しいため、本当に簡単な要約部分のみであったが……それだけでも、その内容は十分に……衝撃的だった。
研究分野に関しては素人であるオールマイトにもわかってしまうほどに。
思わず、『仕事の直前にいらんこと聞くんじゃなかったかも……』などと思ってしまうほどに。
話してくれた博士に悪いと思い、声には出さなかったが。
「緑谷君のデータを見た時にも驚いたが、今回の驚愕はそれ以上かもしれない……叶うなら、この2点の間のデータがいくつか欲しいところだよ」
『……聞くまでもないかもしれないけど、そんなこと、普通……あり得るのかい?』
「言うまでもないことだろうけど、普通は、ない。というか、ありえない……はずだ。それこそ……『オール・フォー・ワン』でも使わない限りは……こんな『変容』はね」
『……そこまでのことか。ナイトアイの予想を超えて来たな、これは……』
「あの日彼に聞いた話を思い出せば……こうなった理由についてはわからなくもない。いや、だからって実際にこうして目にするとなると……驚愕どころじゃあないんだが。とにかく、なるべく早く会って話がしたい。健康状態のデータを見る限りでは、今すぐ何か処置が必要というわけじゃないが……だからこそ異常だ。可能な限り、彼女については注意して見ていくべきだ」
画面を睨むように見ながら、そう、やや早口になって言い切る博士。
その目は、PCの画面に表示されている、3つのグラフデータを……『個性数値』の解析結果についてのそれを捕らえて話さない。
並んで表示されているその3つのうち、2つは栄陽院永久のもの。残る1つは……緑谷出久のものだ。
2つ隣り合って表示されている、永久のグラフ。
1つは、『I・アイランド』で測定したもの。まだ高校生にしてはかなりのものだ、とデヴィット博士自身がほめて聞かせたことは、記憶に新しい。
しかし、もう1つのグラフは……一目見てわかるほどに、I・アイランドで測定したものと、形も何もかも変わっていた。
成長したとか、強化されたとか、そういうレベルではない。全くの別物と言っていいほどにまで……『個性』の性質そのものが違って来ていた。
そしてもう1つ、驚愕すべきことに……その、後から測定した永久のグラフは……逆隣りに表示されている、緑谷出久のグラフに、その形状・性質が近づいていた。
もちろん、複数のグラフが表示されているわけではないが……緑谷のグラフの中でもとりわけ強力なものとして表示されている、『ワン・フォー・オール』のグラフに……かなり形が近い。
「この短期間で、この変化……『個性』の成長に合わせたとはいえ、これほどに……しかも、明らかに指向性をもって自らを作り替えている……! 偶然じゃない、これは……『個性』が……緑谷君のそれに近づこうとしている……! 彼女の『力をため、変換し、分け与える』という能力において、それが意味することは……」
『エネルギー自体が、緑谷少年と、特に相性がいい。もっと言えば……彼にとって、都合がいい』
親友の言葉を引き継いで、オールマイトは呟くように言った。
『……もしかしたら、という程度に思ってはいた。彼女の『個性』は……仕える主によって、その在り方すら変えてしまうものなんじゃないかと。『ワン・フォー・オール』が生まれた時も……ただ単に、偶然、2つの『個性』が混ざったのではなく……それは、『オール・フォー・ユー』が狙って引き起こしたんじゃないかと……己の個性を、主君の目的のために使える、確かな力にするために』
「変化は、ごくわずかだが、バイタルにすら現れている。彼女は……いや、彼女の『個性』は本気で……彼女自身を含む全てを、緑谷君のためになるように、変容させている……まるで……」
『…………』
「まるで……力も、命も、『個性』も……あるいは、それ以上の何かすらも……全て惜しげもなく、緑谷君に捧げるためにこそある、とでも言うように……!」
それからさらに数分の後、オールマイトとデヴィット博士の通話は終わった。
余りにも衝撃的な事実。自らの後継者であり、次代の『平和の象徴』のために、心強い味方だと思っていた少女が……予想ないし想定を超えて、自らの全てを使った『献身』をなしていた。
それは確かに、今も、心強い味方だ。
彼女の力を受け取った緑谷出久は、これまでにも増して強大な力を発揮し、またこれからも更に成長していくだろう。いずれは、全幅の信頼をもって、この世界を支えることを任せられる、トップヒーローの中のトップヒーローにまでなることだろう。
しかし一方で、この状況はいわば……その目的のために、栄陽院永久という1人の少女の人生……その全てを捧げさせるに等しい行為。
使い潰す、とまで言ったら言い過ぎかもしれないが、ヒーローとしてふさわしい行いないし選択なのか、黙認していいことなのかと問われれば、即答できないのが正直なところだ。
明らかに、戦友やらサイドキックやらという領分を超えた……ともすれば彼女自身が、自分を『使い潰す』ことを前提として、覚悟しているような……この献身を。
数時間後に迫っている大捕り物を前に、オールマイトは……今考えても仕方ない、と、ひとまず目先のミッションに意識を向けることにした。
全て終わった後、きちんと、緑谷出久と栄陽院永久も一緒になって話そう、と心に決めて。
今まさに、彼女がその肉体を、『個性』を……平らげ続けて貯め続けている、膨大なエネルギーを糧にして……主君に捧げるために、急激に『変容』させ続けているとも知らず……