TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第131話 長い夜の始まり

『どーもォ、ピザーラ神野店ですー』

 

 そんな気の抜けるような言葉と共に……夜は始まった。

 

 夕方のニュースの時間帯に合わせる形で行われた、雄英高校の『謝罪会見』。

 校長・根津に加え、1年ヒーロー科の担任であるイレイザーヘッドとブラドキングが出席して行われたその会見では、さも捜索が難航しているかのように語られたが……その実、既に警察とヒーローは、執念の捜査により、『敵連合』の拠点を突き止めていた。

 

 そのうちの1つである、彼らが集会に利用するバーに……連合メンバーのほぼ全員が揃っている状況で、オールマイトを始めとしたヒーロー達が文字通り殴り込み、シンリンカムイとグラントリノによってその場にいたメンバー全員が即座に無効化され、捕らわれた。

 

 『最も厄介』と評された黒霧と、シンリンカムイの拘束に相性の悪い荼毘は気絶させられ、まさに絶体絶命。

 

 雄英の謝罪会見を見て嗤っていた先程までとは打って変わって、後がない状況。

 

 だというのに……死柄木は、落ち着き払って、目の前にいるオールマイトを睨み返していた。

 

(……意外だな。USJで見た時は、もっと未成熟で子供っぽい印象があったが……こんな風にあっけなく捕らわれ、全てが終わろうとしている段階になっても、癇癪も起こさず、悪態一つつかないとは……。経験を経て成長した? 敵にされても、ありがたくもないんだが……今はいいか)

 

「聞かせてもらおうか、死柄木……奴は、どこにいる?」

 

「……なるほど、な。俺みたいなガキを相手に随分な気合の入れようだと思ってたけど……警戒してるのは、やっぱり先生か。その分じゃ、存在自体は確信してるらしいな」

 

「そういうお前さんも、もう隠す気なさそうじゃねえか。そのまま居場所も教えてくれや。ん?」

 

 横合いから2人のやり取りを見ていた小柄な老人……グラントリノが、老いてなお鋭さを失わない目で死柄木を見据えながら問いかける。

 彼もまた、その『先生』には因縁がある1人。今しがた、一撃で荼毘の意識を刈り取った蹴りからしても、その本気度がうかがえる。

 

「引石健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁……少ない情報と時間の中、お巡りさんがよなべして素性を突き止めたそうだ。わかるか、もう逃げ場はねえってことよ……仮にここから逃げおおせたとしてもな。大人しくしといたほうが身のためだぜ」

 

 マグネ、Mr.コンプレス、スピナー、トガヒミコ、トゥワイスの本名をそれぞれ言い当てて告げるグラントリノ。

 

 聞いていた連合メンバーも、さすがに冷汗が出てくるのを止められない中、やはり死柄木だけは落ち着いていた。

 既に包囲されている。脳無も呼び出せない。依然、危機的状況は何一つ改善されていないにも関わらず……それこそ、死柄木自身不思議なほどに、頭はスッキリしていた。

 

 だがもちろん、何も考えていないわけではなく……その目は、静かに燃えていた。

 

 だからこそ、対峙しているオールマイトには、今目の前にいる、少年と言っていいくらいにも若い死柄木が、不吉で、危険に思えていた。

 『ウルシ鎖牢』によって拘束され、動くことなできない、最早万事休すであるはずにも関わらず。

 

 はっ、と、鼻で笑った死柄木は、ちらりとグラントリノの方を見て、

 

「何を今更……心配されなくたって、身元が割れたくらいで絶望するような面子は、うちにはいねーよ……どいつもこいつも、社会にはじき出されて、居場所なんてもともと無いような奴ばっかりだ。わざわざ心配してくれなくても、自分で居場所を作るために集って、動いて、戦ってる」

 

「なるほど、立派なことじゃないか……それが他人に迷惑をかけない範囲でなら、むしろ私達も応援する側に回れただろうに。選んだ手段が残念だったな……やり直す機会が欲しければ、素直に我々に協力する姿勢を見せてくれれば早いかもしれないぞ?」

 

「そう急かすなよ、平和の象徴……時にそこのちっさいじーさん……グラントリノだったか? ご丁寧に俺らの本名並べてくれたけど、俺と荼毘の名前はでてこなかったな。夜なべした程度じゃ、そこまでは調べらんなかったか?」

 

「ああ、残念なことにな……何だ、教えてくれんのかい?」

 

「……別に教えてもいいけど……いやまあ、荼毘の方は俺も知らねえけどさ。でもさあ……ちょっとがっかりしたかな」

 

「あ? 何がだ?」

 

「夜なべして調べたとか、我々の怒りをとか、大層なこと言ってたけどさあ……荼毘はともかく、俺の身元一つ調べられてないとはな。俺なんか、春の雄英襲撃の時に存在が割れてたんだから、時間なんて他の連中よりいくらでもあっただろうに……がっかりだよ、グラントリノ、オールマイト。やっぱりあんたらはその程度ってことだな」

 

 その言葉に、名指しされた2人を含め、幾人かがふと違和感を覚える。

 

 たまたま呼ばなかっただけかもしれない。しかし、なぜ今、ここにいるうち……オールマイトとグラントリノ、この2人だけ、特に名前を呼んで問いかけたのだろう、と。

 

 疑問に思いつつも、隙は見せず、グラントリノは聞き返す。

 

「あーあー悪ィな、期待に応えられなくてよ。けどそんなに自分のことを知ってほしいなら、この場で本名名乗ったらどうだ? その名前、まさか本名じゃねえんだろ?」

 

「ひでーこと言いやがる。ま、確かにコレ、先生がつけてくれた名前だけどさ……俺は本名だと思ってるよ。元の名前より、こっちの方が好きだ……俺が過去を切り捨てた時、貰った名前だ」

 

「奴が……か。人の親の真似事をするような一面があったとは、意外だな……お前も随分と、あの男を慕っているようじゃないか。正直驚いたよ、単なるブレーンとしての付き合いだと思っていた」

 

「そうか? むしろ、実の親でもてんで親らしくねえ奴だっているだろうに……俺の父親もそうだったよ。自分では家族のことを考えてるつもりだったのかもしれないけど、その実、子供にも妻にも、孤独だけを覚えさせ、何も家族らしい温かみなんぞくれなかった」

 

「…………」

 

 唐突に始まった自分の身の上話に、やや困惑するオールマイトと……対照的に、特に興味を示した様子もないグラントリノ。

 

「おい、お前の身の上話なんぞ聞きたいんじゃねえんだよ。軽口につき合っといて何だけどな、今俺達が聞きたいのは、お前さんのボスの居場所で……」

 

「で、ガキの頃聞いたっきりだからよく覚えてねえけど、その俺の父親も、その母親……まあ、俺にとっては祖母な。突き放されて、捨てられるも同然の別れ方して……まあ、結構辛辣にあれこれ言ってたな。ヒーロー活動のために家族を棄てたとか何とか、親とは思ってないとか……」

 

「おい、話を……」

 

「でも……

 

 

 

 …………そんな女でも、あんたにとっては大事な盟友だったんだよな?」

 

 

 

「……あ?」

 

 その言葉に、さすがに……グラントリノも、言葉を止めた。

 

 オールマイトも同じだった。

 すぐにその意味を理解できたわけではない。ただ……『グラントリノ』『盟友』『女』……これらのワードは、断片的にそれを捕らえたとしても……決して彼にとって、聞き流すことができないものだった。

 

 それらのワードから想起できる人は……オールマイトにとっても、かけがえのない存在。

 

 先代の『ワン・フォー・オール』継承者にして……かつて、自分がまだ未熟だった頃、他ならぬ『オール・フォー・ワン』との戦いの中でその命を散らした……師匠なのだから。

 

「……おい、お前……何を言ってる?」

 

「志村……何つったっけ、菜奈? で、その息子が『志村弧太朗』で……ここまでは知ってるか? でもその孫の名前までは知らねえし、会ったこともねえよな? 俺もあんたらに見覚えないしな。……知らないだろ? 『志村転弧』なんて奴」

 

「何を言ってる!? さっきから……」

 

「あんたこそ何言ってんだ、さっき言ってただろ、本名名乗ったらどうだって。せっかくだからバックグラウンド込みでカミングアウトしてやってんだろ……ああそうか、理解できないんじゃなく……理解したくないんだな。俺が言ってることの意味を」

 

 呆れたように、はぁ、とため息をつく死柄木。

 

「あんたらいつもそうだもんな。自分達が作り上げた、あるいは作ろうとしてるものの、日の当たる部分しか見ない。見ようとしない。その影で誰がどうなってようが見向きもせずに、ほめそやしてくれる奴らにばっかり笑顔を向ける……それとも何か? 自分が、戦友が、良かれと思ってやったことが、裏目に出るかもなんて考えたことなかったってか? 頑張って悪と戦って平和を守れば、何だかんだで万事うまくいってくれるとかおめでたいこと考えてたのかよ、え? 平和の象徴様?」

 

 矢継ぎ早に投げかけられる言葉に、事態を上手く理解できていない他のヒーローや警察官達は元より……オールマイトもグラントリノも、発する言葉が見つからない。

 

 嘘だ、はったりだと切り捨てるには、死柄木の声は、目は、あまりにもまっすぐで迷いなく……そして、端々に出てくる名や事実、情報は、どれも矛盾なく筋が通るもの。通ってしまうもの。

 

「志村菜奈が里子に出した子は、どこか遠くで幸せに暮らしてると思ってたか? 自分が特に気にかけなくても、探さなくても、会いに行かなくても、手を差し伸べなくても、何だかんだできっと上手いこと幸せになってると思ってたか? 母親のことを理解して、仕方なかったんだと、自分のためだったんだと割り切って、自分は自分で幸せな家庭を築いていると思ってたか? 妻や息子……孫の世代まで幸せになれたと思ってたか? 思ってたんだろうな、その様子だと」

 

 この先を聞きたくない、聞けばきっと後悔する。

 しかし聞かないわけにはいかない、聞かなければならない。聞いても大丈夫だと信じたい。

 

「思いもしなかっただろ。志村弧太郎が、自分の子供や家族に、自分の母親について……子供を棄てた鬼畜だ、なんて教えてたなんて。写真を隠して姿も見せず、話題にあげることすら禁じていたなんて」

 

「ヒーローは、他人を助けるために家族を傷つける、なんて教えてたなんて」

 

「自分の教えを守らず、ヒーローに憧れる子供に……暴力を振るっていたなんて」

 

「……その息子が起こした、『崩壊』の『個性』の暴走で……家族全員が死に絶えていたなんて……志村弧太郎の妻も、娘も、義母も、義父も……粉々に砕け散って死んでいたなんて」

 

「挙句の果てに、志村弧太郎自身も、その息子によって、殺意をもって、殺されて」

 

「そして残った息子……志村菜奈の孫が、仇であり宿敵である男に拾われていたなんて」

 

「想像もしなかっただろ。なぁ……ヒーロー」

 

 大丈夫であってくれ。もしくは、はったりであってくれ。

 そんな儚い願いは露と消え失せ、オールマイトとグラントリノの2人に、告げられた『事実』が突き刺さる。

 

 どれか1つでも顔をしかめざるを得ない悲劇が、束になってたたきつけられた。

 しかもそれらは、かつて戦友が、無事と幸せを願って遠ざけた、子供の……そして、孫の身に起こった『現実』であり……彼らにとっては、信じたくない悪夢でもあった。

 

 そしてもう1つ……

 

(……なぜだ……!?)

 

 動けない、声も出ない、彼の武器の1つである『笑顔』すら引っ込みかけているオールマイトを……戦慄させていることが、もう1つ、あった。

 

(なぜ……!? 立場も、信念も、目の奥に燃える炎の彩(いろ)も……何もかも違うのに、なぜ……)

 

 ふぅ、と、長台詞の後に一旦休むように息をついている死柄木。

 そらさず、逃げず、自分の目を正面から見返してくるその男の姿が……オールマイトには……

 

(なぜ、今、私の目には、彼と……緑谷少年が、重なって見えるんだ……!? 死柄木とは真逆の……眩いばかりの英雄の精神を持つ、彼の姿が……なぜ、今!?)

 

「自分が何かを忘れてることには、いつからか……何となく気づいてた。でも、思いだそうとすると頭が痛くなって、気分が悪くなって……だから、別にいいやって、目を背けてた」

 

 でも、と死柄木は続ける。

 

「それじゃダメなんだ……いや、違うな。そんなことする必要ないんだ。自分が何を忘れていたのか……それを思い出した時、どうしたいと思ったか……その時の感情にこそ、従うべきだと思った。だから俺は先生に聞いて、そして思い出した。この手で、父を、家族を、家を……全てを壊して、殺した時のことを……そして、その時に感じた……途方もない快感や、解放感も」

 

 その口元には、笑みが浮かんでいた。

 

「辛いこと、苦しいことに蓋をして、歯を食いしばってそれに耐えて、乗り越えて……そういうことができる奴は、あんたみたいなヒーローになるんだろう。でも俺は……我慢なんかしない、衝動の赴くままに……全てを壊す。邪魔なもの、目障りなもの、鬱陶しいもの……こんな生きづらい、窮屈な世界……全部ぶっ壊して、見晴らしのいい場所で思いっきり笑いたい」

 

 全てを開放し、さらけ出した……隠すということを棄てた死柄木。

 動けず、抵抗できないはずのその男が、言葉と同時に発した殺気。

 かつてそれは、『ヒーロー殺し』の一件のラストで、名だたるトップヒーロー達をも後ずさらせたそれに似ていて……それを思い出したグラントリノは、ここに至って把握する。

 

 警察やオールマイトによってもたらされた、彼に関する情報……それは、あまりにも古かったのだ、と。

 そして、今の死柄木はいわば……

 

(俊典や、あの小僧が選ばなかった道……その先頭を走っている者がいるとすれば……こんな感じになるのかもな……)

 

「今まで放っておいて……こっちが必死で自分のやり方で、自分の居場所を作ろうって段階になって、いかにも正しいことやってますってな正義面して首突っ込んできて邪魔をして……そして真実を知って、次はどうするオールマイト? もっともらしく善人面か? 今度こそ、手を差し伸べてくれるのか? ははは……笑えてくるな……まあ、結局何が言いたいかっていうとさ」

 

 一拍、

 

 

 

「失せろ」

 

「消えろ」

 

「祖母と一緒に、俺が生まれるよりも前に、俺から『平和』を奪っておいて、今後は仲間と未来を奪おうとするゴミめ」

 

 

 

「お前が、嫌いだ……オールマイト……!」

 

 

 

『そうだ、それでいい……弔』

 

 ふいに、そんな声が聞こえた直後……死柄木の周囲、何もない空間から……黒い水のようなものがあふれ出した。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そして、ほぼ同時刻。

 バーとは異なる2つの場所で、想定外の事態は進行していた。

 

 ベストジーニストや虎、ギャングオルカにMt.レディ……『ピザーラ神野店』とは別行動で、脳無保管庫を制圧したヒーロー達の元に……『それ』は現れた。

 

「さて……やるか。あっちもこっちも……騒がしい夜になるな」

 

 『ファイバーマスター』による拘束をものともせず、一撃で、一瞬で、目の前にいたヒーロー達を、そのさらに向こう側にいた機動隊ごと全て吹き飛ばし……その直後、まだ戦意を見せていたベストジーニストを行動不能にする。

 加えて、その場に投げ散らかされた脳無達を、黒い水のようなものを出してどこかへ転送する。

 

 トップヒーロー達がまるで相手にならず、一蹴されるという悪夢のような光景。

 たった1人で、あっさりとそれをなした……黒スーツと、不気味な仮面の男。

 

 連合のブレーン、あるいは黒幕と称されていた存在……『オール・フォー・ワン』。

 

 超人世界最強最悪の『敵』が、ついに動き出した瞬間だった。

 

 

 

 そして、悪夢は……もう1カ所でも。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 遡ること、ほんの少しの時間。

 

 夕方のニュースで放送された、雄英高校の記者会見。

 それを、病院の共有スペースで見ていた、1年A組、B組の生徒達は……ある者は悔しそうにし、ある者は怒りをこらえ、ある者は悲しみの涙をこぼしていた。

 

「くっそ……好き放題言いやがってよぉ、マスコミの奴らぁ……」

 

「けど、仕方ないよ……実際、雄英が襲われて、ウチら生徒が大勢怪我して……流石に今回まで、『屈しません』アピールだけじゃ無理だったってことでしょ? ……何もしないのも、それはそれで、雄英の不義理になっちゃうんだろうし……」

 

「だけど、俺達はそんなこと何も悪く何か思ってねーだろうが! むしろ先生たちは、必死で戦ってくれて……それに、これからヒーローになろうって俺達が、『敵』と戦って怪我したくらいで……」

 

「違うよ切島……俺達の場合、始まってから今までの経緯が特殊すぎるから忘れ気味だけど、普通はその時点で問題なんだよ。生徒が『敵』に襲われてケガしたなんて、生徒の方に何か無茶やったとかの理由でもなければ、学校の管理体制の問題になって当然なんだ」

 

 悔しそうに吼える鉄哲や、切島に諭すように言う耳郎や尾白。そこに付け加えて、骨抜や塩崎も……同じように悔しそうにしながらも、落ち着きを保ったままに言う。

 

「普通の高校や大学のヒーロー科なら、1年目で職場体験やら何やらに駆り出されるなんてこと、ほとんどないからな。最低でも半年から1年間、みっちり基礎を学んで『個性』も鍛えて、それで初めて社会に送り出して……時に『敵』と戦うような経験もさせる」

 

「言うなれば、雄英という金看板があるからこその英才教育……ですが同時に、『普通』を外れる以上、そのせいで何か間違いが起こった場合にはより強く非難されることになる……」

 

 既に記者会見は終わり、テレビは消されて……画面は黒く、沈黙しているのみ。

 

 それでも、生徒達の脳裏には……普段は見せない装いで、似合わない丁寧な言葉づかいで、1つ1つ丁寧に記者達の質問に答えていた、相澤達の様子が焼き付いている。

 

 信頼していた生徒達の保護者に申し訳ないと思わないのか、傷つけられた生徒達にどう声をかけるつもりでいるのか、今後の進退について何か考えているか……etc

 

「……それにしたって、ああまで人を勝手にダシにしたもの言いには、一言モノ申したい部分はあるけどな。頼んでもいない同情向けられたり、雄英を叩くための口実として使われるなんてのは」

 

「気持ちはわかるけど、実際には言うなよ、轟。私らが何を言っても、今のマスコミ連中には燃料にしかならない。都合のいいように解釈し直されて、その分また雄英が大変になるだけだ」

 

「……チッ!」

 

 轟と拳藤の会話を聞いて、盛大に舌打ちをして、座っていた椅子から立ち上がる爆豪。足音荒く、扉を開けて部屋から出ていく。

 

「かっちゃん、どこ行くの?」

 

「あぁ? 寝んだよ。もう飯も食ったし、このままここにいてもやることねえし……テレビも見るもんねえし、むしろ見たくもねえもん見ることになってうっとおしいだけだ」

 

 そう言って、乱暴にドアを閉める。

 

「……まあ確かに、今大体どのチャンネル見ても、雄英のアレのこと話してるしな。臨時特番までやってるところもあるし……これじゃ見てても辛いだけか……」

 

「そして外にはアレだしな……」

 

 ため息交じりに、今度は瀬呂と上鳴。

 

 瀬呂は、スマホで各テレビ局の番組欄をチェックしている。言った通り、どこも特番を組んで、今回の騒動を特集している。中には、夕方の記者会見を見て急遽特集を組んでいるようなところすらあった。被害者への糾弾に熱心なことだ、と、呆れ交じりのため息がまた1つ。

 

 そして、上鳴が見ている先は……窓の外。

 病院の、ちょうど入り口……敷地と外を分ける正門の位置である。

 

 昨日まで同様……もう夜もそろそろ遅い、夏でも暗くなってくる時間だというのに、報道陣が詰めかけている。門は固く閉じられているので、中に入るわけにはいかず……そこを半ば塞ぐような形で陣取っている。

 

 入院している被害者……すなわち、自分達雄英生の取材を行うことを狙ってだ。あるいは……問題なしと診断されて退院してくる者がいると予想して狙っているのかもしれない。

 昼日中のうちでは警戒されているから、夜のうちにこっそり退院するかもしれない、などと、無駄に頭を回して。

 

「夜遅くまでご苦労なこった……あれって残業代とか出てんのかな?」

 

「もしそうだとしたら随分ホワイトな職場だな、報道業界。あんな、成果も望めないような無駄な努力にまで、わざわざ給料出すとか」

 

「マスコミってホントに人の嫌がることに全力投球してくるよな。春先のアレもそうだったし。お……9時からならアニメやってる局あるっぽいな、そっち見るか?」

 

「瀬呂、Rは?」

 

「もち全年齢よ。つか、こんな病院でR指定のもん映るはずねーだろ峰田……」

 

「えーっと何々……あ、ホントだ。てかラ○ュタじゃん、ウチアレ結構好きなんだよね」

 

「私もー。気分転換にみんなで見ない?」

 

「ラピ○タ……ああ、『人がゴミのようだ』っていうアレだっけか」

 

「どんな覚え方しとんねん永久ちゃん……いや、確かに名シーンやけども」

 

「ついでに人生で一度は言ってみたい名台詞でもある」

 

「そのセリフ使うことになるってどういう状況だよ……」

 

「少なくとも私達がヒーローでいるうちは無縁かと思いますわ……多分」

 

「ゴミ……ゴミか……あそこの連中もゴミみたいに吹っ飛んだら少しはスッキリするかな?」

 

「けろ……上鳴ちゃん、冗談でも不謹慎よ」

 

「そうだよ上鳴ー。むかつくのはわかるけど、そんなの爆豪君だってしないよ……多分」

 

「いや、そりゃわかってるって、梅雨ちゃんも葉隠も……。けど……マスコミ連中が、俺達のために必死で戦ってくれた先生達にあんなことさせてんの見たら、どーにも心がささくれてよ……あと葉隠、せめて断言してやれって。わかってるから、爆豪だってあんな……」

 

 

 

 ―――ドッゴォォオオォオン!!

 

 

 

「「「!?」」」

 

 突然だった。

 

 何の前触れもなく、爆発が起こり……閉じられていた、病院の正門が、そこに押しかけていた報道陣ごと……吹き飛んだ。

 

「……は……?」

 

 見ていたにもかかわらず、一体何が起こったのかわからない上鳴。

 その後ろから、突然の轟音を聞きつけて窓際に駆け寄ってくる学友達。

 

「え、何? 爆豪君キレた?」

 

「いやさすがにちげえだろ。病室戻るっつってたし……ってか土埃すげえな」

 

「……あそこに転がってるの、門の鉄柵か? 何であんな吹っ飛んで……待て、何かいる」

 

 突然の惨劇に、パニックになって逃げ惑う報道陣。

 そんな中、土煙の中を悠々と歩いて、数人の人影が姿を現し……何のためらいもなく、病院の敷地内に入ってきた。

 

 しかも、土煙が晴れて、その姿があらわになってみれば……明らかに異様な装束。

 人数は4人。少なくとも、病院の関係者ではありえない。

 

 オオカミのような異形型の個性の大男。

 

 つやのある長い赤い髪の女。

 

 全身に包帯、あるいは布を巻きつけた装束の男。

 

 そして……黒い、鼻から下を覆い隠すようなデザインの、何か特殊なスーツのようなものを着込み……その上から、サラリーマンが着るような普通のビジネススーツを身に着けた、異様な風体の男。

 

 あまりに急変した状況、わけのわからない光景。

 その場にいた全員が困惑する中……誰かが、震える声で、言った。

 

「あ、アレ……何? 何で、病院、入ってくるの?」

 

 そして、

 

 

「……まさか……『(ヴィラン)』……!?」

 

 

 全員の脳裏によぎりつつも、あまりにも考えたくなかった可能性を……誰かが口にした。

 

 

 

 

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