TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第133話 戦闘許可、再び

「ええい、鬱陶しい! 数ばかりかと思えば馬力のあるものまでいるか!」

 

「どれだけの数が一体……エッジショット殿! 動きだけでも止められまいか!?」

 

「難しいようだ……普通の人間とは、微妙にだが肉体構造が違う。『改人』とはよく言ったものだ……簡単には止められんらしい」

 

 死柄木達を『黒い水』が連れ去り、オールマイトがそれを追いかけて、もう1つの摘発現場の方に飛び出していった直後。

 エンデヴァーを始めとした残りのメンバーは、死柄木たちと入れ替わるように湧いて出た、何体もの脳無の対処に追われていた。

 

 その数は1匹や2匹ではない。見える範囲だけでも20はいそうであり……しかも何体か『黒』までもが混じっている。

 

 エンデヴァーやエッジショットならば対応できる相手ではあるが、機動隊程度の戦力では相手にならず、なすすべもなく吹き飛ばされている。保須市で軽々とヒーロー達を蹴散らしていた様子から見ても、やはり『黒』は別格なのだと思い知らされる。

 

 ならば自分達が相手をするまでだと、エンデヴァー、エッジショット、それにグラントリノが立ち向かおうとしたところで……

 

「……えええ、エンデヴァー……」

 

「……?」

 

 聞き覚えのない声に、連合のメンバーが誰か残っていたのかと、エンデヴァーは上を見上げ……そこにいたモノを目にして、驚愕を隠せなかった。

 

 そこにいたのは……脳無だった。

 

 脳の露出という、全ての脳無に共通している特徴がないために――フードをかぶったような形状になっている――断定はできないが、他のおおよその特徴や、雰囲気は一致している。

 

 ただし、決定的な違和感が1つ。それは、エンデヴァーがこうして、視線を向けてこの脳無を発見することとなった原因、とも呼べるもの。

 

「みみ、見つけた……強い、奴……!」

 

(こいつ……言葉を喋るのか!?)

 

 

 

「神野に格納していたものを合わせて……『下位』『中位』合わせて100体以上、『上位』10体、さらに『最上位(ハイエンド)』を3体とは……随分と大盤振る舞いだね、ドクター」

 

『何、所詮は数打ちの実験段階でできたもんじゃ。データは十分とれたし、寿命も長くはない……ならばパーッと景気良く暴れさせてやった方が、彼らも嬉しかろうて』

 

「なるほど、せっかくだ……『クイーン』も含めて有効利用させてもらうよ。オールマイトを相手に、弔があそこまでの啖呵を切った晴れの日だ。盛大に祝ってやりたい」

 

 それから二言三言話してから、仮面の男……オール・フォー・ワンは、マスクに内蔵していたと思しき通信機をOFFにする。そして、『黒い水』でここまで転送されてきた、連合メンバーに向き直った。

 その集団の、先頭に立っている、死柄木に。

 

「……手間、かけさせちまったな、先生」

 

「気にすることはない。失敗しても、またやり直せばいいんだ……そのために僕がいる」

 

 そのやり取りは、ただ単に、先生と教え子の間で交わされる、普通のものだった。少なくとも、その光景だけを見れば。

 誰もこれが、世界を震撼させるほどの力を持つ『敵』の親玉と、新進気鋭の『敵』組織の頭目の会話だなどとは思えないだろう。

 

 淀んだ目と仄暗い魂で繋がった2人は、雑談にも近い会話を交わしながらも、一方で冷静に状況を分析する。

 

 死柄木はふと、周囲かなり広い範囲にわたって広がる、開けた土地を……正確には、そこにあったビル群を消し飛ばして作り出された、瓦礫の山が地面になっているその光景を見て、

 

「しかし……コレやったの先生か? 派手にやったな……遠目からでも多分、すげえ目立つぞ」

 

「そうだね、確かに……少々力がこもり過ぎたかもしれないね。まあどの道、場所自体が割れてる以上、奴は……ああ、もう来たのか」

 

 その直後、空中から弾丸のような勢いで急襲してくる、大柄な影が1つ。

 死柄木とAFO、両方を巻き込む軌道で飛んできたそれを、AFOは、こともなげに受け止める。

 

 ガン! と硬質にすら思える音を響かせて……AFOは、オールマイトの一撃を、素手で止めた。

 

「今度こそ、決着をつけるぞ……! オール・フォー・ワン!」

 

「また、僕を殺すか? オールマイト」

 

 常の笑顔を捨て、憤怒の形相で舞い降りた『平和の象徴』を前に、最強の『敵』は、まるで意趣返しでもするかのように……仮面の奥で笑ってみせた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「じゃあ何か!? あの後から来た3人って全員ネームドヴィランなのかよ!? それも、トップヒーロー級の強さのやべえ奴!」

 

「ああ、正直あの『ヒーロー殺し』よか危険だと思う」

 

 最早悲鳴とすら言える峰田の問に、こちらは落ち着き払った……ように見えるが、冷汗を流しながら答える轟。次いで緑谷が、補足説明を入れるように、

 

「『キュレーター』は『鯨』……発動型と異形型の複合で、とてつもなく強力なパワータイプ。『ウォルフラム』は周囲にある金属を操る……都会じゃ、四方八方に凶器があるようなもんだ。そして『オーバーホール』は……手で触れたものを、生物、無生物問わず即座に『分解・修復』する。極端な話……直接触れられたらその瞬間粉々に『分解』されるから即死だし、地面や壁を作り替えて広範囲に一気に攻撃したりすることもできる」

 

「聞けば聞くほどやべえ奴じゃねえか……そんなの本来、プロヒーローがチームアップで対処するレベルじゃねえの?」

 

「それで足りりゃいいがな。……で、残るはあの変な仮面野郎だ」

 

「……いや、今言った4人全員仮面付けてっけど」

 

 ……確かに。金属の仮面に、潜水マスク、ペストマスク、あと……何て言ったらいいのかアレは。

 

「ビジネススーツの顔下半分仮面だボケ。さっき見た感じだと、手の指先からビームみたいなの飛ばしてたな。だが……」

 

 そこまで行って爆豪は、いや、爆豪だけじゃなく私達も……さっきその『ビームみたいなの』の後に見た光景を思い出す。

 

 その部下と思しき『敵』2人の防御を間に挟んだまま、遠距離から『個性』で攻撃したヒーローがいたんだが……そいつの攻撃を、あのスーツ『敵』、何かバリアみたいなのを出して防いでいた。

 さっきのビームとはまた違う『個性』? それとも、同一の『個性』の使い方の違いか、あるいは複合型の何かか……

 

 ……もし、1つ目だとしたら……緑谷と同じように、『個性』そのものを複数持ってるってことに……? そんなの……いや、後だ! 考えてもわからないことを考えてる暇ない!

 

 とりあえず私達は、手分けして入院病棟の患者達の避難に協力することになったため、すぐに動き出した。病院の人達に申し出て指示をもらい、マンパワーが必要な部分を主に手伝っていく。必要に応じて、普段の授業で学んだ緊急時の知識を使いながら。

 

 ただし、一部の生徒はそれに参加していない。

 

 いや、一部って言うか……もったいぶらずに言うと、私と緑谷なんだが……別行動で、ある少女を保護しに行ったからである。

 言わずもがな……オーバーホールの狙いであろう、壊理ちゃんをだ。

 

 合宿の時と同じように、『敵連合』としてきた可能性もなくはないけど……襲撃してきたここに偶然で壊理ちゃんがいるってのは、ちょっと考えづらいし……仮に違ったとしても、それを知れば嬉々としてあのヤロー回収に来るだろうしな。どっちにせよ、早めに保護しとかないといけない。

 

 幸いと言っていいのか、こういう非常事態にも備えて病院の人達はきちんと訓練を積んでいたので、患者さんの避難自体は順調に進んだんだけども……数分も経たない内に、施設自体が盛大に揺らされ始めてね……

 

 まあ、恐らくはあいつらのうちの誰かが暴れ始めたんだろうな、とは思ったけども……何度も言うように、残念ながら私達には、『個性』を使って戦う許可がない。ゆえに、戦闘という手段で彼らを守ることができない……

 

 

 ……そう、思われていたのだが。

 

 

『雄英高校の皆さん! 聞こえますか!』

 

 

「「「!?」」」

 

 突如、頭の中にそんな声が響いて聞こえて来て……ちょうど壊理ちゃんを保護したところだった私と緑谷は、思わずびくっと体を震わせてしまった。

 ちょうど緑谷が抱き抱えていた壊理ちゃんが『? 何?』って聞いてきたけど、それに返事をする暇もないくらいに、私達の意識は、頭の中に響いてきた謎の声に向いている。

 

「これ……マンダレイの『テレパス』?」

 

「似てる、けど……何か違う感じがする。声も違うし……となると、誰か別の……」

 

『こちらはプロヒーロー『コマンドポスト』です。現在、私の『個性』である『アナウンス』によって皆さんに声を届けています。そのままお聞きください』

 

 あ、プロヒーローだった……聞いたことない名前だけど。

 個性名も違うけど、マンダレイの『テレパス』と同じようなことができる……情報を直接声にして伝達するような『個性』ってことでいいのかな?

 

 当然ながら、その疑問に答えは返ってはこなかったけど、代わりに……一応は吉報、と呼ぶべきであろう知らせが、その『アナウンス』によってもたらされた。

 

『現時刻をもって、本施設における『超非常事態認定』が発令されました。本病院は特定安全維持必要施設のA級認定を受けているため、これにより、施設の敷地内における、自衛等の限定状況下における『個性』戦闘が一時的に許可されます』

 

「え……何これ……?」

 

 突然聞こえて来た内容に面食らう緑谷。

 だが、すぐに彼も私も……『ヒーロー情報学』で習った内容の中に……今聞こえて来た内容に関するものがあったことを。

 

 公的な施設の中には、緊急時、特例措置として一般人や、私らみたいなヒーローの卵にも、『個性』を使用した戦闘――ただし、もちろん自衛の範囲でとか条件は絞られる――が許可される施設が存在する。患者の命を守らなきゃいけない病院や、重要な資料や記録、文化財なんかが保管されている保管施設などがそれにあたる。

 

 そういった施設では、守るべきものを守るために、一時的に超法規的措置を取ることが許されることがあるわけだが、後になってその行動に正当性が認められなかった場合は、通常の違反よりもむしろ重い罪に問われることになったり……まあ、色々ややこしい法規が設定されている。

 

 ま、今はそれは置いておいて……早い話が、この病院もそういう『特別な施設』に含まれているため、いざって時には、施設内にいる人達が自衛のために『個性』を使うことを許可できるのだ。そして、今がその『いざ』という時なわけで。

 

 しかもその『アナウンス』の声は、続けて、

 

『つきましては、雄英高校の根津校長先生より同意をいただいておりますので、雄英高校の皆さんには、コスチュームの着用を含む、ヒーローとしての『個性』使用の許可が発令されました。以降、適宜必要に応じて自身の判断で『個性』の使用及び戦闘を行ってください』

 

 なんてアナウンスが聞こえたと同時に、私の服のポケットに入っていたスマホに着信。

 見てみたら、発信元は……ターニャ?

 

「……もしもし、ターニャ? 何? 今ちょっと……」

 

『取り込み中であろうことは知っている。こっちも時間がないから手短に伝える、そのまま聞け』

 

 電話の向こうから聞こえてきたターニャの声は、訓練中に時折垣間見せる、本気の軍人モード……よりもさらに冷に徹した感じの、堅く、鋭く、強い声音だった。

 思わず背筋が伸びる私。しかしその返事を待たず、ターニャは早口で話す。

 

『恐らく今しがた、永久達雄英生徒の一時的な『個性使用許可』を伝えるアナウンスがあったはずだ。それは本当だ、私が大使館経由でヒーロー公安委員会に掛け合って発令してもらった。これで度を超えなければ、『職場体験』や『ワーキングホリデー』の時と同様に、コスチュームを着用して見習いヒーローとして動いて問題ない。襲撃してきた『敵』にはそれで対処しろ』

 

「はい!? え、今のターニャが……え、マジで!?」

 

『マジだ。ついでに言えば、『コマンドポスト』は私の教導隊時代の教え子だ』

 

 しれっとそんなマメ知識的な情報も。さらに続けて、

 

『現在、付近にいるヒーロー達に一斉に応援要請が飛ばされている。事態が事態だ、雄英からも幾人か派遣される可能性が高いが……何分今すぐに現着とまではいかん。どうにか持ちこたえさせろ』

 

「……わかった。きつそうだけど、戦闘許可出してくれただけでも御の字だな……コスチュームも使っていいなら、合宿の時よりはさらに条件もいいか」

 

 この病院には、『合宿』の時の荷物とかもそのまま運び込まれてるので、私達のコスチュームも保管されているはずだ。明日には業者に頼んで、雄英に送り返してもらう手はずになっていたはずだが……運がいい、まだ、保管庫にあるはずだ。

 

 緑谷に頼んで、今ターニャから聞いた内容を、A組とB組全員、それに心操と青山にも一斉送信してもらいつつ(私は通話中なのでアプリが使えん)……私はターニャに改めて礼を言った。

 同時に、こっちから提供できる情報も伝える。襲撃してきた『敵』の内訳について。

 

 『オーバーホール』『キュレーター』『ウォルフラム』……そして、正体不明の男と、その部下と思しき3人。

 最後の1人(+3人)については、ターニャもすぐにはわからなかったそうだけど、その前に並べて述べた3人分だけで、十分厄介なことになってると認識したらしく、電話の向こうでため息の音が聞こえた。

 

『……どいつもこいつも、プロヒーローですら簡単に死ねる危険度の奴が揃ってるな……。永久、許可を出しておいてなんだが、本当に戦闘は最小限にしろ……判断を誤れば……死人が出るぞ』

 

 

 

 ターニャとの通話を終えた私達は、壊理ちゃんをシェルターに入れた後で、コスチュームを取りに行こう、と考えてたんだが……それより先に、コスチュームの方が私達のところにやってきて、届いた。

 本来は、大きめのアタッシュケースくらいの大きさがあるはずのそれが、指先に乗るくらいにまで縮んだ状態で……スズメみたいな小さな鳥によって運ばれてきた。

 

 どうやらコレ、口田と、B組の小大の『個性』だな……。

 小大の『サイズ』で小さくしたコスチュームを、口田が鳥に運ばせたわけだ。多人数に一度にこれらを届けるには、最適な組み合わせだな。

 

 そして、私達にコスチュームを届けた鳥が飛び去って少ししてから、コスチュームは大きさを取り戻した。多分、飛ばした鳥が返ってきたのを『配達完了』の合図にして、『サイズ』を解除したんだろう。

 

 壊理ちゃんにちょっとだけ待ってもらって、素早く……それこそ、早着替え張りのスピードで服を換える。色々今更なので、恥ずかしがって互いに見ないようにして、なんて事はしない。堂々と目の前で着替えた。

 

 そのまま、特別病棟から最寄りのシェルターに壊理ちゃんを避難させて……他の皆に合流しようとしたところで、すぐ隣の病棟で爆発が起こった。衝撃波で、私達が通っていた通路の窓ガラスも、バリン、ガシャン、と一気に割れてしまった。

 

 咄嗟に窓から外を見て見ると……そこには、壁の一部が完全に吹き飛んで崩れ去ってしまっている病棟と……倒れ伏す、何人ものクラスメイト達。

 そして……彼らに守られて無事だったのだろう。涙目になって、必死に逃げる……真幌ちゃんと活真君の姿。

 

 そして、その2人を追って悠々と歩く、ビジネススーツ姿の『敵』。

 

 それらの光景を目にした瞬間、例によって緑谷は……考えるより先に体が動いた、という感じの速さで飛び出していた。

 

 無論、私もそれを追って飛び出した。

 

 

 

 

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