TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第135話 さよなら

 

(……やばい、これ……マジで死ぬかも)

 

 覚悟はしていた。想像を絶するレベルで強い『敵』だろうと。

 いやまあ、実際に想像を絶していたというか、当然のように想像できる範囲内にいなかったというか……その結果が今のこれだ。

 

 交渉とも呼べないような交渉の後、私と緑谷はナインと戦闘になり……その最中、戦闘音を聞きつけた爆豪ら他の生徒達が加勢にかけつけてくれた。

 そのうち、梅雨ちゃんと麗日は、真幌ちゃんと活真君を連れてその場を離脱してくれた。これで巻き込む心配もなく、存分に力を振るえる。

 

 ……しかし、存分に力を振るえるくらいで何とかなる相手じゃなかった。

 

「……これほどとはな……正直、驚かされた。子供だと思って慢心するのは間違いだったようだ……お前達も立派に、強者の側だ。そこらのヒーローなどよりも、よほどな」

 

 全員見事に倒れ伏して動けなくなっている私達を相手に、余裕のナインがそんなことをのたまう。

 

 総勢12名の有精卵、即席にしては満点と言ってよさそうなコンビネーションで、波状攻撃をかけたが……ほとんど一蹴された。

 私らが病み上がりで十全じゃないことを差し引いても……強すぎる、こいつ。

 

 砂藤の拳も、B組の鱗の遠距離攻撃もバリアで防がれ、砂藤は衝撃波で吹き飛び、鱗は爪ビームで撃ち抜かれた。

 

 その隙を突こうとした尾白と回原だが、やはりこちらもバリアを抜くことができず、衝撃波で返り討ちに。

 

 宍田と鎌切は、攻撃の瞬間を見極めて、そこならバリアはないと強引に突破して襲い掛かったものの、背中から飛び出してきた青いドラゴン×2の突進で弾き飛ばされ、噛みつかれ……叩きつけられた。受け止めようとした円場は、防ぎきれずに空気の盾を破られて、もろともに壁に激突。

 

 周囲の瓦礫を巻き込んで、『もぎもぎ』とテープで拘束しようとした瀬呂と峰田だったが、上手くいったかと思った次の瞬間、中から衝撃波と爪ビームでそれをバラバラにしてあっさり復活。立て続けに放たれた衝撃波で2人ともKO。

 

 攻防の合間合間に、見覚えのある感じの緑色の光があいつの体を覆ってた気がしたんだが……アレは、『細胞活性』か? やっぱり奪ってたんだな……でも、何で戦闘中にあんな風に……? ドーピングしてる感じじゃなかったが……

 

 そして、それらの攻撃を全てさばいて接敵した、緑谷、爆豪、そして私だったが……

 

(雷って、何だよ……!?)

 

 ありえないほどピンポイントで落ちて来た落雷が直撃し……とんでもない衝撃と電圧で、一気に戦闘不能にまで持っていかれた。

 

(『爪ビーム』『衝撃波』『青ドラゴン』『バリア』『個性見破り』『細胞活性』『個性強奪』そして……『雷』……いや、下手すると『気象操作』か? 雲が出て、空の色まで変わってる……やばい、全然勝ちの目が見えん……! ってか、体動かない……)

 

 『コンセントヒール』を発動して治癒を促進するものの、到底間に合う気がしない。

 ざっ、ざっ……と、ゆっくりなペースで、足音がこっちに近づいてくる。

 

 余裕のつもりか、それとも…………? 何だろう、表情、少し苦しそうだな?

 

 ひょっとしてこの『個性』、反動がキツいのか? 回復系の『個性』を欲しがってたっぽいのは、そのため……?

 

「治癒能力の促進か……素晴らしい力だ。それと『細胞活性』を組み合わせて使えば……私の道を阻む者は、最早何もいなくなるだろう……!」

 

「っ……させ、ない……!」

 

 そんな声と同時に、視界の端で……緑谷が立ちあがったのが見えた。

 その向こう側で気絶している爆豪は……まだ、起き上がれない様子だ。

 

 緑谷の全身……というか、節々が赤く光ってる。『フルカウル』じゃないな……『サイコフレーム』の光だ。体の駆動を補助する機能を利用して、強引に体を動かしてるのか……!

 

 でもあんなんじゃ、負担が大きすぎる……体が逆に壊れかねない!

 それに、よしんばもったとしても、『サイコフレーム』はあくまで動作の補助だ……外付けの神経回路として自分の体を操作できるような者じゃない。到底戦える動きはできない。

 

「……スライス」

 

 その一声で、後ろの方で待機していた赤い髪の女が動きだし……緑谷目掛けて、赤い髪の毛を束ねた刃が何本も伸びて……

 

 しかもその大きさというか、太さというか……明らかに当たったらタダじゃ済まないレベルの殺傷力だ。

 

 今の一撃でも倒れない、邪魔する気満々の緑谷を見て……今度は確実に排除する気で、か?

 

 殺す気……かどうかはわからないけど、死んでも別に構わない、くらいのつもりで放ってるのかもしれない。いやそもそも、こんなことしでかす『敵』相手に、殺すつもりがあるだのないだの、考えるだけ無駄ってもんだ。

 

 重要なのは……この1点。

 このままだと……緑谷が、死ぬ、かもしれない。

 

 その瞬間、私は、緑谷と同じように、コスチュームに内蔵された装備を……『生体人工筋肉』を利用して強引に体を動かし、緑谷のところめがけて跳んだ。

 

 多分、これのことなんだろう。緑谷がよくやってる(?)、アレ。

 

 『考えるよりも先に体が動いていた』っていうアレ……初めて経験したよ、私。

 

 ……そして多分、最後だ。

 

 ナインは爪ビームを飛ばし……機動力を殺すためだろう、私の足を狙って当てて来たが……痛みも衝撃も無視して、足に過剰なほどにエネルギーを回して突進し……妨害を振り切って、緑谷の目の前に出る。迫る何本もの赤い刃との間に、強引に体を割り込ませ、緑谷を後ろに突き飛ばす。

 

 そして……

 

 

 ―――ドドドドド……ドシュッ!!

 

 

 何発もの鋭い衝撃の後……その感触。

 

「っ、あ……かっ……」

 

 ……どうやら、防刃仕様の私のコスチュームでも、防ぎきれなかったらしい。

 腕、足、それに腹……か。物凄い違和感……というか、異物感を、体の内側に感じる。

 

「……え、栄陽……院、さん……!」

 

 かすれたような緑谷の声が、後ろから聞こえた。震えているようでもあった。

 恐らくはそのどちらも、今の私の状態を見てのことだろうけど。

 

 ……コレ、あれだよな。多分……もうしばらくしたら、痛みとか色々来る奴だよな……今はまだ感覚が追いついてないおかげで、なんかやたら冷静に思考していられるけど……

 いや、もしかしたら、体力の限界で意識飛ぶ方が早いか? いくらエネルギーが残ってようが、体そのものへのダメージが無視できないのは、USJの時とかでわかってるし……

 

 不意に私は、下の方に視線を落とす。

 

 けっこうな太さの赤い刃が、盛大に鳩尾のあたりに刺さっていた。

 異物感はそこから始まって、背中まで続いているので、貫通しているんだろう。同様の感触が足と腕にもあるから……貫かれたのは3カ所か。

 

 体が動かなくなりつつあるのを自覚しつつ、どうにか首を動かして後ろを見る。刺さってるせいで動きづらいが、痛みはないのでひとまずいいとして……よかった、後ろの緑谷には刺さってないみたいだ。

 

「……かひゅ……」

 

 ああ、だめだ……何か言おうとしたけど、やっぱ声でない。

 ってか、上手く息ができない。肺か横隔膜、やられたかな?

 

 せめて何か、気の利いた言葉でも、最後に言えれば、よかったかもだけど……止まるんじゃねえぞ、とか……あばよ、ダチ公とか……いや、ご主人様か……?

 

 ま、ひとまずは……いいか。守れた、なら……

 

 でも、ヒーローとしては……コレ、微妙だな……守るのはともかく、こういう……後に、続かない……終わり、方……追試でも、減点対象、だったと……

 

 ……ああ、もう、限界か……目、閉じてないのに、目の前が、暗く……

 

 

 

 

 

 ……ごめん、緑谷。

 

 

 

 …………さ よ   な    ら

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

(……なんだ、コレ)

 

 呆然と立ち尽くす緑谷の、その視線の先。

 クラスメイトが、あまりに日常からかけ離れた姿になって……がっくりとうつむいていた。

 

 自分目掛けて伸びて来た、何本もの赤い刃。それを、自分をかばってその身に受けて……腕と足、そして腹部を、その刃に貫かれて。

 

 ぐったりと脱力したまま、ピクリとも動かず……うつむいた形になっている顔が、後ろからでも少しだけ見えた。

 

 その目には、もう……光が灯っていなかった。

 

(何だよ……何だよ、コレ!?)

 

 動けず、何も言えない緑谷を置いて、事態は進む。

 

「っ……! しまった……ナイン!」

 

 焦った様子のスライスの声と同時に、これまで、ほとんど歩いてしか移動しなかったナインが、駆け足でスライスの方に向かう。

 

 同時に、スライスは伸ばした髪の刃を引き戻した。そこに刺さっている、永久の体ごと。

 

 咄嗟に手を伸ばす緑谷だが、届くはずもなく……永久の体は、スライスと、その隣に到着したナインの足元に、どしゃりとやや乱暴に落とされる。傷口から、おびただしい量の血液が、瓦礫を伝って流れ落ちていった。

 

 ナインは、永久の首元に手をやると、

 

「……まだ生きている。大丈夫だ……生きているなら、奪える」

 

「そ、そう……よかった。あなたの邪魔をしてしまったかと……」

 

「あそこであれほどまでの動きをするなどと言うのは、私にも予想できなかった……結果さえよければ問題ない。『個性』さえ奪ってしまえれば……それで用済みだ」

 

 およそ、人を人とも思っていないことがわかる言葉が並んだが、緑谷の頭の中に残ったのは、『まだ生きている』という部分だけだった。

 

 その瞬間、緑谷は思考を取り戻し……途端に沸騰しそうになる頭で、考えた。

 

(まだ、まだ生きてる、まだ間に合う! すぐに治療すれば……まだ……なら……!)

 

「返―――!」

 

 しかし、緑谷が言い切るよりも、地面をけって永久の元に跳躍するよりも、

 2人の『敵』が、永久を取り戻そうと突っ込んでくる緑谷に、迎撃の手を向けるよりも早く……

 

 

 ――バツン!

 

 

 そんな音が響いて……その瞬間、緑谷とナイン達の間に、地面から、見上げるほどに高い壁が生えてきた。

 

 突如として視界ごと、向こう側と分断されてしまった緑谷は、さすがに驚きで硬直し……そして、後ろからかけられた声を、聴いた。

 

「まあ、いいか。片方だけで……死ぬならそれで、手間もかからないと思えば」

 

 聞き覚えのある声。

 

 かつてのある事件の時、そして、数日前……林間合宿の襲撃の日にも聞いた声だった。

 

 感電のダメージはまだ抜けていない。未だに重い体をどうにか動かして、振り向いた緑谷の視界に入ってきたのは……ペストマスクをつけた、まだ年若い、しかし凶悪無比なネームドヴィランとしてその名を知られる男だった。

 

「……オーバー……ホール……!」

 

「この間ぶりだな、ヒーロー…………の、卵か」

 

 

 

 そして、その壁の向こう側。

 突如として現れたそれによって、緑谷や……さらには他の、気絶中、あるいは動けない雄英生達とも分断され……予期せずして邪魔者のいない空間となったそこ。

 

 ナインとスライスは、突然のことにさすがに驚き、しばし警戒していたものの……少し待ってみて何もないのを確認すると、ナインは肩の力を抜いた。

 

「……どうやら、この壁を作った誰かは……我々の邪魔をする気はないようだな」

 

「大丈夫……なのかしら? 一体誰で、どんな『個性』かはわからないけど、これだけの範囲を一瞬で……相当な強個性よ?」

 

「問題ない。何かしてくるなら、受けて立つまでだ。邪魔にさえならなければ……いや……」

 

 ナインはそこまで言って……倒れている永久に向き直り、その頭のすぐ横にしゃがみ込む。

 

「極論……これさえ済んでしまえば……もう何も、問題ない」

 

 そして……抵抗することもできない永久の頭に、ぽん、と、手を置いた。

 

「もう、聞こえてはいないだろうが……せめて、安らかに眠るといい……。君の『個性』は……私がこれから、使わせてもらう。私と共に……新しい世界を征く力として」

 

 

 

 

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