TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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諸事情から1話を分割しました。
なので、一挙2話更新となります。この後の第137話と合わせてお楽しみください。

文章だけではありますが、今回ちょっとショッキング?なシーンもありますので、苦手な方ご注意ください。


第136話 『覚醒』の光

 

 マミーと、キメラ。いずれも、ナインの配下としてこの病院に襲撃をかけて来た『敵』。

 

 それぞれがネームドヴィラン級の戦闘能力を持ち、その『個性』もまた、凄まじく強力。

 

 片や、包帯を巻きつけた物体を変化させ、いのままに操る兵隊にできる『木乃伊化』。

 

 片や、体に様々な動物の特徴を発現させ、それによって攻撃できる『キメラ』。

 

「どうしたァ、その程度かヒーローの卵共! お前たちが不甲斐ないと、罪のない一般市民が死ぬぞ!」

 

「っ……その原因になる奴が好き勝手言いやがって……!」

 

 地面を張って襲い掛かる轟の氷だが、普通に人間ならば芯まで凍り付かせるその低温も、キメラの強靭な肉体には通じない。その馬力だけで砕いて、反撃とばかりに、蛇のような尾で薙ぎ払う。

 氷の壁ごと、前方の広い範囲が吹き飛ばされ、それに紛れて接近しようとしていた泡瀬が慌てて飛び退る。

 

 その影で動いていた骨抜が地面を柔らかくして足を取ろうとするが、蛇の尾をその水面?に叩きつけ、その反動でその場から飛び退って逃れてしまう。

 

 そして、猛禽のように鋭い爪を振りかざして骨抜に襲い掛かるが、横合いから飛びかかった『黒影』が、夜の闇で力を増したパワーで殴りつけてそれを払いのける。

 しかし、狙いこそ反らせたものの、さしてダメージになっている様子はない。

 

「あの図体で、速い……!」

 

「タフネスもだ。轟の氷も、黒影の物理攻撃も効き目が薄いとは……」

 

 一方で、マミー。周囲にある、壊れた機材やら家具やらに包帯を巻きつけて操り、ミイラの軍隊を作り出して物量で押してくる。

 

「子供相手に不覚を取るほど甘くはないぞ。その無謀の代償、身をもって支払うがいい」

 

 1体1体はさほど強くはない。ある程度のダメージを与えれば、包帯がほどけて元に戻る。

 が、とにかくそこらにあるもの、ある程度の大きさのものであれば何でも敵になってしまうので、次から次へ後続が追加され、きりがない。

 

 さらに、キメラほどではないとはいえ、本体の戦闘能力も低くはない。忍者のように背中に差している刀と、『個性』にも使う包帯を操って、近距離に遠距離に変幻自在の攻撃を繰り出す。

 そしてその援護に、無数の『ミイラ』の兵士が立ちふさがるのだ。まるで一人軍隊である。

 

「だー、くそ! めんどくせえ、この野郎、次から次へと……」

 

「冷静になれ、切島! 頭に血が上ったら思うつぼだ!」

 

「だけどよ、あのミイラ兵士、無駄にでけえ上に動きがめちゃくちゃで読みづらいし、数多いし……しかも、あの野郎、他のヒーローまで……!」

 

 さらには、敵に包帯を巻きつけることで……今回の場合は、援軍として来てくれているヒーローを包帯でがんじがらめにし、『ミイラ』にしてしまった。

 マミーの『個性』は、人間などの生物を操ることはできないが、着ている服や装備は『無生物』である。ゆえに、それを介して操ることはできるのだ。あくまでも、動きだけであれば。

 

 飛びかかってきたヒーロー達を、ある者は気絶した状態で、またある者は動きを止めて包帯でからめとり、自分の兵士にしてしまった。そしてそれらもまた、他のミイラと同じように襲ってくる。

 

 単なる家財道具や機械類がミイラ化している者とは違って、うかつに攻撃すれば中の人間にまでダメージがいってしまう。やりづらいことこの上ない中で、切島達はどうにか食らいついていた。

 

 多くの者が、これまで『職場体験』や『ワーキングホリデー』で相手取ってきたような、一山いくらのチンピラとは違う。本当に危険な部類の存在、ネームドヴィラン……そう呼ばれる者の脅威というものを肌で感じ、しかしそれでも一歩も引かずに立ち向かう意思を見せていた……その時、

 

 突如として、病院の敷地全体を……強風が吹き荒れ始めた。

 

 立っていられないほどのそれではないが、明らかに急に発生するには不自然な風。しかもよく見れば、先程まで、一応夜ではあるが晴れていたはずの空が、かなりの大きさの淀んだ雲に覆われている。星の輝きが、ほとんど見えなくなっていた。

 

「……! これは、ナインの……」

 

「ああ! ということはアイツ……やったかついに!」

 

 その光景を見て、何かに思い至った様子のマミーとキメラ。

 そして、その声にこたえるように……彼らの視界の端にあった、瓦礫の山の壁が吹き飛び、その向こうから……スライスを伴ってナインが現れた。

 

 その姿は、先程までのサラリーマン風のスーツ、その上を脱ぎ捨て、体に密着しながらも重厚さをもった特殊なスーツが見えていた。体にはまるで血管のように、紫色のラインが浮かび上がり、髪留めを外した白髪が暴風で乱れている。

 

「ナイン!」

 

「よぉ……成功したみてえだな、どうだ気分は?」

 

「ああ……最高だ。ようやくこれで……私の力は、完成した」

 

 そう言って、ナインはその手を天にかざす。

 それに伴って、先程までに倍する暴風が吹き荒れ……さらには、落雷まで発生した。誰かに当たったわけではないが、病院の敷地内に滅茶苦茶に何発も落ちてきて、轟音が空気を震わせる。

 

 その光景を、スライスを始め、3人の部下は感動した様子で見ていた。

 

 すると、ナインはわずかに眉を顰めるようにしたが……次の瞬間には、緑色の光が彼を包んで、その眉間のしわも消え去った。

 

「『個性』による細胞の再生は万事うまく運んでいる。そのブーストとなる、このエネルギーを操る『個性』も……そう言えば、名前を聞かないでしまったな」

 

 まあいいか、と呟くように言うと、ナインは……キメラやマミーそして彼らと戦っていた者達よりもさらに後ろ側……建物の陰になっている部分に視線をやり、

 

「……いつまで隠れているつもりだ? 私に用があるなら、出てきて言ってみるといい……今の私は気分がいい、少しならつき合ってやってもいいぞ」

 

「は……バレてたか。しかし、えれえ『個性』を持ってる奴がいたもんだな」

 

「だからさっさと捕獲しときゃいいって言ったんだ……くそ、めんどくせえ……」

 

 瓦礫の陰から姿を現したのは……侵入そのものは確認されていれど、なぜか今までほとんど誰にも目撃されず、隠れていたと思しき2人……ウォルフラムとキュレーター。

 ドクターから、被験体であるナインの捕獲を依頼された、2人のネームドヴィラン。

 

「ヒーロー……ではないな、追っ手か。ちょうどいい……帰ったら、感謝している、と伝えておいてくれ。おかげで私は、これほどまでの力を手にすることができた」

 

「そりゃ無理ってもんだ……なんせ俺達は俺達で……」

 

 と、ウォルフラムが返事を言い終えるよりも早く、キュレーターが超音波で広範囲を……ナインのみならず、ヒーローも雄英生達も、ナインの部下も巻き込んで無座別に攻撃した。

 

 物理的な破壊力すら伴って襲来するそれに、悲鳴を上げたり、吹き飛ばされたりするものが続出する中、ナインは手をかざしてバリアを張るだけで、一歩も動かずそれを受け止めた。

 

「……おい、まだ俺喋ってんだろうが」

 

「知るか。馬鹿正直に時間与えたり、下手に様子見なんぞするからこうなるんだ……データは取れたんだろ、ならもう余計な手間も時間もかける理由はない。さっさととっ捕まえて帰るぞ」

 

「ま、それもそうか……てなわけだ。大人しく捕まってくれねーか? 実験台さんよ」

 

「まあ……素直に帰ってくれるとも思わなかったが……いいだろう。そちらがその気なら、相手になろう……この力に慣れる、いい機会ともとれるからな」

 

 ウォルフラム、キュレーター、そしてナイン。

 破滅的な実力を誇る3人の敵による戦いが始まり……その邪魔をさせまいと、スライスも加えた3人が、周囲のヒーロー達や生徒達の掃除に動く。

 

 さほど間を置かずに地獄絵図となるであろうその戦場。

 

 ……そことはまた別な場所で、1人孤独に戦っている者がいた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……こうなるともう哀れだな。所詮はガキか……」

 

 壁によって永久と分断された緑谷。そこに襲い掛かるオーバーホール。

 しかし、そこで『戦闘』は起こらなかった。

 

 それまでの戦闘のダメージに加えて、落雷の直撃。最早緑谷に、戦うどころか、満足に動けるだけの力も残されてはいなかったのだ。

 

「そこを……どけ! 僕は……彼女をっ……まだ……!」

 

「そういうセリフは、せめて自分の足で立ってる状態で言うもんだ」

 

 オーバーホールの『個性』で、地面から巨大な腕を生やして、薙ぎ払った。

 そのたった一撃で……常ならば、砕くもかわすも容易い物だったであろう攻撃で、緑谷は既に、立ち上がれないほどに体を弱らせ……地を這っている状態だ。

 

 しかし、目だけはまだあきらめていない、爛々と輝き、オーバーホールを睨み返している。

 

(まだ、まだ間に合うかもしれない……早く病院で手当てを受けさせれば……例え、もしもう『個性』を奪われていても……生きてさえいれば!)

 

 重傷を負った永久を助けなければ、その一念で闘志を燃え上がらせ続ける緑谷。

 

 しかし、それを嘲笑うかのように……あるいは、気に留めてすらいないかのように、無感情な顔で、オーバーホールは魔手を伸ばし……緑谷に触れた。

 

 ―――バツン!

 

「っ……がぁぁああぁっ!?」

 

 突如、腕に走った激痛。

 

 見ると……右腕が、半ば程からなくなっていた。もぎ取られたように。

 

 もぎ取られた腕は……オーバーホールが持っている。肘から先の装備……グローブやらスーツをつけたままの状態で……筋肉の反射ゆえか、ぴくぴくとまだ動いている。

 

 今まで、『ワン・フォー・オール』の力を込めて、幾度となく『敵』を殴り、その力を見せつけて来た腕、そして拳。

 それを失った。これではもう、この場を生き延びたとしても……今まで通りの戦いなど、到底できない。

 

 ショックと激痛で、到底思考する余裕がないながらも、それを悟って……流石に動揺している緑谷に、オーバーホールは語り掛ける。声のトーンを一切変えずに。

 

「これは後で使うから貰っていく。さて……もう抵抗することの無意味さはわかったと思うから、さっさと答えろよ? ……壊理は、どこだ」

 

「…………っ……」

 

 やはり、それが狙いか。

 緑谷は応えず、オーバーホールを睨み返し……しかし、オーバーホールはそれを返事と読み取ったのか、また何も言わず……今度は

 

 ―――バツン!

 

「っ……っ―――!」

 

 左足をもぎ取った。

 そして、緑谷の体を、ボールのように蹴り飛ばす。

 

 細身な見た目に反して鍛え上げられているその脚力に、緑谷は数m蹴り飛ばされて転がった。

 

 その拍子に、右腕と左足を、傷口もろとも強く打って激痛が走るが……あまりの痛みに逆に声が出ない。

 

「こっちは……いらん」

 

 その場に残った緑谷の左足は……雑に蹴飛ばしてどけた。

 

「表が騒がしくなって、あっちに目が向いてるうちに、壊理1人さらって逃げるのが一番面倒が少ないんだ……仕事を増やしてくれるな、死にぞこない」

 

 もう抵抗する力もない、息をするだけで、意識を保つだけで精いっぱいな緑谷を見下ろしながら、オーバーホールは問いかける。

 

「壊理のことを考えてるのか、さっきの女のことを考えてるのかは知らないが……無駄に意地を張るな。ここで耐えてもお前にもう、何もできることなんてない……考えるだけ無駄だ、自分が苦しくなるだけだぞ。さっさと吐け。そうしたら……せめて、苦しませずに終わらせてやる」

 

「…………」

 

「俺はこれが終わったら、壊理を迎えに行って……俺にまた力を貸すよう『説得』しなきゃいけないんだ……この腕は、その為に貰っていく。自分をたぶらかして、無駄に希望を持たせたバカの末路を知れば、壊理もきっと素直になってくれるだろう。無駄なことは考えずにな」

 

「……っ……!?」

 

「わかるか、時間がないんだよ俺には……だからさっさと……」

 

 まだオーバーホールが何か言っているが、緑谷の耳には入ってこなかった。その前に聞いた言葉を、ひたすら耳の、頭の中で反芻していた。

 

(僕の腕を、壊理ちゃんの『説得』に使う……あの子を……また脅して、怖がらせて……せっかく、せっかく自由になって、笑うことができるようになったあの子を……!)

 

 脳裏に浮かぶのは、つい数時間前に面会で会った、壊理の顔。

 怖い目に合った自分達を心配してくれて、大丈夫だとわかると、ほっとしたようにして。

 

 そして、無事を喜んで笑ってくれた。

 

 最初のころは、上手く笑うこともできなかった……自由の意味も知らなかった彼女が、ようやく、普通の幸せを掴めそうな所まで来ている。それを、この男は……

 

(また、奪うつもりか……そんなの……そんなの、許さない……! 許して、たまるか!)

 

 痛みと絶望を押しのけて余りある闘志を目に宿し、キッとオーバーホールを睨み返す緑谷。

 

 まだダメか、とため息をついて、今度は右足に手を伸ばし……

 

 しかし、その瞬間、

 

 緑谷の全身から、赤い光があふれ出し……その光は、物理的な力を持ったようにして、オーバーホールを弾き飛ばした。

 

(っ……!? 何だ、コレは!? 攻撃か!?)

 

 困惑するオーバーホールの前で、緑谷の全身……の、コスチュームに組み込まれている『サイコフレーム』が放つその光は、どんどん強くなっていく。緑谷の意思の力に呼応して、輝きを、力強さを増していく。

 

「もう……何も、奪わせない……!」

 

 ただの光、と切手は捨てられない謎の力を前に、オーバーホールも流石に困惑する。

 既に文字通り手足をもがれ、何もできないはずの子供を前に、攻めあぐねていた。

 

 そして……次の瞬間、

 

「壊理ちゃんは……渡さない! 永久も……助ける!」

 

 赤かったその光の全てが、

 

「これ以上……誰からも……何一つ……! 奪わせて……たまるか!」

 

 緑色に……『覚醒』の色に染まり……緑谷の英雄の精神が、その光に乗って拡散していった。

 

 そして、その光が届いた先で……

 

 

 

 

 

「……みど……りや……!」

 

 

 

 

 

 消えかけていた命の灯火が、輝きを取り戻そうと、あがき始めていた。

 

 

 

 

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