目の前で『クルルル……』と、唸るような鳴き声を口から漏らす脳無。
それも、USJですでに一度一戦交えているその個体を前に、イレイザーヘッドとプレゼント・マイクは、正面からだが油断なく構えていた。
「よりもよって、相手することになるのがコイツとはな……リベンジを前にやる気は十分か、イレイザー?」
「あいにくとそんな感傷なんぞ持ち合わせちゃいない。目の前にいるのが『敵』なら、ヒーローとしてやるべきことをやるだけだ」
「ごもっとも。そんじゃ早速……」
言い終える前に、脳無がドン、と地を蹴って突撃してくる。
相も変わらずすさまじい速度だが、USJで戦った時よりも遅い、と相澤にはわかった。人間離れしているが、目で追えないことはないし、対処もできる程度だ。
(何か月も警察で拘留されていたわけだからな……改造人間とはいえ、調整も何もなしじゃ、多少なり筋肉も衰えるか。それに……)
というより、既に対処は終わっている。
跳躍してきた空中で、突如として体勢を崩す脳無。
その足元、というより地面には……ビー玉のような金属のアイテムがいくつもばらまかれていて、バチバチと火花を散らしていた。
「撒き菱型スタンガン……踏まなくても上を通過しようとするだけで感電させる、モーションセンサー搭載の空中放電タイプだ。本来は暴徒鎮圧用だが……特別にリミッター外して、常人なら感電死確実レベルのをくれてやった。さすがに少しは動きも鈍るようだな……マイク」
と、相澤の合図に応じる形で、
『そのまま寝とけこのボケェ!!』
衝撃波すら引き起こす大声、それも指向性スピーカーでその破壊力を集中させた音の砲撃が脳無に直撃し、鼓膜を破壊、その向こうにある三半規管にまでダメージを与えた。平衡感覚を保っていられなくなり、倒れ込む脳無。
その直前に相澤が放った捕縛布が縛り上げ、身動きの取れない状態で倒れる。
その直後、未だ放電を続けている『撒き菱型スタンガン』の上に倒れてしまったがために感電し続け……しかもその瞬間、巻き付いた捕縛布が、よりぎっちりと巻き付いて、ほとんど完全にその動きを封じた。
よく見るとその捕縛布は、相澤が首に巻いているものではなく、新たにどこかから取り出したものであるらしかった。
「おォ、何だありゃ……新武器だったのか。見た目同じだから気づかなかったぜ」
「通常の捕縛布用の合金繊維に加えて、ニチノール合金ってのを追加して編み込んである。熱に反応して変形する形状記憶合金……だったか。面白かったんで取り入れさせてもらった。加えて、さっきから『消し』続けてるから『超再生』も『ショック吸収』も発動しない。そして……」
言いながら、トドメとばかりに相澤は、懐から取り出した拳銃を脳無に向けて撃つ。
しかし、発射されたのは弾丸ではなく、注射針付きのアンプルだった。命中し突き刺さったそれから、中に入っていた薬剤―――即効性の筋弛緩剤が脳無に注射される。ほどなくして、脳無は全身の筋肉を弛緩させて動かなくなった。
「『超再生』は外傷には強い。欠損レベルの傷すら問題にならないほどにな。だが毒や金属片など、体の中に異物が入っている場合には、それを排出することまではできない……以前にお前と戦った生徒達が突き止めた弱点だ」
「なるほど。そういやさっきの合金も、お前んとこの八百万が期末で……こんな仕事やってると、教えることも多いが教わることも多いってこったな」
「コイツに言っても仕方ないがな。……命令を聞いて動くだけの頭しか残されてない、取り調べもできなかった……人形だ」
「……こいつは、な」
「……わかってる。だが言うな、今は……」
動かなくなった脳無を手繰り寄せ、追加で筋弛緩剤を注射して当分動けないようにし、さらに手元の捕縛布で念入りに縛ってから……ようやく『抹消』を解除。乾いた目に目薬をさして潤わせた。
そして相澤とマイクは、ふと、先程まで黒霧が転がっていた場所を――しかし、今は誰かが移動させてしまったのか、どこにもいない――見て、
しかしその後すぐに、自分達は今やるべきことがある、と思い直して動き出した。
☆☆☆
「ヘイNINJA! こっちが片付いたから加勢に来た……ってうおぉ、こっちはこっちでやべーのと戦ってやがんな!?」
「っ、プレゼント・マイクに、イレイザーヘッドか! すまん、情けない話だが……こ奴ら、拙者達だけでは手に負えん! 手を貸してくれるとありがたい!」
2人が向かった先では、忍者ヒーロー・エッジショットと、ラビットヒーロー・ミルコが、それぞれ1体ずつの『喋る脳無』……『
ミルコが戦っているのは、背中から昆虫のような翅を生やした脳無だ。大きさは成人男性ほどだが、目にも留まらぬスピードで飛び回り、ミルコに加えて、グラントリノとルミリオンの3人を同時に相手をして、それでもなおとらえきれない速さで動き、かく乱している。
姿を現した時は人型だったはずだが、今のその姿は、人間と昆虫を足して2で割ったような形になっている。手は四本あり、その全てに、カマキリを思わせる鋭い鎌がついている。一振りすれば、鉄骨の入った瓦礫を苦も無く両断するほどの威力・切れ味を持っていた。
一方、エッジショットが戦っているのは、こちらも最初は人型だったが……戦闘が始まるや否や、その体をスライムのような流体に変化させて変幻自在に攻撃してくる脳無だった。
しかもその体は金属質のようで、流体ながら重量と硬度を持たせた攻撃が、縦横無尽に繰り出される。時に刃、時に鞭、時に槍……形を変えて、エッジショットと、協力して戦っているファットガム、そしてサンイーターを追い込んでいた。
ファットガムとサンイーターは既に痛打を受けたのか、回避と防御で手一杯だった。
エッジショットも高速で動きながら、何度もその脳無の胴体を貫いたり、触手を撃ち抜いて狙いをずらしたりしているが、有効打になっているようには見えない。
「イレイザー! こいつに『抹消』を……」
「もうやってる……だが効いてねえ。こいつのこの変形……発動型じゃなくて異形型だ」
「体そのものがもうそういう仕組みってことかい! というかこいつ、どこ殴っても貫いても効いてる感じせえへんで!? どないしたら倒せるんや!?」
「まるでター○ネーターだ……全身を流体化できるなら、物理攻撃は効果がないってこと……ならもっと、熱とか他の……っ!?」
言い終わらないうちに、サンイーター目掛けて迫っていた鈍色の触手が鞭のように波打って振るわれ……とっさに腕に、手甲のようにハマグリの貝殻を発現させて防いだものの、どうにか1発分の衝撃を殺して、貝殻は砕け散った。
範囲外に逃れはしたものの、受け止めた腕が痺れてしばらくまともに動かないと悟る。
「……所詮ハコノ程度。脅威足リエナイ様ダナ」
「ほぉ~……言ってくれるやないけ……。このファットさん達が敵やない、ってかぁ?」
「けど実際、向こうの攻撃は強力なのに加えて、こっちの攻撃はろくに通じない……非物理系の攻撃ができる、エンデヴァーや、波動さんあたりがいればあるいは……」
「難しいな、どちらも今は別なネームドと戦っているようだ。プレゼント・マイクは……あっちの昆虫の方に行っているか」
「……!」
エッジショットが言っている最中、ふと相澤が、何かに気づいたような表情になったが、それに気づいた者はいなかった。
そのまま、警戒は保ったままで、しばし考える姿勢に入る。
「諦メロ、抵抗シナケレバ一瞬デ済ム。抵抗スレバ苦シミハ長ク続キ、ソシテ無駄ニ終ワル」
「そう言われて諦めるようなヒーローなんぞおらんっちゅーねん! 人間舐め取ると痛い目見るでこのエセターミ○ーター!! いや、体ドロドロやしT-2○00かぁ!?」
「……内臓も頭部も、全て流体化して攻撃を受け流される。物理一切が通じないとなると、捕縛も、『千枚通し』も通じない……やはり、非物理系のヒーローの合流まで時間を……」
「……いや、俺に考えがある」
と、呟くように相澤が言った言葉に、その場にいた全員が、警戒は保ったまま、意識を向ける。
恐らくは、今の声が聞こえていたのだろう。流体の脳無の視線が向けられたのを感じながらも、相澤は懐から、あるものを取り出した。
「少しだけ、隙を作ってくれ。上手くすれば……これで決められる」
☆☆☆
「アハハ! アハハハハ! 遅イ襲イ! ソンナンジャ捕マラナイヨ!」
「待ァてコラァ! ちょこまかと……こんの虫野郎!」
「熱くなるなよウサギの嬢ちゃん! 深追いしすぎると足持ってかれるぞ!」
追いつけないスピードで飛ぶ昆虫脳無。ミルコの蹴りも、グラントリノの蹴りもかわされ、あるいは防がれる。
しかも昆虫らしく、甲殻も頑丈。命中した蹴りも痛打にはならない上、損傷はすぐさま『超再生』で回復されてしまう。
唯一当たる攻撃と言えば、
『止まれっつってんだろォがァ!!』
音速で飛んでいき、しかも範囲攻撃が可能な、プレゼント・マイクの音波砲撃くらい。
それも火力不足ではあるが、僅かに動きを鈍らせることはでき……そこに、地面をすり抜けて突撃してきたルミリオンの拳がヒットする。
が、やはり帰ってくるのは、金属を殴ったかのような感触のみ。
「硬った……やっぱり、生半可な攻撃じゃ全く……っ!?」
「アハハハハ! チョットビックリシタヨ!」
間髪入れずに振るわれる鎌での連続攻撃を、ルミリオンは『透過』して回避し、離脱する。
「よし、アレなら当たるんだな! おいDJ! 次は私にやらせろ、ひるんだところを蹴っ飛ばす!」
「アァ!? バカ言うなバニー! できるわけねーだろが!」
「あ!? 何で!?」
「俺の音波砲撃は無差別攻撃なんだよ! 味方も巻き込まれてんの! アレは音も『透過』できる通形だから連携になってるんであって、あんなん普通の奴が、特にお前さんみたいな耳がいい奴がやったら速攻で鼓膜破れるし、そもそもお前さんの動きも止まっちまうわ!」
「何だよそれ、気合で何とかならねえのか?」
「なるか! ……ってやべえ、来るぞ!」
「今度はコッチカラ行クヨ!」
4本の刃を構え、左右にジグザグな軌道で、しかし恐ろしいスピードで飛びながら向かってくる昆虫脳無。幾度もフェイントを入れて、迎撃に出て来たルミリオンとグラントリノをおちょくるかのようにかわし……飛びかかった先は、ミルコ。
それを察知したミルコは、逃げも隠れもせず、真正面からあえて懐に飛び込んで、薙ぎ払うような軌道で蹴りを放つ。
速度に加え、体重を乗せて放たれたその一撃は、振るわれた鎌2本を横から、腕の付け根から粉砕し、顔半分をも砕き割った。
が、元より痛覚すらない脳無である。その程度では止まらず、狂気を感じる笑い声を響かせて、残る2本の鎌を動かす。
位置関係から、1本はミルコの体には届かない。だが、もう1本の刃が、吸い込まれるように彼女の胴体目掛けて振るわれる。
体をひねってかわそうとするミルコだが、間に合わない。このままでは上手く行っても、腕1本は持っていかれる。
……と、悟ったミルコは、あろうことか回避を最低限にして諦め、腕一本くれてやるつもりでカウンターの蹴りを放つべく、足を振るい……
「忍法・千枚通し!」
―――ドスッ!!
「……エ?」
しかしその瞬間、凄まじい速さで伸びて来た1本の錐のような何か―――体を長く、細く、鋭く引き伸ばしたエッジショットが、今まさに振るわれんとしていた腕を貫いて軌道を反らす。
腕を飛ばすルートで動いていた刃は狙いをそれ、振り乱されていた髪の毛を僅かに切り裂く程度にとどまり……ミルコの足はかかと落としとなって振り下ろされ、背中の翅と、そのまま首を粉砕して、昆虫脳無を地面に叩きつけた。
一瞬遅れて、ミルコや他の面々も、その乱入者に気づく。
「え、エッジショット!? あっちで、もう1体の『最上位』と戦ってたんじゃ……倒したんですか!?」
「いや、そういうわけではないが……」
「何だっていい、トドメ刺す。そこどけ」
疑問はあるが後回しにすることにしたらしいミルコは、腕と羽、顔の半分以上を損傷してもなお動こうとする脳無に追撃を加えんと、エッジショットをよけて進もうとする。
既に生け捕りは不可能だと割り切り、頭を砕いて確実に息の根を止めるつもりで。
それを察したのか、はたまた単に回復までの時間を稼ぐためか、昆虫脳無は片方だけになった翅を動かし、半端に残った足でどうにかその場を離脱しようとして……
「コノ程度、スグに再生ス……エ?」
しかし次の瞬間、伸びて来た金属質の触手に絡めとられ、縛り上げられて地面に倒れ込んだ。
その伸びてきた先には……
「あん? どういうことだ、ありゃ……」
「アレって……もう1体の『最上位』!? なんで仲間を……」
「…………」
昆虫脳無を縛り上げていたのは、流体に変化する異形の肉体を持った、もう1体の『最上位』。
エッジショット達が戦っていたはずの、ターミネ○ターのごとき脳無だった。
グラントリノ、ルミリオン同様、ミルコも、この仲間割れと思しき状況に困惑していたが……とりあえず、当初の目的を果たすために動いた。
「ま、いいか。『
「ア」
再生しかけていた昆虫脳無の頭部が、ミルコの必殺の一撃で、背中の半ばまでを巻き込んで粉砕され……死体を改造して与えられた偽物の命は、今度こそ潰えた。
☆☆☆
……さかのぼること、ほんの1~2分ほど前。
エッジショットが、ファットガムが、サンイーターが、縦横無尽に繰り出される鋼の鞭の連撃のなかをかいくぐり、それをさばいている中、イレイザーヘッドはじっと脳無を観察しながら、時を待っていた。
手に持った小さな、金属の筒のようなものを握りしめて。
その様子は当然、脳無の方からも見えている。
暫くそれを繰り返した後、はぁ、とため息をついて、脳無は言う。
「ソノ筒ガ虎ノ子ノ武器カ? 大方、小型ノ爆弾、アルイハナパームカ何カダロウ。物理ガ効カナイノナラ、炎デ焼コウトデモ考エタカ?」
「……!」
「ソレデ私ヲ焼クツモリナラヤメテオケ、無駄ダ。確カニ物理攻撃ニ比ベレバ効果ハアルガ、ダカラト言ッテ言痛打ニナリ得ルモノデハナイ」
その声には、哀れみすら込められているように感じられた。届くはずのない目標に向けて、無駄な望みを胸に懸命に努力する者達に対しての。
「衝撃ハ受ケ流セル。痛覚モ元ヨリナイ。『超再生』モアル。オ前達ノ決死ノ努力ハ徒労ニ……」
「うだうだとうるせえんだよ」
言い終わるのを待たずに、相澤は忠告をばっさりと切って捨てた。
「そんなに余裕だっつんなら食らって見るか? それともホントは怖くてやめて欲しいのか? どっちだ言ってみろこのタコ野郎」
「……イイダロウ、ソノ見エ見エノ挑発ニ乗ッテヤロウ。対価ハ……貴様ラノ絶望ダ」
そう言うと、脳無は不意に触手を振り回すのをやめる。同時に体の変形をやめ、元の人型の体に戻った。
そして、来てみろ、とでも言うように、両手を広げてみせる。受け止めて見せる、とでも言うようなジェスチャーだった。
相澤はその、ノーガードでがら空きの脳無目掛けて、手にしていたそれを投げつける。
勢いよく飛んで、脳無の胸に当たったそれは、即座に炸裂し……
しかし、中から噴き出したのは大量の煙だけだった。
視界を塞ぎはするものの、僅かな熱も、爆風も起こらない現状に、脳無は逆に困惑する。
「……何ダ、コレハ? 炎スラ出ナイダト?」
「かかったなバカが。そいつは麻酔毒の煙だよ、即効性のな。そのまま寝ろ」
それを聞いて、なるほど一本取られたのか、と納得する脳無。だが、煙の向こうの相澤達を憐れむ態度が変わるわけではなかった。
元々遺体から、生命活動の止まった状態から作り出されるのが脳無である。生身の人間ならば致命的な攻撃であっても、ちょっとやそっとの毒や薬品でどうこうなるほど、やわではない、ないし、繊細には作られていないのだ。
現に、林間合宿の時などは、現地で投入された中位の脳無でさえ、マスタードがばら撒いた毒ガスの中で平然と活動していたくらいである。これしきの、恐らくは対人制圧用のツールであろう麻酔毒程度、警戒する必要すらない物だということを、脳無は理解していた。
「浅ハカナ。ソレシキノ毒デ……」
……その瞬間だった。
そんな小細工は無駄だという残酷な現実を告げようとした矢先……ふいに、脳無は言葉を止めた。
その場で硬直し、かくん、と糸が切れた人形のように、脱力して動かなくなった。
突然のことに、それを見ていた面々が驚く中で……ふぅ、と相澤は息をついた。
「成功だ。よくやってくれた…………心操」
そう言った直後、相澤の背後の瓦礫の裏から、雄英のジャージに身を包み、首元に、相澤と同じ捕縛布を巻いた、紫髪の少年……心操人使が、その姿を見せた。
その口元には、見慣れない、メカニカルな見た目のマスクを装着している。
「心臓口から飛び出るかと思いましたよ……コイツのお披露目初回のぶっつけ本番で、プロヒーロー殺せるような怪物を相手にするとか……よくやる気になったなと思います。我ながら」
かちゃ、と口元のマスク……心操用のサポートアイテムであり、他人の声真似を可能にする変声装備『ペルソナコード』を外して、はぁ、と安心したように彼は息をついた。
およそ5分前、相澤が脳無の背後に心操の姿を確認し、その心操がハンドシグナルで相澤に作戦を提案してきたところから、この芝居は始まった。
心操が大回りして、脳無に気づかれないように相澤達の背後に移動してくるのを待つ間、相澤はいかにも一発逆転の攻撃手段があるかのように装って、脳無の油断を誘う。
結果として、予想以上に脳無がこちらからの攻撃を進んで受けるまでに油断してくれたため、その際に投げつけた煙幕弾――麻酔ガスですらない――で脳無の視界を遮る。それにより、喋っているのが相澤かどうか、視界で判別できなくする。
そして、『ペルソナコード』で相澤の声を模倣した心操が声をかけ、油断して返事をした脳無は……心操の個性『洗脳』にかかり、こうして動かなくなってしまった……というのが全容である。
なまじ知性を持ち、返事をすることができ、そしてこちらを侮っていたがゆえの結末だった。
「それでぶっつけ本番やってのけたっちゅーわけかい! 大したもんやのぉ……しかもコレで普通科やってんから余計にびっくりや」
「確かに……しかし、この成果は大きい。コレでこいつは戦力外……いや、そのままこちらの戦力として数えることすら可能だ」
「え、でもそれは流石に危険なんじゃ……心操君の『個性』は、叩いたり衝撃が加わると解除されてしまうんですよね?」
「ええ、少し強めに叩いた程度で解除されてしまうんですが……衝撃を受け流せる上に痛覚もないのなら、多少ぶつかった程度じゃ解除されないと思います。体育祭の時とか、そんな場面が何度かあったんで……少なくとも、本人が明確に『痛い』と感じるくらいの衝撃が要るようでした」
現に心操は、体育祭の時、第1種目の障害物競走では、氷結した地面を超えるために他人を文字通り乗り越えて、というか踏み越えて進んだり、騎馬戦よろしく自分を運ばせたりしていた。
その際、踏みつけたり運ばせる時には、多少なり『痛い』と感じるような場面もあっただろうが、そう簡単に解除には至らなかった。簡単ではあるが、衝撃や痛み自体はそれなりのものが必要なのだろう、と心操自身は理解していた。
そしてこの脳無は……ちょっとやそっとのどころか、プロヒーローが思い切り放つ攻撃ですら、痛くも痒くもないほどの打たれ強さがある。
体は金属質で堅牢であり、多少の打撃は無効化する。
それを超えるような衝撃は、体を流体化させて無効化する。
そもそも痛覚がないため、攻撃を受けても怯んだり、気に留めるということがない。
「……つまり、なまじ打たれ強いがために、ちょっとやそっと攻撃したくらいじゃ、逆に洗脳が解けない可能性が高い、と?」
「……過信はできないが、魅力的ではあるな。どのみちこの乱戦の中、流れ弾の被弾ゼロで連れ出すのは無理だし、それなら……適宜利用させてもらうか。その後は……可能なら『
「あるいは……物間と合流できればいいかもですね。敵に、物を圧縮して閉じ込める『個性』の持ち主がいましたから、それをコピーしてもらって……」
と、そこまで話したところで、エッジショットが、昆虫脳無と戦っているミルコ達の危機に気づいて飛び出し……その直後に、動けなくなって危険も少ないと見て、洗脳した脳無の運用テストも兼ねた援護の末、もう1体の『最上位』を打倒することに成功していた。