TSから始まるヒロインアカデミア   作:破戒僧

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第145話 VS ウォルフラム

 

 吹き荒れる鋼の鞭の乱打。冗談のような質量を持った物体が、広範囲を叩き、抉り、薙ぎ払う。

 

 轟、爆豪、切島、そしてエンデヴァーにターニャの5人は、ほとんど無差別と言っていい勢いで、四方八方に放たれ続ける攻撃を、どうにかかわし続けていた。

 

 エンデヴァーとターニャはその最中にも反撃を飛ばしているが、遠距離攻撃手段がない切島は防戦一方。爆豪と轟は時折、氷結や『徹甲弾』を飛ばしているものの、ほとんど届きもせずにかき消されてしまっている上、届きそうな時にはしっかり反応されて防御されていた。

 

「くっそ、近づけねえ……ってか手数多すぎだろ! それに、なんか金属以外も動かしてねえ!? あいつが動かせるの、金属だけじゃなかったのかよ!?」

 

「金属に巻き込んでコンクリとかを一緒に動かしてんだ。あるいは、中に鉄骨が含まれてる瓦礫とかを、だな……そうやって金属の総量以上の質量を叩きつけてくる。それに、叩きつけるだけじゃなくて、瓦礫を飛ばして散弾みたいにして遠距離攻撃もしてくるしな」

 

 冷静に考察こそしつつも、全く手が及ばない現状に変わりはなく、切島同様、轟も歯噛みしていた。

 

 爆豪はそれに加えて、ウォルフラムは無差別に攻撃しているように見えて、実は明確に自分達を危険度で区分していることにも、狙って攻撃と防御を行っていることにも気づいていた。

 

 現に、鋼の鞭は、よく見ると、狙っている数が個人個人ごとに違う。

 爆豪の見立てでは、爆豪に全体の1割、轟と切島に合わせて1割、エンデヴァーに3割、そして残りはターニャに向けて振るわれている。

 加えて、エンデヴァーとターニャに対しては、飛礫などによる攻撃の頻度が段違いに高い。

 

 自分達に向けられる数の少なさは、そのまま危険度の評価ということに他ならない。

 エンデヴァーによりもターニャの方が数が多いのは、瞬間的な火力ではエンデヴァーが上だが、速度と手数、そして攻撃範囲で大きくターニャが勝っており、しかも縦横無尽に空を飛んで遠距離攻撃を雨あられと放ってくるからだろう。

 

 それに負けじとターニャも、暴風の弾丸を幾度も放って攻撃する。それらは単体でも凶悪な威力を誇っているのに加え、周囲に落ちている細かい瓦礫などを巻き込んで、殺傷力を増した状態で容赦なくウォルフラムを狙う。

 

 ウォルフラムも似たような形で応戦しているため、最早弾幕飛び交う戦場である。

 

「噂には聞いてたが、おっかねえお嬢ちゃんだな! こんだけの規模で軍人相手にやり合ったのはいつ以来だか……ナムサク、いやアザディスタン以来かね!」

 

「いちいち覚えている余裕があるとは羨ましい! こっちはまだ生まれ落ちて15年かそこらだというのに、もう立った戦場や紛争地の数なぞ、途中から数えておらんよ!」

 

「はっ、相変わらずあのへんの治安の悪さは筋金入りだな! その強さも納得ってもんだ……それに引き換え、あんたはちょっと苦しそうだな、エンデヴァー?」

 

 と、ウォルフラムがちらりと視線を向けた先では、超高熱の炎で鋼の鞭を焼き払っているエンデヴァーの姿があった。

 

 勇壮な立ち姿だったが、ウォルフラムは気づいていた。先程から徐々に、炎が噴き出す威力やスピードが鈍くなってきていることに。

 距離があってわからないだろうが、その顔には玉の汗が少なくない数浮かんでいる。

 

「……人の心配をする余裕があるのか?」

 

「そりゃ自分に言い聞かせてんのかい? やせ我慢とは、トップヒーローは大変だねえ」

 

 ウォルフラムの指摘通り、徐々にエンデヴァーには余裕がなくなってきていた。

 

 『個性強化薬』を使ったことにより、怒涛の勢いで振るわれる鋼の鞭。それに対する応戦は、決して彼にとっても楽なものではない上……彼は、バーで既に『最上位(ハイエンド)』との戦闘を経てからここに来ている。ターニャの助力があり、比較的すぐに終わったとはいえ、その時に使った炎も、決して小規模ではなかった。

 

(熱がこもってきている……もう長くは戦えん、早めに決着をつけねば……!)

 

 そしてその様子を、離れたところにいる轟と切島も見ていた。

 

 轟の個性を使えば、エンデヴァーは自分の体を冷やして力を取り戻すことができる。

 記憶の中にある、傲慢で独善的な父親であれば、さっさとそう命じていてもおかしくはない。

 

 にも関わらず、一度こちらにちらりと視線を寄こした以外は……何も命じてくることはない。

 

「つまんねえ意地張りやがって……」

 

 そう悪態はついたものの、轟は内心、エンデヴァーが助力を命じない理由を察していた。

 

 自分達がいる位置から、エンデヴァーが戦っている位置までは、今言った通りかなり離れている。この距離で、エンデヴァーの体を冷却する規模の氷を使おうとすれば、それなりにためを作るか、あるいはもっと接近するために移動する必要がある。

 

 そうなれば、意図を察したウォルフラムは轟達を襲いだすだろう。先の挑発からして、彼もエンデヴァーの不調の原因はもちろん、それを解決する手段についてもわかっているはずだ。

 

 つまるところ、轟達の安全のため、エンデヴァーは指示を出すことができないのである。

 

 率直な話、轟としても異変には気づいているのだから、指示を待たずに自分で動けばいいのだろうが……こちらはこちらで似たような『意地』を持っているから始末に悪い。

 利用する目的で『職場体験』や『ワーキングホリデー』に行ってはいたが、だからといって距離が縮まったり、歩み寄れたわけではない。彼にとってエンデヴァーは、ヒーローとしては認めざるを得ない優秀さと強さを持っていても、母親を苦しめ、家庭を壊した怨敵でもあり続けている。

 

 そのことを遠目に察している爆豪は、苛立ちをこめて『ケッ』と吐き捨てるように言って、そのまま動き続ける。

 察していても、だからといって何か言ってやったり、背中を押してやる義理も、彼にはなかった。

 

 が、それとは別に……背中を押すどころか、蹴飛ばすくらいの勢いで考えている者ならいた。

 

『おい、轟焦凍』

 

「? この声……『シルバーピクシー』か? 何でこの無線に……」

 

 耳にセットしている通信機から聞こえて来た声に、驚いてそう問いかける轟。

 

『周波数を合わせているだけだ。それよりも単刀直入に言うぞ……お前、名よりも実を取る気はあるか?』

 

「…………!」

 

 

 

(……いつから、そう思うようになっていったのだったか)

 

 限られた残り時間の中で、炎を吹き出して応戦を続けるエンデヴァーは、ふとそんなことを考えていた。無論、戦いに差し障りのない範囲で、ほとんど無意識に。

 

 『職場体験』と『ワーキングホリデー』で、事務所に轟と爆豪を受け入れてからと言うもの、持てる全てを伝えてその強さを完成させるつもりで、彼らを鍛えて来た。

 

 オールマイトを超えさせるために作った最高傑作。その内心に偽りはなかったし、『左』を使うことを解禁して以降は、ようやく自分の完全な上位互換となった息子を、今までにも増して徹底的に鍛え上げるつもりでいた。

 そして同時に受け入れた爆豪に対しては、轟のやる気に火をつけるための好敵手として選んだにすぎず、だがそれもあって同様に鍛えていた。

 

 当初、それだけのつもりだったはずが……徐々に変わってきたのは、事務所の仕事を手伝わせるために、パトロールに連れ出したり、その一環で敵と戦ったり、あるいは町の人達を助けたりと、ヒーロー活動を経験させていた時。

 あるいは、自分が稽古をつけてやっていた時も、もしかしたらそうだったかもしれない。

 

 そのさなかに、エンデヴァーは、ふと気づいていた。轟と爆豪の、その目を見て。

 

 ああ、彼らは、ヒーローを目指しているんだな、と。

 

 何を今更、という話になるかもしれないが、実際その時は、そうとしか表現のしようがなかった。

 他に言い方が思い浮かばなかったし、言い換えれば、そのことに今まで気づいていなかった……ということに、エンデヴァーは気付かされたのだ。

 

 かつて、己の息子がエンデヴァーを見る時に向けて来たのは、恐怖と憎悪の視線だけだった。

 肉親を見る目では断じてなかった。頼んでもいないのに自分のためだと言って自分を痛めつけ、自分をかばってくれた母親を苦しませ、壊してしまった怨敵、あるいは『敵』に向けるそれだ。

 

 体育祭の時までは、それは変わらなかった。それをエンデヴァーは『反抗期』と一笑に付して気にも留めていなかったし、『職場体験』に来て以降、それが見られなくなったことに、ようやく自分の中の力を受け入れたと、己についてくる気になったのだと満足していた。

 

 そして、同じ『職場体験』ないし『ワーキングホリデー』の中で、そうではなかったのだと気付く。

 

 時に真剣さが、時に優しさがこもった目。エンデヴァーにとって、今まで見たことがなかった目。

 体育祭以降、ようやく見ることができるようになったそれが……自分以外には、普通に向けられている。それこそ、初対面の相手に対してすらも。

 

 家族である姉や兄にも。

 学友である爆豪や緑谷、飯田にも。

 教員である相澤やプレゼント・マイクらにも。いずれ超えさせる相手であるオールマイトにも。

 ヒーロー活動の中で助けた一般人や、協力してことにあたったサイドキック達や、他の事務所のヒーローにも。

 

 そうでない相手など、戦闘の中で相対した『敵』くらいのものだった。

 

 そして気づいた。これが普段の彼なのだと。

 自分には見せることのなかった、オールマイトもエンデヴァーも関係なく、ただヒーローの卵として真剣に夢を追いかける姿であり……言ってみれば、普通の姿なのだと。

 

 自分についてくる気になったわけではない。ただ、自分のことを色眼鏡で見ることをやめ、No.2ヒーローとして、学ぶべきことの多い、1人の先達として割り切って見始めただけなのだ。

 その結果、今まで見ることのなかった姿を、自分は見ることができるようになった。それを勝手に自分が勘違いして、ぬか喜びしていたにすぎない。

 

 それを理解してもなお……不思議とエンデヴァーの心に不快感はなかった。むしろ、ひたむきに努力する彼の姿を見て、応援してやらねば、などと不意に思ってしまったほどだ。

 そしてそれはきっと、己の望んだとおりの道を進んでいるから、ではない。

 

 今まで、自分と息子は、『No.2』と『最高傑作』だった。

 『No.2』と『ヒーローの卵』という間柄になってみて、そして、『最高傑作』としてではなく彼の姿を見るようになって、今まで影も形もなかった思いが、自分の心の奥底に湧きあがってくるのを自覚し、困惑した。

 

 だが不思議と、その感情が不要なもの、邪魔なものだとは思えなかった。

 すっと受け入れることができて……むしろそのおかげで、今まで顧みることのなかった、家で待っている他の家族に目を向けることすら増えてきていた。

 

 今も病院に入院し続け、ここ数年顔を見ることもできていない妻。

 気丈にふるまいながらも、家庭として壊れてしまっている今の轟家を嘆いている長女。

 焦凍以上に徹底的に自分に反発し、怒り、父親とも思っているかすら疑わしい次男。

 そして、最後まで歪んだ見方しかしてやれぬまま、永遠に会えなくなってしまった長男。

 

 今でも、自分が焦凍に向けている期待に変わりはない。自分を超え、オールマイトを超えて、頂点に立って欲しいと思っているし、そのために打てる手は全て打つつもりだ。

 だが、それ以前に……今はまだ彼は子供だ。未熟で危なっかしい、守ってやるべき子供であり……自分は父として、ヒーローとして、彼らを導いてやらねばならないのだ。

 

 それが、親というものだから。

 それが、彼の進む道の遥か先を歩いている者としての務めなのだから。

 

(……たったそれだけのことを知るのに、俺はどうしてこれだけの時間を……! その間に、一体いくつの、取り返しのつかない過ちを……!)

 

 心を壊してしまった妻を、消えぬ傷を負った息子を前に、自分が言った言葉は何だった?

 『最高傑作』の安否や今後を案ずるよりも、もっとするべきことがあったのではないのか。

 

 悪影響だからと兄や姉と合わせずに、鬼籍に入った兄や病院に送った妻を顧みず、ただこの1人の『最高傑作』を育ててさえいればいいと思っていた自分が、今では信じられない。

 その自分に、家族が反発して、言うことを聞かないことを不思議に思っていたことが、なおさら信じられない。

 

 体に籠る熱よりも、余程痛みと苦しみを与えてくる熱が、脳裏を焼いているのを感じながらも、エンデヴァーは再度迫ってくる金属塊を前にして、体に鞭打って炎を出そうとする。

 

(ならばせめて、俺はヒーローとしてくらいは、お前に誇……)

 

 しかし、その瞬間、

 

 ―――パキィン!!

 

 ―――ジュウウウゥゥウウウッ!!

 

「……っ!?」

 

 突然、自分の背後から現れた巨大な氷の壁が……それも、視界を塞がないように形状をきちんと考えられたそれが、金属塊を飲み込んでその動きを止めた。

 

 そして氷の塊はエンデヴァーの体をも半分近く包み込み、しかしその体に籠っている熱によってまたたく間に解かされる。

 

 当然ながら、相対的に、エンデヴァーの体は急激に冷やされていた。

 常人であれば凍傷になってもおかしくない、すぐさま治療が必要であろう程の低温。だが、今のエンデヴァーには、ただ心地よいだけのものだった。

 

 背後を見ると、そこには……予想通り、右半身から氷結をほとばしらせた、轟焦凍の姿があった。

 

「焦凍……」

 

「……勘違いするな。俺はヒーローとして、やるべきだと思ったことをしただけだ。……あんたをどうこう思うような、何かがあったわけじゃない」

 

 そのぶっきらぼうな物言いに、彼を『気流』で一瞬でここまで運んできたターニャは、『どんだけ不器用な親子なんだ』と半ば呆れていたことを、2人は知る由もない。

 

 しかしその直後、そのどちらかがさらに口を開くよりも先に、轟が作った氷が砕け、中に封じられていた鉄塊がまた、いくつも流動して襲い掛かってくる。

 

 それを操るのは、面白い見世物を見たかのように、愉悦の表情になっているウォルフラム。

 

「ハハハハハッ! 美しき親子愛という奴か!? 実に結構なことだが……隙だらけだぞ!」

 

 その光景に、轟は思わず身構えて、再度氷壁を放とうとするが……次の瞬間、

 

「……『ヘルスパイダー』……!」

 

 ほぼノーモーションから、振り向きざまに放った熱戦が、鉄塊を周囲に散らばっていた氷塊ごとバラバラに切り飛ばし、その余波で水蒸気爆発をも巻き起こした。

 

 その攻撃の一部は、ウォルフラムが立っている場所にまで届き、ウォルフラムがとっさに構築した鋼の防壁を半ば以上切り裂いて、ようやく消えた。

 

「俺のどこに……隙があると?」

 

「ちっ……冷えてコンディションが戻りやがったか」

 

 ウォルフラムは悪態をつくように言いつつ、再び金属を操りだすが、それを警戒しつつも、エンデヴァーは……物理的に冷えた頭の中で、またしても己を恥じていた。

 

(……ここにきて、まだ俺は、バカだったということだ……ああ、そうだ。焦凍は、ヒーローとしてやるべきことをやった。ならば、俺は……俺の方こそ……!)

 

「……焦凍」

 

「!」

 

「俺を、見ていろ」

 

 言葉少なく告げて、そのまま完全にウォルフラムの側に向き直って背を向けるエンデヴァー。

 

「今、お前の目の前にいるのは……No.2のヒーロー・エンデヴァーだ。それだけ考えて、それだけを見ていろ。それ以外の余計な認識は……捨てて構わん」

 

「……安心しろ。そのつもりだ」

 

「そうか……なら、いい」

 

(それでいい……今の俺が焦凍に見せられる背中など、それくらいのものだ。どの口で父のだの、家族だのと言えようか……今の俺は、ただヒーローとして、焦凍の前にいさえすればいい……それ以外を、それ以上を……望むべきではない)

 

 限りなくベストコンディションに近い状態まで力を戻したエンデヴァーは、凄まじい威力の炎熱によって、次々襲い来る金属塊を燃え散らしていく。

 

 重さというものがなく、質量で攻めてくるのに不利であるはずの金属の猛攻を前にして、一歩も引かず、むしろ押し込む勢いだ。

 

 当然、かなりの勢いで体に熱が戻っていくが、タイミングを見極めて放たれる轟の氷結が、援護と同時にその熱を冷やし、再びそのコンディションを戻してしまう。ほとんど絶え間なく押し寄せる爆炎の奔流に、ウォルフラムの表情から余裕が失われていく。

 

 その凄まじい光景を前に、轟も、離れたところでそれを見ている切島や爆豪も、目を丸くすることしかできなかった。

 

 そんな中、

 

『エンデヴァー、轟焦凍、それに爆豪勝己と切島鋭次郎だったか……提案がある、そのまま聞け』

 

 無線を介して、再び、白銀の名を持つ妖精が語り掛ける。

 

 全員が、戦闘に集中しつつも耳を傾ける中、ウォルフラムはエンデヴァーの後ろで彼を支えている轟に狙いを移し、下支えを絶つために、大回りしてそこを狙って攻撃を放つ。

 

 だが、その最中に割り込んできた爆風がそれを蹴散らし、残った鉄塊については……轟の前に立ちはだかった、『安無嶺過武瑠』で全身を固めた切島が全て受け止めて砕いた。

 

「俺らのこと忘れてんじゃねえぞ鉄クズ野郎!」

 

「チッ、鬱陶しいガキ共が……隅っこでガタガタ震えて小さくなってりゃいいもんを……!」

 

「ガキをなめていると……意外と足元をすくわれるぞ、テロリスト?」

 

 と、さらにトーンの高い、澄んだ声が聞こえた。

 と同時に、不意に今まで吹き付けていたエンデヴァーの炎がやみ……しかし代わりに、恐ろしい光景が目の前に広がっていた。

 

 エンデヴァーと轟の上空数メートル。そこに浮かぶ『シルバーピクシー』ことターニャが、『気流』の個性で台風、あるいは竜巻に等しい風を起こし……しかもそこに、周囲に散らばっていた無数の瓦礫や鉄屑、さらには轟が作った氷壁が砕けた後の氷塊などを巻き込んで、白と黒、そして灰色の入り混じった暴風を作り出していた。

 

 あんなものに例えば人が放り込まれれば、無数の瓦礫やら何やらに削り取られて砕かれて、あっというまに血霧になって消し飛んでしまうだろう。

 

 そしてその直後、誰が何を言うより早く……凶悪な笑みを浮かべたターニャが腕を振り下ろし……それに追随するように、殺傷力の塊と化した竜巻がウォルフラムに襲い掛かる。

 

「う……うおおぉぉおおぉっ!?」

 

 ウォルフラムは全力で周囲から金属をかき集めて、目の前で縦横無尽に振り回し、疾風怒濤の勢いで吹き付ける地獄の大嵐をどうにかしのぐ。

 さすがにこれだけの規模の風を操るのは大変なのか、ターニャも決して楽そうではない。

 

「っ……ははっ、苦しそうだなシルバーピクシー! さすがにちと無理してんじゃないのか!?」

 

「その言葉そっくりそのまま返そう……貴様こそもう限界が近いのではないか? そろそろ薬も切れてくる頃だろうしな!」

 

「……っ!」

 

「欧米製の『個性強化薬』は確かに強力だが、さすがにリスクもなしに長時間効能を維持できるようなものではない……加えて『個性』によっては制限時間がさらに短縮される! 広範囲に影響を及ぼすような『個性』はその傾向が顕著であることは周知……その証拠に、先程から徐々に鉄塊の動きが精彩を欠いているし、効果範囲も不安定になってきているぞ!」

 

 図星を突かれたウォルフラムはしかし、ならばとあえてその力を一気に引き上げる。

 

「ならもうこの一撃でケリをつければいいだけだ……ありがたいことに、お前ら全員一方向にまとまってくれているからな! そのまま仲良く……擂り潰されろ!!」

 

 ウォルフラムは持てる力を振り絞って金属を集め、真正面からターニャの竜巻ごと全てを圧殺するように、その全てを一塊にして叩きつける。

 さながら、鋼の大津波とでも呼べそうなそれは、その極大の質量で持ってターニャの竜巻をも押しつぶし、言った通りにひとところに集まっている、エンデヴァー、轟、爆豪、切島、ターニャを飲み込まんと迫る。

 

 が、しかしそれを見て……ターニャは、獰猛な笑みを浮かべて言った。

 

「よし……狙い通りだ! お前達!」

 

「うるせぇ、指図すんじゃねえ!」

 

 突如、ターニャは風の操作をやめて突如上空に逃れる。

 そしてその向こうから……エンデヴァーの後ろに隠れる形でいたはずの轟と、それを守っていたはずの切島、そして爆豪が姿を見せた。

 

 しかも、轟は左側の炎をボボボボボ……と細かく弾けさせ、その両隣で、爆豪と切島は、爆豪の手榴弾を模した『籠手』を構えている。その片方を、取り外して切島に託して。

 困惑するウォルフラムの前で、その3つが……一斉に火を噴いた。

 

「膨冷……熱波!!」

 

「吹っ――」

 

「――飛べや!!」

 

 圧縮してから一気に放出された轟の炎熱に、2つ一気に放たれた爆豪の籠手の大砲。

 3つの爆炎が前方に向けて放たれて迸った。

 

 ターニャによって今しがた、瓦礫と鉄屑以外にも……轟の氷を大量に含んだ状態で撹拌され、しかも途中で次々と轟が後方で作っていた氷塊を補充しつつ、散々に冷やされていた空気目掛けて。

 しかも、何気にターニャが、その空気が拡散しないよう、退避後も『気流』で操って圧縮していた、そこ目掛けて。

 

 結果……体育祭のステージで、緑谷VS轟の準決勝で起こったのと同じ現象が起こった。

 さんざん冷やされた空気が、叩き込まれた熱で一気に膨張し、あの時をはるかに上回る規模の空気の爆発が起きた。

 

 撃った轟達の側については、ターニャが『気流』を集中させて反動を極限まで抑えた。

 その結果、思い切り踏ん張らなければ吹き飛ばされそうな爆風が帰ってくる程度に抑えられた。

 

 もちろん、反対側はそんなレベルではない。

 ウォルフラムが渾身の力でかき集めて放った、鋼の大津波を押し返し、吹き飛ばす。

 ひしゃげて、千切れて、制御を離れて飛んでいった。

 

 それでもなお、どうにか自分にまでそれが届いて吹き飛ばされることは……周りに残った金属で防ぎ切ったウォルフラム。

 

 しかし、最早前にすら意識を向ける余裕がない彼を目掛けて、

 

 極大規模の『膨冷熱波』によって、障害物が一掃され、射線がクリアになったそこ目掛けて、

 

 

赫・灼・熱・拳……!!

 

 

 とどめの一撃が、放たれる。

 

 

 

「『プロミネンスバーン』ッッッ!!」

 

 

 

 立ちはだかる全てを貫いて放たれた、エンデヴァーの渾身の一撃が、彼の全力をつぎ込んで作った鋼の塊ごと……ウォルフラムを飲みこんだ。

 

 決戦場となった瓦礫の山を縦断し、そこだけ昼間のような輝きを放ち、夜の闇を押しのけた爆炎は、時間にしてほんの数秒のそれ。

 しかし、射線上にあったものをことごとく焼き、溶かし、蒸発させ……後に僅かに残ったのは、申し訳程度の溶けた鉄の塊。

 

 それを挟んでエンデヴァーから反対側で、意識も、力も、最早ひと欠片も残さず奪われ、後に残ったのはわずかな命の灯くらいであろう、1人の『敵』が……どう、と倒れ込み、動かなくなった。

 

 

 

 




Q.え、ウォルフラム死んだ?

A.ギリ生きてます。ギリ死んでない、って言った方が正確かもしれないくらいの状態ではありますが。
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